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第三章
熱情
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改めて彼を見ると、出会った頃は私の方が高かった身長が、見上げなければ目を見ることも出来ない。
体つきも逞しくなり、学園に入ってさらに伸びた気がするわ。
こうやってみると、婚約が決まってからの時間を、改めて感じ取る。
「まずは……謝らせてくれ。試すような事をして悪かった」
「いえ、お顔を上げて下さい。私は気にしてませんわ。寧ろマーティン様が幸せになるのだと、嬉しく思っておりましたの」
そう言葉を返すと、彼は傷ついた様子で顔を歪め俯いた。
「……ッッ、シャーロットは本当に俺の事を……何とも思っていないんだな……わかってたつもりだったんだけどな……」
「うん?何とも、とはどういう事でしょう?もちろん嫌いではありませんわ。妹を任せられるほどには、信頼もしておりますもの」
琥珀の瞳を真っすぐに見つめ返すと、彼はグイッと私の肩を引き寄せる。
そのまま彼の胸の中へ囚われると、ドクンッドクンッと、激しく波打つ心臓の音が耳に響いた。
この音は私の音だろうか、それとも彼の音なのだろうか……?
「違う、俺は……俺は……初めてシャーロットに出会ったあの日から、好きだった、一目ぼれだった。けど緊張して、ドキドキしすぎて、上手く話せなくて……。そんな俺に呆れて、両親が婚約を取り付けたんだ。だけど俺はすっごく嬉しかった。だがいざお前の顔を見ると、いろんな事を考えちまって……。いいとこ見せたいとか、格好よくありたいとか、くだらないことばかり考えて……」
衝撃的な言葉に頬に熱が集まっていくと、心臓がさらに激しく動き始める。
熱い熱に火照っていくと、頭が上手く回らない。
「へぇっ、えぇ!?……ですが初めてお会いした時に……恋愛結婚をしたいとおっしゃったではありませんか……?」
思ったことを口にすると、マーティンは縋るように抱きしめる腕の力を強めた。
「あれは、違う、違うんだ。こんな親の決められた結婚をするんじゃなくて、お互い良く知り合って、ちゃんと恋愛してチャーリーと結ばれたい、そういう意味で言ったんだ……ッッ。まぁ……伝わるはずねぇよな……。だけどあんたを前にすると、恥ずかしくてなぜかうまく言葉が出て来なくて……訂正すらできねぇんだ。本当バカだよな……。今更になってこんなこと言ってもさ……わかってる。でも俺は自惚れていたんだ。俺と同じ趣味を持とうとしたり、つまらない返事に怒ることも、不機嫌になることもなくて、傍に居てくれたから。お前も俺と同じ気持ちだって勘違いして舞い上がって……。だから……シンシアの提案にのったんだ。あんたの口からはっきりと好きだと聞きたくて、自分じゃ好きなんて言えるはずねぇって諦めて……。だから……本当にすまなかった……」
彼の顔は見えないが、話す声が微かに震えている。
そんな彼の様子に、なんと答えていいのかわからない。
私は……彼と婚約破棄をしたいがために、同じ趣味を共有し仲良くなろうと模索した。
彼の事は嫌いではない、だけど彼が求めている感情を私は持ち合わせていない。
熱い想いを……。
シーンと静まり返る中、窓の外から雨音が耳にとどく。
雷雲がゴロゴロと交じる中、私は彼を突き放す様に手を伸ばした。
初めて触れた熱情、その熱は私に熱すぎる。
「マーティン様……私は……あなたが望むその気持ちを持っていないわ」
「……ッッ、わかっている。だけど俺はあんたが好きだ。愛してるんだ、だから……ここまで追いかけてきた。今度こそちゃんと伝えようって、間違わないように……真っすぐにお前の目を見られるように……」
必死で情熱的な彼の瞳から、目をそらせない。
こんな……こんなことになるなんて……。
私はどこで選択を間違えたの?
私が望むもの……それは自由。
このまま流されて婚約者に戻れば、全て丸く収まるだろう。
王子は婚約を望み、シンシアは王妃になりたくないという。
両親や王、王妃も婚約を望んでいるだろう……。
ならここへ残りたいと主張するのは、私の自分勝手な想いだけ。
ようやくわかりかけてきた、自然な笑顔、純粋な気持ち、発見。
その全てが、もう二度と感じられなくなるかもしれない……。
けれどこのわがままを通せば、シンシアが王妃となる。
しかし王妃として役割を果たさなければ、家や両親にも迷惑がかかるだろう。
シンシアならやりかねないのかもしれない。
でもさっき見たシンシアの様子は、どうもおかしかった。
いえ、何かひっかかるの。
何かしら……このモヤモヤする想い。
今までシンシアは私を嫌い、欲しい物を強請ってきた。
その全てを私は与え続けたわ。
物人何でも、だけどそれは……そうよ、一度も私に返したことはない。
昔奪われた大切な宝石、妹が着けた姿は一度も見ていない。
大事にしていた、くまの人形だってそうだった。
私から奪った後、持っていたところを見たことがない。
メイドだってあれほど執着していたのに、私から奪うとその興味を失せていた。
そうよ、妹は私から奪った物には興味をなくす。
だけど王子にはそんな事なくて、むしろこうやって返しにきた。
それは逆に考えると、もしかして……ッッ。
「マーティン様……少し考えさせてください」
私は勢いそのままで部屋を飛び出すと、シンシアの姿を探していた。
体つきも逞しくなり、学園に入ってさらに伸びた気がするわ。
こうやってみると、婚約が決まってからの時間を、改めて感じ取る。
「まずは……謝らせてくれ。試すような事をして悪かった」
「いえ、お顔を上げて下さい。私は気にしてませんわ。寧ろマーティン様が幸せになるのだと、嬉しく思っておりましたの」
そう言葉を返すと、彼は傷ついた様子で顔を歪め俯いた。
「……ッッ、シャーロットは本当に俺の事を……何とも思っていないんだな……わかってたつもりだったんだけどな……」
「うん?何とも、とはどういう事でしょう?もちろん嫌いではありませんわ。妹を任せられるほどには、信頼もしておりますもの」
琥珀の瞳を真っすぐに見つめ返すと、彼はグイッと私の肩を引き寄せる。
そのまま彼の胸の中へ囚われると、ドクンッドクンッと、激しく波打つ心臓の音が耳に響いた。
この音は私の音だろうか、それとも彼の音なのだろうか……?
