1 / 52
1
第1話 星の終焉
しおりを挟む
風景もふくめて「それら」はまるごと僕の中にある。
「それら」とは、人や動物、植物、昆虫、微生物。
もしくは岩石、鉱物、人工物。
あるいは海、空、大地。
地の果て、地の底、海の底。
有機物や無機物。
生命のいとなみ、自然現象。
およそ星の中に存在するすべての物質、事象。
つまり僕は「それら」を体内に包摂する——惑星である。
僕は——このときはまだヨボヨボに老いた状態だったのでワシだったのじゃが——ワシはこのまま亡びて崩れ、消えていくものと思っておった。人が使っていた時間概念であらわすとすると……そうさな、生まれてから、もうすぐ百億年に届こうかというほどの時間が経過していた。
いろんな生き物が生まれ、死んでいった。種ごと絶滅したかと思うと、また新しい種が繁栄したりしておったの。
それでワシが中年くらいのときにの、二足歩行する猿があらわれおった。
猿たちはエッホエッホと急激に進化し、「人間」と自称するようになった。火を使い、土や石を加工し、水に親しみ、周囲の自然環境に対して意図をもって働きかける明晰な頭脳をもっておった。信仰がおこり、まじないが見出され、それと並行して科学的なものの見方も発達し、やがて魔法と科学がともに高度な発展をとげた。
そこに至って、ある予測がはじきだされた。「この惑星はこれから数十億年かけておだやかに衰退し、やがて滅亡するだろう」とな。言ってみれば、ワシは死亡宣告を受けたわけじゃ。「あなたは余命ン十億年です」ってな。
ワシは、まあそんなはずはなかろうて、ワッハッハ、とたかをくくっておったが——どうしてどうして、その予測は存外正確での。
やがて、あれだけ繁栄を謳歌していた魔法と科学が凋落し、その後にやってきた新しい人類もワシに見切りをつけて別の星へと立ち去っていった。そのあたりで動植物たちはみな滅び、海も渇ききってしまった。
何度かの隕石衝突でワシの体はボコボコになり、かすめていった小惑星に質量を削られ、地核も冷えていき、マントルの対流も滞っていった。
空に延々とたなびくのは、くすみ、色あせた、なんとも不吉な気配のする雲。
ヒビ割れ干からびた地平がどこまでも続いている永遠のたそがれの時代。
空へと意識を飛ばして上空から地表を眺めていると、ああワシも老いたものよ、これが星の死に様か……という実感がじわじわとわいてくる。
ほんのこのあいだまでワシの周囲を楽しそうにキャッキャウフフとくるくる回っておった衛星娘もいつのまにかグレて出奔。ああ、夜には煌々と光ってワシを優しく照らしてくれた愛娘の、あの輝かしい姿がなつかしい……。目を閉じれば、まぶたに浮かぶ思い出の数々——人間たちの卒業式では、こういうフレーズが飽きずに使われ続けておったの。しみじみしてしまうわい。
そして日輪。
ワシの大地にも異世界転生や転移のものたちがちょくちょくやってきておったが、だいたい「太陽」と呼んでおったかのう。ほんの十数億年前まではおだやかな日ざしを届けてくれていたものを。
それがそれがどうしたことか日輪のやつめ、気がついたらあやつはおかしくなっておった。ありえないほど大量の電磁波やらガス嵐を吹きつけおって、ワシにとっては毒ガスに等しい汚物を吐き散らし撒き散らす、老害の権化になってしもうてな。
日輪爺はどんどん膨れ上がり、どんどん増長し、どんどんどんどん範囲を広げていった。腹が減ったと手近な星を一、二、三と次々飲みこみながら腹を、体を膨らませていく。それまではほどよい距離感でマイルドな近所づきあいをしていたワシのほうへも、真っ赤な炎の手を無遠慮に、ついにはワシの喉元まで伸ばしてきやがったのじゃが——
どうしたことか、いきなりしぼみおった。
それでワシは、ああ、炎の魔の手から逃れられたか、生き延びたか、寿命も多少は延びたのか、やれやれじゃ、と思っておったのもつかの間、背筋にゾワッとしたものがきた。おそるおそる振り返ると——妙なものが近づいてくる。奇妙なほど小さく黒い点じゃが、それがじわじわと接近してくるのじゃ。
もしやあれは——よもやよもやの黒穴か。光や時間さえも一切合切を飲みこんで、とにかくなんでも食ってしまって飽きることをしらない、常に腹をすかせた黒い口。
これはもしかして日輪爺さんよりたちが悪いかものう、と思っているうちにじゃ、ワシは見る見るあいだに引きずられ、引きずりこまれ、あっという間に吸いこまれ、するりと飲みこまれると、体はぐにゅんぐにゅんとねじまがり、そこで——ワシの意識は途絶えた。
「それら」とは、人や動物、植物、昆虫、微生物。
