ツンデレ王子とヤンデレ執事 (旧 安息を求めた婚約破棄(連載版))

あみにあ

文字の大きさ
64 / 86
第三章

土砂降りの雨の中

しおりを挟む
数日かけて土を慣らすとアザレアの種をまき、その成長を毎日眺める。
マーティンと会っていたあの庭園みたいに、満開なアザレアを咲かせてみたいわ。
顔や手が土まみれになりながら、あの庭の風景を思い浮かべる。
庭の手入れ、花を育てることがこんなに大変だったなんて、令嬢のままでは知り得なかった。
新しい事を学ぶ喜びを、久方ぶりに実感したのだった。

夜になれば、外へ出て満天の星空を見上げる。
ずっとずっと何時間でも見ていられるの。
もう私を縛るものはなにもない、時間を気にすることなく毎日天体を観測していた。

星の観察をしていると、明日の天気が薄っすらとわかるの。
百発百中ではないけれど、これを何か商売に利用できないかしらね……。
そんな事を考えながら、雲の流れ、星の位置、見え方、それをノート記しまとめていく。
とりあえず街へ出てお金を稼いで、望遠鏡を買わないといけないわね。

そして生活が落ち着き始めたある日、私は便せんを取り出すと、お茶を用意していたケルヴィンに話しかける。

「ケル、お母様とお父様にここへ来たことを報告しているのかしら?」

そう問いかけてみると、彼はそっとポットを置き、こちらへ顔を向けた。

「えぇ、まぁ……報告しておりますが……どうされましたか?」

「生活も大分落ち着いてきたから、手紙でも書こうと思って」

私はペンを取り出すと、謝罪と現状の報告を綴っていく。
届くのはきっと2週間ほどかかるだろう。
不甲斐ない娘だとの謝罪から始まり、シンシアと王子を祝福する言葉。
そして無事に別荘へたどり着き、ケルと一緒に生活を始めた旨。
そして元気だとそう書き記した。

「お嬢様……その手紙は私が預かりましょう」

「えっ、いいわよ。これぐらい自分で出すわ」

そう断ったのだが、今日のケルヴィンはいつもと少し違っていた。
危険なことならばダメだとやらせてもらえないのは知っている。
けれど手紙をだす行為に危険はないはず。
しかしケルヴィンは引き下がることなく、半ば強引に私の手紙を預かろうとした。
そんな彼の様子にこちらも意地になって自分で出すと言い張った。

こんな風に自分の意見を通したことがいままであったかしら?
貴族という世界では表せなかった自分の姿。
ここへ来て変わり始めているのだと、実感した。
結局話し合った結果、二人で街へ赴き、手紙を出すことになった。


暫くしたある日、今日は朝から外はバケツをひっくり返したような雷雨が降り注いでいた。
雷雲がチカチカと光り、ゴロゴロと音が響き渡る。
ケルヴィンは雨の中、街へ買い出しへ行ってしまった。
いつも一緒に連れていてもらうのだけれど、この雨では危険だと連れて行ってもらえなかった。
改めて思うけれど、ケルは本当に過保護なのよねぇ。
もうお嬢様と呼べるような存在では何でもないのに……。

ザーザーと響く雨音に耳を傾けながら、種をまいた庭をじっと眺める。
土には水がたまり、泥が流れ出していた。
はぁ……明日庭の手入れをやり直さないと……。
今日は部屋でゆっくり本でも読もうかしらね。

窓から離れようとした刹那、森の中から薄っすらと馬車が浮かび上がる。
こんな辺鄙な場所に似つかない大きな馬車。
私は首を傾げながらに窓へと戻ると、その影はゆっくりと大きくなっていく。

土砂降りの雨のせいで視界が悪い。
馬車はそのまま門の中へとやってくると、屋根のある場所で、静かに停止した。
窓が曇り視界が悪くなると、馬車にあるはずの紋章を確認できない。

こんな山奥の一軒家に、なんの用事かしら……?
私の家の馬車ではなさそうね……ならどこの貴族が……?
窓をこすり覗き込んだその瞬間、ドンドンドンと扉を叩く音が屋敷へ響いた。