「違う、俺は……俺は……初めてシャーロットに出会ったあの日から、好きだった、一目ぼれだった。けど緊張して、ドキドキしすぎて、上手く話せなくて……。そんな俺に呆れて、両親が婚約を取り付けたんだ。だけど俺はすっごく嬉しかった。だがいざお前の顔を見ると、いろんな事を考えちまって……。いいとこ見せたいとか、格好よくありたいとか、くだらないことばかり考えて……」
衝撃的な言葉に頬に熱が集まっていくと、心臓がさらに激しく動き始める。
熱い熱に火照っていくと、頭が上手く回らない。
「へぇっ、えぇ!?……ですが初めてお会いした時に……恋愛結婚をしたいとおっしゃったではありませんか……?」
思ったことを口にすると、マーティンは縋るように抱きしめる腕の力を強めた。
「あれは、違う、違うんだ。こんな親の決められた結婚をするんじゃなくて、お互い良く知り合って、ちゃんと恋愛してチャーリーと結ばれたい、そういう意味で言ったんだ……ッッ。まぁ……伝わるはずねぇよな……。だけどあんたを前にすると、恥ずかしくてなぜかうまく言葉が出て来なくて……訂正すらできねぇんだ。本当バカだよな……。今更になってこんなこと言ってもさ……わかってる。でも俺は自惚れていたんだ。俺と同じ趣味を持とうとしたり、つまらない返事に怒ることも、不機嫌になることもなくて、傍に居てくれたから。お前も俺と同じ気持ちだって勘違いして舞い上がって……。だから……シンシアの提案にのったんだ。あんたの口からはっきりと好きだと聞きたくて、自分じゃ好きなんて言えるはずねぇって諦めて……。だから……本当にすまなかった……」
彼の顔は見えないが、話す声が微かに震えている。
そんな彼の様子に、なんと答えていいのかわからない。
私は……彼と婚約破棄をしたいがために、同じ趣味を共有し仲良くなろうと模索した。
彼の事は嫌いではない、だけど彼が求めている感情を私は持ち合わせていない。
熱い想いを……。
シーンと静まり返る中、窓の外から雨音が耳にとどく。
雷雲がゴロゴロと交じる中、私は彼を突き放す様に手を伸ばした。
初めて触れた熱情、その熱は私に熱すぎる。
「マーティン様……私は……あなたが望むその気持ちを持っていないわ」
「……ッッ、わかっている。だけど俺はあんたが好きだ。愛してるんだ、だから……ここまで追いかけてきた。今度こそちゃんと伝えようって、間違わないように……真っすぐにお前の目を見られるように……」
必死で情熱的な彼の瞳から、目をそらせない。
こんな……こんなことになるなんて……。
私はどこで選択を間違えたの?
私が望むもの……それは自由。
このまま流されて婚約者に戻れば、全て丸く収まるだろう。
王子は婚約を望み、シンシアは王妃になりたくないという。
両親や王、王妃も婚約を望んでいるだろう……。
ならここへ残りたいと主張するのは、私の自分勝手な想いだけ。
ようやくわかりかけてきた、自然な笑顔、純粋な気持ち、発見。
その全てが、もう二度と感じられなくなるかもしれない……。
けれどこのわがままを通せば、シンシアが王妃となる。
しかし王妃として役割を果たさなければ、家や両親にも迷惑がかかるだろう。
シンシアならやりかねないのかもしれない。
でもさっき見たシンシアの様子は、どうもおかしかった。
いえ、何かひっかかるの。
何かしら……このモヤモヤする想い。
今までシンシアは私を嫌い、欲しい物を強請ってきた。
その全てを私は与え続けたわ。
物人何でも、だけどそれは……そうよ、一度も私に返したことはない。
昔奪われた大切な宝石、妹が着けた姿は一度も見ていない。
大事にしていた、くまの人形だってそうだった。
私から奪った後、持っていたところを見たことがない。
メイドだってあれほど執着していたのに、私から奪うとその興味を失せていた。
そうよ、妹は私から奪った物には興味をなくす。
だけど王子にはそんな事なくて、むしろこうやって返しにきた。
それは逆に考えると、もしかして……ッッ。
「マーティン様……少し考えさせてください」
私は勢いそのままで部屋を飛び出すと、シンシアの姿を探していた。
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