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猫地蔵編
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風呂あがり、部屋の戻ってゆっくりしていると部屋に食事が届いた。
ちょうど良いタイミングで来てくれたと思い、配膳してくれる仲居さんを見ていると、そこには、まだ小学生ほどの幼い顔つき、体つきの仲居が配膳してくれていた。
そう言えばさっき猫地蔵の話をしてくれたっていう仲居さんも童顔だったけど、さすがにこの子は幼すぎるんじゃないだろうか?
そう思いながら私はその仲居さんを凝視していると、彼女なんだか恥ずかしそうに目を伏せた。
「わー、まだ小さいのにお手伝いなんて頑張り屋さんですね」
マリアは突然そんな言葉を口にした。そうやって気軽に人と話をできるのは素直に羨ましいと思うけど、仲居さんが困惑してる所を見ると、やっぱりコミュニケーションというものは難しいと感じた。
食事を運ぶ仲居さんの制服は、しっかりと着れてはいるものの、少しサイズがあっていない。家族経営という話も聞いてるから、もしかしてこの幼い仲居さんは家族の一員だったりするのだろうか?
そう思いながら、運ばれてきた料理を眺めていると、急に甲高い声が聞こえてきた。
私は何事かと思い声のする方向を向くと、そこには今まさに私に向かって飛び込んでこようとしている幼い仲居さんの姿があった。
あれか、私のことが好きで、マリアみたいに抱きつきたくなったとか、そういう類のあれなんだろうか。それとも普通に制服がダボダボだから躓いてこけちゃったか?
そんな悠長な事を考えているうちに仲居は私に向かって飛びつき、持っていた美味しそうな料理を私の身体にぶちまけた。
「だ、大丈夫ですか零さん?」
マリアは私の心配をしてくれているのか、慌てながら駆け寄ってきて、そして私に飛び込んできた仲居さんはというと、私の元から急いで離れた。
別に怒ってはいないんだけど、とりあえずこぼしてしまった料理をなんとかできないかな。そして、そんな騒動に気づいたのか突然ふすまが開かれたかと思えばそこには女将さんが立っていた。そして女将は料理をこぼしたであろう幼い仲居さんのことをするどい目つきで睨んだ。
「あなたがここに料理を運んだのですか?」
「は、はい」
女将の言葉に、幼い仲居さんは怯えた様子で返事をした。
「ここに料理を運ぶのは私の勤めだったはず、どうしてあなたがやっているのです?」
そんな女将の言葉に幼い仲居はただひたすら俯いて黙っていた。
そんな微妙な空気が流れた後「申し訳ありません」と言葉にする女将と部屋の片付けをする幼い仲居さん、私は別にそこまで怒っていないという状況になった。
とりあえずは、身体をきれいにした後にもう一度食事の配膳をしてくれれば良いと思い、謝罪もそこそこに、とりあえず温泉へと向かうことにした。
女湯ののれんをくぐり、脱衣所で服を脱いでいると、ふと着替えを用意することを忘れていた私は、もう一度汚れた浴衣を着て部屋に戻ろうとした。
しかし、部屋に戻ろうとした時、先ほど私に料理をぶちまけた幼い仲居と女将がのれんをくぐって現れた。
「あれ、どうしたんですか?」
私がそう言うと女将は「変えの服をご用意しましたと」一言告げ、幼い仲居さんは静かにお辞儀をした。お辞儀をした彼女は頭が少し濡れており、ところどころ汚れている所があることに気づいた。
「あ、よかったら仲居さんも温泉入ったらどうですか?」
「えっ」
幼い仲居は戸惑い慌てている、そんな私の言葉に不思議そうな顔をした女将は私をじっと見てきた。
まぁ、お客が仲居に向かって一緒にお風呂に入ろうなんておかしい話か。いや、どんな関係性であれ私の発言は常軌を逸しているかもしれない。
だけど、なんだかしょんぼりして、まるで雑巾の様になっている仲居さんを見ると、なんだかそう言いたくなってしまったのは間違いない。
「いや、仲居さんも汚れちゃったし、お風呂に入ったほうが良いかなって思って・・・・・・」
「いえ、私はそんな、お客様に御迷惑を掛けたのにそんなこと出来ません」
