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猫地蔵編
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あっという間に散歩を終えた私は、どうにも散歩に物足りなさを感じていた。
そんな時、私はふと、さっき通った何が祀られているかわからない神社に引き寄せられるように足を踏み入れたくなった。すると、そこでは何やら猫の集団が一箇所に集まっていた。
これが、噂に聞く猫の集会というやつなのかもしれない。
まるで、マリアの悪い影響を受けたかのように好奇心に負けて猫の集団に近づいてみると、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「何するんやお前ら、うちは自分らの餌とちゃうで、ちれっ、ちれっ」
関西弁、そして人の声が聴こえるはずなのに辺りには誰も居ない。そんな状況確認をした上で考えられることは一つ・・・・・・そう、私の守護霊と自称するユダだ。
おそらく、鞄の中に入れっぱなしだったから辛抱できなくなったんだろう。
そして、そんなユダの声に惹かれて猫の集団に近寄ると、猫は一斉に私に視線を合わせた後、一目散に逃げていった。そして、そんな中一匹のヘビが姿を現した。
「ユダちゃん、どうして勝手に出てきてるの?」
「おぉ零か、うち暇なんやどっか連れてってくれー」
堂々と真っ直ぐな瞳で言うユダに、私はこんなヘビを堂々と連れ歩くことが出来ないのと、よけいなものを見たくない一心でその場から立ち去ろうとするとユダが足に絡みついてきた。
「うわっちょっと、ユダちゃん邪魔だって、それにこんな所見られたら変な子みたいに思われるから」
「ええやんか、うちも散歩したいんやー」
「散歩って、犬じゃあるまいし」
「ええやろ、ばれへんようにするから、後生や」
「わかったわかった、でも、前みたいに人の注目をあびるようなのは嫌だから隠れててよ」
「大丈夫や、今日はなんかええ格好やし」
そう言って首に巻きついてきた。
確かに今日はパーカーだから上手く隠せているけど、いつもこれっていうわけにはいかない。
「大体、零は何で髪を結んでんのや?」
「髪の毛は結ぶものです」
「でもおろしてくれた方が隠れやすいんやけど」
「・・・・・・はいはい、おろすおろす」
こうなりゃ人に変な目で見られるよりかはまし、と思い私は直ぐに髪をおろして首元がより隠れるようにした。
「なぁ零、近くに温泉街がある言うてたでいかへんか?」
「私も行こうと思ってたからちょっと黙ってて」
「ほんまか、ほな温泉まんじゅうとかいうのを食べにいこか」
「はいはい」
守護霊のくせに食べ物ばかり要求して、まぁ、それになんだかんだ付き合う私もどうかと思うけどさ。
まぁ、何はともあれ、高台に立つ旅館から離れ、私は近くにある温泉街へと足をのばした。温泉街はたくさんの人で賑わっていて、それはもう招喜旅館とは比べ物にならないくらいの活気だった。
そんな人の多さに私の気分は少しだけ沈んだ。
ただ、街並みは非常に赴きがあり、あらゆる場所から湯気が立ち上がっている。その湯気は温泉によるものだけではなく、立ち並ぶ露店から良い匂いのする湯気であり、その匂いが私の鼻孔をくすぐってきた。
私と同様にユダもその香りに気づいたのか、首元のユダはいきいきとしており、幾度と無く私の髪の隙間から顔をのぞかせていた。
まるで、ヘビに髪の毛が生えたような姿に少しだけ微笑んでいると、一際人が群がっている場所を見つけた。
「零、あそこや、絶対あそこに温泉まんじゅうがあるで」
ヒソヒソ声で温泉まんじゅうのことで頭のなかがいっぱいなユダに呆れながらも、私はその人だかりに近づいてみることにした。
すると、どうやら人混みの中から大きな声で何かをリポートしている様子が聞こえてきた私は、なんだか嫌な予感がしてきた。
しかし、確認するまではその嫌な予感というものが当たるわけじゃないので、とりあえず人混みの隙間から少し顔をのぞかせると、そこでは男前の男性と、小さな女の子がおまんじゅうを食べながらニコニコとカメラに向かって話していた。
