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第一章

閑話:大好きなお姉様3 (シンシア視点)

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最初はお姉様の好きな物、次は大事にしていたネックレス、その次は……ずっとお姉様の傍にいたメイド。
大事なはずのそれらを欲しいと言ってみると、全て快く私にくれた。
だけどお姉様の手から離れたそれらはガラクタ。
すぐに興味をなくしてしまった。
何も満たされない苛立ちが、いつも胸の中にうごめいていた。

お姉様との関係は修復できぬほどに深くなっていく。
ここ数年日常的な会話なんてしたことない。
だってお姉様から話しかけてこないし、いつも城に入り浸りで屋敷へ戻って来ない。
私を避けているんだ、そう気が付いたけれど、どうすればいいのかわからない。
お姉様の笑みを見ると、イライラしちゃうから……。

そんなある日、私はあるパーティーに参加することになったの。
デビューはまだしていなかったけれど、祝いの席だからと一緒に連れて行ってもらった。
聞いたことない貴族の祝い。
お姉様も、もちろん参加する。
両親には、お姉様とは別々に行動しろと言われたわ。
だけど会場の中で私は、遠くからお姉様の姿をずっと眺めていたの。

王族、友人、貴族たちに挨拶をしていく姿。
映るのは、良く知るあの笑顔、仕草、完璧な令嬢。
皆がお姉様のことを褒め称える。
いつも私の前で見せる姿と同じで、イライラする。
どうすればあの笑顔を崩せるのかな……。

お姉様を目で追っていると、ふらふらと、一人バルコニーへ出て行ってしまった。
どうして外へ?
追おうとするが、運悪く母に捕まってしまう。
母に連れられ挨拶回り、はやる気持ちを抑え、会場を歩き回る。
そしてようやく解放されると、私は慌ててバルコニーへと向かった。
そこには令息と楽しそうに話すお姉様の姿。
いつもの笑みとは少し違う、初めて見た表情だった。

あまりの衝撃に言葉を失ったわ。
家では見たことないその顔。
これがお姉様の自然な姿なの?
どうして私の前では見せてくれないの?
その男はだれ……?

男はお姉様よりも幾分年上だろう、騎士の正装姿に、綺麗な顔立ち。
初めてみる顔だった。
ずっと一緒に居ても見ることが出来なかったお姉様の姿を、なんでこんな男が?

唖然とその姿を眺めていると、男はお姉様にサーコートをかけた。
触れたその手に苛立ち、見つめあう二人の姿。
何とも甘い雰囲気が漂い始めると、私は咄嗟にお姉様を呼ぶ。
そうしてサーコートを男へ投げつけ、お姉様をバルコニーから連れ出した。

令息は去って行くお姉様をじっと見つめていた。
その瞳がさらにムカついたの。
美しく華麗なお姉様を汚そうとする男は許さない。

私は遮るようにバルコニーの前に佇むと、故意に令息の視線からお姉様を隠した。

「シンディ……ッッ」

「お姉様、珍しく楽しそうだったね」

こうやってお姉様に話しかけるのは久しぶりな気がする。
いつも私が一方的に嫌がらせをするだけだったから。

「そんな事……あなたは一体何がしたいの?何が望みなの?」

困った様子のお姉様に私は目を背けると、手を強く握る。
いつもとは少し違う表情、だけどこれは私がさせた表情ではない。
あの男……一体なんなの?

誤魔化そうとするお姉様に苛立ちを感じると、私はキッと鋭く睨みつける。
そのままお母様の元へ連れて行くと、適当な理由をつけてお母様へ渡した。

夜会が閉会し皆が返っていく中、私はキョロキョロするお姉様の姿を見つけた。
探しているのはきっとあの男……そう思うと苛立つ。
私はお姉様の行く手を阻むと、立ちふさがった。
そんな私の様子に、お姉様はいつもと同じ苦笑いを浮かべると、小さくため息をついた。

「誰をそんなに探しているの?もしかしてさっきの黒髪の男の人?」

そう問いかけてみると、お姉様の瞳があからさまに揺らいだ。
いつも同じ笑みで表情を変えないお姉様が初めて見せる動揺した姿。
その姿をさせているのがあの男だと思うと、怒りがさらに強くなっていった。

「ふ~ん、あの人のことがそんなに気になるの?大分年上に見えたけど」

「シンディ、違うわ。彼とはただ……」

「いいよ、誤魔化さないで」

お姉様の言葉にかぶせる様そう言い放つと、私は笑みを浮かべ見据える。
正直に話してくれないのはわかっていた。
だけど言いよどむお姉様に、どす黒い感情が私を包み込む。

やっぱりお姉様は私を信用していないのね。
なのにそんな一度しか会ったことのない人間が、お姉様の心を揺さぶるなんて。
ありえない、ありえない、こんなこと納得できるはずないわ。

お姉様を鋭く睨みつけてみるが、ずっと笑みを貼り付けたまま。
そんな姿に何だか泣きそうになると、私はお姉様に背を向け歩き始める。
暫く歩き続け、おもむろに後ろを振り返ってみると、もうそこにお姉様の姿はなかった。
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