パラント戦記

小説もどき家

文字の大きさ
11 / 13
第二章 政略

不穏

しおりを挟む
 帝都の夜は静謐を纏いながらも、館の一室では秘めやかな熱が燃え上がっていた。重厚な木製の扉の向こう、絹のカーテンが揺れる闇の中で、アイセリンの肌は月光と燭火の柔らかな光に浮かび上がっている。滑らかな白さと曲線を際立たせるその艶やかな肌は、官能の化身のようにケルレダンの視線を捕らえた。

 彼女の息づかいは少しずつ荒くなり、胸元の鼓動が彼の掌に伝わる。かすかな震えと、うっすらと汗ばんだ皮膚の温度が、まるで溶けるように彼の感覚を支配した。ケルレダンの指はそっと肩から腕へ、そして腰の細いくびれへと滑り降り、柔らかな曲線をなぞる。その度に彼の心は抑えきれぬ熱に満たされていった。

その手の動きに呼応するかのように、アイセリンの身体は密やかに反応を返す。彼女の指が彼の胸板に絡みつき、爪先がかすかに食い込む。二人の間に漂うのは、静かな夜の空気とは対照的な、濃密な熱と期待だった。

 ケルレダンはゆっくりと唇を彼女の首筋に寄せた。そこには微かな汗の香りが漂い、彼の舌先が柔らかい肌をなぞるたびに、アイセリンは小さな吐息を漏らす。滑らかな肌に触れる舌の感触は、まるで甘くとろける蜜のように彼女の感覚を染め上げた。

 彼女の胸が規則正しく上下し、熱を帯びた空気が二人の間を満たす。指がさらに下へと滑り、腰の丸みに吸い寄せられるように伸びていく。ケルレダンの手が彼女の身体を抱きしめるように包み込み、繊細な肌の柔らかさとともに、秘められた熱を探り当てていった。

 それはただの肉体の結びつきではなく、長年隠されてきた野心と欲望が絡み合う密やかな儀式だった。彼の指が深く入るたびに、彼女の呼吸は止まる寸前まで高まり、濡れた熱が手のひらに伝わってくる。アイセリンの瞳がわずかに潤み、唇がわずかに開く。言葉にならない喘ぎ声が彼の耳元にこだました。

 ケルレダンはその甘美な音に鼓舞され、さらに唇を這わせ、舌を絡め、指先は彼女の奥深くを探りながら繊細に動いた。彼女の身体が彼の指に反応し、震えが全身に走る。肌が火照り、汗が細い首筋から滴り落ちる。彼はその滴りを舌で拾い、まるで聖なる蜜を味わうかのようにゆっくりと味わった。

その時、彼の低い囁きが彼女の耳をくすぐった。

「アイセリン、聞いてほしい。間もなく我々は動く」

 ケルレダンの声は囁きながらも確固とした響きを持ち、アイセリンの心の奥底に深く染み込んだ。

「エリスロムは今、辺境の戦地にいる。彼の不在が最大の隙となる。これが我々の動く絶好の機会だ。皇帝を葬り去り、帝国を我々が支配するのだ」

 その言葉が告げられた瞬間、アイセリンの心に激しい波紋が広がった。長年連れ添った夫への罪悪感が、冷たい闇のように胸を締めつける。彼の無垢な姿が脳裏に浮かび、彼女の理性を揺るがした。

 その揺らぎの中で、彼女はふと目の前のケルレダンに目を向けた。彼の瞳には熱く燃える確かな意志と、彼女を包み込むような優しさが混じっていた。肉体が絡み合い、肌と肌が触れ合う感触が、彼女の理性と恐怖を少しずつ溶かしていく。

 息を整え、アイセリンは自らの心の奥に潜む闇を見つめる。夫への忠誠と罪悪感。帝都の未来への恐怖と希望。だが何よりも、目の前のこの男と共に歩む決意が、彼女の身体と心を支配し始めていた。

 指が彼の胸に絡みつき、彼女は囁くように答えた。

「分かったわ、ケルレダン。あなたと共に、その日を迎えましょう」

 彼の微笑みが闇の中で深く輝き、二人はその熱に身を委ねながら、新たな夜明けを待つ誓いを交わしたのだった。







しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される

clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。 状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。

行き場を失った恋の終わらせ方

当麻月菜
恋愛
「君との婚約を白紙に戻してほしい」  自分の全てだったアイザックから別れを切り出されたエステルは、どうしてもこの恋を終わらすことができなかった。  避け続ける彼を求めて、復縁を願って、あの日聞けなかった答えを得るために、エステルは王城の夜会に出席する。    しかしやっと再会できた、そこには見たくない現実が待っていて……  恋の終わりを見届ける貴族青年と、行き場を失った恋の中をさ迷う令嬢の終わりと始まりの物語。 ※他のサイトにも重複投稿しています。

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

さようなら、たったひとつの

あんど もあ
ファンタジー
メアリは、10年間婚約したディーゴから婚約解消される。 大人しく身を引いたメアリだが、ディーゴは翌日から寝込んでしまい…。

処理中です...