「いやー、この温泉饅頭美味しいですねご主人」
「いやー、ご主人、温泉饅頭ですねぇ」
「確かに、ご主人は色黒やから温泉まんじゅうみたいやけど、って、何いわせんねんっ」
「あははは、おもしろーい」
なんとも奇抜な二人組と奇妙な掛け合い、私が一番かかわりあいたくないタイプのやかましい人種がそこにいた。しかもそこらじゅうの一般客に声を掛け、気さくに話しかけている。
もしもあれが私のもとに飛んで来たらと思うと・・・・・・
寒気がした私は、すぐさま饅頭屋を素通りし、この場を立ち去ることに決めた。もちろん、首元ではユダがうるさく饅頭、饅頭とわめいていた。
そんな中、温泉街からすっかりは離れた場所まできた私は少し近くにあったベンチに腰を降ろしひとまず休憩した。
「零、せっかくうまそうな温泉饅頭、売っとったのに、なんでこんな所まで来たんや」
ベンチで落ち着こうと思えば直ぐこの始末、全く、守護霊っていうのはこんなにも文句ばかり言うものなのだろうか?
「ちょっと、嫌な予感がしてさ」
「なんや、嫌な予感て?」
「とにかく、温泉まんじゅうなら他にも良いところがあるからそこで買おう」
「あそこが一番おいしそうやったのになぁ」
そして ユダは何度も「温泉饅頭を食べたいんや」と連呼していると、突然誰かから声を掛けられ、私は直ぐに顔を上げた。
「ねぇ、あなた温泉饅頭が食べたいの?」
私の目の前にはいつの間にか人が立っており、私はユダの声を聞かれたんじゃないかと思い直ぐに首元に手を当てた。
「ねぇ、聞いてる?」
もう一度そう言った目の前の女性は、まるで、女優の様な綺麗な顔立ちと、ナイスバディの持ち主であり、かがむ彼女の胸元にはみっちりと詰まった女性の象徴ともいえる谷の間が存在していた。
あまりに深いその谷に、思わず見とれていた。だが、話しかけられていたことに気付いた私は、平静を取り戻してベンチから立ち上がった。
「は、はいそうなんです、この辺りに温泉饅頭のお店とかありますか?」
私がそう言うと目の前の女性は不思議そうに唇に人指を当てて私を凝視してきた。
「な、何ですか?」
「いえ、あなたさっき関西弁みたいなの喋ってた気がしたんだけど」
「・・・・・・」
「喋ってなかった?それも子どもみたいにお饅頭お饅頭って」
「ど、どうですかねぇ」
おそらくユダの声を聞いたのことだと思うけど、やっぱりユダなんか連れて歩くのは百害あって一利なし、これからは絶対に人前では喋らないようにしないと。
「ふーん、まぁいいや、私これから温泉饅頭食べに行くんだけど、あなたも来る?」
「え、いいんですか?」
「うん、饅頭が好きな人に悪い人はいないってね」
そう言って谷間のお姉さんはウインクをした。ウインクして様になるのは恭子先生かこの人くらいだろう、そう思いながら私は彼女についていく事にした。
しばらく歩くと、「たつや」と書かれた看板が目に入り、そして店構えはとても古風な歴史あるお店のように感 じた。
谷間のお姉さんは笑顔でたつやの看板を指をさした後、店の中に入っていった。私も直ぐ後をついて中に入ると、ほのかに香る甘い匂いが鼻を通り頭の中が饅頭で満たされた気分になった。
店頭には、和菓子はガラスケースに並べられていて、私を視覚でも魅了してきた。そんな店に入るなり、ガラスケースに夢中になる私に、谷間のお姉さんはこの店の説明をしてくれた。
どうやら、この辺りではもう一番古いお店となってしまった「たつや」は、この温泉街が出来た時から開業しており、当時からその綺麗な和菓子と、味に定評があり、すごく人気があったらしい。
しかし、近年は和菓子より洋菓子のほうが人気が高くなり、更に「たつや」以外の店が多く立ち並ぶようになったため、温泉街から離れた場所にある「たつや」には中々人が入ってこなくなった様だ。
ただ、地元の人は和菓子なら必ずここを訪れ、更には著名な人もよく訪れるという話もあるため、今現在まで生き残っているという、なんとも人情深い話を聞くことができた。
言う慣れば、知る人ぞ知る穴場というところらしいが、この谷間の女性はどうしてそんな詳しいことまで知っているのだろうか?
