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10.帰ってきた場所

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手渡されたのは冷たいアイスクリーム。
過去にやってきた聖女が考えだした食べ物の一つ。
この国は聖女が異世界からやってくることで、食のレパートリー豊富で美味しいと有名なの。
あの世界を知って思うけれど、近代化が進み娯楽が溢れ様々な改革が出来るが、手軽に手を出せるのが食なのだと思う。
異世界の食べ物ね、ふふっ私も何か作ってみようかしら。
ペロリとアイスを舐めると、懐かしい甘さと冷たさが口いっぱいに広がった。

アイスクリームを堪能していると、リックが真剣な表情でこちらを向く。
そんな彼の姿に私は手を止めると、思わず姿勢を正した。

「一つ 聞き たい あなたは……」

続く言葉を待っていると、突然広場に悲鳴が轟いた。

「キャアァァァ、私のカバンが!」

女性の悲鳴に顔を向けると、そこにはカバンをひったくり逃げる男の姿。
私は咄嗟に立ち上がると、男の行く手に立ちふさがった。

「何をッッ、戻れ、危ない」

リックは私を引き戻そうと手を伸ばすが、その手をスッとかわすと、男の方へと向かって行く。

「邪魔だ、退け!!!」

男はカバンを振り回しながら懐からナイフを取り出すと、こちらへと見せつける。
キラリと光る刃物に一瞬怯むが、私は脚へ力を入れると、思いっきり土を蹴った。
そのままナイフを蹴り手から弾くと、間髪入れずに男の首へ回し蹴りをお見舞いする。
エリザベスだった頃、護身術で体術を学び、異世界で空手ををやっていた私を舐めるんじゃないわよ。

ひっくり返った男を踏みつけると、手からバックをひったくる。
爽快だわ、一度やってみたかったのよねぇ~。
貴族だった頃は、こうした事件が起きても、手を出す前に護衛や執事が手柄を奪ってしまったのよね。
だからクリスと張り合うために身に着けた技を披露できる機会がなかった。
公爵家の令嬢だったから、仕方がないのかもしれないけれど。
聖女の世界は平和でこうした場面に出会うこともなかったし。

集まってきた野次馬からの歓声を浴び、調子に乗ってパフォーマンスで手を上げてみせると、街の自警団がやってきた。
彼らに男を引き渡しカバンを女性に返し、リックの元へ戻ると、どうやら相当お怒りのようだ。

「何をしているのですか?危ないでしょう!怪我をしたらどうするのですか!あなたは女性なのですよ!」

怒鳴り声に肩を震わせると、私はサッと視線を外し口をギュッと結んだ。
うぅッ相当怒っているわね……耳が痛い。
恐る恐る目線を上げると、リックが鬼の形相で見下ろしていた。
本気で怒っているわ……こんなリックは久々に見たわね……。
私は怯えるように肩をすくめると、エリザベスに戻ったような気がした。

まだ幼い頃、クリスに連れられ危ない事に首を突っ込もうとしたことがあった。
実行する前に見つかって、大人たちに怒られた後、リックにこっぴどく説教されたのよね。
リックの逆鱗に触れてはいけないのだと、クリスと顔を見合わせ肩を震わせていたわ。
懐かしいわね。

「聞いてますか?怪我をしたらどうするつもりなのですか?あぁいった場合は僕がやります。あなたは自分で行くのではなく助けを呼ぶ側です。わかっているのですか?」

怒りで私が言葉を理解していないことをすっかり忘れているのだろう。
早口でまくし立てる説教に肩がビクビクと跳ねる。
里咲の言葉の上達からしてわかるはずのないが、わかってしまうから非常に怖い。
とりあえず落ち着くまで大人しくしていましょう。

コンコンと説教されること数十分、静々と聞いていると、ようやくリックの口調が少し優しくなった。

「ですから何度も言いますが、危険なことには一切近づかない事です。気になるのであれば助けを呼んでください。僕が必ず助けます。って聞いているのですか?エリ……ッッ」

ふと途切れた言葉に、私はすかさず口を開いた。

「ごめんなさい 次 気を付ける」

勢いが弱まった彼の言葉にかぶせ片言で謝ると、リックはハッと我に返り深いため息をついた。

「はぁ……ッッ、帰りましょう」

彼は私の手を固く握ると、有無を言わさぬまま強引に引きずられていったのだった。
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