3年F組クラス転移 帝国VS28人のユニークスキル~召喚された高校生は人類の危機に団結チートで国を相手に無双する~

代々木夜々一

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10-2話 花森千香 「森羅万象」

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 姫野さんが、みんなを振り返った。

「遅かれ早かれ、こういうのはあると思う。わたしは行くけど、今は無理って人は残って」

 その場にいた半分ほどが立った。

「残る人は、来ないからどうっていうんじゃないから。そこは考えすぎないで。意外に数日後に帰れるかもしれないし」

 そう言って姫野さんは笑い、村に向かって歩き出した。

「花ちゃん行く?」

 友松さんが聞いてきた。ケガの人が気になる。行きたい。けど、怖い。

「手、握って行こうか。うちも実は怖い」

 友松さんが手を伸ばした。その手を握る。

 村の入口に着いて、足がすくんだ。想像以上だった。村の農家は、ほとんど焼け落ちている。畑にいくつもの死体があった。一緒に来た同級生は男女問わず、その場で何人かが吐いた。

「お前ら」

 プリンスが私たちに気づいた時、奥からキングの声が聞こえた。

「花森! こっち!」

 家の軒先でキングが手を振っている。走っていくとタクくんが横たわっていた。腕から血が流れている。

「切られたんだが、毒が塗ってたみたいで。さっき倒れた」

 毒だと普通の回復スキルだと治らないかも。その場にいたゲスオくんを見る。ゲスオくんがうなずいた。

「お茶目な落書き!」
「お注射!」

 土気色だったタクくんの顔に、生気が戻ってくる。

 コウくんもケガをしたと聞いた。辺りを見ると、岩に腰かけたコウくんがいた。肩で息をしている。

 太ももに布を巻いていて、かなり血が滲んでいた。駆け寄って、手を当てる。

「お注射!」

 痛みが治まったようで、コウくんは目を閉じた。

「おい、タク!」

 キングの声に振り向いた。タクくんが、フラフラと歩いている。

「花森、治したんだよな?」

 キングが私に歩み寄って聞いてきた。

「うん。その感触はあった」

 タクくんが、こっちを向いた。

「俺、生まれた時から右が難聴で」

 右耳に手を当てたり、離したりしている。

「聞こえる!」

 ゲスオくんも私らのとこへ来た。

「アナログの世界から、いきなりステレオの世界でござるな」
「まじか! それエグいな!」

 タクくんが、今度は狂ったように辺りを見回した。

「みんな、ちょっと黙れ!」

 みんなの手が止まる。タクくんは、村の中を流れる小川に近づき、のぞき込んだ。

「タクって、水泳部だったよな?」
「むぅ、初めてステレオで聞く水の音、でござるな」

 ばしゃん! と小川に飛び込み、両手で水をすくった。

「おおおおおお!」

「これ、なんか演劇で見た気がする」
「ヘレン・ケラーの最大の見せ場、ウォーター! でござるな」
「やべぇ、おれ、なんか感動してきた」

 キングとヒデオくんの会話を聞いて、なんかすごい事しちゃったのはわかった。

「なんやこれ!」

 その声に振り向くと、今度はコウくんが目を見開いていた。恐る恐る、その目に指を入れる。何するのかと思ったら、コントクトね!両目のコンタクトを外し、周りを見る。遠くの空を見上げた。

「おおおおおお!」

 ばさり! と羽音がして、空からヴァゼル伯爵が下りてくる。

「弟子たちよ。森羅万象の世界にようこそ」
「師匠!」

 二人が伯爵の胸に抱きついて泣いた。

 ……なにこれ?

「痛っ!」

 キングがゲスオくんの腕を掴んでいる。

「やっぱそうか。お前、折れてるだろ」

 ゲスオくんが掴まれた腕をはらい、じりじりと下がった。

「そ、それがしの煩悩は、決して消されませぬぞぉぉぉ!」

 全速力で逃げていく。

 ……ゲスオくんって、ある意味すごい。
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