そんな事を思いながら、お花畑と錯覚するほど綺麗に仕上げられた和菓子を眺めていると、のれんの奥から割烹着姿のおばあちゃんが出てきた。
その表情は実に険しく、なんだかとっつきにくそうな雰囲気を醸し出していた。
しかし、そんな怖そうなおばあちゃんにも一つだけ可愛らしい場所があった。それは、まるで猫の鼻をあしらった様な刺青かペイントらしきものが手の甲に施されていることだった。
そんな、割烹着姿のおばあちゃんに谷間のお姉さんは軽く挨拶すると、和服姿のおばあちゃんは深々と頭を下げた。この態度、もしかするとこの谷間のお姉さんは有名人だったりするのかもしれない。
「いらっしゃい」
そう言って和服のおばあちゃんは今度は私に深く頭を下げてきた。
「女将さん、この子温泉まんじゅうが食べたいんだって、だからさ、あれ出してあげてよ、ちょうど出来上がる頃でしょ?」
「あぁ、あれね、ちょっとまってな」
まるで家族のように親しげに話す二人に驚き、ただ突っ立ていることしか出来ずにいると、谷間のお姉さんが店内の座敷で休憩する事を提案してきた。
私は席につき、そして谷間のお姉さんは私の正面に座った。
「ねぇ、ネコの鼻が気になったんでしょ」
どうやら、この人は私の心を完全に読み取っているらしい。
「え、えぇ、まぁ」
「ふふふ、かわいいよね、あれ」
「あれは、一体なんなんですか?ほくろ?」
「ううん、あれはさ、ここの地域に住むネコ神様の御加護を受けるためにやってんだってさ」
「猫神様?」
「そうそう、ここらへん猫が多いから猫神がいるって言われてるの、それである人が猫の鼻のしるしを身体のどこかにつければ良いことが起きるって言いふらしたら、今日まで続いているって話よ」
「へぇー、それは何処にやっても良いんですか?」
「そうね、でもやるならあんまり見えないところにしたほうが無難だよねぇ」
奇妙な猫の鼻の話を聞いていると、谷間のお姉さんは身を乗り出し、私に顔を寄せてきた。
「ねぇねぇそれよりあなた、今日は女一人旅?」
「え、あの、友達に誘われて二人で来てます」
「そうなんだ、何処に泊まってるの?」
「招喜旅館です」
私が招喜旅館と言うと谷間のお姉さんは驚いた顔をして私に顔を寄せてきた。
「えっ、あそこなのっ?」
「はい」
「そっかぁ・・・・・・あそこさぁ、人はいないけど、その代わりに猫は一杯いるんだよねぇ」
「そ、そうですね」
やっぱり招喜旅館って客があんまり入らないので有名なんだろうか?
「早くなんとかしてあげないとだめだよね、あれは」
「なんとかする?」
「あ、いやいや・・・・・・あ、そうだ、私ってまだ自己紹介してなかったね」
「は、はぁ」
「私、藤堂《とうどう》アミっていうの、アミって気軽に呼んでくれて構わないからね」
そう言って綺麗な白い歯を見せて笑う藤堂さん、しかし、明らかに年上のような感じがする彼女に私はアミと馴れ馴れしく呼んでも良いのだろうか?
