惑星だった僕が異世界転生して人として生きるときに語ること

来麦さよのすけ

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第45話 覚醒(1)

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 風が荒れ狂っていた。

 あばれ、うずまき、さかまき、えている。
 木切れや小石、欠けた壁や屋根の一部、割れた陶器やひしゃげた鍋ぶた。いろんなものがそこらじゅうを飛びまわっていた。

「ひゃあっ」
「あぶないっ」

 おかみさんたちが声をあげる。
 僕も風に飛ばされそうになって、手近な物にしがみつく。

 そしてこの風を起こした張本人は——アシュリンちゃんだった。
 彼女の雰囲気がガラッと変わっていた。さっきまでは体のいろんなところから血が吹き出て、足元もおぼつかなくて、今にも死にそうだった。

 けれど今は両足でしっかりと大地を踏みしめ、しっかりと腕を前に出し、力がみなぎっている。
 手のひらの先で形作られていた魔法の矢が、生き生きと色づいている。
 全身からほとばしる気迫。それが蒸気のように彼女の周囲から立ちのぼる。髪の毛がゆらゆらとゆらぐ。

 そして、アシュリンちゃんの目。赤く染まった眼球から流れる血涙が、ジュッという音とともに乾き、くずれ、小さな鱗粉のようにサラサラと空中に漂って、きらびやかに輝き、消えていく。

 瞳の色が変化した。
 それは宝石のように、矢のように射しこんできた日の光に照らされ燦然さんぜんと輝く琥珀こはくのように、あふれる命の輝きをおびて、生き生きときらめいている。
 そしてその瞳は、射るように相手を見すえていた。

「——くッ」
 少女の瞳に射られた男がひるんだ表情をみせた。
「なんだこいつ!? 様変わりしやがった!?」

 そうか……。あの空間の中、僕がアシュリンちゃんと向きあって……そのぅ、すっぽんぽんでゴニョゴニョしちゃった時間は、男からすると一瞬になるのか。

「〈開 け、 そして 広 が れ〉」

 魔力をおびたアシュリンちゃんの声とともに、魔法の矢が変化した。矢のお尻部分、そこにつぼみが膨れ上がり、美しい花弁が花開き、羽のように翼を広げる。
 手のひらの中、小さいけれど鋭い矢がドリルのようにくるくるとまわりだした。

 ——そう、あとはつだけだ。

 アシュリンちゃん、撃て!

「〈射抜け!! 凝血華・火焔鏃ブラッディ・フレイム・アロー〉!!」

 彼女の放った赤矢が——消えた?
 と思ったら次の瞬間、男の身体に着弾。
 目がくらむようなまばゆい赤光が炸裂した。

「グぁッ!? なあァァァァァ! バカなあぁぁぁぁっ!!」
 男の着ていた防具が砕けとぶ。

「よしっ!」
「やったか!?」
「いや……もうひと押しが……」

 僕のまわりの村の人たちが口々に叫んだ。
 確かに。わずかに足りていない……。
 防具の一部がふっとび、炸裂の衝撃で男は負傷している。

 だが敵はいまだに健在。着弾の刹那、短刀を当てて矢の軌道をそらしたようだ。

「ああ……そんな……」
「くそう……」
「アシュリン……」

 そうだ。アシュリンちゃんは? 大丈夫?
 目を向けると、彼女は魔法矢の射出の体勢のまま体が固まっている——と、クラッと膝が動いたかと思うと、斜めにくずれ、そのまま地面に倒れてしまった。

「アシュリン!」
「アシュリンちゃん!」
「あぁぁ……!」

 と悲嘆に暮れる村の人たち。
 それとは対照的に敵の男は安堵あんどのため息をつきながら、

「へっ、驚かせやがる……。——は?」

 弾かれたように背後をかえりみた。
 そこには——
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