「でも、濡れてるし風邪引かない?」
「・・・・・・でも」
幼い仲居さんは女将を見上げ、女将は私の顔をじっと見つめていた。
「あなたもお客様と一緒に入りなさい、そのような恰好でお客様の目を汚すようなことがあってはありません。着替えは私が用意しておきますから、早々に済ませなさい」
そう言って女将さんは私に一礼した後、脱衣所を出ていき、幼い仲居さんも私に静かに頭を下げた。
そうして、私と幼い仲居さんは一緒に温泉に入ることになった。私はなんとなくこの場を和ませようと思い、彼女に話しかけてみる事にした。
「仲居さんって、いくつなんですか?」
「12歳です」
「小学生?」
「はい」
反応はにぶいが、ちゃんと答えてくれるようで安心した。
その後もいくつかの質問をしているうちに幼い仲居さんの名前が都(みやこ)ちゃんであることや、4人兄弟の1番末っ子であることなど、色んな話を聞いて、都ちゃんも気兼ねなく話してくれた。
そんな中、私身体も洗い終え、少しだけ温泉に浸かろうと湯船に向かおうとした時、都ちゃんの身体に何か痣のようなものがあることに気づいた。
湯気が立ち込める中、私は目を凝らしてその痣らしきものを見た。
すると、都ちゃんのおしりの少し上、腰近くに猫の鼻型の印があった。
蒙古斑といえばそう見えなくはない、だけどまさかこの年齢でまだ蒙古斑があるなんて、しかも猫の鼻のような形、少し可愛いかも知れない、いや、かなりかわいいな。
私はそんな蒙古斑らしきおしりの痣に惹かれるように、頭を洗う都ちゃんの横の椅子に座った。すると彼女は驚いてこっちを見た。するとその瞬間、目にシャンプーでも入ったのか「ニャー」とネコの様な悲鳴を上げながら慌てふためいていた。
そんな都ちゃんに私は急いでシャワーを掛けてあげると、徐々に泡がとれて、なんとか落ち着いた様子を見せた。
そして、都ちゃんが落ち着いた所で一番気になっていたおしりの痣のことに聞いてみることにした。
「あのさ、都ちゃん」
「な、何ですか?」
「おしりの・・・・・・」
「な、何でもないですっ」
私が痣と言う終わる前に、都ちゃんはすぐに温泉につかりにいった。そんな逃げる彼女につきまとって追いかけるのも変態ぽいかなとは思いつつも、私は後を追って温泉につかった。
都ちゃんは私から少し距離をとって警戒しているように思えた。
まぁ、無理やり聞くっていうのもなんだか嫌な感じがするし、私の中で生まれた好奇心はこの温泉の湯気と共に蒸発してもらおう、そう思いながら見上げた先には無数の星が広がる夜空、私はこの星空のもと温泉を楽しんでいた。
すると、そんな私の耳に小さな声が聞こえてきて、私は直ぐに目を開け、声のする方を向いた。そこには、おどおどとした様子の都ちゃんが私のことをチラチラと見ていた。
「ん、どうしたの?」
「あの、見ましたか?」
「え、うん、なんか可愛い痣があるんだね」
「か、可愛い」
都ちゃんは少し照れた様子で俯いた後直ぐに顔を上げた。
「ど、どう思いました?」
「どうって、まぁ気にすることないよ、全然変じゃない」
「ほ、本当ですか?」
「うん」
責任の持てないことをいってしまったことを後悔しながらも、少し喜ぶ姿を見せた都ちゃん、そんなに気にしてたのだろうか?
「でも、都ちゃん、生まれた時からずっとなの?」
「ずっと?」
「うん、生まれた時からその痣はあるのかなって思って」
「わかりません気づいた時にはあって」
「へぇー」
「昔、兄弟たちと一緒にお風呂に入っていたら「おしりにまだ蒙古斑があるぞ」って言われて初めて気づいて、怖くなって、私っておかしいのかなって思って」
「そっか」
そんな話を聞いた後、都ちゃんは私より先にいそいそと出て行った。
それにしてもあの明らかに蒙古斑には見えない猫の鼻、まさかとは思うけど、彼女が猫神様なんてことはないだろうか?いや、それにしては幼すぎるし、加えて猫神様がここで働いている理由がわからない。
だとすればあれは本当にただの蒙古斑ということで良いのだろうか、それとも「たつや」のばおばあちゃん同様猫神様を信仰してのものだったりするんだろうか?