それにどうにもこの辺りの人はどうも自分の名前を他人に強要する節がある、さっきの八さんもそうだったし。いや、まだこの人がこの辺りの人とは決まったわけじゃないから、なんとも言えないけど
「私は友沢零って言います、なんだか良いお店紹介してもらってありがとうございます、アミさん」
私は言われたとおり思い切って名前で呼ぶと、彼女はびくんと身体を震わせ、机の上に身を乗り出し、真剣な表情で私の顔を見てきた。
「ど、どうかしましたか?」
「零ちゃんっ」
「は、はい?」
「いいねぇ」
そう言ってアミさんは笑っていた。
「そうやって私の事、アミって言ってくれる人、あなたが初めてよ」
「そうなんですか?」
予想外に気に入ってくれたようで私は一安心した、でも、私が初めてなんて、そりゃそうかも知れない、こんなに美人な人が、突然気軽に名前で読んでなんて言われても言えたもんじゃない。大体さっき知り合ったばかりだし。
「そうよ、みんな私の事堅苦しく藤堂さんとか言うけど、私はアミって呼んでくれる方がいいんだよねぇ」
頬に手を当てながらうっとりといた様子のアミさんに少しだけ恭子先生の面影を見た私は、印象は違うものの、恭子先生とアミさんに共通する何かを感じた。
「いいわ、私、あなたの事好きよ」
「あ、ありがとうございます」
なんだか、このド直球な感情表現そこかで感じたことがあるようなない様な・・・・・・
しかし、もうこれ以外に返答する言葉が見当たらない私は、話をつなげること無く押し黙ると、ちょうどその空気を読んだかのように、先ほどの割烹着を着たおばあちゃんがお盆を持って座敷に入ってきた。
「おまたせ」
「おぉ、待ったよー、おばあちゃん」
おばあちゃんは慣れた手つきでお茶と饅頭を机の上に置き、「ごゆっくり」言葉と深い礼をしたあと、直ぐにその場から去って行ってしまった。
「ささ、食べよ」
アミさんにそう言われ私は一口お茶を飲んだ後、出来たてであろう温泉まんじゅうに手を伸ばした。
そんな時、私はふと、さっき通った何が祀られているかわからない神社に引き寄せられるように足を踏み入れたくなった。すると、そこでは何やら猫の集団が一箇所に集まっていた。
これが、噂に聞く猫の集会というやつなのかもしれない。
まるで、マリアの悪い影響を受けたかのように好奇心に負けて猫の集団に近づいてみると、何やら聞き覚えのある声が聞こえてきた。
「何するんやお前ら、うちは自分らの餌とちゃうで、ちれっ、ちれっ」
関西弁、そして人の声が聴こえるはずなのに辺りには誰も居ない。そんな状況確認をした上で考えられることは一つ・・・・・・そう、私の守護霊と自称するユダだ。
おそらく、鞄の中に入れっぱなしだったから辛抱できなくなったんだろう。
そして、そんなユダの声に惹かれて猫の集団に近寄ると、猫は一斉に私に視線を合わせた後、一目散に逃げていった。そして、そんな中一匹のヘビが姿を現した。
「ユダちゃん、どうして勝手に出てきてるの?」
「おぉ零か、うち暇なんやどっか連れてってくれー」
堂々と真っ直ぐな瞳で言うユダに、私はこんなヘビを堂々と連れ歩くことが出来ないのと、よけいなものを見たくない一心でその場から立ち去ろうとするとユダが足に絡みついてきた。
「うわっちょっと、ユダちゃん邪魔だって、それにこんな所見られたら変な子みたいに思われるから」
「ええやんか、うちも散歩したいんやー」
