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第1章
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しおりを挟む「さて、どの人に頼もうかしら?」
ガブリエルが私達の元から去って3日。
私とエルザはギルドに来ていた。
ギルドでは魔物の討伐や旅の護衛などを冒険者に依頼する事ができる。
その他、毛皮や肉、薬草、宝石などの買取も行っている。
ガブリエルは依頼を受ける方をよく利用していたようだ。
私達も例に漏れず旅の護衛をしようとここに訪れた。
ガブリエルがいなくなったことで、山や森を越えるための戦力が足りなくなったからだ。
ガブリエルが去ったことに関してエルザは思っていたよりもあっさりとした反応だった。
「お父さんに先越されちゃったわね。私もそろそろ独り立ちしなきゃって思ってたから、お父さんがいなくならなかったら自分からいくつもりだったわ」
だそうだ。
私だけが何も考えていなかった。
現在のことに精一杯で、将来のことなんて考えられない。
いつか彼女とも別れることになるのだろうか。
でも、彼女の幸せとなるのなら喜んで去る。
私はそのために生きているんだから。
「あ、リュカ。この人なんていいんじゃない?」
そんなことを考えているとエルザはギルドに所属している護衛の依頼を受けるという人達のリストを見ていた。
そこには、名前、体格、特技など簡単な情報とDからSというアルファベットが書かれている。
そのアルファベットは冒険者達のランクを表しており、D、C、B、A、Sの順に高くなっていき、旅の護衛程度ならCかBのランクの冒険者に依頼するのが普通だ。
エルザが示した人を見てみると、Bランクの物理攻撃を得意とする剣士であった。
“うーん。その人もいいけど次の街まで行く道には魔獣が多いから、出来れば魔法攻撃が得意な魔術師がいいんじゃない?”
「そうね!それがいいわね。でもこのリストにあんまり魔術師が載ってないのよね。ちょっと受付に行って別のリストがないか聞いてくるわ」
そう言うや否や、エルザは受付に直行しその場を離れた。
こういう人が多いところで声が出せないことを隠している身としては一人になりたくないのだが、少しなら大丈夫か。
それにしても、多くの人がギルドに登録している。
リストもかなり厚くなっている。
登録に条件や身分証明などがほとんど必要なく登録料を払えば誰でも簡単にすることができるので、利用者が増えているという。
この中から条件の合いそうな人を探すのは骨が折れそうだ。
パラパラとめくっていると、Sランクと記載された人物に目が止まる。
ん?この人って……。
そこには、ガブリエルが載っていた。
強いと思ってはいたけど、Sランクだったとは……。
特技はまあ、剣術に違いないな。などと考えていると、聞き慣れた声が聞こえてきた。
「はーはっはっはー!ここであったが百年目。お前もギルドに登録に来たようだな。だが、遅かったな。俺はすでに登録済みだ。エルザの依頼はこの俺が引き受けるぞ!」
ウィルである。
決闘があった日後もウィルはエルザへの求婚を続け、そしてその情熱の矛先を私にまで向けてくるようになった。
事あるごとに私に勝負を挑んできたり、自慢してきたりする。
私なんかに牽制しなくても、構わなくてもいいのに。
………。
「ふん。何も言い返せないようだな。俺こそがエルザにふさわしいのだ!」
………。
「なんだ?何故、いつもみたいに言い返さない?俺を無視しているのか?」
………。
「おい…なあ…ちょ…ちょっと何か言ってくれよ…」
いつものように時の経過を見送っているとウィルは段々と自信なさげに、泣きそうな表情になってきた。
あ、そういえばいつもはエルザが私の代わりに腹話術でしゃべっているんだった。
いけない、これでは本当に無視しているように見えてしまう。
ウィルは私(エルザの腹話術)にどんなに辛口な事を言われても堪えていなかったのに、無反応という事には動揺している。
このまま放っておくのは可哀想だけど筆談するわけにはいかないし…
打開策が見えないまま私たちの間に沈黙が流れる。
その沈黙を破るように言葉を発する人物がいた。
「君、旅の護衛を探しているらしいね。じゃあ、俺なんてどうだい?」
声の主を振り返って見てみると全く知らない男だった。
室内だというのにコートを首元までぴっちりとしめ、顔の右半分を隠すような仮面をしていた。
見た目は私と同い年くらいの様にも見えるが醸し出す雰囲気からもっと上の様にも見える。
怪しい風貌に警戒するよりも先に、私がしたことはエルザに早く帰って来て欲しいと願うことだった。
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