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第1章
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しおりを挟む私の屋敷は裏門からでるとすぐ森に入ることができる。
そして、この森を抜けた先には自殺の名所として有名な崖がある。
そこから靴を揃えて飛び降りれば、もし私が失踪したことで捜索活動が行われてもすぐに状況を把握できるだろう。
他人に無駄な労力はかけさせたくないから。
舗装されてない道を歩くのはなかなか骨の折れるもので、ましてや普段運動などほとんどしていない私はすぐに息が上がってしまう。
こんなんで、たどり着けるのかな……
焦ってもしかたがないので少し休憩することにした。
手頃な切株に腰掛ける。
さぁぁ……
森に風が吹き、木々が揺れる。
上を見上げると木漏れ日によってなんとも幻想的な雰囲気を醸し出していた。
「……きれい」
思わず、そんな言葉がこぼれてしまった。
森などに入ったのは初めてで、今まで下ばかり見て歩いていたので気づかなかった。
最期にこんな風景があることが知れたので、死に場所をここにして良かったのかもしれない。
そろそろ行こうかな。
そう思って、立ち上がると背後になにかの気配を感じた。
殺気、と本能が告げているような感覚がし、ゆっくりと振り返ってみるとやはりそこには牙を剥き出しにした魔獣がいた。
森は魔獣や魔物の住処だということは知っていた。
なんの対策もせず森に入ったら襲われる可能性が高いことも分かっていた。
それなのに軽装で森に入ったのは、どうせ死にに行くのだから途中で魔獣に殺されても同じことと考えていたから。
もう死ぬ覚悟はできている。
私は、どうぞ襲ってくださいとばかりにじっとその場に立ち尽くして目をつむった。
魔獣の息づかい、足音を視覚を失ったことで研ぎ澄まされた聴覚が拾う。
目を開けている時よりもはっきりとその存在が感じられてしまう。
「……はぁっ」
私は恐怖で襲い来る魔獣を直前で避けてしまった。
首を噛もうと飛びついてきた魔獣は狙いが外れ、左腕に噛み付いた。
「あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁぁ!!」
痛い痛い痛い!!熱い熱い熱い!!
噛み付かれた左腕が焼けるように熱い。
私は遭難した時の自決用にと屋敷から持ち出していた短刀を取り出し魔獣に思い切り突き刺した。
「ギァインッ!!」
短刀は運良く魔獣の目に刺さり、魔獣は私から離れて一定の距離を保った。
腕を見ると痛みで熱いと感じていたわけではなく、本当に燃えていた。
ファイヤーウルフ。
炎属性の魔獣で噛み付いた相手を火だるまにして殺す。
本で読んだ情報が頭の中に浮かんできた。
火はドレスをだんだんと侵食していく。
私は無我夢中でドレスを脱ぎ捨てた。
いつも後ろで三つ編み1本に結んでいる髪にも燃え移ってしまっていたので根元から切り落とす。
そして、その場から逃げようと走り出した。
自分でもなんと言っているかわからない言葉を叫びながら走る。
痛い、熱い、怖い。
そんな言葉に加えて“助けて”とも叫んでしまったのかもしれない。
自分から死を選び、覚悟はできたと思い込んでいただけの直前で逃げ出すようなどうしようもない人間に助ける価値なんてないのに。
助けてくれる人なんていないのに。
どれだけ走ったか分からない。
時間にしてみればほんの数分にもならない時間だったのかもしれないが、私の執行猶予の期間も終わりを告げる。
木々を抜けた先、そこは行き止まりだった。
正面には絶壁の崖。
ここは、私が目指していた崖の下のようだ。
飛び降りることはできなかったが、結局のところ死ぬ場所は当初の予定通りになるなんて皮肉なことだ。
あの魔獣は、弱小だと思っていた私に反撃されたことに怒り、さらに気性を荒くしている。
安心して。
今度こそ、殺させてあげるから。
私は目だけでなく、耳も塞ぎ、じっとその時を待った。
……しかし、いくら待っても魔獣は襲って来ない。
警戒しているにしても、遅すぎるのではないか。
私は恐る恐る目を開けてみた。
すると、そこには頭と胴体が離れた魔獣が転がっており、その前には剣を持った男性が立っていた。
「ぼうず、怖かっただろう。もう大丈夫だ。」
その人は私にそう言って笑顔を向けた。
私は疲労のせいか、安堵したからか、自決の失敗に落胆したからなのか分からないが、そのまま意識を失った。
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