もしくは岩石、鉱物、人工物。
あるいは海、空、大地。
地の果て、地の底、海の底。
有機物や無機物。
生命のいとなみ、自然現象。
およそ星の中に存在するすべての物質、事象。
つまり僕は「それら」を体内に包摂する——惑星である。
僕は——このときはまだヨボヨボに老いた状態だったのでワシだったのじゃが——ワシはこのまま亡びて崩れ、消えていくものと思っておった。人が使っていた時間概念であらわすとすると……そうさな、生まれてから、もうすぐ百億年に届こうかというほどの時間が経過していた。
いろんな生き物が生まれ、死んでいった。種ごと絶滅したかと思うと、また新しい種が繁栄したりしておったの。
それでワシが中年くらいのときにの、二足歩行する猿があらわれおった。
猿たちはエッホエッホと急激に進化し、「人間」と自称するようになった。火を使い、土や石を加工し、水に親しみ、周囲の自然環境に対して意図をもって働きかける明晰な頭脳をもっておった。信仰がおこり、まじないが見出され、それと並行して科学的なものの見方も発達し、やがて魔法と科学がともに高度な発展をとげた。
そこに至って、ある予測がはじきだされた。「この惑星はこれから数十億年かけておだやかに衰退し、やがて滅亡するだろう」とな。言ってみれば、ワシは死亡宣告を受けたわけじゃ。「あなたは余命ン十億年です」ってな。
ワシは、まあそんなはずはなかろうて、ワッハッハ、とたかをくくっておったが——どうしてどうして、その予測は存外正確での。
やがて、あれだけ繁栄を謳歌していた魔法と科学が凋落し、その後にやってきた新しい人類もワシに見切りをつけて別の星へと立ち去っていった。そのあたりで動植物たちはみな滅び、海も渇ききってしまった。
何度かの隕石衝突でワシの体はボコボコになり、かすめていった小惑星に質量を削られ、地核も冷えていき、マントルの対流も滞っていった。
空に延々とたなびくのは、くすみ、色あせた、なんとも不吉な気配のする雲。
ヒビ割れ干からびた地平がどこまでも続いている永遠のたそがれの時代。
空へと意識を飛ばして上空から地表を眺めていると、ああワシも老いたものよ、これが星の死に様か……という実感がじわじわとわいてくる。
ほんのこのあいだまでワシの周囲を楽しそうにキャッキャウフフとくるくる回っておった衛星娘もいつのまにかグレて出奔。ああ、夜には煌々と光ってワシを優しく照らしてくれた愛娘の、あの輝かしい姿がなつかしい……。目を閉じれば、まぶたに浮かぶ思い出の数々——人間たちの卒業式では、こういうフレーズが飽きずに使われ続けておったの。しみじみしてしまうわい。
そして日輪。
ワシの大地にも異世界転生や転移のものたちがちょくちょくやってきておったが、だいたい「太陽」と呼んでおったかのう。ほんの十数億年前まではおだやかな日ざしを届けてくれていたものを。
それがそれがどうしたことか日輪のやつめ、気がついたらあやつはおかしくなっておった。ありえないほど大量の電磁波やらガス嵐を吹きつけおって、ワシにとっては毒ガスに等しい汚物を吐き散らし撒き散らす、老害の権化になってしもうてな。
日輪爺はどんどん膨れ上がり、どんどん増長し、どんどんどんどん範囲を広げていった。腹が減ったと手近な星を一、二、三と次々飲みこみながら腹を、体を膨らませていく。それまではほどよい距離感でマイルドな近所づきあいをしていたワシのほうへも、真っ赤な炎の手を無遠慮に、ついにはワシの喉元まで伸ばしてきやがったのじゃが——
どうしたことか、いきなりしぼみおった。
それでワシは、ああ、炎の魔の手から逃れられたか、生き延びたか、寿命も多少は延びたのか、やれやれじゃ、と思っておったのもつかの間、背筋にゾワッとしたものがきた。おそるおそる振り返ると——妙なものが近づいてくる。奇妙なほど小さく黒い点じゃが、それがじわじわと接近してくるのじゃ。
もしやあれは——よもやよもやの黒穴か。光や時間さえも一切合切を飲みこんで、とにかくなんでも食ってしまって飽きることをしらない、常に腹をすかせた黒い口。
これはもしかして日輪爺さんよりたちが悪いかものう、と思っているうちにじゃ、ワシは見る見るあいだに引きずられ、引きずりこまれ、あっという間に吸いこまれ、するりと飲みこまれると、体はぐにゅんぐにゅんとねじまがり、そこで——ワシの意識は途絶えた。
30
あなたにおすすめの小説
存在感のない聖女が姿を消した後 [完]
風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは
永く仕えた国を捨てた。
何故って?
