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しおりを挟む「失礼いたします。お呼びでしょうか陛下」
「遅いぞ、ジルベール!妾を待たせるとはなんたることだ!」
ジルベールが王の執務室の扉を開けるとすぐさまそんな怒号が飛んできた。椅子にはふんぞり返って座りながら腕を組む女王陛下がいた。
しかし、ジルベールは少しも怯むことなくいつもの笑みを浮かべた。
「これはまた随分と懐かしい口調をしておられますね。お待たせして申し訳ございません、女王陛下」
「ふふ。たまには昔のことを思い出してみるのも良いものでしょう?ジルベール、あなたが来てからもう何年になったのかしら」
「宰相位につかせて頂いてから8年が経ちました。長いようであっという間の時でございました。その間にこの国も陛下ご自身も随分と成長いたしましたね」
次の瞬間にはジルベールの目の前には凜とした姿勢で執務室の椅子に腰掛ける美しい女性がいた。
そんな女性はまさに女王陛下に相応しく、その通り女王陛下であった。
あのわがまま放題の子供だった陛下はこの8年でジルベールのもと、大いに成長を遂げた。
ジルベールの助力はあったものの優秀な前国王の遺伝子を継いだのか元々素質のあった陛下は様々な事を学ぶたびにすぐさま吸収し、国の最高権力者として相応しい実力を身につけていた。
また、身体、容姿についても成長していた。健康な食事と生活のおかげですくすくと育った陛下は誰もが振り返るような美貌を手にしていた。
特に日々念入りに手入れをしていた髪は本来の輝きを取り戻し、その魅力をさらに増して金色に美しくきらめいている。
女王陛下は学習するごとに自分の考えを改めていき、自分が考えていた王としての威厳を示すための態度は決して良いものとはいえないことが分かった。
同時に貴族の女性としての振るまい方を本格的に学んだことで、王としての威厳を態度に表すだけでなく、女王としての優雅さを示そうと口調を変えた。
もう、本当にどこから見ても誰もが認めるような国に相応しい女王となっていたのだった。
「ところで、その机の上にある大量の肖像画は一体なんですか?隣国の第三王子にグレゴール商会のご子息、自警団の英雄まで。他にも共通性の無いような方達の肖像画がこんなにも」
女王の執務室に入室したジルベールは女王陛下の前の机に視線を落とし、そう尋ねた。
何の関係性もないような肖像画が10枚ほど机の上に並べられていたのだった。
「さすがはジルベールね。顔を見ただけで分かるなんて。ジルベールにも相談しようと思ってたところなのよ」
「何をでしょうか?」
「私の結婚相手よ。他国との関係性の強化を選ぶか、商会との結びつきを強めて資金の確保に努めるか、平民の憧れの象徴と一つになりさらなる支持を得るか。さて、どれがいいのかしら?」
女王陛下はまるで次のパーティーに着ていくドレスを選ぶような口ぶりでそう言った。
だが実際、女王陛下の伴侶選びはドレス選びと似たようなものとも言える。国の最高権力者である女王陛下の選択は良くも悪くも大いに影響を表す。
女王陛下が着たドレスは毎回大きく話題になる。
そのために、ドレスを選ぶときは自分の好みだけで決めることはない。
その時の流行に合わせるか自ら流行を作っていくかだけでなく、誰がデザインしたか、材料はどこから仕入れたものか、誰から購入したかなど今後の政略的関係や庶民への好感を鑑みた上で決める。
そう考えると、まさに多大なる影響を及ぼすと考えられる女王陛下の伴侶選びには私情など挟む事はできない。
「陛下はそれでよろしいのですか?」
「……ジルベール、あなたがそんなことを聞くなんて珍しいわね。政略結婚など当たり前のことでしょう?」
その言葉を聞き、陛下はわずかに表情を曇らせた。
ジルベールに向けていた視線をさっと逸らし胸を押さえたが、一拍後には視線を戻していつもの表情で向き直った。
ジルベールは宰相に着任したての頃は陛下が無知に間違った発言や行動をした際には言葉巧みに否定したり意見したりしていたが、陛下がその手腕を現し始めた頃からそういったことをしなくなっていた。
