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噂
しおりを挟む照葉は物心ついた時から、他の人間には使えない力が使えた。
異空間を創り出す力である。
左右対称となる物体同士を繋ぎ、そのちょうど真ん中を出入り口と定めて異空間と現し世を自由に行き来できるのだ。
最初こそ貴重品を守る為の金庫代わりにしか使っていなかったが、成長しその力を磨くことで範囲が拡大した。
今では首都と同じくらいの広さをほこり、花屋で売りだしている花たちを育てる為に使っている。
しかし、いくらその力を使えても花を管理する者がいなければすぐにダメになってしまう。
そこで元々植物である椿と柳の二人を、花園の管理者として雇っているのだ。
ちなみに異空間の一画に源泉かけ流しの温泉があり、照葉は毎晩そこに通い日々の疲れを癒やしていた。
一緒に温泉に入っている椿は、今夜は詫びる意味も込めて照葉の髪に念入りに美髪水を塗りこんでいる。
それが済めば今度は顔に美顔水を塗りこんで、深く馴染ませる為に上から特製の紙で蓋をした。
いつも以上の念のいれように、これは詫び以外で何かあるなと思った照葉は回りくどい真似はせずに率直に尋ねた。
何か欲しいものでもあるのか、それとも叶えてほしい願いがあるのかと。
態度に出過ぎていたかと椿は舌を出したが、すぐにいつものわざとらしい笑顔に戻り照葉に甘えておねだりした。
「アタシも皇居に行きたい」
「だめよ」
「ちょっとは考えてくれてもいいじゃない」
「あそこは妖者などの人外たちには、命取りの結界があると教えてくれたのは椿じゃない!」
「弱い妖なら命取りになるだろうけど、アタシを誰だとお思い?」
「厚顔無恥の年増女だろう」
「花園の養分にされに来たのかな?」
いつの間にか、温泉の側に柳が控えていたのを見つけた椿の額に青筋が浮かぶ。
ほんの少し前に喧嘩して別れたばかりだというのに、もう第二戦を開始する元気があることに照葉は呆れた。
ちなみに男の柳が温泉に来ても照葉が騒がないのは、温泉用の衣服を着ているからである。
「どうしたの?急な来客でもあった?」
「いえ、この女が途方もない願いを口にしているのが聞こえて・・・いてもたってもいられず」
「何を言ってるのよ!!アタシは照葉の護衛として一緒に行くって言ってるだけ」
「護衛?」
「・・・最近、妖たちの間で噂になってるのよ。皇居がひどく淀んでるって」
「お前たちの大好物な空気だろう」
「冗談は存在だけにしてくれる?」
話が中断してしまうから本気で改めるように言っても、結局は元のもくあみなので照葉は悩みの種が尽きない思いだが。
お互いがお互いに張り合って、情報収集に力を入れるのであまり強く言えないのも悩みの種であった。
「それで、淀んでるってどんな風に?」
「アタシたちが居心地良くなるような淀みじゃなくて、下手をすれば取り込まれちゃうような危ない感じらしいわ」
「皇居は国で一番清浄さを保っていなければならない場所のはず。それが、妖たちが危ないと言うほどに穢れているなんて・・・」
どうやら、ただの謁見だけでは済まないようだ。
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