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第三章
向き合う勇気
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シンシアの嘘偽りのない言葉に、私も答えなければいけない。
「シンディ、私は貴族社会から離れたかった。その気持ちは今も変わらない。出来るのなら一人で立っていたいの。だから同情ではなく……彼の婚約者に戻るつもりはないわ」
「……ッッなんで!!!それならマーティン様はどうなるの?ずっとお姉様を見ていたのよ。それすら気づいていなかったでしょう?お義兄様はお姉様を本当に愛しているのよ!!!」
シンシアは飛び掛かるように私の肩を掴むと、苦し気に顔を歪め瞳を覗き込む。
「だからこそよ……。私では彼を幸せに出来ないわ。彼が好きだとしても、私はマーティン様をそういった感情では見ることは出来ないの」
「そんなのわからないじゃない!今は違っても……ッッ。悔しい、なんでお姉様なの……。私だったら絶対に彼を幸せに出来るのに……ッッ」
悔しいと呟くシンシアの姿に、私は彼女の震える手を掴むと、そっと優しく包み込む。
その手はひどく冷たく、寒々としていた。
「そうよ、人の気持ちは変わる。私もシンディに教えてもらったわ。だけどね、あなたが彼を好きだと知った今、王子を好きになるなんて出来ない。私はあなたを大好きだから。いつも天真爛漫に笑うあなたが可愛くて、感情豊かに振舞う姿が好きだった。嫌われてしまったと思って本当に悲しかった。だけどその感情に向き合えなかった……。でもあなたが気づかせてくれた。そんなあなたになら、王子の気持ちを変えることも出来るとも思う。だって彼も不器用な人だから……」
シンシアに微笑みかけると、瞳から涙が溢れ、彼女は私へ縋り付き、泣き崩れる。
先ほどよりも小さくなった雨音に交じり、すすり泣く彼女の髪を優しく撫でると、落ち着くまで傍についていた。
そうしてどれぐらい時間がたっただろうか、次第にシンシアが落ち着き始めると、ゆっくりと体を離す。
目は先ほどよりもひどく腫れ、可愛らしい顔が台無しだ。
だけどその姿も愛おしいと思う自分がいた。
「ひぃく、……ッッ、王子に気持ちを伝えて、お姉様よりもいい女になって、私が彼を幸せにする。だからお姉様もちゃんと幸せになってね……。自分の心に向き合うのよ」
よくわからない言葉に首を傾げると、シンシアは手の甲で涙を拭いながら顔を上げた。
「……お姉様は気が付いていないだろうけれど、大事に想っている人がいるよね?」
「そうね……、シンディはもちろん、みんな大事よ?」
「違うわ、その中でも特別な人がちゃんといるでしょう。お姉様は自分の感情を見ようとしていないだけ。だから他人にも興味を持たないんだよ。ちゃんと考えてみて、お姉様の中に居るその人のことを」
他人に興味がない……言われてみればそうなのかもしれないわね。
深く関わることを避けていたのだから……。
「中に居る人……、それってどういう意味かしら?」
「ふふっ、お姉様らしい」
シンシアは小さく笑うと、もう瞳に涙はない。
彼女のこんな笑みを見たのはいつぶりだろう。
懐かしい気持ちと温かい気持ちが流れ込むと、私もつられて笑みを浮かべていた。
するとシンシアは目を大きく輝かせ、嬉しそうに笑って見せる。
「初めて私に見せてくれたね、その笑顔。その笑顔をずっと見たかったんだぁ。私はねぇ、じつはシスコンなの。知らなかったでしょ?お姉様の好きな物も嫌いな物も何でも知っている。だからだ~い好きなお姉様の自然な表情を見たかった。だけどその方法を間違えて、見られないばかりか、お姉様との溝が広がって修復で出来なくなって……。だけど唯一その仮面の笑みを崩した人がいるよね。ずっと見てたからわかるの。お姉様は彼だけに心を許している、だから私はあいつのことが嫌いなんだよね~」
自然な表情……嫌い?一体誰の事……?
