クレアの独白

群青

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迅速果断

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    目を開けて飛び込んできたのは、見覚えのない白い天井でした。
 あぁ、前にも同じこと思ったことがあるような?
 どうやら、私は死ぬことが出来なかったみたいです。


 当然といえば当然ですが。


 ここは地球ではなくクリアランスなのですから。




    ◇    ◇    ◇

 約300年前、この世界では大きな戦争が起こりました。
 その名も


「第一次魔法大戦」


 この戦争は、今まで行われてきた戦争の歴史を変えた戦争でした。
 何故なら、この戦争から魔法兵器(魔法の効果を拡大する装置)が使われ、戦死者が大きく増大したからです。
 私達の国、聖クレリエント帝国も大きな被害をうけました。
 聖都は焼かれ、皇太子はお亡くなりになり、何と言っても人口の約三分の一、5000万人もの人が負傷、もしくは死亡しました。


 そんな戦争の末期、若い兵達は自分の人生に希望を見出せず、精神の病を患う者が増えてきました。
 しかし、戦時中だった我が国にはその様な人達を保護する制度などあるわけもなく、その人達は日に日に増大、また衰弱していきました。


 そんな人達が生きる為にすがりついた者、それは宗教でした。


 その中でも最も人気だったのは、クレアも信仰している「ミケラン教」です。
 この宗教は、魂の輪廻転生を説いていたため、絶大な人気を博していました。
 神様がきっと私達を戦争のない世界へ転生してくださる、と思ったからでしょう。


 ミケラン教を信仰していた若い兵達は、一刻も早く転生をしたかったのでしょう。


 次々と彼らは自分達の宿舎から「身投げ」をしていきました。


 その数は、なんと150万人にものぼったと言われています。
 大事な戦力が減ることを恐れた王様は、聖クレリエント帝国の全ての建物に身投げ防止の魔法陣をつけることを強制しました。

    ◇    ◇    ◇




 まぁ、つまり何が言いたいかというと、この国では「身投げ」をすることが出来ないということです。
 私は無駄なことをしたということです。
 さて、皆はこんな私のことをどう思うのでしょう?


 失望、心配、諦め………?


 死ぬ勇気なんて、もう尽きました。
 なら、いっそ私は皆と関わらず生きていきましょう。
 そうして、私はもう一回眠りにつきました。




 私は、ガタガタと医務室の扉を開ける音で目を覚ましました。
 どうやら、誰かが来たようです。
 そして、その誰かは私に近づくと言いました。


「クレア、いいえ久美!!
 貴女の事情は、全てリールから聞いたわ。
 あんな酷いこと言って、本当にごめん!!
 私、貴女ともう一回関係を作り直したい!!
 もう一回、友達になりたいの!!」


 私はとても嬉しかったのです。
 こんな私とまだ友達になりたいと言ってくれるスフィアに。
 でも、私はそれを了承するわけにはいきません。
 もう、決めたから


「ごめんなさい、スフィアさん。
 私、これから一人で生きていくってもう決めてしまったの。
 貴女の期待にはお答え出来ないわ。」


 私はなるべく平生を装って言ったつもりです。
 私の言葉を聞いたスフィアは、泣きながら医務室を立ち去りました。
 いつの間にかいたクリスは


「僕もスフィアと同じ気持ちだから」


 と言い残すとスフィアを追って医務室を立ち去りました。


 入れ違いに今度は、リチャード皇子とリールが医務室に入ってきました。
 リールは私と目を合わせた途端、土下座をして


「クレア、ごめん!!
 俺、全然クレアの気持ちも久美の気持ちも考えてなかった!!
 俺があんなことしなければ!!」


 と私に謝ってきました。
 多分、例の公開告白の件でしょう。
 そんなリールに私は淡々と告げました。


「私は、貴方様を責めるつもりはございません。
 ただ、これからは距離をおきましょう。
 私は一人で生きていくと決めました。
 それでよろしいですか?」


 リールは何かをグッと堪えると


「ごめん」


 と言って医務室を立ち去りました。




 それまで、黙っていたリチャード皇子は私に一言、言いました。


「クレアがどんな決断をしようと勝手だけど、その前にどれだけの人がクレアを思っているかもっと自覚した方がいいよ。」


 その言葉を聞いた瞬間、涙が次から次へと出てきて止まってくれませんでした。
 私には、その理由がわかりませんでした。

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