何にしても、都ちゃんが猫神様だった所で別段何かが変わるわけでもないかと思った私は、程なくして温泉を出た。そして、再び用意された食事をマリアと味わった後、私達は部屋の中でボーっとしていたのだが、そんな時間もマリアの行動によって壊されることになった。
「零さん」
「なに?」
マリアは私の背後に周り肩を揉みしだきながら、私の隣でニコニコと笑っている。
「わかってますよね」
「まぁ、この後はゆっくりしながら寝るくらいかな、もういっかい温泉につかるのもいいかな・・・・・・いや、さすがにもういいか」
「えー、何を言ってるんですか、探検ですよ探検、恐怖のネコを探索しに行きましょうよ」
時刻は8時を過ぎた頃、単なる肝試しならこの時間帯でも良いかもしれないけど、本当に幽霊を探しているような人がこの時間から探検に行こうなんて、ありえない。
「まだ早いんじゃ無いの?」
「でも、私は早く見つけたいんですよ、恐怖のネコを」
「でもさ、大体そういうのって深夜二時の丑の刻的な時間に行くんじゃないの?」
「そうですけど、そうじゃないんです」
「意味がわからんだけど」
「お願いします、ちょっとで良いんで付き合って下さい」
ダダをこねるマリアと一緒にいても仕方がないと感じた私は、とりあえずせっかく良いライトやいろいろな準備をしてきたであろうマリアのため、少しだけ付きあってみる事にした。
マリアは嬉しそうに先頭を歩き私はその後ろを歩いている。
この旅館についた時に、私が散歩をしたみちのりで、ネコ地蔵を通りでかい金魚が住む池、よくわからない神社、と若干の物音にビビりながらも恐怖のネコ探しは順調に消化されていき、先頭を歩くマリアは心なしか早歩きになっているような気がした。
そして、そろそろこの探索も終わりに差し掛かる頃、またたびが群生している辺りを散策していると、草をかき分ける音がして私は思わず身構えた。
「マ、マリア、今なんか音しなかった?」
「し、しましたね」
マリアは私の袖を握り、私に身体を寄せてきた。まさか、ネコ地蔵がマタタビにつられてきたとか、そんな展開にはならないだろうな。
「行ってきなよ、念願の幽霊かもしれないじゃん」
「い、いえ、野生動物とかかもしれないじゃないですか、怖いですよ、今日仲居さんが野生動物が多くて困ってるって言ってましたもん」
妙に早口で焦るマリアに、彼女は本当に幽霊を探す気があるのかという疑問すら抱いた。
「怖いって何いってんの、マリアが私を連れて来たんだからちゃんと確認してきてよ」
「で、でもクマとかだったらどうするんですか?」
「マリアは恐怖のネコか何かしらないけど、それを探しに来たんでしょ、早く行きなよ」
「そ、そんな零さんなんも一緒に行きましょうよ」
くそっ、なんだってこんなにビビッてるんだ。いつもの様子なら幽霊の可能性があるものにはすぐに飛びつくと思っていたのに、意外にそうでもないのだろうか?
「と、とりあえずライトで照らしてみてよ」
「・・・・・・わ、分かりました」
そういって、マリアが勢い良くライトの光を物音のする方向に向けると、そこには何もいないように見えた。そして、私達は早々にその場を離れることにした。
「全く何なのさ、幽霊好きならああいう時は特攻して正体を突き止めないとだめじゃないの?」
「だ、だからもし動物だったらどうするんですか、クマとかイノシシとか恐ろしいって言うじゃないですか」
「じゃあさ、はじめからこんなことしないでくれない」
まるで何かから逃げているように声を潜めながら喋る私達は相当ビビっていた。
なにしろ、旅館周りは節電のためか電灯が無く真っ暗、しかも辺りからは寝こん鳴き声なのかよくわからないが、妙な鳴き声とがさがさとひっきりなしに聞こえてくる怪音とマリアの凶暴な動物という言葉のコンボで、私達はいますぐにでも逃げ出したくて仕方がなかった。
ちょうど良いタイミングで来てくれたと思い、配膳してくれる仲居さんを見ていると、そこには、まだ小学生ほどの幼い顔つき、体つきの仲居が配膳してくれていた。
そう言えばさっき猫地蔵の話をしてくれたっていう仲居さんも童顔だったけど、さすがにこの子は幼すぎるんじゃないだろうか?