シンシアの言葉に考え込んでいると、楽しそうな笑い声が耳にとどく。
「ははっ、まだわからないの?よく考えてみて~、いっつも傍に居た人が一人だけいるでしょう?納得できないけど……彼の気持ちは間違いなく本物だわ。お姉様を捕られてしまうのは悔しいけど……」
ずっと傍に居た人……もしかして……ッッ。
ハッと顔を上げると、シンシアは何かを察した様子でニコッと笑って見せた。
「今思い浮かんだ人で正解じゃないかな。でもどうして思い浮かんだのか、それは自分で考えないとね~。だからお姉様、ちゃんと向き合って。自分の気持ちに蓋をし続けると幸せになれない。だけどもし、どうしても答えが出ないのなら、本人に聞いてみるといいわ。そうそうもう一つ、キャサリン様と彼は只の友達らしいから安心するといいよ」
そう私の脳裏に浮かんでいたのはケルヴィンの姿。
ケイトお姉様とケルは恋人ではない、その事実に胸につっかえていたトゲがスッと抜け落ちていく。
嬉しいとそう素直に感じる自分に驚く。
どうしてそう思うのか、ケイトお姉様もケルもどちらも大切な存在。
だけど何かしらこの気持ちは……。
考え込んでいると、ふと窓から光が差し込み始め、あれほど降っていた雨がやみ、空に薄日が輝いていた。
「シンディ、私は貴族社会から離れたかった。その気持ちは今も変わらない。出来るのなら一人で立っていたいの。だから同情ではなく……彼の婚約者に戻るつもりはないわ」
「……ッッなんで!!!それならマーティン様はどうなるの?ずっとお姉様を見ていたのよ。それすら気づいていなかったでしょう?お義兄様はお姉様を本当に愛しているのよ!!!」
シンシアは飛び掛かるように私の肩を掴むと、苦し気に顔を歪め瞳を覗き込む。
「だからこそよ……。私では彼を幸せに出来ないわ。彼が好きだとしても、私はマーティン様をそういった感情では見ることは出来ないの」
「そんなのわからないじゃない!今は違っても……ッッ。悔しい、なんでお姉様なの……。私だったら絶対に彼を幸せに出来るのに……ッッ」
悔しいと呟くシンシアの姿に、私は彼女の震える手を掴むと、そっと優しく包み込む。
その手はひどく冷たく、寒々としていた。
「そうよ、人の気持ちは変わる。私もシンディに教えてもらったわ。だけどね、あなたが彼を好きだと知った今、王子を好きになるなんて出来ない。私はあなたを大好きだから。いつも天真爛漫に笑うあなたが可愛くて、感情豊かに振舞う姿が好きだった。嫌われてしまったと思って本当に悲しかった。だけどその感情に向き合えなかった……。でもあなたが気づかせてくれた。そんなあなたになら、王子の気持ちを変えることも出来るとも思う。だって彼も不器用な人だから……」
シンシアに微笑みかけると、瞳から涙が溢れ、彼女は私へ縋り付き、泣き崩れる。
先ほどよりも小さくなった雨音に交じり、すすり泣く彼女の髪を優しく撫でると、落ち着くまで傍についていた。
そうしてどれぐらい時間がたっただろうか、次第にシンシアが落ち着き始めると、ゆっくりと体を離す。
目は先ほどよりもひどく腫れ、可愛らしい顔が台無しだ。
だけどその姿も愛おしいと思う自分がいた。
「ひぃく、……ッッ、王子に気持ちを伝えて、お姉様よりもいい女になって、私が彼を幸せにする。だからお姉様もちゃんと幸せになってね……。自分の心に向き合うのよ」
よくわからない言葉に首を傾げると、シンシアは手の甲で涙を拭いながら顔を上げた。
「……お姉様は気が付いていないだろうけれど、大事に想っている人がいるよね?」
「そうね……、シンディはもちろん、みんな大事よ?」
「違うわ、その中でも特別な人がちゃんといるでしょう。お姉様は自分の感情を見ようとしていないだけ。だから他人にも興味を持たないんだよ。ちゃんと考えてみて、お姉様の中に居るその人のことを」
他人に興味がない……言われてみればそうなのかもしれないわね。
深く関わることを避けていたのだから……。
「中に居る人……、それってどういう意味かしら?」
「ふふっ、お姉様らしい」
シンシアは小さく笑うと、もう瞳に涙はない。
彼女のこんな笑みを見たのはいつぶりだろう。
懐かしい気持ちと温かい気持ちが流れ込むと、私もつられて笑みを浮かべていた。
するとシンシアは目を大きく輝かせ、嬉しそうに笑って見せる。
「初めて私に見せてくれたね、その笑顔。その笑顔をずっと見たかったんだぁ。私はねぇ、じつはシスコンなの。知らなかったでしょ?お姉様の好きな物も嫌いな物も何でも知っている。だからだ~い好きなお姉様の自然な表情を見たかった。だけどその方法を間違えて、見られないばかりか、お姉様との溝が広がって修復で出来なくなって……。だけど唯一その仮面の笑みを崩した人がいるよね。ずっと見てたからわかるの。お姉様は彼だけに心を許している、だから私はあいつのことが嫌いなんだよね~」
自然な表情……嫌い?一体誰の事……?
シンシアの言葉に考え込んでいると、楽しそうな笑い声が耳にとどく。
「ははっ、まだわからないの?よく考えてみて~、いっつも傍に居た人が一人だけいるでしょう?納得できないけど……彼の気持ちは間違いなく本物だわ。お姉様を捕られてしまうのは悔しいけど……」
ずっと傍に居た人……もしかして……ッッ。
ハッと顔を上げると、シンシアは何かを察した様子でニコッと笑って見せた。
「今思い浮かんだ人で正解じゃないかな。でもどうして思い浮かんだのか、それは自分で考えないとね~。だからお姉様、ちゃんと向き合って。自分の気持ちに蓋をし続けると幸せになれない。だけどもし、どうしても答えが出ないのなら、本人に聞いてみるといいわ。そうそうもう一つ、キャサリン様と彼は只の友達らしいから安心するといいよ」
そう私の脳裏に浮かんでいたのはケルヴィンの姿。
ケイトお姉様とケルは恋人ではない、その事実に胸につっかえていたトゲがスッと抜け落ちていく。
嬉しいとそう素直に感じる自分に驚く。
どうしてそう思うのか、ケイトお姉様もケルもどちらも大切な存在。
だけど何かしらこの気持ちは……。
考え込んでいると、ふと窓から光が差し込み始め、あれほど降っていた雨がやみ、空に薄日が輝いていた。
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