53 / 68
愛より命か、命より愛か
scene4 探偵、九条創真が気になった点
しおりを挟む
「だから、探偵の知恵を借りようと思ったわけ」
はるねちゃんはそう言って、話を終えた。
僕は二つ目のドーナツを食べ始めていた。
「ねえ、引き受けなさいよ、この依頼!」
「引き受けるって、その旭くんとかいう子からの依頼?」
「違うわ。依頼人はあたしよ。報酬は……そうね、三百万円でどうかしら」
「お金の問題じゃないよ。何が知りたいっていうんだよ。っていうか、知りたいことがあるなら警察に行った方がいいと思うけどね。刑事課に夏治(なつじ)がいるし、彼に聞けば何かしら教えてくれると思うよ」
「あたしは、なんで美沙ちゃんが飛び降りたのかを知りたいの。警察はそこまで詳しく調べてくれないわ。事件性がないと、すぐに捜査をやめちゃうもの」
「ふうん、だから僕に調査しろと?」
「その通りよ。引き受けなさい」
まったく、相変わらず偉そうなお嬢様だ。一応、僕は師匠なのだけれど。尊敬という二文字は彼女の辞書にないのか。
「別に引き受けてもいいんだけどさ、それ、今の話だけで十分解決する事案だよ」
「それ、マジ?!」
「うん。まあ、話を聞いただけだから、ちゃんとした推理ってわけじゃないけど」
「教えて、教えて!」
「うん、分かった」
僕はドーナツを口の中に放り込んで、手についた欠片を払った。
「まず、君が所望してる美沙ちゃんの動機だけど、彼女は花壇を守りたかったからじゃないかな」
僕はそんな発言で推理を始めた。
「動機って、美沙ちゃんが自分から飛び降りたって言ってるみたいじゃない」
「そう言ってるんだよ。彼女は自分で飛び降りた」
「じゃあ、自殺?」
「自殺じゃないよ。飛び降りただけだ」
はるねちゃんは腕を組んで、首を傾(かし)げた。
「自殺だったら、もっと確実に死ねるところを選ぶと思うよ。花壇の土の上なんかじゃなくてね」
コンクリートは固くて、転んだだけでも痛いけれど、土だったらクッションになって多少の衝撃を吸収する。そのおかげで、彼女は即死を免れて今も病院で眠っている。
「自殺じゃない理由は分かったわ。じゃあ、なんで飛び降りたのかしら」
「動機についてはあとで詳しく説明するから。次は、どうやって落ちたのかを説明しよう」
「どうして? 動機、気になるじゃない」
「落ち方から説明した方が、分かりやすいんだ。説明上の都合だよ」
はるねちゃんは「まあ、それならしょうがないわね」と言って、説明を聞く体勢を整えた。
「さて、創真は落ち方が気になるっていうの?」
「正しくは、目撃者が気になったんだよね」
「目撃者……、あ、不良くんのこと?」
「違うよ。落ちるところを見てた人たちだ。発生時間は下校時間、外に生徒がたくさん集まる時間帯なのに、美沙ちゃんが落ちるところを見た人がいないっていうのは、おかしいと思ったんだ。君の話を聞く限り、落ちる美沙ちゃんを見たって人は、いなかったんだよね?」
「うん。不良くんも悲鳴とかは聞こえなかったって」
「そうなると、多分落ちる美沙ちゃん見た人はいなかったんだろうね。じゃあ、ここで問題。大勢の人の前で誰にも見られず落ちる方法とは?」
はるねちゃんは悩んでいた。校舎を想像しながら考えているようだったが、「分からないわ」と諦めてしまった。
「じゃあ、特別ヒント。現場の真上には垂れ幕がかかっていた」
「それが特別ヒント? うーん……難しいわね」
「カーテンだと思えば簡単じゃないかな」
「カーテン……」
「カーテンで身を隠すとき、どうするかな?」
そう言うと、はるねちゃんの顔は急に晴れた。
「垂れ幕の裏を通ったのね!」
「ご名答。近くにいれば多少の違和を感じるかもしれないけど、まさか人が落下しているなんて思わないだろうね。遠くから見ればなおさらだ。それに校舎から出てきたというのに、校舎の方を見る人は普通いないしね」
こうして、誰にも見られずに落下したという状況ができ上がった。
これで落ち方の謎は解かれたわけだが、まだ解くべき謎は残っている。
「話を戻して、動機の話をしようか」
はるねちゃんはそう言って、話を終えた。
僕は二つ目のドーナツを食べ始めていた。
「ねえ、引き受けなさいよ、この依頼!」
「引き受けるって、その旭くんとかいう子からの依頼?」
「違うわ。依頼人はあたしよ。報酬は……そうね、三百万円でどうかしら」
「お金の問題じゃないよ。何が知りたいっていうんだよ。っていうか、知りたいことがあるなら警察に行った方がいいと思うけどね。刑事課に夏治(なつじ)がいるし、彼に聞けば何かしら教えてくれると思うよ」
「あたしは、なんで美沙ちゃんが飛び降りたのかを知りたいの。警察はそこまで詳しく調べてくれないわ。事件性がないと、すぐに捜査をやめちゃうもの」
「ふうん、だから僕に調査しろと?」
「その通りよ。引き受けなさい」
まったく、相変わらず偉そうなお嬢様だ。一応、僕は師匠なのだけれど。尊敬という二文字は彼女の辞書にないのか。
「別に引き受けてもいいんだけどさ、それ、今の話だけで十分解決する事案だよ」
「それ、マジ?!」
「うん。まあ、話を聞いただけだから、ちゃんとした推理ってわけじゃないけど」
「教えて、教えて!」
「うん、分かった」
僕はドーナツを口の中に放り込んで、手についた欠片を払った。
「まず、君が所望してる美沙ちゃんの動機だけど、彼女は花壇を守りたかったからじゃないかな」
僕はそんな発言で推理を始めた。
「動機って、美沙ちゃんが自分から飛び降りたって言ってるみたいじゃない」
「そう言ってるんだよ。彼女は自分で飛び降りた」
「じゃあ、自殺?」
「自殺じゃないよ。飛び降りただけだ」
はるねちゃんは腕を組んで、首を傾(かし)げた。
「自殺だったら、もっと確実に死ねるところを選ぶと思うよ。花壇の土の上なんかじゃなくてね」
コンクリートは固くて、転んだだけでも痛いけれど、土だったらクッションになって多少の衝撃を吸収する。そのおかげで、彼女は即死を免れて今も病院で眠っている。
「自殺じゃない理由は分かったわ。じゃあ、なんで飛び降りたのかしら」
