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第40話 妖精(2)
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この場で僕にできることがある……? でも——
「何を?」
と、つい僕はたずねてしまった。
すると妖精さんはこともなげに続ける。
「だから、あなたがあの子を開いてあげればいいんじゃない?」
「『開く』……?」
「ほら、あなた見た目はニンゲンだけど、どちらかというと『あたしたち』に近いじゃない?」
いや、いきなり「じゃない?」って同意を求められても困るんだけど!?
「んー? ホントのホントにわかってないの?」
さっぱりわからない。
「わかってないって顔ねぇ……」
コクコク(うなずく)。
「ンもう、しょうがないわねっ。じゃあ、アレをよく見てっ」
見る? アレ? どれ?
「ほら、見えるでしょ?」
「いやだから何を!?」
「ほんとヤボな子ね! 匂いはもうほんとこれ以上ないってくらいの子なのに!」
だから! そのにおいって何!?
「ほら、よ~く見て。ええっと……、あなたたちの言葉で、光の糸? みたいなのが見えるでしょ?」
「光……の、糸……?」
目を細めて見つめる。
うん、何も見えない。まったく見えない。見えないものは見えない。妖精さん、適当なことを言ってる?
けれど。
もしかしてその光の糸? というのが本当に見えるのなら、アシュリンちゃんを救える……のだろうか?
「焦っちゃダメよ。まずは静めて」
焦燥と疑念がないまぜになっている僕の内心を見透かしたかのように、妖精さんがアドバイスする。そしてつけくわえた。
「目を閉じて」
目の前で小さな女の子が死のうとしている状況なのに。それなのに僕は今から目を閉じなければならない。
目を閉じるということ。それはつまり、とっさの行動がとれないということだ。
この場において、目を閉じる。
そんなことができるだろうか?
——できる。
できるはずだ。
目を閉じる。
妖精さんのささやくような小さな声がはっきり聞こえている。
「そうね。次に目を開けたとき、あなたはちゃんと『見える』ようになっている」
うん、次に目を開けると、僕は見える。何が見えるのか、まだよくわからないけど。
ひと呼吸……。
ふた呼吸……。
み……。
「はい、じゃあ開けて」
言われてまぶたを開くと——
「……これはっ!?」
僕は目を見開いた。
視界のそこかしこ、あちらこちらに、ものすごく細くてきれいな光の糸が見える。
クモの糸がこれに近いかもだけど、この光の糸は同じところにとどまらずに、消えたりあらわれたり、常に動いたり、波打ったりしていた。
たとえば風景のスケッチとかで、風の流れを表現しようとして細いペンで描いて、それをリアルタイムで動かしたら、もしかしたらこんな描写になるかもしれない。
もちろん僕はこれまで絵を描いたことはないので、全然見当外れのことを言ってしまっているかもしれないけど。
でも、それ以上にぴったりとした言葉が見つからない。
「なんですか、これ?」
「あなたたちが言うところの『魔素』。その流れね」
魔素……。これが?
たとえば酸素なんかは……今ちゃんと呼吸できてるから、たぶんこの世界にもあるとわかる。けれど普通は見えるものでもない。それなのに、それよりもっと不可思議な魔素が見えるなんて。
うーん、つまりこれはどういうことだろう……と考えこんでいると、
「あの子を救うんじゃないの?」
言われてハッとした。そうだ、僕はアシュリンちゃんを救いたい! 彼女は今どうしてる!?
さっきとは全然違う光景が眼前に広がっていた。
アシュリンちゃんのまわりに、特に手のひらの先に、光の糸がぐるぐると集まっていくのがわかった。
そして同時に彼女の身体のあちこちから、別の糸がスルスルと抜けていっているのもわかる。まるで命が流れ出ていくかのように……。
わかる。見える。
けどやっぱり見えるだけで、これから具体的にどうすればいいのか、さっぱりわからない。途方に暮れていると、
「じゃ、開いて」
「『開いて』って言われても……」
「んもぅ! わからない子ねぇ!」
いや、そんなにプンスカされても……。
「まずは、あなたとあの子とを線でつないで——って、あれ? 何よ、もうつながってるじゃないの」
僕とアシュリンちゃんがつながってる?
目を凝らす。——ん? ほんとだ。僕とアシュリンちゃんとのあいだに光の糸が一本つながっている。かなり細いけど。
けれど確かに、僕とアシュリンちゃんは線でつながっていた。
「最近あの子と楽しいコト、した?」
変なこと聞くなぁ、この妖精さん。
「楽しいコト……かどうかはわからないけど、楽しくおしゃべりとかは……した。昨日の昼とか夜とか、今日もついさっきとか……」
「ふぅん。昨日今日のやりとりだけで線をつなげるなんて、あなたもなかなかやるわね」
んん? やっぱり意味がよくわからない……。
「よぉし、それじゃ『あの子を開きたい』って強く思いなさい?」
あの子を……開く……。
「開くっていうのがしっくりこないなら、『広げたい』とか、『咲かせたい』とか、とにかくソレっぽいことを考えて! ちゃんと言葉にしなくても『思う』だけでいいわ」
アドバイスがいいかげんだなあ。
思う……。いや「想う」か。
違うな。
今は——「願う」だ。そんな想いが、僕の中でふつふつとわいてきていた。
僕は願う。
そうだ。僕に、この僕でよかったら——〈君を、開かせてくれ〉!
