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本当のコンプレックス
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「本当に夏目さんの初恋の人だったら、譲ってくれるそうですよ。さすが、優しくてご立派なお兄さんですね」
「…は?」
「おまけに、夏目さんにもっといいポストまで準備してくれるんですって!良かったですね」
「ちょっと待て。凛を疑うようなこと言って悪かった。謝るから話を聞いてくれ」
続きを遮るように静かに首を左右に振る。
「謝る必要なんてないですよ。あの人も夏目さんも大企業の御曹司で、私はいち庶民。私を疑うのは当然のことです」
兄に続いて弟にまで捨てられる惨めな女にはどうしてもなりたくなくて。
これまで密かにシュミレーションを繰り返してきたセリフを並べ立てる。
「私が夏目さんにはつり合わないことくらい、ちゃんと分かってます。最初から身を引くつもりだったので、私のことは気にせず、幸せになってください」
言えた。
最後まで泣かずに言い切った。
後はいつかの壱哉と同じように、夏目さんがこの部屋から出ていくだけ。
─のはずだったのに。
「…だよ、それ」
「え?」
「何も分かってない癖に、分かったふりするな!!」
夏目さんは大声で叫ぶと、ドアとは逆方向に歩を進め、私の体を痛いほど強く抱きしめた。
「地位や家柄で線引きしてるのは凛の方だ。俺はこんなに凛が好きだって…凛を愛してるって言ってるのに、全然伝わってない。何が悲しくて惚れた女に他の女との結婚を勧められなくちゃならない!?」
凛が好き
凛を愛してる
惚れた女
身を引くと覚悟を決めたのに、甘い言葉が薔薇の蔦のように私の心に絡みついて胸を刺す。
「だって…夏目さん、彼女があの人の婚約者って聞いた時動揺してた」
「確かに動揺はした。だけど、誓って彼女に未練は一切ない。自分でも驚いたよ。恋心は消えても恩人のはずなのに、兄貴に利用されれば凛と俺の未来にとって枷になると思ったら、疎ましいとすら感じてしまうなんて」
「嘘…」
あのときの動揺はそういう意味だったなんて。
「嘘じゃない。俺は凛しか要らない。凛と一生一緒にいたい」
例えほんとうにそうであったとしても、関係ない。
きっと夏目さんの家族も壱哉のように反対するはず。
夏目さんと一緒にはいられない。
「そんなの、無理ですよ。大体夏目さんは私なんかのどこが好きなんですか?顔は平凡だし、口も悪い。頭も良くないし……それに…っ」
私をきつく縛っていた腕が肩に移動し、少しだけ夏目さんから離された。
そして、夏目さんは私の目をまっすぐ見て言った。
「家族のために一生懸命働く姿が格好良い。思ったことをはっきり言ってくる真っ直ぐな性格も好きだ。笑うと可愛い。それに、どんなに飾り立ててる女性より、凛は綺麗だ」
ずっと堪えていた涙が、頬を伝う。
そんなふうに思ってくれていたなんて、全然知らなかった。
ああ、夏目さんと、一生一緒にいたいな。
でも、ダメだ。
この願いは叶わない。
だって、私は全然綺麗なんかじゃないから。
「あり…がとうございます。私も…夏目さんのことが好きです」
「…凛」
「愛してます」
「嫌だ!言うな!!」
「だから、このまま別れてください」
今度こそ、夏目さんの温かい両腕を手放したはずだった。
いや、実際に手放したのかもしれない。
いつも私を包んでくれていた優しい腕は、強い力で私の体を床に押さえつけていた。
「やっぱり…全然届いてない。伝わってない。愛し方が足りなかった?」
ズボンとショーツの履き口を潜った夏目さんの指が、私のほとんど濡れていない秘部をなぞる。
「嫌…っ、やめて。こんなの夏目さんらしくない!」
「俺らしいって何?俺は昔から我儘で自分勝手な人間だよ。何せ夏目グループのお坊ちゃまだから」
淡々と、それでも丁寧な指遣いで一番弱い部分を擦られると、力が抜け、甘い声が漏れてしまいそうになる。
「っ…、そん…なこと、ない!」
「凛が知らないだけだ。おまけに超が付くほど嫉妬深い。今だって…!顔も名前も知らなかったからまだ我慢できてた。なのに…よりによって凛の元カレが兄貴だなんて。さっきからこの部屋でそこかしこに感じるアイツの気配で頭がおかしくなりそうなのに!!」