する必要が無いほどに陛下は優秀になっていたということだが。
しかし、今回も女王として最善とも言えるべき選択をしようとしているのに、その考えを確かめるようなことを聞かれて陛下は少なからず動揺していたのだった。
「……賢くなられましたね、女王陛下。そして、残念なほどに聞き分けも良くおなりになられた」
「残念?もしかして、私のことを心配してくれているの?あなたにも人の心があったのね。でも、その必要はないわ。私が想っている相手は絶対に私とは一緒にならないような人だもの。叶わない恋を望むより、私は国にとっての有益を望むわ。それに、わがままは子供の頃に言いきってしまったのよ」
何も知らない子供だったあの頃、女王という立場を使って自分のやりたいようにわがまま放題やってきていた。
だから、これからはその立場としての義務を、責任を果たさなければならない。
そこに、自分の個人的な望みは持たない。
陛下はそんなことを考えながらジルベールに言いきると今度はそのまま視線を外して戻さなかった。
そうしないと彼への想いが溢れてしまいそうだから。
そう、女王陛下が想う相手とはジルベールだった。
最初はちょっとした興味からだった。
自分に対して他の人とは違った反応をしてくる。
それもなかなか面白い反応だ。
そうやってかまっているうちに自分が彼に踊らされていたこと気がついた。
だが、それが分かったのも彼が自分に色々なことを学ばせてきたからだった。
そう思うと反発する気も起きなかった。
そのまま優秀な宰相に踊らされ続けいつの間にか自分も優秀な女王となっていた。
その日々の中で多くの時間を共有している彼に対する感情が恋であると気がつくことは不思議ではなかった。
思えば、最初から陛下は彼に恋をしていた。
「はー。本当に優秀になられましたね。最近のあなたの働きはとても素晴らしいものですが、こういう時に少し面倒なのは誤算でした。女王陛下、私は幼い頃から一度もわがままを言ったことがありません。長い生涯の中で一度くらいわがままを言っても許されるとは思いませんか?」
「は?」
普段はほとんど感情を表さないジルベールが少々苛立ちを含めながらそう言った。ため息までついている。
ジルベールの突然のそんな態度に陛下は訳が分からなかった。
ただ、わがままを言ったことがない子供なんていないだろうけど、このジルベールなら本当に一度も言っていなさそうだと場違いなことを考えていた。
ジルベールはそんな風に女王陛下が惚けている間に距離を縮めて目の前にかしづきあの魔法の前置きを繰り出した。
「恐れ多くも女王陛下、私はあなたを愛しております。必ずあなたを幸せにすると誓います。私と婚姻を結んで頂けないでしょうか?」
それを聞いた女王陛下は顔を真っ赤にさせた。
驚きや嬉しさなど色々な感情が自分の中を駆け巡る。
自分の気持ちだけを優先させてはいけないと考えていたけれど相手も同じ気持ちだったら?
でも、国のためにはならないことなんじゃない?そんなごちゃごちゃとした考えが頭の中でまとまらない。
目の前にいるジルベールをちらりと見る。するとジルベールがいつもの余裕ありげな表情ではなく、本心からの真剣な表情をしていることに気がついた。
だからその魔法の言葉の前に女王陛下は頷く事しかできなかったのであった。
幸せで一杯な気持ちとともに。
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宰相の言葉にうまくのせられながらも、自分を成長させていく、努力をしていく、女王陛下の姿に胸が熱くなりました。すごいなー、ほんとにすごい。
元々能力があっても、甘やかされてきた陛下が我が儘を抑えるのは大変なことだったのでは…と、すぐに甘えて易きに流れる自分としてはある意味尊敬の気持ちです。ものすごく、いい、成長譚を読ませていただいて、思わず感想を書き込んでしまいました。
こどもを育てる親として、宰相さんの賢さも見習いたい…言葉って大切だな、とあらためて思いました。ありがとうございます。
可愛い(((o(* ˙-˙ *)o)))