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第1章
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しおりを挟む「はい、どうぞ!お薬です。お大事にね」
エルザがお金を受け取り薬草を渡す。
治療も効いているようで先ほどよりも大分顔色が良くなった患者が笑顔でお礼を言う。
「ありがとうございました。噂は聞いていましたが、やっぱりリュカ様に診てもらって正解でした」
『いえ、まだまだです。お役に立てて良かったです。元気になさってくださいね。あと、ご一緒にこちらの人形もいかがですか?…いえ、なんでもないです。お大事に』
患者はもう一度深く礼をして帰っていった。
立て続けに来ていた客もいったん途切れたようだ。
「わー、すごいね。リュカってもう噂になってるんだ。でも、そうだよね。リュカの治療って他の人と比べものにならないレベルだし」
リュカ。
それが今の私の名前。
口のきけない私にあの親子がつけてくれた名前だ。
森で初めて会った時からもう10年になる。
私は17歳になった。
今、私は薬売りとしてこの親子とともに旅をしている。
婚約者候補時代に、王宮の図書館で読み漁っていた薬草の知識がこんなところで役に立つとは思わなかった。
婚約者候補は自由に王宮の施設を使うことが出来た。
王宮に集められる資料はなかなか世の中に出回っていないような貴重なものであったらしく、私の作る薬はほかのものよりも効果が良いらしい。
そんなことよりも、と私はエルザをジト目で見る。
その視線に彼女は気付いて、頬を膨らませる。
「えー、いいじゃない。ちょっとぐらい宣伝したって。だって、こんなに可愛い人形なのに全然売れないんだもの」
エルザは商品の人形を動かしながら訴える。
その人形は、なんとエルザの自作だ。
手先の器用な彼女は空いた時間に裁縫してよく人形を作っている。
見た目は一般的な人形と変わらないのだが、なぜか異様な雰囲気がある。
寝る時に横に置いておきたくないようなそんな雰囲気が。
買った人の安眠を妨げるようになりそうなので、そんなものを私の口からは売りたくない。
私の口。
10年前のあの日から、私はずっと声が出なくなってしまっている。
薬を売る際に口がきけないと知られると、嫌な思いをすることが多かった。
自分自身はそれほど気にしてなかったのだが、心配した彼女が腹話術で私が話しているようにしてくれるようになった。
私は口元をいつもマフラーで隠しているので気づかれることはほとんどない。
私の口となってくれることはとてもありがたいのだが。
“僕の口から言うのはやめてよ。自分で宣伝する分には止めないから”
私は筆談でそう伝える。
彼女はえー、けちーなどと不服そうな声を漏らしていたが、ふふっと急に楽しそうな表情になった。
“どうしたの?急に笑って”
「ふふっ。だって、あなたとこんな風に軽口が言えるようになったから。嬉しいなと思って」
私は2人と旅をして、いろいろなことを学んだ。
人とのつながりや信頼、その逆の復讐心や憎しみなど。
それは、王宮に行っていたあの頃には決して学べないようなことだ。
そのおかげで、人と関わることに関しても分かってきた。
“そうだね。自分でも明るくなったと思うよ。エルザとガブリエルのおかげだね”
「もう。さらっとそんなこと言って、照れるじゃないの」
エルザはそう言いながらも嬉しそうだ。
照れ隠しか、急に話題を変える。
「あ!そういえば、今日もそろそろあいつが来そうじゃない?」
ああ、あの人のことか。
いつもこのくらいの時間に来る…
などと考えていると、ちょうど嵐のような男がやって来た。
その男は、私たちの前に仁王立ちしいつもと同じようにこう告げるのだった。
「エルザ!今日こそ俺と結婚しろ!そして、俺の国で一緒に暮らしてくれ!」
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