完結*三年も付き合った恋人に、家柄を理由に騙されて捨てられたのに、名家の婚約者のいる御曹司から溺愛されました。

恩田璃星

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究極の選択

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 翌朝、夏目さんを見送った後、私もバイト先へと向かった。

 「じゃあ今日は夏目社長はいないのかい?」

 「はい。だから、久々にアパートに帰ろうと思って」

 久しぶりに一緒になった川瀬さんと、現場の詰所で休憩時間にお茶を飲みながらおしゃべりを楽しむ。

 「えっ!?大丈夫なの?確か、不審者が出るから夏目さんちに身を寄せてたんじゃなかったっけ?」

 「大丈夫ですよ。そもそも不審者だったかどうかも怪しかったし。仮に本当に不審者だったとしても、あれから随分時間も経ってるし。ずっと留守にしてたから諦めてるでしょう」

 「止めておいた方がいいと思うけどなぁ」

 「慌てて出て来たから、色々心配で。ちょっとくらい空気の入れ替えしておかないと、うち古いから変なキノコとか生えてそうで…」

 「せめて夏目さんに言っておいた方がいいと思うよ?」

 「そうですね」

 と、返事をしたものの、言うつもりはない。
 言ったら絶対反対されるから。
 夏目さんは、「凛はずっと俺の家こ こにいればいい」と言って、常々私に早くアパートを解約するように迫っているくらいだから。

 だけど、夏目さんとの別れがいつ訪れるか分からないのに、そんなことできるわけない。
 住むところは確保しておくに越したことはない。

 「そろそろ行きましょうか」

 立ちあがろうとしたとき、詰所の入り口にいたスーツ姿の男と目が合った。
 信じられない光景に足が竦む。

 「清永凛さん、ちょっと」

 声をかけて来たのは、壱哉だった。

 「凛ちゃん、誰だい?」

 「…夏目さんのお兄さんです」

 「じゃ、じゃあ、夏目グループの次の!?」

 「そうですよ」

 ヒソヒソ話しているうちに、痺れを切らした壱哉が詰所の中まで入ってきてしまった。

 「お疲れ様です。川瀬さん、でしたっけ?」

 「ひっ、ひぃっ!な、何でワシの名を!?」

 「夏目グループを支えてくださってる方全員のお顔とお名前くらいは把握してますよ。いつもありがとうございます」

 優しい笑顔に柔らかな物腰。
 川瀬さんはすっかり骨抜きにされ、「なんと有難い」と壱哉に手を合わせている。

 「弟のことで大事な話があるので、清永さんをお借りしますね。現場の方には少し遅れると僕から伝えてありますので」

 「ははははははいっ、どうぞどうぞ」

 川瀬さんは人間に見つかったゴキブリみたいな動きでカサカサと逃げて行ってしまった。

 「…何でこんなところにいるのよ!?」

 「今日凛が入ってる現場の元請は夏目ウチの本社だよ。何もおかしくないだろう」

 付き合っていた時は一度も顔を出したことなんてなかった癖に。
 正体を隠していたんだから、当然だけど。
 思い出すと余計に腹が立ってくる。

 「…私はあなたと話すことなんて何もない。仁希さんのことなら仁希さんに直接聞く。迷惑だから、職権濫用してバイト先に押し掛けたりしないで!」

 言い捨てて、その場から猛ダッシュで立ち去った。

 現場まで壱哉が追って来たらどうしようと心配していたけれど、何のトラブルもないまま、アルバイトの終了時間を迎えた。

 「じゃあ、川瀬さん、お先に失礼します」

 「凛ちゃん、本当に気をつけるんだよ」

 「大丈夫ですってば」

 途中のコンビニで、缶ビール自分へのご褒美とお好み焼きを買って、久々の我が家へと急ぐ。

 アパートの階段を昇る前、念の為、不審者がいないか周囲を注意深く見回した。

 「…って、誰もいるわけないよね。もう、みんな心配性なんだから」

 独り言を言いながらドアを開け、念の為すぐに鍵をかけた。
 そして、電気を点けた瞬間、今日二度目の信じられない光景に、お好み焼きと缶ビールの入った服を落としてしまった。


 
 「…おかえり、凛」



 キッチンに壱哉が立っていたのだ。
 しかも、部屋の中がめちゃくちゃに荒らされている。

 「な…んで、どうやってここに?この部屋、あなたが?」

 恐怖で声が震えて、うまく喋れない。

 「どうやってって、コレで。まだ返してなかったから」

 壱哉がポケットから取り出して見せたのは、以前渡した合鍵だった。

 「部屋を荒らしたのは俺じゃない。空き巣にでも入られたんだろうから、一応警察に通報しとけば?まあ、凛の部屋には盗む価値のあるものなんてないだろうけど」

 余計な一言に、ついカッとなる。

 「言われなくても通報するわよ。もちろんあなたのこともね」

 「…そんなことしたら、仁希の人生も終わるけど?」

 悔しい…。
 こんなやつ、仁希さんのお兄さんでさえなければ!

 「私はあなたと話すことなんてないって言ったわよね?合鍵そんなものまで使って、今更一体何の用だっていうのよ!?」

 
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