惑星だった僕が異世界転生して人として生きるときに語ること

来麦さよのすけ

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第1話 星の終焉

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 風景もふくめて「それら」はまるごと僕の中にある。

 「それら」とは、人や動物、植物、昆虫、微生物。
 もしくは岩石、鉱物、人工物。
 あるいは海、空、大地。
 地の果て、地の底、海の底。
 有機物や無機物。
 生命のいとなみ、自然現象。
 およそ星の中に存在するすべての物質モノ事象コト

 つまり僕は「それら」を体内に包摂ほうせつする——惑星である。

 僕は——このときはまだヨボヨボに老いた状態だったのでだったのじゃが——ワシはこのまま亡びて崩れ、消えていくものと思っておった。人が使っていた時間概念であらわすとすると……そうさな、生まれてから、もうすぐ百億年に届こうかというほどの時間が経過していた。

 いろんな生き物が生まれ、死んでいった。種ごと絶滅したかと思うと、また新しい種が繁栄したりしておったの。

 それでワシが中年くらいのときにの、二足歩行する猿があらわれおった。
 猿たちはエッホエッホと急激に進化し、「人間」と自称するようになった。火を使い、土や石を加工し、水に親しみ、周囲の自然環境に対して意図をもって働きかける明晰な頭脳をもっておった。信仰がおこり、まじないが見出され、それと並行して科学的なものの見方も発達し、やがて魔法と科学がともに高度な発展をとげた。

 そこに至って、ある予測がはじきだされた。「この惑星はこれから数十億年かけておだやかに衰退し、やがて滅亡するだろう」とな。言ってみれば、ワシは死亡宣告を受けたわけじゃ。「あなたは余命ン十億年です」ってな。
 ワシは、まあそんなはずはなかろうて、ワッハッハ、とたかをくくっておったが——どうしてどうして、その予測は存外正確での。

 やがて、あれだけ繁栄をおうしていた魔法と科学が凋落ちょうらくし、その後にやってきた新しい人類もワシに見切りをつけて別の星へと立ち去っていった。そのあたりで動植物たちはみな滅び、海も渇ききってしまった。

 何度かの隕石衝突でワシの体はボコボコになり、かすめていった小惑星に質量を削られ、地核も冷えていき、マントルの対流も滞っていった。
 空に延々とたなびくのは、くすみ、色あせた、なんとも不吉な気配のする雲。
 ヒビ割れ干からびた地平がどこまでも続いている永遠のたそがれの時代。
 空へと意識を飛ばして上空から地表を眺めていると、ああワシも老いたものよ、これが星の死に様か……という実感がじわじわとわいてくる。

 ほんのこのあいだまでワシの周囲を楽しそうにキャッキャウフフとくるくる回っておった衛星娘もいつのまにかグレて出奔しゅっぽん。ああ、夜には煌々と光ってワシを優しく照らしてくれた愛娘の、あの輝かしい姿がなつかしい……。目を閉じれば、まぶたに浮かぶ思い出の数々——人間たちの卒業式では、こういうフレーズが飽きずに使われ続けておったの。しみじみしてしまうわい。

 そして日輪。
 ワシの大地にも異世界転生や転移のものたちがちょくちょくやってきておったが、だいたい「太陽」と呼んでおったかのう。ほんの十数億年前まではおだやかな日ざしを届けてくれていたものを。
 それがそれがどうしたことか日輪のやつめ、気がついたらあやつはおかしくなっておった。ありえないほど大量の電磁波やらガス嵐を吹きつけおって、ワシにとっては毒ガスに等しい汚物を吐き散らし撒き散らす、老害の権化ごんげになってしもうてな。

 日輪爺はどんどん膨れ上がり、どんどん増長し、どんどんどんどん範囲を広げていった。腹が減ったと手近な星を一、二、三と次々飲みこみながら腹を、体を膨らませていく。それまではほどよい距離感でマイルドな近所づきあいをしていたワシのほうへも、真っ赤な炎の手を無遠慮に、ついにはワシの喉元まで伸ばしてきやがったのじゃが——

 どうしたことか、いきなりしぼみおった。

 それでワシは、ああ、炎の魔の手から逃れられたか、生き延びたか、寿命も多少は延びたのか、やれやれじゃ、と思っておったのもつかの間、背筋にゾワッとしたものがきた。おそるおそる振り返ると——妙なものが近づいてくる。奇妙なほど小さく黒い点じゃが、それがじわじわと接近してくるのじゃ。

 もしやあれは——よもやよもやの黒穴ブラックホールか。光や時間さえも一切合切を飲みこんで、とにかくなんでも食ってしまって飽きることをしらない、常に腹をすかせた黒い口。

 これはもしかして日輪爺さんよりが悪いかものう、と思っているうちにじゃ、ワシは見る見るあいだに引きずられ、引きずりこまれ、あっという間に吸いこまれ、するりと飲みこまれると、体はぐにゅんぐにゅんとねじまがり、そこで——ワシの意識は途絶えた。
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