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Unknown Visitor
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「どういうことだよ?」
「え?」
「シフトも全然入れないし、まだ体調悪いのかと思って心配して来てみたら…もう次の男連れ込んでんの?」
夏目さんが汚いものを見るような目で見ているのは、私が手にしている漣の、誰がどう見ても男性用のリュック。
完全に誤解しているようだ。
だけど─
夏目さんに責められるの、おかしくない?
シフトを入れていないのは私の自由だ。
自由にシフト組ませてもらえるからこそ選んだバイトだし。
誰も心配してくれなんて頼んでないのに、職権濫用して、うちにまで来て。
何より、私たちは、ただのバイトと、バイト先の社長という関係に過ぎない。
私が誰と付き合おうが、どんな生活をしようが、夏目さんに口出しされる筋合いはない。
自分だって、心に決めた女性がいるくせに。
そう考えたら、物凄く腹が立って来た。
「…だったら何だって言うんですか?夏目さんには関係ないじゃないですか」
我ながら、喧嘩腰過ぎる。
「ああ、確かに関係ないな」
夏目さんも負けちゃいない。
「じゃあとっととお帰りください!」
勢いよくドアを閉めようとすると、隙間に高そうな靴がガッと捩じ込まれた。
「ちょ…!何するんですか!?」
「関係ないかもしれないけど…自分でもわけ分かんない程ムカつくんだよ」
「…え?何て??」
ドア越しに何を言っているのかハッキリ聞こえなくて、思わずドアを引く手の力が緩む。
それを見逃さない夏目さんは、とうとうドアを完全にこじ開けてしまった。
「元カレの話聞いたときも、今も、腑煮えくり返りそうなほどムカついているって言ったんだよ!」
それってつまり─
一哉や漣に嫉妬してるってこと?
あの夏目さんが??
ジワリと頬が熱くなる。
いやいやいやいや。
金持ちの慰み者なんてもうこりごり。
もう騙されない。
「な…何ワケ分かんないこと言ってるんですか!?あなた、一目惚れでワンナイトの末追放された婚約者と子どもがいるんでしょう?」
「は…?ワンナイト?追放…??」
あれ?
あ。
しまった。
それは私が頭痛で意識が朦朧とする中、勝手に妄想した設定だった。
「あ、いえ、だからっ、その…」
「へー。凛の中の俺ってそんな手ぇ早い男なんだな。この間看病したとき、『寒い、寒い』って凛にベッドに引きずりこまれても、俺からは指一本触れなかったのに」
「嘘!?」
私、意識がなかったとは言え、そんなことしたの!?
「嘘じゃない。寝込みを襲うなんて趣味じゃないしな。それから─、婚約者の件は子どもの頃の話だ。ワンナイトとか子どもとかありえない」
「子どもの頃─!?それならそうと言えばいいじゃないですか!紛らわし過ぎるし!!」
「凛が、嫉妬してくれるかと思って」
「…え?」
また、ジワリと頬が熱くなった。
「お前のそういうカオが見れたら、自分の気持ちに確信が持てる気がしたんだ。それなのに、逆に俺の方がこんな─」
その時、アパートの外階段を、誰かがすごい勢いで駆け上がってくる音が聞こえた。
「凛ちゃん!」
血相を変えて飛び込んできたのは、もちろん漣だった。
「凛ちゃん…?お前、…何者だ?」
「お前こそ誰だ!まさか、お前が秋本一哉か!?」
「違う。俺の名前は夏目仁希だ」
「あ!分かった!さっきの不審者の仲間だな!?怪しい奴…凛ちゃんに近づくな!!」
漣が拳を振り上げた瞬間に考えたのは─
漣は受験生。
人生で一番大事な時期と言っても過言じゃない。
夏目さんも、子会社とは言え夏目グループの社長の一人で、立場のある人だ。
暴力沙汰になったりしたら、どっちがどうなっても、その影響は計り知れない。
気づいたら、夏目さんの服を掴んで引き倒し、二人の間に入っていた。
そして─
避けきれず、こめかみに思い切り漣の拳を喰らってしまった。
衝撃でよろけた体は、尻餅をついていた夏目さんがキャッチしてくれた。
「痛ー」
「凛ちゃん!!何で!?」
我に帰った漣は、完全に青ざめている。
「『何で?』じゃない!いきなり人に殴りかかるなんて、何考えてるの!この人は私のバイト先の社長!」
「えっ?社長…?何でそんな人が凛ちゃんの家に!?」
「それは…っ」
漣が来る前の夏目さんとの会話を思い出し、言葉に詰まる。
「そっ、そんなことどうでも良いから!湿布買って来て!!今度はカバン忘れないでよ!!」
「え?」
「シフトも全然入れないし、まだ体調悪いのかと思って心配して来てみたら…もう次の男連れ込んでんの?」
夏目さんが汚いものを見るような目で見ているのは、私が手にしている漣の、誰がどう見ても男性用のリュック。
完全に誤解しているようだ。
だけど─
夏目さんに責められるの、おかしくない?