「散歩って、犬じゃあるまいし」
「ええやろ、ばれへんようにするから、後生や」
「わかったわかった、でも、前みたいに人の注目をあびるようなのは嫌だから隠れててよ」
「大丈夫や、今日はなんかええ格好やし」
そう言って首に巻きついてきた。
確かに今日はパーカーだから上手く隠せているけど、いつもこれっていうわけにはいかない。
「大体、零は何で髪を結んでんのや?」
「髪の毛は結ぶものです」
「でもおろしてくれた方が隠れやすいんやけど」
「・・・・・・はいはい、おろすおろす」
こうなりゃ人に変な目で見られるよりかはまし、と思い私は直ぐに髪をおろして首元がより隠れるようにした。
「なぁ零、近くに温泉街がある言うてたでいかへんか?」
「私も行こうと思ってたからちょっと黙ってて」
「ほんまか、ほな温泉まんじゅうとかいうのを食べにいこか」
「はいはい」
守護霊のくせに食べ物ばかり要求して、まぁ、それになんだかんだ付き合う私もどうかと思うけどさ。
まぁ、何はともあれ、高台に立つ旅館から離れ、私は近くにある温泉街へと足をのばした。温泉街はたくさんの人で賑わっていて、それはもう招喜旅館とは比べ物にならないくらいの活気だった。
そんな人の多さに私の気分は少しだけ沈んだ。
ただ、街並みは非常に赴きがあり、あらゆる場所から湯気が立ち上がっている。その湯気は温泉によるものだけではなく、立ち並ぶ露店から良い匂いのする湯気であり、その匂いが私の鼻孔をくすぐってきた。
私と同様にユダもその香りに気づいたのか、首元のユダはいきいきとしており、幾度と無く私の髪の隙間から顔をのぞかせていた。
まるで、ヘビに髪の毛が生えたような姿に少しだけ微笑んでいると、一際人が群がっている場所を見つけた。
「零、あそこや、絶対あそこに温泉まんじゅうがあるで」
ヒソヒソ声で温泉まんじゅうのことで頭のなかがいっぱいなユダに呆れながらも、私はその人だかりに近づいてみることにした。
すると、どうやら人混みの中から大きな声で何かをリポートしている様子が聞こえてきた私は、なんだか嫌な予感がしてきた。
しかし、確認するまではその嫌な予感というものが当たるわけじゃないので、とりあえず人混みの隙間から少し顔をのぞかせると、そこでは男前の男性と、小さな女の子がおまんじゅうを食べながらニコニコとカメラに向かって話していた。
「いやー、この温泉饅頭美味しいですねご主人」
「いやー、ご主人、温泉饅頭ですねぇ」
「確かに、ご主人は色黒やから温泉まんじゅうみたいやけど、って、何いわせんねんっ」
「あははは、おもしろーい」
なんとも奇抜な二人組と奇妙な掛け合い、私が一番かかわりあいたくないタイプのやかましい人種がそこにいた。しかもそこらじゅうの一般客に声を掛け、気さくに話しかけている。
もしもあれが私のもとに飛んで来たらと思うと・・・・・・
寒気がした私は、すぐさま饅頭屋を素通りし、この場を立ち去ることに決めた。もちろん、首元ではユダがうるさく饅頭、饅頭とわめいていた。
そんな中、温泉街からすっかりは離れた場所まできた私は少し近くにあったベンチに腰を降ろしひとまず休憩した。
「零、せっかくうまそうな温泉饅頭、売っとったのに、なんでこんな所まで来たんや」
ベンチで落ち着こうと思えば直ぐこの始末、全く、守護霊っていうのはこんなにも文句ばかり言うものなのだろうか?