「動機についてはあとで詳しく説明するから。次は、どうやって落ちたのかを説明しよう」
「どうして? 動機、気になるじゃない」
「落ち方から説明した方が、分かりやすいんだ。説明上の都合だよ」
はるねちゃんは「まあ、それならしょうがないわね」と言って、説明を聞く体勢を整えた。
「さて、創真は落ち方が気になるっていうの?」
「正しくは、目撃者が気になったんだよね」
「目撃者……、あ、不良くんのこと?」
「違うよ。落ちるところを見てた人たちだ。発生時間は下校時間、外に生徒がたくさん集まる時間帯なのに、美沙ちゃんが落ちるところを見た人がいないっていうのは、おかしいと思ったんだ。君の話を聞く限り、落ちる美沙ちゃんを見たって人は、いなかったんだよね?」
「うん。不良くんも悲鳴とかは聞こえなかったって」
「そうなると、多分落ちる美沙ちゃん見た人はいなかったんだろうね。じゃあ、ここで問題。大勢の人の前で誰にも見られず落ちる方法とは?」
はるねちゃんは悩んでいた。校舎を想像しながら考えているようだったが、「分からないわ」と諦めてしまった。
「じゃあ、特別ヒント。現場の真上には垂れ幕がかかっていた」
「それが特別ヒント? うーん……難しいわね」
「カーテンだと思えば簡単じゃないかな」
「カーテン……」
「カーテンで身を隠すとき、どうするかな?」
そう言うと、はるねちゃんの顔は急に晴れた。
「垂れ幕の裏を通ったのね!」
「ご名答。近くにいれば多少の違和を感じるかもしれないけど、まさか人が落下しているなんて思わないだろうね。遠くから見ればなおさらだ。それに校舎から出てきたというのに、校舎の方を見る人は普通いないしね」
こうして、誰にも見られずに落下したという状況ができ上がった。
これで落ち方の謎は解かれたわけだが、まだ解くべき謎は残っている。
「話を戻して、動機の話をしようか」
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
そのほかに外伝も綴りました。
上司、快楽に沈むまで
赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。
冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。
だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。
入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。
真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。
ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、
篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」
疲労で僅かに緩んだ榊の表情。
その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。
「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」
指先が榊のネクタイを掴む。
引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。
拒むことも、許すこともできないまま、
彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。
言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。
だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。
そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。
「俺、前から思ってたんです。
あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」
支配する側だったはずの男が、
支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。
上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。
秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。
快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。
――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
17歳男子高生と32歳主婦の境界線
MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。
「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…
なお、スピンオフもございます。
失った真実の愛を息子にバカにされて口車に乗せられた
しゃーりん
恋愛
20数年前、婚約者ではない令嬢を愛し、結婚した現国王。
すぐに産まれた王太子は2年前に結婚したが、まだ子供がいなかった。
早く後継者を望まれる王族として、王太子に側妃を娶る案が出る。
この案に王太子の返事は?
王太子である息子が国王である父を口車に乗せて側妃を娶らせるお話です。
サレ妻の娘なので、母の敵にざまぁします
二階堂まりい
大衆娯楽
大衆娯楽部門最高記録1位!
※この物語はフィクションです
流行のサレ妻ものを眺めていて、私ならどうする? と思ったので、短編でしたためてみました。
当方未婚なので、妻目線ではなく娘目線で失礼します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる