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第二章

閑話:ケルヴィンの策略5 (ケルヴィン視点)

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人間というのは本当に愚かで欲の塊だ。
傍に居るだけ、一番になるだけでは、満足できなくなっていく。
王子に不満をもつ彼女を抱きしめたい、奪いたいそんな強い感情が沸き起こった。
この気持ちは僕がバカにしていた、恋愛感情というものなのだろうか。

他人に依存し欲しいと求める。
その欲はとめどなく溢れ出して……これは厄介な病だな。
だがさすがに王子から彼女を奪うことなど出来ないか……。
なぜあの時王子よりも先に彼女に出会えなかったのか、そんな意味のない後悔までするようになった。
僕に出来ることは、誰よりも彼女から信頼され、気を許せる相手になることまでなのに。

そんなある日、彼女が突然剣術を習いたいと言い始めた。
剣など今まで一切興味を示さなかったものだ。
護身用のためと体のいい嘘だとすぐにわかったが……。
まさか……王子の為?
いやきっと違う、何かある、そう感じた。
そう信じたいだけかもしれないが……。
けれどどれだけ調べ、お嬢様へ探りを入れてみても理由はわからなかった。

毎日走り込みをするお嬢様の姿が美しい。
その姿を見たいためだけに、僕はいつも彼女の隣、少し後ろを走るように心がけている。
荒く息を繰り返し休憩する姿も、汗を拭う姿も、ずっと見ていられるんだ。
運動を始めたからだろうか、最近の彼女は以前よりも明るくなった気がする。
王子との逢瀬後、疲れた様子をみることもなくなった。
これの意図するものは……。
いやだ、考えたくない、そう心が拒絶すると、あるかどうかもわからない理由を必死に探っていた。

そうして数年経過し、剣術だけではなく乗馬まで習得したいと言い始めた。
天性の才能だろう、彼女は見ただけで馬に乗れるようになり、数時間後には一人で馬を操れるようになった。
正直その成長速度には驚かされる。
剣術も申し分ないほど成長し、お嬢様15歳となった。

数年たった今でも彼女が突然剣術や乗馬を教えてほしいと言った理由は見つかってない。
そんなお嬢様は、昔に比べ体つきが女性らしくなり、色気が出てきた。
容姿は言うまでもなく美しく可憐で、色気が出てきたことで、歩けばすれ違う男たちの視線が彼女に集中するんだ。
本人は気が付いていないようだが、彼らの瞳にお嬢様を映し出すことは不快。
だから常に彼女をその視線から守るようにして隣を歩くんだ。
そんな僕の隣を歩く彼女が愛おしくて仕方がない。

こうやって改めて彼女のことを考えると、依存させようとしていた僕自身が、彼女に依存してしまったのかもしれない。
木乃伊取りが木乃伊になった、そんな事を時々考える。
けれどそれならそれでいい、僕は彼女以外何もいらないのだから、たとえ僕の物にならなくても――――。

もうすぐ彼女が学園へ入学する、そうなれば僕がずっと彼女の傍にいることは難しくなるだろう。
部外者は学園へ入れない。
彼女の学園生活を見れないなんて耐えられるはずがない。
2年間しかない、彼女の制服姿。
同じ年の他の令息達が見られる事実に苛立ちを感じる。
そしてそこには王子もいるんだ。

王子……卒業すれば王子と結婚か……考えるだけで憂鬱になる。
何とかしなければ、僕が彼女の傍に居るために――――。

そんなある日、珍しくキャサリンがお嬢様をお茶へと招いた。
今日は騎士学校への入学試験、何かあるかとは思っていたが、僕を知っている彼女なら、変なことはしないだろう。
彼女は僕の本性を知っている、お嬢様に何かあれば、僕が黙っていないことを。

彼女の弱みは死ぬほどある、惚れっぽい性格だが、バカ差加減が仇となり振られる日々。
今夢中になっているのは、僕も知っている騎士団の一員だ。
次の試験に受かれば近衛騎士に昇格する有望株。
恋人はおらず独身で、爵位は低いが整った容姿をしている男だ。
そんな男に夢中になるいい年をしたケイトは、今必死にアピールしているだろう。
そこに僕が要らぬ情報を与えれば、全てが台無しになるからね。
まぁ気にはしているが、本当に入団テストに参加するとは思っていない。
だって僕は彼女に、騎士としての戦い方は教えていなかったから。
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