愛情探偵の報告書

雪月 瑠璃

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行き過ぎた愛は嫉妬を生む 第1話

scene6 初日の晩餐

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 その日は一日かけて使用人全員の話を聞いて回ったが、最初の二人の他に役立ちそうな情報を得られなかった。一日の九割の時間を無駄に過ごした感じだ。なんだかどっと疲れて、僕ははるねちゃんが用意してくれたゲストルームに入るや否や、ベッドに倒れ込んだ。しかし、眠る余裕もなく、扉を叩く音がした。
「九条様、いらっしゃいますか?」
 大川さんだ。そういえば、桐原さんの話を聞いてから屋敷で一度も見かけていない。
「いますよ」
「入ってもよろしいでしょうか?」
「いいですよ」
 大川さんは「失礼します」と言って、中に入って来た。何があったのか、会ったときには白かったエプロンが黒く薄汚れている。顔にも埃がついている。
「えっと……その服と顔はどうしたんですか?」
「お気になさらず。ダクトの中に迷い込んでしまっただけですから」
 どうやったら迷い込むんだよ。
「お食事の用意ができましたので、お伝えしに参りました」
 どうやらそれが本題らしい。
 僕は調査のときの記憶をたどってダイニングルームに行った。

     僕の部屋と近かったこともあり、迷わず来られた。
 逢坂家の食卓は広かった。見たところ、奥行きは七、八メートルほどありそうだ。はるねちゃんはテーブルの角に座って、僕を待っていた。菊野さんははるねちゃんの後ろで立っている。僕は大川さんに言われて、はるねちゃんの向かいに座った。
「待ってたの、はるねちゃん」
「待ってないわ。早く食べましょう」
 はるねちゃんは菊野さんに合図して、食事を持って来させた。高級レストランのように一枚ずつ皿が運ばれた。
「調査の方はどうかしら?」
 一枚目の皿が運ばれると、はるねちゃんは唐突に聞いてきた。このために僕を待っていたのかと理解して答えた。
「初日だからそんなに進展はしていない。ただ推測できることとして、桐原さんは事件に巻き込まれた可能性が高いってことかな」
「やっぱり」
 はるねちゃんは食事の手を止めて呟いた。
「疑ってたの?」
「言ったでしょ。桐原が連絡を絶つなんてありえないって。多分そうなんだろうなって思ってた」
「桐原さんは一週間前の午前十一時頃に買い物に出かけたきり、使用人のみなさんに姿を見られていない。つまり、出かけたときに何かあったんだろうと思っているんだけど」
「誘拐、とかかしら」
「そう考えるのが妥当だね。でも、一週間っていう長さだし……」
「――――生きていないとも考えられる」
 そう言う表情は覚悟を決めたように見えたが、悔しさをはらんでいるようにも見えた。
「……でもそれは、あくまで最悪の場合の話だ。今考えても仕方ない。とりあえず、明日は町に出て桐原さんの足取りを追おうと思ってる」
「あたしにできることはないかしら。できる限りの協力をしたいわ」
「気持ちは嬉しいんだけど、依頼人を守るのも仕事なんだ。調査に連れ出して怪我でもされたら困る。強いて言うなら、この家で待っていてくれ」
 ちょうど魚料理の皿が下げられたとき、はるねちゃんは立ち上がった。
「お嬢様、まだメインディッシュが……」
「部屋に戻るわ。食欲がないの」
 はるねちゃんは「ごちそうさま」も言わずに、部屋を出て行ってしまった。
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