「…は?」
「おまけに、夏目さんにもっといいポストまで準備してくれるんですって!良かったですね」
「ちょっと待て。凛を疑うようなこと言って悪かった。謝るから話を聞いてくれ」
続きを遮るように静かに首を左右に振る。
「謝る必要なんてないですよ。あの人も夏目さんも大企業の御曹司で、私はいち庶民。私を疑うのは当然のことです」
兄に続いて弟にまで捨てられる惨めな女にはどうしてもなりたくなくて。
これまで密かにシュミレーションを繰り返してきたセリフを並べ立てる。
「私が夏目さんにはつり合わないことくらい、ちゃんと分かってます。最初から身を引くつもりだったので、私のことは気にせず、幸せになってください」
言えた。
最後まで泣かずに言い切った。
後はいつかの壱哉と同じように、夏目さんがこの部屋から出ていくだけ。
─のはずだったのに。
「…だよ、それ」
「え?」
「何も分かってない癖に、分かったふりするな!!」
夏目さんは大声で叫ぶと、ドアとは逆方向に歩を進め、私の体を痛いほど強く抱きしめた。
「地位や家柄で線引きしてるのは凛の方だ。俺はこんなに凛が好きだって…凛を愛してるって言ってるのに、全然伝わってない。何が悲しくて惚れた女に他の女との結婚を勧められなくちゃならない!?」
凛が好き
凛を愛してる
惚れた女
身を引くと覚悟を決めたのに、甘い言葉が薔薇の蔦のように私の心に絡みついて胸を刺す。
「だって…夏目さん、彼女があの人の婚約者って聞いた時動揺してた」
「確かに動揺はした。だけど、誓って彼女に未練は一切ない。自分でも驚いたよ。恋心は消えても恩人のはずなのに、兄貴に利用されれば凛と俺の未来にとって枷になると思ったら、疎ましいとすら感じてしまうなんて」
「嘘…」
あのときの動揺はそういう意味だったなんて。
「嘘じゃない。俺は凛しか要らない。凛と一生一緒にいたい」
例えほんとうにそうであったとしても、関係ない。
きっと夏目さんの家族も壱哉のように反対するはず。
夏目さんと一緒にはいられない。
「そんなの、無理ですよ。大体夏目さんは私なんかのどこが好きなんですか?顔は平凡だし、口も悪い。頭も良くないし……それに…っ」
私をきつく縛っていた腕が肩に移動し、少しだけ夏目さんから離された。
そして、夏目さんは私の目をまっすぐ見て言った。
「家族のために一生懸命働く姿が格好良い。思ったことをはっきり言ってくる真っ直ぐな性格も好きだ。笑うと可愛い。それに、どんなに飾り立ててる女性より、凛は綺麗だ」
ずっと堪えていた涙が、頬を伝う。
そんなふうに思ってくれていたなんて、全然知らなかった。
ああ、夏目さんと、一生一緒にいたいな。
でも、ダメだ。
この願いは叶わない。
だって、私は全然綺麗なんかじゃないから。
「あり…がとうございます。私も…夏目さんのことが好きです」
「…凛」
「愛してます」
「嫌だ!言うな!!」
「だから、このまま別れてください」
今度こそ、夏目さんの温かい両腕を手放したはずだった。
いや、実際に手放したのかもしれない。
いつも私を包んでくれていた優しい腕は、強い力で私の体を床に押さえつけていた。
「やっぱり…全然届いてない。伝わってない。愛し方が足りなかった?」
ズボンとショーツの履き口を潜った夏目さんの指が、私のほとんど濡れていない秘部をなぞる。
「嫌…っ、やめて。こんなの夏目さんらしくない!」
「俺らしいって何?俺は昔から我儘で自分勝手な人間だよ。何せ夏目グループのお坊ちゃまだから」
淡々と、それでも丁寧な指遣いで一番弱い部分を擦られると、力が抜け、甘い声が漏れてしまいそうになる。
「っ…、そん…なこと、ない!」
「凛が知らないだけだ。おまけに超が付くほど嫉妬深い。今だって…!顔も名前も知らなかったからまだ我慢できてた。なのに…よりによって凛の元カレが兄貴だなんて。さっきからこの部屋でそこかしこに感じるアイツの気配で頭がおかしくなりそうなのに!!」
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