「お姉様、お姉様!!!ここを開けて!お願い!」

雨音に負けないキーンと頭に響く声に、私はその場で固まると、ピクピクッと頬をひきつらせた。
嘘……あの声はまさか……ッッ。
あぁ、どうして……。

「お姉様、いるんでしょう!早く開けて、話したい事があるの!」

聞き間違いかと考えたが、やはり声がはっきりと耳に届く。
もう聞くこともないだろうと思っていた声に、私は恐る恐る廊下へと出ていった。

玄関の前へやってくると、私はゴクリと唾を飲み込んだ。
深く息を吸い込みながら慎重にドア開けると、突然人影が襲ってくる。
突然のことに私は支える事も出来ぬまま床へと倒れこんだ。

「きゃぁっ、いたぁっ」

咄嗟に受け身をとったが、床へ尻餅をつくと、濡れた長いブロンドの髪が私の頬へ触れた。
エメラルドの瞳と視線が絡むと、ポタポタと雫が私の服へ垂れ落ちていく。
そっと彼女の体へ手を触れると、思った以上に冷たく微かに震えていた。

「……ッッ。シンシアずぶ濡れじゃない。あっ、すぐにタオルを持ってくるわ」

慌てて体を起こし顔を上げようとすると、ふと人影が視界を掠める。
確認するように顔を上げると、その先に居たのは雨降りしきる中静かに佇むマーティンの姿だった。
しおりを挟む
感想 148

あなたにおすすめの小説

推しであるヤンデレ当て馬令息さまを救うつもりで執事と相談していますが、なぜか私が幸せになっています。

石河 翠
恋愛
伯爵令嬢ミランダは、前世日本人だった転生者。彼女は階段から落ちたことで、自分がかつてドはまりしていたWeb小説の世界に転生したことに気がついた。 そこで彼女は、前世の推しである侯爵令息エドワードの幸せのために動くことを決意する。好きな相手に振られ、ヤンデレ闇落ちする姿を見たくなかったのだ。 そんなミランダを支えるのは、スパダリな執事グウィン。暴走しがちなミランダを制御しながら行動してくれる頼れるイケメンだ。 ある日ミランダは推しが本命を射止めたことを知る。推しが幸せになれたのなら、自分の将来はどうなってもいいと言わんばかりの態度のミランダはグウィンに問い詰められ……。 いつも全力、一生懸命なヒロインと、密かに彼女を囲い込むヒーローの恋物語。 ハッピーエンドです。 この作品は他サイトにも投稿しております。 表紙絵は写真ACよりチョコラテさまの作品(写真ID:31360863)をお借りしております。

一夜限りの関係だったはずなのに、責任を取れと迫られてます。

甘寧
恋愛
魔女であるシャルロッテは、偉才と呼ばれる魔導師ルイースとひょんなことから身体の関係を持ってしまう。 だがそれはお互いに同意の上で一夜限りという約束だった。 それなのに、ルイースはシャルロッテの元を訪れ「責任を取ってもらう」と言い出した。 後腐れのない関係を好むシャルロッテは、何とかして逃げようと考える。しかし、逃げれば逃げるだけ愛が重くなっていくルイース… 身体から始まる恋愛模様◎ ※タイトル一部変更しました。

処刑された王女は隣国に転生して聖女となる

空飛ぶひよこ
恋愛
旧題:魔女として処刑された王女は、隣国に転生し聖女となる 生まれ持った「癒し」の力を、民の為に惜しみなく使って来た王女アシュリナ。 しかし、その人気を妬む腹違いの兄ルイスに疎まれ、彼が連れてきたアシュリナと同じ「癒し」の力を持つ聖女ユーリアの謀略により、魔女のレッテルを貼られ処刑されてしまう。 同じ力を持ったまま、隣国にディアナという名で転生した彼女は、6歳の頃に全てを思い出す。 「ーーこの力を、誰にも知られてはいけない」 しかし、森で倒れている王子を見過ごせずに、力を使って助けたことにより、ディアナの人生は一変する。 「どうか、この国で聖女になってくれませんか。貴女の力が必要なんです」 これは、理不尽に生涯を終わらされた一人の少女が、生まれ変わって幸福を掴む物語。

