愛情探偵の報告書

雪月 瑠璃

文字の大きさ
52 / 68
愛より命か、命より愛か

scene2 下校時間の悲鳴と嘆き

しおりを挟む
 今日は始業式で、午前中で学校が終わったの。あたしは一学期と変わらず、いつも通りに帰ろうとした。
校舎を出て校門の方に歩いていると、野太くて情けない悲鳴が聞こえたの。それは校舎の陰になっている花壇の方から聞こえて、そっちに行ってみると、人だかりができていて、ギャラリーの間から発見者らしい男の子と、花壇の中で倒れている女の子がいたの。
 男の子は学校でも何度か問題行動をしている不良くん。腰を抜かしたみたいで、その場に座り込んでいたわ。
 倒れていた女の子の名前は、花江はなえ美沙みさちゃん。一年三組、あたしと同じクラスの子で、真面目で大人しい女の子よ。まもなくして、美沙ちゃんは誰かの通報で呼ばれた救急隊員に運ばれたわ。そのあと警察も来て捜査が始まると、ギャラリーは帰らされちゃったわ。
 そういえば、最後まで残って、美沙ちゃんの名前を呼ぶ男の子がいたわね。「……美沙」って言いながら現場を眺めていたわ。
 えっと、なんて名前だったかしら。そうだ、宮下みやしたあさひくんだわ。隣のクラスのサッカー部で、美沙ちゃんとは小学校から同じって言っていたかしら。
 彼も警察によって現場から引き離されたけど、帰ろうとはしなかった。彼は、警察官が取り巻く現場をただ茫然と眺めていたの。
「大丈夫?」
 あたしが話しかけると、「信じられねえ……」って返された。彼と美沙ちゃんは恋人だっていう噂が流れるくらい仲が良かったから、きっとショックだったのね。
 あたしはちょっと慰める意味で、彼を屋上に誘ったの。

 うちの学校の屋上は、だいたい教室一つと半分くらいの広さで、昼休みになるとたくさんの生徒が来る場所だけど、放課後のそこは誰もいなかった。
「ここから飛び降りたのか……」
「やめなさい、旭くん!」
 旭くんは柵に手をかけて少し身を出したから、あたしは慌てて止めた。
「大丈夫、後追いとかしないから。ただ、美沙がどんなことを思って飛び降りたのかなと思ってさ……痛かったんだろうな」
 あたしも同じ気持ちを抱いた。何があったんだろうとか、そんなことよりもただ、なんか悔しかった。
 旭くんに倣って、下を覗いてみた。ちょうど美沙ちゃんが見つかったところが見えた。壁には何かの垂れ幕があったかしら。
「こんな高さだったら、死んじゃうよな。自殺……なのかな」
「心当たりでもあるの?」
「ない、こともない」
 旭くんはどうもはっきりしない感じで言ったから、あたしはもっと問いただしてみた。すると、「悩んでいたみたいだった」って答えたの。
「何を悩んでいたのかしら?」
「俺も詳しくは知らないけど、困りごとがあったみたいなんだ。話聞く時間くらい、作ってやればよかったな……」
 そのあと、旭くんが病院に行きたいって言ったから、ついて行ったの。美沙ちゃんは集中治療室にいて、まだ目を覚ましていなかった。あんな高いところから落ちて、平気なはずはないのは当然だけど、やっぱりなんだか見てはいられなかったわ。

 そのあと、あたしは学校に戻って独自で調べ始めたの。旭くんのために何かやってあげたくて、できることをやろうと思ったの。
第一発見者の不良くんがまだ学校にいたから、まずはその子に話を聞いた。すると、こんな発言をしたの。
「俺、花壇でタバコ吸おうと思って、そこで仲間を待っていた。そしたら、突然あいつが落ちてきて」
「周りの悲鳴とか、なかったの?」
「なかった、と思う。気付いたら、俺の後ろにあいつが倒れていて……」
 そのあとも聞き込みを続けた。でも、有力な情報は何も得ることができなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完】あの、……どなたでしょうか?

桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー  爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」 見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は……… 「あの、……どなたのことでしょうか?」 まさかの意味不明発言!! 今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!! 結末やいかに!! ******************* 執筆終了済みです。

腹違いの妹にすべてを奪われた薄幸の令嬢が、義理の母に殴られた瞬間、前世のインテリヤクザなおっさんがぶちギレた場合。

灯乃
ファンタジー
十二歳のときに母が病で亡くなった途端、父は後妻と一歳年下の妹を新たな『家族』として迎え入れた。 彼らの築く『家族』の輪から弾き出されたアニエスは、ある日義母の私室に呼び出され――。 タイトル通りのおっさんコメディーです。

✿ 私は彼のことが好きなのに、彼は私なんかよりずっと若くてきれいでスタイルの良い女が好きらしい 

設楽理沙
ライト文芸
累計ポイント110万ポイント超えました。皆さま、ありがとうございます。❀ 結婚後、2か月足らずで夫の心変わりを知ることに。 結婚前から他の女性と付き合っていたんだって。 それならそうと、ちゃんと話してくれていれば、結婚なんて しなかった。 呆れた私はすぐに家を出て自立の道を探すことにした。 それなのに、私と別れたくないなんて信じられない 世迷言を言ってくる夫。 だめだめ、信用できないからね~。 さようなら。 *******.✿..✿.******* ◇|日比野滉星《ひびのこうせい》32才   会社員 ◇ 日比野ひまり 32才 ◇ 石田唯    29才          滉星の同僚 ◇新堂冬也    25才 ひまりの転職先の先輩(鉄道会社) 2025.4.11 完結 25649字 

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

拗れた恋の行方

音爽(ネソウ)
恋愛
どうしてあの人はワザと絡んで意地悪をするの? 理解できない子爵令嬢のナリレットは幼少期から悩んでいた。 大切にしていた亡き祖母の髪飾りを隠され、ボロボロにされて……。 彼女は次第に恨むようになっていく。 隣に住む男爵家の次男グランはナリレットに焦がれていた。 しかし、素直になれないまま今日もナリレットに意地悪をするのだった。

冷遇王妃はときめかない

あんど もあ
ファンタジー
幼いころから婚約していた彼と結婚して王妃になった私。 だが、陛下は側妃だけを溺愛し、私は白い結婚のまま離宮へ追いやられる…って何てラッキー! 国の事は陛下と側妃様に任せて、私はこのまま離宮で何の責任も無い楽な生活を!…と思っていたのに…。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

処理中です...