シフトを入れていないのは私の自由だ。
自由にシフト組ませてもらえるからこそ選んだバイトだし。
誰も心配してくれなんて頼んでないのに、職権濫用して、うちにまで来て。
何より、私たちは、ただのバイトと、バイト先の社長という関係に過ぎない。
私が誰と付き合おうが、どんな生活をしようが、夏目さんに口出しされる筋合いはない。
自分だって、心に決めた女性がいるくせに。
そう考えたら、物凄く腹が立って来た。
「…だったら何だって言うんですか?夏目さんには関係ないじゃないですか」
我ながら、喧嘩腰過ぎる。
「ああ、確かに関係ないな」
夏目さんも負けちゃいない。
「じゃあとっととお帰りください!」
勢いよくドアを閉めようとすると、隙間に高そうな靴がガッと捩じ込まれた。
「ちょ…!何するんですか!?」
「関係ないかもしれないけど…自分でもわけ分かんない程ムカつくんだよ」
「…え?何て??」
ドア越しに何を言っているのかハッキリ聞こえなくて、思わずドアを引く手の力が緩む。
それを見逃さない夏目さんは、とうとうドアを完全にこじ開けてしまった。
「元カレの話聞いたときも、今も、腑煮えくり返りそうなほどムカついているって言ったんだよ!」
それってつまり─
一哉や漣に嫉妬してるってこと?
あの夏目さんが??
ジワリと頬が熱くなる。
いやいやいやいや。
金持ちの慰み者なんてもうこりごり。
もう騙されない。
「な…何ワケ分かんないこと言ってるんですか!?あなた、一目惚れでワンナイトの末追放された婚約者と子どもがいるんでしょう?」
「は…?ワンナイト?追放…??」
あれ?
あ。
しまった。
それは私が頭痛で意識が朦朧とする中、勝手に妄想した設定だった。
「あ、いえ、だからっ、その…」
「へー。凛の中の俺ってそんな手ぇ早い男なんだな。この間看病したとき、『寒い、寒い』って凛にベッドに引きずりこまれても、俺からは指一本触れなかったのに」
「嘘!?」
私、意識がなかったとは言え、そんなことしたの!?
「嘘じゃない。寝込みを襲うなんて趣味じゃないしな。それから─、婚約者の件は子どもの頃の話だ。ワンナイトとか子どもとかありえない」
「子どもの頃─!?それならそうと言えばいいじゃないですか!紛らわし過ぎるし!!」
「凛が、嫉妬してくれるかと思って」
「…え?」
また、ジワリと頬が熱くなった。
「お前のそういうカオが見れたら、自分の気持ちに確信が持てる気がしたんだ。それなのに、逆に俺の方がこんな─」
その時、アパートの外階段を、誰かがすごい勢いで駆け上がってくる音が聞こえた。
「凛ちゃん!」
血相を変えて飛び込んできたのは、もちろん漣だった。
「凛ちゃん…?お前、…何者だ?」
「お前こそ誰だ!まさか、お前が秋本一哉か!?」
「違う。俺の名前は夏目仁希だ」
「あ!分かった!さっきの不審者の仲間だな!?怪しい奴…凛ちゃんに近づくな!!」
漣が拳を振り上げた瞬間に考えたのは─
漣は受験生。
人生で一番大事な時期と言っても過言じゃない。
夏目さんも、子会社とは言え夏目グループの社長の一人で、立場のある人だ。
暴力沙汰になったりしたら、どっちがどうなっても、その影響は計り知れない。
気づいたら、夏目さんの服を掴んで引き倒し、二人の間に入っていた。
そして─
避けきれず、こめかみに思い切り漣の拳を喰らってしまった。
衝撃でよろけた体は、尻餅をついていた夏目さんがキャッチしてくれた。
「痛ー」
「凛ちゃん!!何で!?」
我に帰った漣は、完全に青ざめている。
「『何で?』じゃない!いきなり人に殴りかかるなんて、何考えてるの!この人は私のバイト先の社長!」
「えっ?社長…?何でそんな人が凛ちゃんの家に!?」
「それは…っ」
漣が来る前の夏目さんとの会話を思い出し、言葉に詰まる。
「そっ、そんなことどうでも良いから!湿布買って来て!!今度はカバン忘れないでよ!!」
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