運命の落とし穴

恩田璃星

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それぞれの準備2

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 宮本くんの家は、カフェから徒歩圏内。

 広めのワンルームマンションに着くなり、「腹減ったから何か食わせて」 とせっつかれ、キッチンに立たされた。

 そういえばモデルが本業って言ってたな。

 食べるものに気を使っているらしく、羽立くんの家の冷蔵庫(飲み物しか入ってなかった)に比べると、野菜を中心になかなか充実している。

 お肉少なめの豚汁と野菜の白和えを作り、サ○ウのご飯を温めて、テーブルに並べると、宮本くんが勢いよく飛びついた。

 もしかして、この人…。

 私の話なんてどうでもよくて、飯炊き要員として連れて来たんじゃないだろうか。

 お皿の上の食べ物が消えていくにつれ、その疑惑を深めていると、宮本くんがようやく口を開いた。

 「で?何があったんだよ?」

 いざ話そうとすると、言葉に詰まる。

 平たく言えば、「羽立くんがセックスしてみようって言ってくれたけど、どうやったら満足させてあげられるのか分からない」なんだけれども。

 宮本くんは羽立くんの元カレ。

 きっと、その方法は熟知しているはず。

 でも、よくよく考えると、フラれたのはつい最近。

 それも原因は私。

 これって明らかに人選ミスじゃ…!? 

 「どうせあれだろ?金目当てで婚約したはいいけど、いざ昴と暮らし始めてみたら何もなさ過ぎて、物足りなくなったんだろ?そりゃそうだよな。俺の昴、めちゃくちゃカッコイイけど、本っ当に女に興味ないもんな」

 私がどう切り出そうかと迷っている間に、ペラペラと勝手なことを…。

 『俺の昴』ってなんなの。とっくに振られてるくせに!

 それとも、羽立くんとセックスしたことがあるからこその優越感?

 箸をプラプラさせながら言われると、小馬鹿にされている感が伝わり、フツフツと怒りが湧いてくる。

 「…そうじゃないもん」

 煮え切らない私に、宮本くんはちょっと声を荒げた。

 「そうじゃないんなら何なんだよ?さっさと言え!元カレの前で昴からのプロポーズ受けといて、何を今さら遠慮してん…」

 『だよ!!』という言葉と共に、振り落とされた本日一番痛い宮本くんの手刀。

 「いったーい!ちょっと!さっきから何回チョップかましてくれてんのよ!?」

 私がこれまでのフラストレーションを一気に爆発させると、宮本くんはニヤッと笑った。

 「お。やっと調子出てきたな。あんたにしおらしい態度なんて似合わないんだよ。ほら、最初に会ったときのふてぶてしい感じでさっさと言え。どんな形であれ、訳ありの関係が辛いのはよく分かってるつもりだから」

 もしかして…。

 いや、もしかしなくても、私が話しやすいようにワザと挑発するようなこと言ってくれた?

 ちょっと失礼で、かなり厚かましい。

 けど、『元』とはいえ、やっぱり羽立くんが選んだひと

 なんだかんだで優しい。

 宮本くんがここまで言ってくれているんだし。

 相談料(朝食)だって支払い済みだ。

 羽立くんとの関係について相談するにはこれ以上の人物はいない。

 意を決して、口を切る。

 「あの…」

 「うん?」

 「羽立くんがセックスしてみようって言ってくれたんだけど、どうしたらいいか分からなくて逃げてきました」

 言い終えたのと同時に、宮本くんが豚汁を噴き出した。
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