パンッ!! と目の前が白くはじけて、あまりのまぶしさに反射的に目を閉じる。
そしてもう一度目を開けたら——
どこともわからない真っ白な空間に、僕はいた。
「何を?」
と、つい僕はたずねてしまった。
すると妖精さんはこともなげに続ける。
「だから、あなたがあの子を開いてあげればいいんじゃない?」
「『開く』……?」
「ほら、あなた見た目はニンゲンだけど、どちらかというと『あたしたち』に近いじゃない?」
いや、いきなり「じゃない?」って同意を求められても困るんだけど!?
「んー? ホントのホントにわかってないの?」
さっぱりわからない。
「わかってないって顔ねぇ……」
コクコク(うなずく)。
「ンもう、しょうがないわねっ。じゃあ、アレをよく見てっ」
見る? アレ? どれ?
「ほら、見えるでしょ?」
「いやだから何を!?」
「ほんとヤボな子ね! 匂いはもうほんとこれ以上ないってくらいの子なのに!」
だから! そのにおいって何!?
「ほら、よ~く見て。ええっと……、あなたたちの言葉で、光の糸? みたいなのが見えるでしょ?」
「光……の、糸……?」
目を細めて見つめる。
うん、何も見えない。まったく見えない。見えないものは見えない。妖精さん、適当なことを言ってる?
けれど。
もしかしてその光の糸? というのが本当に見えるのなら、アシュリンちゃんを救える……のだろうか?
「焦っちゃダメよ。まずは静めて」
焦燥と疑念がないまぜになっている僕の内心を見透かしたかのように、妖精さんがアドバイスする。そしてつけくわえた。
「目を閉じて」
目の前で小さな女の子が死のうとしている状況なのに。それなのに僕は今から目を閉じなければならない。
目を閉じるということ。それはつまり、とっさの行動がとれないということだ。
この場において、目を閉じる。
そんなことができるだろうか?
——できる。
できるはずだ。
目を閉じる。
妖精さんのささやくような小さな声がはっきり聞こえている。
「そうね。次に目を開けたとき、あなたはちゃんと『見える』ようになっている」
うん、次に目を開けると、僕は見える。何が見えるのか、まだよくわからないけど。
ひと呼吸……。
ふた呼吸……。
み……。
「はい、じゃあ開けて」
言われてまぶたを開くと——
「……これはっ!?」
僕は目を見開いた。
視界のそこかしこ、あちらこちらに、ものすごく細くてきれいな光の糸が見える。
クモの糸がこれに近いかもだけど、この光の糸は同じところにとどまらずに、消えたりあらわれたり、常に動いたり、波打ったりしていた。
たとえば風景のスケッチとかで、風の流れを表現しようとして細いペンで描いて、それをリアルタイムで動かしたら、もしかしたらこんな描写になるかもしれない。
もちろん僕はこれまで絵を描いたことはないので、全然見当外れのことを言ってしまっているかもしれないけど。
でも、それ以上にぴったりとした言葉が見つからない。
「なんですか、これ?」
「あなたたちが言うところの『魔素』。その流れね」
魔素……。これが?
たとえば酸素なんかは……今ちゃんと呼吸できてるから、たぶんこの世界にもあるとわかる。けれど普通は見えるものでもない。それなのに、それよりもっと不可思議な魔素が見えるなんて。
うーん、つまりこれはどういうことだろう……と考えこんでいると、
「あの子を救うんじゃないの?」
言われてハッとした。そうだ、僕はアシュリンちゃんを救いたい! 彼女は今どうしてる!?
さっきとは全然違う光景が眼前に広がっていた。
アシュリンちゃんのまわりに、特に手のひらの先に、光の糸がぐるぐると集まっていくのがわかった。
そして同時に彼女の身体のあちこちから、別の糸がスルスルと抜けていっているのもわかる。まるで命が流れ出ていくかのように……。
わかる。見える。
けどやっぱり見えるだけで、これから具体的にどうすればいいのか、さっぱりわからない。途方に暮れていると、
「じゃ、開いて」
「『開いて』って言われても……」
「んもぅ! わからない子ねぇ!」
いや、そんなにプンスカされても……。
「まずは、あなたとあの子とを線でつないで——って、あれ? 何よ、もうつながってるじゃないの」
僕とアシュリンちゃんがつながってる?
目を凝らす。——ん? ほんとだ。僕とアシュリンちゃんとのあいだに光の糸が一本つながっている。かなり細いけど。
けれど確かに、僕とアシュリンちゃんは線でつながっていた。
「最近あの子と楽しいコト、した?」
変なこと聞くなぁ、この妖精さん。
「楽しいコト……かどうかはわからないけど、楽しくおしゃべりとかは……した。昨日の昼とか夜とか、今日もついさっきとか……」
「ふぅん。昨日今日のやりとりだけで線をつなげるなんて、あなたもなかなかやるわね」
んん? やっぱり意味がよくわからない……。
「よぉし、それじゃ『あの子を開きたい』って強く思いなさい?」
あの子を……開く……。
「開くっていうのがしっくりこないなら、『広げたい』とか、『咲かせたい』とか、とにかくソレっぽいことを考えて! ちゃんと言葉にしなくても『思う』だけでいいわ」
アドバイスがいいかげんだなあ。
思う……。いや「想う」か。
違うな。
今は——「願う」だ。そんな想いが、僕の中でふつふつとわいてきていた。
僕は願う。
そうだ。僕に、この僕でよかったら——〈君を、開かせてくれ〉!
パンッ!! と目の前が白くはじけて、あまりのまぶしさに反射的に目を閉じる。
そしてもう一度目を開けたら——
どこともわからない真っ白な空間に、僕はいた。
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