そう思いながら私はその仲居さんを凝視していると、彼女なんだか恥ずかしそうに目を伏せた。
「わー、まだ小さいのにお手伝いなんて頑張り屋さんですね」
マリアは突然そんな言葉を口にした。そうやって気軽に人と話をできるのは素直に羨ましいと思うけど、仲居さんが困惑してる所を見ると、やっぱりコミュニケーションというものは難しいと感じた。
食事を運ぶ仲居さんの制服は、しっかりと着れてはいるものの、少しサイズがあっていない。家族経営という話も聞いてるから、もしかしてこの幼い仲居さんは家族の一員だったりするのだろうか?
そう思いながら、運ばれてきた料理を眺めていると、急に甲高い声が聞こえてきた。
私は何事かと思い声のする方向を向くと、そこには今まさに私に向かって飛び込んでこようとしている幼い仲居さんの姿があった。
あれか、私のことが好きで、マリアみたいに抱きつきたくなったとか、そういう類のあれなんだろうか。それとも普通に制服がダボダボだから躓いてこけちゃったか?
そんな悠長な事を考えているうちに仲居は私に向かって飛びつき、持っていた美味しそうな料理を私の身体にぶちまけた。
「だ、大丈夫ですか零さん?」
マリアは私の心配をしてくれているのか、慌てながら駆け寄ってきて、そして私に飛び込んできた仲居さんはというと、私の元から急いで離れた。
別に怒ってはいないんだけど、とりあえずこぼしてしまった料理をなんとかできないかな。そして、そんな騒動に気づいたのか突然ふすまが開かれたかと思えばそこには女将さんが立っていた。そして女将は料理をこぼしたであろう幼い仲居さんのことをするどい目つきで睨んだ。
「あなたがここに料理を運んだのですか?」
「は、はい」
女将の言葉に、幼い仲居さんは怯えた様子で返事をした。
「ここに料理を運ぶのは私の勤めだったはず、どうしてあなたがやっているのです?」
そんな女将の言葉に幼い仲居はただひたすら俯いて黙っていた。
そんな微妙な空気が流れた後「申し訳ありません」と言葉にする女将と部屋の片付けをする幼い仲居さん、私は別にそこまで怒っていないという状況になった。
とりあえずは、身体をきれいにした後にもう一度食事の配膳をしてくれれば良いと思い、謝罪もそこそこに、とりあえず温泉へと向かうことにした。
女湯ののれんをくぐり、脱衣所で服を脱いでいると、ふと着替えを用意することを忘れていた私は、もう一度汚れた浴衣を着て部屋に戻ろうとした。
しかし、部屋に戻ろうとした時、先ほど私に料理をぶちまけた幼い仲居と女将がのれんをくぐって現れた。
「あれ、どうしたんですか?」
私がそう言うと女将は「変えの服をご用意しましたと」一言告げ、幼い仲居さんは静かにお辞儀をした。お辞儀をした彼女は頭が少し濡れており、ところどころ汚れている所があることに気づいた。
「あ、よかったら仲居さんも温泉入ったらどうですか?」
「えっ」
幼い仲居は戸惑い慌てている、そんな私の言葉に不思議そうな顔をした女将は私をじっと見てきた。
まぁ、お客が仲居に向かって一緒にお風呂に入ろうなんておかしい話か。いや、どんな関係性であれ私の発言は常軌を逸しているかもしれない。
だけど、なんだかしょんぼりして、まるで雑巾の様になっている仲居さんを見ると、なんだかそう言いたくなってしまったのは間違いない。
「いや、仲居さんも汚れちゃったし、お風呂に入ったほうが良いかなって思って・・・・・・」
「いえ、私はそんな、お客様に御迷惑を掛けたのにそんなこと出来ません」
「でも、濡れてるし風邪引かない?」
「・・・・・・でも」
幼い仲居さんは女将を見上げ、女将は私の顔をじっと見つめていた。
「あなたもお客様と一緒に入りなさい、そのような恰好でお客様の目を汚すようなことがあってはありません。着替えは私が用意しておきますから、早々に済ませなさい」
