10月の向日葵

新任教師

4

その夜、帰宅し風呂や食事を済ませて一息つくと、伶は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、そっと口を付けた。
今日１日のことを自然と思い返す。
伶のなかで決めていることがあった。
毎日、帰宅後には、自分のなかでの反省会を行う。
とはいえ、特に今日は、目立った反省点はなかったように思える。
我ながらよく頑張ったと思うと、唇の端が自然に綻んだ。

受け持ちの児童たちの自己紹介を思い出す。
あえて意識的に、一人一人。
なかでも印象に残った児童が複数人いた。

高杉アリス。
名前の通りの、派手で気の強いイメージの女の子だった。
家庭が裕福なのか、持ち物も心なしか良い物が目立つし、有名ブランドのワンピースを着こなしていた。
「高杉アリスで～す。宜しくお願いします」
少し鼻にかかったようなソプラノの声を思い出し、少し苦笑いする。
彼女は少し似ているのだ。
かつて伶を苛めた同級生と。

黒田貴史。
少し太った、お調子者なイメージの男の子。
自己紹介で早速冗談を飛ばし、皆を笑わせていた。
順調にムードメーカーになってくれれば良いと思う。

有馬凜々花。
眼鏡をかけた真面目かつ積極的な女の子だ。
1年生では揺るぎない学年トップの成績だったときく。
アリスと仲が良いらしく、係決めなども主に２人で仕切っていた。

「…ここまでが、苛める側候補」
唇を動かさずに呟く。
目の色が妖しくなっていることに、伶自身気付いていなかった。