それは新たに現れた聖女が
ヒロインだったから。
ディアターナは
いつの日からか新聖女と比べられ
人々の心が離れていった事を悟った。
もう私の役目は終わったわ…
神託を受けたディアターナは
手紙を残して消えた。
残された国は天災に見舞われ
てしまった。
しかし聖女は戻る事はなかった。
ディアターナは西帝国にて
初代聖女のコリーアンナに出会い
運命を切り開いて
自分自身の幸せをみつけるのだった。
転生してチートを手に入れました!!生まれた時から精霊王に囲まれてます…やだ
如月花恋
ファンタジー
…目の前がめっちゃ明るくなったと思ったら今度は…真っ白?
「え~…大丈夫?」
…大丈夫じゃないです
というかあなた誰?
「神。ごめんね~?合コンしてたら死んじゃってた~」
…合…コン
私の死因…神様の合コン…
…かない
「てことで…好きな所に転生していいよ!!」
好きな所…転生
じゃ異世界で
「異世界ってそんな子供みたいな…」
子供だし
小2
「まっいっか。分かった。知り合いのところ送るね」
よろです
魔法使えるところがいいな
「更に注文!?」
…神様のせいで死んだのに…
「あぁ!!分かりました!!」
やたね
「君…結構策士だな」
そう?
作戦とかは楽しいけど…
「う~ん…だったらあそこでも大丈夫かな。ちょうど人が足りないって言ってたし」
…あそこ?
「…うん。君ならやれるよ。頑張って」
…んな他人事みたいな…
「あ。爵位は結構高めだからね」
しゃくい…?
「じゃ!!」
え?
ちょ…しゃくいの説明ぃぃぃぃ!!
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
伯爵家の三男に転生しました。風属性と回復属性で成り上がります
竹桜
ファンタジー
武田健人は、消防士として、風力発電所の事故に駆けつけ、救助活動をしている途中に、上から瓦礫が降ってきて、それに踏み潰されてしまった。次に、目が覚めると真っ白な空間にいた。そして、神と名乗る男が出てきて、ほとんど説明がないまま異世界転生をしてしまう。
転生してから、ステータスを見てみると、風属性と回復属性だけ適性が10もあった。この世界では、5が最大と言われていた。俺の異世界転生は、どうなってしまうんだ。
世界一簡単にレベルアップ ~魔物を倒すだけでレベルが上がる能力を得た俺は、弱小の魔物を倒しまくって異世界でハーレム作る事にしました~
きよらかなこころ
ファンタジー
シンゴはある日、事故で死んだ。
どうやら、神の手違いで間違って死んでしまったシンゴは異世界に転生することになる。
転生する際にオマケに『魔物を倒すだけでレベルが上がる』能力を貰ったシンゴ。
弱小の魔物を倒してレベルを上げ、異世界でハーレムを作る事を企むのだった。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。
渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。
しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。
「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」
※※※
虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。
※重複投稿作品※
表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。
神様の忘れ物
mizuno sei
ファンタジー
仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。
わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる