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馬蹄橋の七灯篭――『四天王寺ロダンの挨拶』より
その32
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(32)
「その時…やと?」
老人が目を細める。僕の視線は老人を見ずに指先から放たれた弾道を追っている。それは一直線に伸びて行き、そしてやがて灯篭へと迫り、そこで
「…そうなんです」
弾丸は灯篭の灯である蝋燭を消すと、やがてその場に立つ若者の肉体へとめり込んだ。
「つまり灯篭はですね」
僕はピストルを構えたまま言った。
「暗闇の中で目標を定める為の目印であり…」
僕はにやりとする。
「その目印を撃てば必ずその向こうの目的に当たる、つまり灯篭は、いや灯篭の蝋燭は相手と自分を繋ぐための正確な直線状の通過点だったんです。つまり灯篭の蝋燭を撃てば弾丸は必然的に正確に直線で飛び…目標に正確に当たる。謂わば闇夜での狙撃における明かり的の役割でもあったです」
僕はそこで老人に振り替える。老人は何も言わず黙したままだ。
黙した向こう側へ僕は語りかける。そこに居る誰かにでも伝えようとして。
「狙撃手と灯篭さえきちんと直線上であれば、つまりその直線上にいる火野龍平に着弾するのは間違いないことなんです。そしてそれは夜でなければならない。何故なら犯人はここで姿を見られる訳にはいかない。常に夜の闇に潜む悪魔であり続けなければならないのですから」
僕は悪魔を探すように目をくるりと回して、やがて目を見開く。そこに悪魔を見つけた僕はやがて言った。
「田中竜二…」
老人が目を細める。細めると杖先をコツコツと鳴らした。
「竜二は色きちがいじゃなく、あんたは悪魔でもあるというのか?」
「そうですね」
言ってから僕は老人へ振り向く。その時僅かに川面を昇る風に頬が当たった。
「でもね、本当の悪魔をあなたは知ってるんじゃないですか?アカシノタツ、もう一つの通り名を持つ『証の竜』であるあなたは…違いますか?猪子部銀造さん」
「そのあだ名を君はどこで!?」
老人が激しく杖を突いた。
「一体、何が言いたい??」
「つまり『双竜』ですよ」
老人が激しく身体を動かす。動かして老人は杖の先を立てて、僕をまるで貫こうとでも言うような気迫で迫った。
「何を言いよるんじゃ!!オマェ」
「見たんですよ、仕方ないじゃないですかね」
僕は縮れ毛のアフロを掻きながら言う。どこか申し訳なさそうに。
「…見た?見ただと?何をだ?えっ?一体何をだ?どこで、さぁ言ってみろ?」
「はい、それならば言います」
僕は掻く手を止めた。
「実は僕は明石の雲竜寺で見たんですよ。戸川瀧子の墓の側にある双樹の落ち葉に埋もれていた小さな墓」
老人がぎくりとして顔を上げた。
「寺に聞くとあれは代々、この地で死んだ無縁仏を供養する墓なんだそうです。そして無縁仏簿があるんですよ」
「…お前、見たんか?」
老人が目を剥く。まるで真実を覗いたのを避難する目で。
「ええ、簡単でした。まぁ――僕の祖父が戦争当時ここら辺の空襲で焼け死んで、此処に埋葬されたので知りたいって言ったらら無縁仏簿を見せてくれて」
頭を再びぼりぼりと音を立てて掻く。
「そこに書かれていた名前があってね…誰だと思います?」
「知らん!!」
「筈はありませんよ」
言葉尻を取って老人へ言葉を投げる僕。
「書いてあったの『田中竜二』、遺骨として受け取りと書いてあり、見れば没年は東京オリンピックが開催された前年の1939年と在りました」
僕は老人から目を話して灯篭に目を遣る。先程とは逆に奥から順に追ってゆく。やがて最後の灯篭へ目を遣りながら、僕は呟くように言った。
「一体、泉南の病院で過日亡くなった田中竜二は誰なんですか?それに…猪子部銀造にはテキヤ仲間内では二つの通り名があるんでしょう?生まれた土地の名と…」
僕は振り返り、杖先を立てたまま動かない老人へと数歩近寄りながら、杖先を指で押すと僕は眉間に皺を寄せた。
「秘密を打ち明けられても決して明かさないという『証の竜』という意味深な通り名がね」
「その時…やと?」
老人が目を細める。僕の視線は老人を見ずに指先から放たれた弾道を追っている。それは一直線に伸びて行き、そしてやがて灯篭へと迫り、そこで
「…そうなんです」
弾丸は灯篭の灯である蝋燭を消すと、やがてその場に立つ若者の肉体へとめり込んだ。
「つまり灯篭はですね」
僕はピストルを構えたまま言った。
「暗闇の中で目標を定める為の目印であり…」
僕はにやりとする。
「その目印を撃てば必ずその向こうの目的に当たる、つまり灯篭は、いや灯篭の蝋燭は相手と自分を繋ぐための正確な直線状の通過点だったんです。つまり灯篭の蝋燭を撃てば弾丸は必然的に正確に直線で飛び…目標に正確に当たる。謂わば闇夜での狙撃における明かり的の役割でもあったです」
僕はそこで老人に振り替える。老人は何も言わず黙したままだ。
黙した向こう側へ僕は語りかける。そこに居る誰かにでも伝えようとして。
「狙撃手と灯篭さえきちんと直線上であれば、つまりその直線上にいる火野龍平に着弾するのは間違いないことなんです。そしてそれは夜でなければならない。何故なら犯人はここで姿を見られる訳にはいかない。常に夜の闇に潜む悪魔であり続けなければならないのですから」
僕は悪魔を探すように目をくるりと回して、やがて目を見開く。そこに悪魔を見つけた僕はやがて言った。
「田中竜二…」
老人が目を細める。細めると杖先をコツコツと鳴らした。
「竜二は色きちがいじゃなく、あんたは悪魔でもあるというのか?」
「そうですね」
言ってから僕は老人へ振り向く。その時僅かに川面を昇る風に頬が当たった。
「でもね、本当の悪魔をあなたは知ってるんじゃないですか?アカシノタツ、もう一つの通り名を持つ『証の竜』であるあなたは…違いますか?猪子部銀造さん」
「そのあだ名を君はどこで!?」
老人が激しく杖を突いた。
「一体、何が言いたい??」
「つまり『双竜』ですよ」
老人が激しく身体を動かす。動かして老人は杖の先を立てて、僕をまるで貫こうとでも言うような気迫で迫った。
「何を言いよるんじゃ!!オマェ」
「見たんですよ、仕方ないじゃないですかね」
僕は縮れ毛のアフロを掻きながら言う。どこか申し訳なさそうに。
「…見た?見ただと?何をだ?えっ?一体何をだ?どこで、さぁ言ってみろ?」
「はい、それならば言います」
僕は掻く手を止めた。
「実は僕は明石の雲竜寺で見たんですよ。戸川瀧子の墓の側にある双樹の落ち葉に埋もれていた小さな墓」
老人がぎくりとして顔を上げた。
「寺に聞くとあれは代々、この地で死んだ無縁仏を供養する墓なんだそうです。そして無縁仏簿があるんですよ」
「…お前、見たんか?」
老人が目を剥く。まるで真実を覗いたのを避難する目で。
「ええ、簡単でした。まぁ――僕の祖父が戦争当時ここら辺の空襲で焼け死んで、此処に埋葬されたので知りたいって言ったらら無縁仏簿を見せてくれて」
頭を再びぼりぼりと音を立てて掻く。
「そこに書かれていた名前があってね…誰だと思います?」
「知らん!!」
「筈はありませんよ」
言葉尻を取って老人へ言葉を投げる僕。
「書いてあったの『田中竜二』、遺骨として受け取りと書いてあり、見れば没年は東京オリンピックが開催された前年の1939年と在りました」
僕は老人から目を話して灯篭に目を遣る。先程とは逆に奥から順に追ってゆく。やがて最後の灯篭へ目を遣りながら、僕は呟くように言った。
「一体、泉南の病院で過日亡くなった田中竜二は誰なんですか?それに…猪子部銀造にはテキヤ仲間内では二つの通り名があるんでしょう?生まれた土地の名と…」
僕は振り返り、杖先を立てたまま動かない老人へと数歩近寄りながら、杖先を指で押すと僕は眉間に皺を寄せた。
「秘密を打ち明けられても決して明かさないという『証の竜』という意味深な通り名がね」
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