5分前契約した没落令嬢は、辺境伯の花嫁暮らしを楽しむうちに大国の皇帝の妻になる

西野歌夏
恋愛
 ロザーラ・アリーシャ・エヴルーは、美しい顔と妖艶な体を誇る没落令嬢であった。お家の窮状は深刻だ。そこに半年前に陛下から連絡があってー  私の本当の人生は大陸を横断して、辺境の伯爵家に嫁ぐところから始まる。ただ、その前に最初の契約について語らなければならない。没落令嬢のロザーラには、秘密があった。陛下との契約の背景には、秘密の契約が存在した。やがて、ロザーラは花嫁となりながらも、大国ジークベインリードハルトの皇帝選抜に巻き込まれ、陰謀と暗号にまみれた旅路を駆け抜けることになる。

幸せを知らない令嬢は、やたらと甘い神様に溺愛される

ちゃっぷ
恋愛
家族から産まれたことも生きていることも全否定され、少しは役に立てと言われて政略結婚する予定だった婚約者すらも妹に奪われた男爵令嬢/アルサイーダ・ムシバ。 さらにお前は産まれてこなかったことにすると、家を追い出される。 行き場を失ってたまに訪れていた教会に来た令嬢は、そこで「産まれてきてごめんなさい」と懺悔する。 すると光り輝く美しい神/イラホンが現れて「何も謝ることはない。俺が君を幸せにするから、俺の妻になってくれ」と言われる。 さらに神は令嬢を強く抱きしめ、病めるときも健やかなるときも永遠に愛することを誓うと、おでこにキス。 突然のことに赤面する令嬢をよそに、やたらと甘い神様の溺愛が始まる――。

【完結】0日婚の白魔女皇后は呪いの冷酷帝に寵愛される

さわらにたの
恋愛
「冷酷帝」エンジュに皇后として望まれ、政略結婚として輿入れした白魔術師キーラ。 初夜にて「俺は呪われている。本当は皇后などいらん、解呪のためだけにお前を呼んだ」と明かされて解呪に挑むことに……から次第にあれやこれやで結局ハピエンラブラブになるお話です ほんのりと前作「魔力なしの転生少女は天才魔術師様に求婚される」と同じ世界線、時間軸です

【コミカライズ決定】魔力ゼロの子爵令嬢は王太子殿下のキス係

ayame@コミカライズ決定
恋愛
【ネトコン12受賞&コミカライズ決定です!】私、ユーファミア・リブレは、魔力が溢れるこの世界で、子爵家という貴族の一員でありながら魔力を持たずに生まれた。平民でも貴族でも、程度の差はあれど、誰もが有しているはずの魔力がゼロ。けれど優しい両親と歳の離れた後継ぎの弟に囲まれ、贅沢ではないものの、それなりに幸せな暮らしを送っていた。そんなささやかな生活も、12歳のとき父が災害に巻き込まれて亡くなったことで一変する。領地を復興させるにも先立つものがなく、没落を覚悟したそのとき、王家から思わぬ打診を受けた。高すぎる魔力のせいで身体に異常をきたしているカーティス王太子殿下の治療に協力してほしいというものだ。魔力ゼロの自分は役立たずでこのまま穀潰し生活を送るか修道院にでも入るしかない立場。家族と領民を守れるならと申し出を受け、王宮に伺候した私。そして告げられた仕事内容は、カーティス王太子殿下の体内で暴走する魔力をキスを通して吸収する役目だったーーー。_______________

ある日、私は事故で死んだ───はずなのに、目が覚めたら事故の日の朝なんですけど!?

ねーさん
恋愛
   アイリスは十六歳の誕生日の前の日に、姉ヴィクトリアと幼なじみジェイドと共に馬車で王宮に向かう途中、事故に遭い命を落とした───はずだったが、目覚めると何故か事故の日の朝に巻き戻っていた。  何度もその日を繰り返して、その度事故に遭って死んでしまうアイリス。  何度目の「今日」かもわからなくなった頃、目が覚めると、そこにはヴィクトリアの婚約者で第三王子ウォルターがいた。  「明日」が来たんだわ。私、十六歳になれたんだ…

処理中です...