「ちょっと、嫌な予感がしてさ」
「なんや、嫌な予感て?」
「とにかく、温泉まんじゅうなら他にも良いところがあるからそこで買おう」
「あそこが一番おいしそうやったのになぁ」
そして ユダは何度も「温泉饅頭を食べたいんや」と連呼していると、突然誰かから声を掛けられ、私は直ぐに顔を上げた。
「ねぇ、あなた温泉饅頭が食べたいの?」
私の目の前にはいつの間にか人が立っており、私はユダの声を聞かれたんじゃないかと思い直ぐに首元に手を当てた。
「ねぇ、聞いてる?」
もう一度そう言った目の前の女性は、まるで、女優の様な綺麗な顔立ちと、ナイスバディの持ち主であり、かがむ彼女の胸元にはみっちりと詰まった女性の象徴ともいえる谷の間が存在していた。
あまりに深いその谷に、思わず見とれていた。だが、話しかけられていたことに気付いた私は、平静を取り戻してベンチから立ち上がった。
「は、はいそうなんです、この辺りに温泉饅頭のお店とかありますか?」
私がそう言うと目の前の女性は不思議そうに唇に人指を当てて私を凝視してきた。
「な、何ですか?」
「いえ、あなたさっき関西弁みたいなの喋ってた気がしたんだけど」
「・・・・・・」
「喋ってなかった?それも子どもみたいにお饅頭お饅頭って」
「ど、どうですかねぇ」
おそらくユダの声を聞いたのことだと思うけど、やっぱりユダなんか連れて歩くのは百害あって一利なし、これからは絶対に人前では喋らないようにしないと。
「ふーん、まぁいいや、私これから温泉饅頭食べに行くんだけど、あなたも来る?」
「え、いいんですか?」
「うん、饅頭が好きな人に悪い人はいないってね」
そう言って谷間のお姉さんはウインクをした。ウインクして様になるのは恭子先生かこの人くらいだろう、そう思いながら私は彼女についていく事にした。
しばらく歩くと、「たつや」と書かれた看板が目に入り、そして店構えはとても古風な歴史あるお店のように感 じた。
谷間のお姉さんは笑顔でたつやの看板を指をさした後、店の中に入っていった。私も直ぐ後をついて中に入ると、ほのかに香る甘い匂いが鼻を通り頭の中が饅頭で満たされた気分になった。
店頭には、和菓子はガラスケースに並べられていて、私を視覚でも魅了してきた。そんな店に入るなり、ガラスケースに夢中になる私に、谷間のお姉さんはこの店の説明をしてくれた。
どうやら、この辺りではもう一番古いお店となってしまった「たつや」は、この温泉街が出来た時から開業しており、当時からその綺麗な和菓子と、味に定評があり、すごく人気があったらしい。
しかし、近年は和菓子より洋菓子のほうが人気が高くなり、更に「たつや」以外の店が多く立ち並ぶようになったため、温泉街から離れた場所にある「たつや」には中々人が入ってこなくなった様だ。
ただ、地元の人は和菓子なら必ずここを訪れ、更には著名な人もよく訪れるという話もあるため、今現在まで生き残っているという、なんとも人情深い話を聞くことができた。
言う慣れば、知る人ぞ知る穴場というところらしいが、この谷間の女性はどうしてそんな詳しいことまで知っているのだろうか?
そんな事を思いながら、お花畑と錯覚するほど綺麗に仕上げられた和菓子を眺めていると、のれんの奥から割烹着姿のおばあちゃんが出てきた。
その表情は実に険しく、なんだかとっつきにくそうな雰囲気を醸し出していた。
しかし、そんな怖そうなおばあちゃんにも一つだけ可愛らしい場所があった。それは、まるで猫の鼻をあしらった様な刺青かペイントらしきものが手の甲に施されていることだった。
そんな、割烹着姿のおばあちゃんに谷間のお姉さんは軽く挨拶すると、和服姿のおばあちゃんは深々と頭を下げた。この態度、もしかするとこの谷間のお姉さんは有名人だったりするのかもしれない。
「いらっしゃい」
そう言って和服のおばあちゃんは今度は私に深く頭を下げてきた。
「女将さん、この子温泉まんじゅうが食べたいんだって、だからさ、あれ出してあげてよ、ちょうど出来上がる頃でしょ?」
「あぁ、あれね、ちょっとまってな」