そう言って女将さんは私に一礼した後、脱衣所を出ていき、幼い仲居さんも私に静かに頭を下げた。
そうして、私と幼い仲居さんは一緒に温泉に入ることになった。私はなんとなくこの場を和ませようと思い、彼女に話しかけてみる事にした。
「仲居さんって、いくつなんですか?」
「12歳です」
「小学生?」
「はい」
反応はにぶいが、ちゃんと答えてくれるようで安心した。
その後もいくつかの質問をしているうちに幼い仲居さんの名前が都(みやこ)ちゃんであることや、4人兄弟の1番末っ子であることなど、色んな話を聞いて、都ちゃんも気兼ねなく話してくれた。
そんな中、私身体も洗い終え、少しだけ温泉に浸かろうと湯船に向かおうとした時、都ちゃんの身体に何か痣のようなものがあることに気づいた。
湯気が立ち込める中、私は目を凝らしてその痣らしきものを見た。
すると、都ちゃんのおしりの少し上、腰近くに猫の鼻型の印があった。
蒙古斑といえばそう見えなくはない、だけどまさかこの年齢でまだ蒙古斑があるなんて、しかも猫の鼻のような形、少し可愛いかも知れない、いや、かなりかわいいな。
私はそんな蒙古斑らしきおしりの痣に惹かれるように、頭を洗う都ちゃんの横の椅子に座った。すると彼女は驚いてこっちを見た。するとその瞬間、目にシャンプーでも入ったのか「ニャー」とネコの様な悲鳴を上げながら慌てふためいていた。
そんな都ちゃんに私は急いでシャワーを掛けてあげると、徐々に泡がとれて、なんとか落ち着いた様子を見せた。
そして、都ちゃんが落ち着いた所で一番気になっていたおしりの痣のことに聞いてみることにした。
「あのさ、都ちゃん」
「な、何ですか?」
「おしりの・・・・・・」
「な、何でもないですっ」
私が痣と言う終わる前に、都ちゃんはすぐに温泉につかりにいった。そんな逃げる彼女につきまとって追いかけるのも変態ぽいかなとは思いつつも、私は後を追って温泉につかった。
都ちゃんは私から少し距離をとって警戒しているように思えた。
まぁ、無理やり聞くっていうのもなんだか嫌な感じがするし、私の中で生まれた好奇心はこの温泉の湯気と共に蒸発してもらおう、そう思いながら見上げた先には無数の星が広がる夜空、私はこの星空のもと温泉を楽しんでいた。
すると、そんな私の耳に小さな声が聞こえてきて、私は直ぐに目を開け、声のする方を向いた。そこには、おどおどとした様子の都ちゃんが私のことをチラチラと見ていた。
「ん、どうしたの?」
「あの、見ましたか?」
「え、うん、なんか可愛い痣があるんだね」
「か、可愛い」
都ちゃんは少し照れた様子で俯いた後直ぐに顔を上げた。
「ど、どう思いました?」
「どうって、まぁ気にすることないよ、全然変じゃない」
「ほ、本当ですか?」
「うん」
責任の持てないことをいってしまったことを後悔しながらも、少し喜ぶ姿を見せた都ちゃん、そんなに気にしてたのだろうか?
「でも、都ちゃん、生まれた時からずっとなの?」
「ずっと?」
「うん、生まれた時からその痣はあるのかなって思って」
「わかりません気づいた時にはあって」
「へぇー」
「昔、兄弟たちと一緒にお風呂に入っていたら「おしりにまだ蒙古斑があるぞ」って言われて初めて気づいて、怖くなって、私っておかしいのかなって思って」
「そっか」
そんな話を聞いた後、都ちゃんは私より先にいそいそと出て行った。
それにしてもあの明らかに蒙古斑には見えない猫の鼻、まさかとは思うけど、彼女が猫神様なんてことはないだろうか?いや、それにしては幼すぎるし、加えて猫神様がここで働いている理由がわからない。
だとすればあれは本当にただの蒙古斑ということで良いのだろうか、それとも「たつや」のばおばあちゃん同様猫神様を信仰してのものだったりするんだろうか?
