聖女は友人に任せて、出戻りの私は新しい生活を始めます

あみにあ

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9.帰ってきた場所

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貴族でないから、馬車はない。
徒歩で街へ行くのは初めてだった。
リックの背中を追いかけながら、辺りをキョロキョロと見渡してみる。
慣れ親しんだ街だが、こうして歩きながら眺めるとまた違う景色に見える。
馬車の小窓とは違って、風を感じながら遠くに見える街の姿はとても美しかった。

ぼうっと歩いていると、いつの間にかリックの背中が小さくなっている。
慌てて追いかけようとした刹那、彼がこちらへ振り返ると叫んだ。

「危ない、伏せて!」

彼の言葉に私は咄嗟にしゃがみ込むと、頭上を槍が通り過ぎていく。
壁に突き刺さった槍に唖然としていると、ブルっと肩が震えた。
あぶないわねっ、死ぬとこだったわ。
そういえばこの辺りは、訓練場があったわね。
真上にある槍の姿に、手足が冷たくなる中、リチャードが走ってくると、私の体を確認するように優しく触れた。

「はぁ……よかった、怪我はないようですね」

無事だと安心した彼は深く息を吐き出すと、しゃがみ込む私へ手を伸ばした。

「言葉がわかったのですね。咄嗟だったので簡単な言葉で言えなかったのですが……」

私は誤魔化す様に笑うと、そっと彼の手を取り立ち上がる。
失敗したわね……条件反射って怖いわ……。
伏せてという単語は習っていないはず、しゃがみ込むなら教えてもらっているけれど……。
ここは何とか誤魔化すしかないわね。

「はい、知ってた」

苦し紛れに答えてみると、リックは何か言いたそうにしながらも、私の手を握ったまま歩き始めたのだった。

街へやってくると、その風景も変わっていなかった。
賑わうその様が懐かしくて、ついついエリザベスだった頃に訪れた店を探してしまう。
もう貴族ではないから入店できないけれど、見るだけならタダだわ。
リックやクリスと訪れたレストラン、洋服店、書店、相も変わらずそこにあった。
あそこの書店でクリスと本の取り合いをしたのよね。
一冊しかない貴重な本で、どちらも欲しいと譲らなかった。
最後はリックが本を取り上げて、朗読するなんて言っちゃって……楽しかったわね。

懐かしい思い出に浸っていると、サファイアの瞳がこちらを覗き込んだ。

「本屋 が 気になる のですか?」

リックの姿に私は慌てて首を横へ振ると、前へと向き直る。
危ないわ、ついつい思い出に浸ってしまう。
今は街へ来た時の生活をどうするか考えないとね。

里咲だった私は大学の合格に合わせて、実家を出て一人暮らしを始めた。
仕送りはしてくれると言ったが断り、自給自足の生活。
必須科目を優先して、空いた時間はカフェでバイト。
講義が終わった夜には、賄付きの居酒屋でバイトをして、生活費を工面していたわ。
そういえば聖堂にやってきたあの日もバイトが入っていたわね。
どうなっているのかしら……まぁもうどうしようもないけれどね。

それよりも今は今後の生活を考えないとね。
国の補助は期待しないほうがいいわ。
生活保護なんてものはないし、出来れば住み込みで働ける場所が理想ね。
城から手配された店で働けば、四六時中監視が付くだろうし、それは避けたい。
そうなると飲食店かしら……料理も一応できるし、接客なら経験がある。
いくつか目ぼしい店にチェックをつけておきましょう。

リックに連れられ街を回っていると、求人のポスター探してみる。
どこも人手不足なのか、あちらこちらに張り付けられていた。
あそこに、あっち、ここもいいわね。
店内をチラチラ見つめながら進んでいると、リックは噴水のある広場で立ち止まった。
空いているベンチを見つけると、休憩しましょうとエスコートしてくれる。
この場所は街の中心地で、憩いの場。
エリザベスの時は馬車から見る事しか出来なかったけれど、こうして座ると楽しそうな子供たちの声が響き渡る。
リックは屋台へ向かい食べ物を買ってくると、隣へと腰かけた。
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