まるで家族のように親しげに話す二人に驚き、ただ突っ立ていることしか出来ずにいると、谷間のお姉さんが店内の座敷で休憩する事を提案してきた。
私は席につき、そして谷間のお姉さんは私の正面に座った。
「ねぇ、ネコの鼻が気になったんでしょ」
どうやら、この人は私の心を完全に読み取っているらしい。
「え、えぇ、まぁ」
「ふふふ、かわいいよね、あれ」
「あれは、一体なんなんですか?ほくろ?」
「ううん、あれはさ、ここの地域に住むネコ神様の御加護を受けるためにやってんだってさ」
「猫神様?」
「そうそう、ここらへん猫が多いから猫神がいるって言われてるの、それである人が猫の鼻のしるしを身体のどこかにつければ良いことが起きるって言いふらしたら、今日まで続いているって話よ」
「へぇー、それは何処にやっても良いんですか?」
「そうね、でもやるならあんまり見えないところにしたほうが無難だよねぇ」
奇妙な猫の鼻の話を聞いていると、谷間のお姉さんは身を乗り出し、私に顔を寄せてきた。
「ねぇねぇそれよりあなた、今日は女一人旅?」
「え、あの、友達に誘われて二人で来てます」
「そうなんだ、何処に泊まってるの?」
「招喜旅館です」
私が招喜旅館と言うと谷間のお姉さんは驚いた顔をして私に顔を寄せてきた。
「えっ、あそこなのっ?」
「はい」
「そっかぁ・・・・・・あそこさぁ、人はいないけど、その代わりに猫は一杯いるんだよねぇ」
「そ、そうですね」
やっぱり招喜旅館って客があんまり入らないので有名なんだろうか?
「早くなんとかしてあげないとだめだよね、あれは」
「なんとかする?」
「あ、いやいや・・・・・・あ、そうだ、私ってまだ自己紹介してなかったね」
「は、はぁ」
「私、藤堂《とうどう》アミっていうの、アミって気軽に呼んでくれて構わないからね」
そう言って綺麗な白い歯を見せて笑う藤堂さん、しかし、明らかに年上のような感じがする彼女に私はアミと馴れ馴れしく呼んでも良いのだろうか?
それにどうにもこの辺りの人はどうも自分の名前を他人に強要する節がある、さっきの八さんもそうだったし。いや、まだこの人がこの辺りの人とは決まったわけじゃないから、なんとも言えないけど
「私は友沢零って言います、なんだか良いお店紹介してもらってありがとうございます、アミさん」
私は言われたとおり思い切って名前で呼ぶと、彼女はびくんと身体を震わせ、机の上に身を乗り出し、真剣な表情で私の顔を見てきた。
「ど、どうかしましたか?」
「零ちゃんっ」
「は、はい?」
「いいねぇ」
そう言ってアミさんは笑っていた。
「そうやって私の事、アミって言ってくれる人、あなたが初めてよ」
「そうなんですか?」
予想外に気に入ってくれたようで私は一安心した、でも、私が初めてなんて、そりゃそうかも知れない、こんなに美人な人が、突然気軽に名前で読んでなんて言われても言えたもんじゃない。大体さっき知り合ったばかりだし。
「そうよ、みんな私の事堅苦しく藤堂さんとか言うけど、私はアミって呼んでくれる方がいいんだよねぇ」
頬に手を当てながらうっとりといた様子のアミさんに少しだけ恭子先生の面影を見た私は、印象は違うものの、恭子先生とアミさんに共通する何かを感じた。
「いいわ、私、あなたの事好きよ」
「あ、ありがとうございます」
なんだか、このド直球な感情表現そこかで感じたことがあるようなない様な・・・・・・
しかし、もうこれ以外に返答する言葉が見当たらない私は、話をつなげること無く押し黙ると、ちょうどその空気を読んだかのように、先ほどの割烹着を着たおばあちゃんがお盆を持って座敷に入ってきた。
「おまたせ」
「おぉ、待ったよー、おばあちゃん」
おばあちゃんは慣れた手つきでお茶と饅頭を机の上に置き、「ごゆっくり」言葉と深い礼をしたあと、直ぐにその場から去って行ってしまった。
「ささ、食べよ」
アミさんにそう言われ私は一口お茶を飲んだ後、出来たてであろう温泉まんじゅうに手を伸ばした。
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