何にしても、都ちゃんが猫神様だった所で別段何かが変わるわけでもないかと思った私は、程なくして温泉を出た。そして、再び用意された食事をマリアと味わった後、私達は部屋の中でボーっとしていたのだが、そんな時間もマリアの行動によって壊されることになった。
「零さん」
「なに?」
マリアは私の背後に周り肩を揉みしだきながら、私の隣でニコニコと笑っている。
「わかってますよね」
「まぁ、この後はゆっくりしながら寝るくらいかな、もういっかい温泉につかるのもいいかな・・・・・・いや、さすがにもういいか」
「えー、何を言ってるんですか、探検ですよ探検、恐怖のネコを探索しに行きましょうよ」
時刻は8時を過ぎた頃、単なる肝試しならこの時間帯でも良いかもしれないけど、本当に幽霊を探しているような人がこの時間から探検に行こうなんて、ありえない。
「まだ早いんじゃ無いの?」
「でも、私は早く見つけたいんですよ、恐怖のネコを」
「でもさ、大体そういうのって深夜二時の丑の刻的な時間に行くんじゃないの?」
「そうですけど、そうじゃないんです」
「意味がわからんだけど」
「お願いします、ちょっとで良いんで付き合って下さい」
ダダをこねるマリアと一緒にいても仕方がないと感じた私は、とりあえずせっかく良いライトやいろいろな準備をしてきたであろうマリアのため、少しだけ付きあってみる事にした。
マリアは嬉しそうに先頭を歩き私はその後ろを歩いている。
この旅館についた時に、私が散歩をしたみちのりで、ネコ地蔵を通りでかい金魚が住む池、よくわからない神社、と若干の物音にビビりながらも恐怖のネコ探しは順調に消化されていき、先頭を歩くマリアは心なしか早歩きになっているような気がした。
そして、そろそろこの探索も終わりに差し掛かる頃、またたびが群生している辺りを散策していると、草をかき分ける音がして私は思わず身構えた。
「マ、マリア、今なんか音しなかった?」
「し、しましたね」
マリアは私の袖を握り、私に身体を寄せてきた。まさか、ネコ地蔵がマタタビにつられてきたとか、そんな展開にはならないだろうな。
「行ってきなよ、念願の幽霊かもしれないじゃん」
「い、いえ、野生動物とかかもしれないじゃないですか、怖いですよ、今日仲居さんが野生動物が多くて困ってるって言ってましたもん」
妙に早口で焦るマリアに、彼女は本当に幽霊を探す気があるのかという疑問すら抱いた。
「怖いって何いってんの、マリアが私を連れて来たんだからちゃんと確認してきてよ」
「で、でもクマとかだったらどうするんですか?」
「マリアは恐怖のネコか何かしらないけど、それを探しに来たんでしょ、早く行きなよ」
「そ、そんな零さんなんも一緒に行きましょうよ」
くそっ、なんだってこんなにビビッてるんだ。いつもの様子なら幽霊の可能性があるものにはすぐに飛びつくと思っていたのに、意外にそうでもないのだろうか?
「と、とりあえずライトで照らしてみてよ」
「・・・・・・わ、分かりました」
そういって、マリアが勢い良くライトの光を物音のする方向に向けると、そこには何もいないように見えた。そして、私達は早々にその場を離れることにした。
「全く何なのさ、幽霊好きならああいう時は特攻して正体を突き止めないとだめじゃないの?」
「だ、だからもし動物だったらどうするんですか、クマとかイノシシとか恐ろしいって言うじゃないですか」
「じゃあさ、はじめからこんなことしないでくれない」
まるで何かから逃げているように声を潜めながら喋る私達は相当ビビっていた。
なにしろ、旅館周りは節電のためか電灯が無く真っ暗、しかも辺りからは寝こん鳴き声なのかよくわからないが、妙な鳴き声とがさがさとひっきりなしに聞こえてくる怪音とマリアの凶暴な動物という言葉のコンボで、私達はいますぐにでも逃げ出したくて仕方がなかった。
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