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愛より命か、命より愛か
scene4 探偵、九条創真が気になった点
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「だから、探偵の知恵を借りようと思ったわけ」
はるねちゃんはそう言って、話を終えた。
僕は二つ目のドーナツを食べ始めていた。
「ねえ、引き受けなさいよ、この依頼!」
「引き受けるって、その旭くんとかいう子からの依頼?」
「違うわ。依頼人はあたしよ。報酬は……そうね、三百万円でどうかしら」
「お金の問題じゃないよ。何が知りたいっていうんだよ。っていうか、知りたいことがあるなら警察に行った方がいいと思うけどね。刑事課に夏治(なつじ)がいるし、彼に聞けば何かしら教えてくれると思うよ」
「あたしは、なんで美沙ちゃんが飛び降りたのかを知りたいの。警察はそこまで詳しく調べてくれないわ。事件性がないと、すぐに捜査をやめちゃうもの」
「ふうん、だから僕に調査しろと?」
「その通りよ。引き受けなさい」
まったく、相変わらず偉そうなお嬢様だ。一応、僕は師匠なのだけれど。尊敬という二文字は彼女の辞書にないのか。
「別に引き受けてもいいんだけどさ、それ、今の話だけで十分解決する事案だよ」
「それ、マジ?!」
「うん。まあ、話を聞いただけだから、ちゃんとした推理ってわけじゃないけど」
「教えて、教えて!」
「うん、分かった」
僕はドーナツを口の中に放り込んで、手についた欠片を払った。
「まず、君が所望してる美沙ちゃんの動機だけど、彼女は花壇を守りたかったからじゃないかな」
僕はそんな発言で推理を始めた。
「動機って、美沙ちゃんが自分から飛び降りたって言ってるみたいじゃない」
「そう言ってるんだよ。彼女は自分で飛び降りた」
「じゃあ、自殺?」
「自殺じゃないよ。飛び降りただけだ」
はるねちゃんは腕を組んで、首を傾(かし)げた。
「自殺だったら、もっと確実に死ねるところを選ぶと思うよ。花壇の土の上なんかじゃなくてね」
コンクリートは固くて、転んだだけでも痛いけれど、土だったらクッションになって多少の衝撃を吸収する。そのおかげで、彼女は即死を免れて今も病院で眠っている。
「自殺じゃない理由は分かったわ。じゃあ、なんで飛び降りたのかしら」
「動機についてはあとで詳しく説明するから。次は、どうやって落ちたのかを説明しよう」
「どうして? 動機、気になるじゃない」
「落ち方から説明した方が、分かりやすいんだ。説明上の都合だよ」
はるねちゃんは「まあ、それならしょうがないわね」と言って、説明を聞く体勢を整えた。
「さて、創真は落ち方が気になるっていうの?」
「正しくは、目撃者が気になったんだよね」
「目撃者……、あ、不良くんのこと?」
「違うよ。落ちるところを見てた人たちだ。発生時間は下校時間、外に生徒がたくさん集まる時間帯なのに、美沙ちゃんが落ちるところを見た人がいないっていうのは、おかしいと思ったんだ。君の話を聞く限り、落ちる美沙ちゃんを見たって人は、いなかったんだよね?」
「うん。不良くんも悲鳴とかは聞こえなかったって」
「そうなると、多分落ちる美沙ちゃん見た人はいなかったんだろうね。じゃあ、ここで問題。大勢の人の前で誰にも見られず落ちる方法とは?」
はるねちゃんは悩んでいた。校舎を想像しながら考えているようだったが、「分からないわ」と諦めてしまった。
「じゃあ、特別ヒント。現場の真上には垂れ幕がかかっていた」
「それが特別ヒント? うーん……難しいわね」
「カーテンだと思えば簡単じゃないかな」
「カーテン……」
「カーテンで身を隠すとき、どうするかな?」
そう言うと、はるねちゃんの顔は急に晴れた。
「垂れ幕の裏を通ったのね!」
「ご名答。近くにいれば多少の違和を感じるかもしれないけど、まさか人が落下しているなんて思わないだろうね。遠くから見ればなおさらだ。それに校舎から出てきたというのに、校舎の方を見る人は普通いないしね」
こうして、誰にも見られずに落下したという状況ができ上がった。
これで落ち方の謎は解かれたわけだが、まだ解くべき謎は残っている。
「話を戻して、動機の話をしようか」
はるねちゃんはそう言って、話を終えた。
僕は二つ目のドーナツを食べ始めていた。
「ねえ、引き受けなさいよ、この依頼!」
「引き受けるって、その旭くんとかいう子からの依頼?」
「違うわ。依頼人はあたしよ。報酬は……そうね、三百万円でどうかしら」
「お金の問題じゃないよ。何が知りたいっていうんだよ。っていうか、知りたいことがあるなら警察に行った方がいいと思うけどね。刑事課に夏治(なつじ)がいるし、彼に聞けば何かしら教えてくれると思うよ」
「あたしは、なんで美沙ちゃんが飛び降りたのかを知りたいの。警察はそこまで詳しく調べてくれないわ。事件性がないと、すぐに捜査をやめちゃうもの」
「ふうん、だから僕に調査しろと?」
「その通りよ。引き受けなさい」
まったく、相変わらず偉そうなお嬢様だ。一応、僕は師匠なのだけれど。尊敬という二文字は彼女の辞書にないのか。
「別に引き受けてもいいんだけどさ、それ、今の話だけで十分解決する事案だよ」
「それ、マジ?!」
「うん。まあ、話を聞いただけだから、ちゃんとした推理ってわけじゃないけど」
「教えて、教えて!」
「うん、分かった」
僕はドーナツを口の中に放り込んで、手についた欠片を払った。
「まず、君が所望してる美沙ちゃんの動機だけど、彼女は花壇を守りたかったからじゃないかな」
僕はそんな発言で推理を始めた。
「動機って、美沙ちゃんが自分から飛び降りたって言ってるみたいじゃない」
「そう言ってるんだよ。彼女は自分で飛び降りた」
「じゃあ、自殺?」
「自殺じゃないよ。飛び降りただけだ」
はるねちゃんは腕を組んで、首を傾(かし)げた。
「自殺だったら、もっと確実に死ねるところを選ぶと思うよ。花壇の土の上なんかじゃなくてね」
コンクリートは固くて、転んだだけでも痛いけれど、土だったらクッションになって多少の衝撃を吸収する。そのおかげで、彼女は即死を免れて今も病院で眠っている。
「自殺じゃない理由は分かったわ。じゃあ、なんで飛び降りたのかしら」
「動機についてはあとで詳しく説明するから。次は、どうやって落ちたのかを説明しよう」
「どうして? 動機、気になるじゃない」
「落ち方から説明した方が、分かりやすいんだ。説明上の都合だよ」
はるねちゃんは「まあ、それならしょうがないわね」と言って、説明を聞く体勢を整えた。
「さて、創真は落ち方が気になるっていうの?」
「正しくは、目撃者が気になったんだよね」
「目撃者……、あ、不良くんのこと?」
「違うよ。落ちるところを見てた人たちだ。発生時間は下校時間、外に生徒がたくさん集まる時間帯なのに、美沙ちゃんが落ちるところを見た人がいないっていうのは、おかしいと思ったんだ。君の話を聞く限り、落ちる美沙ちゃんを見たって人は、いなかったんだよね?」
「うん。不良くんも悲鳴とかは聞こえなかったって」
「そうなると、多分落ちる美沙ちゃん見た人はいなかったんだろうね。じゃあ、ここで問題。大勢の人の前で誰にも見られず落ちる方法とは?」
はるねちゃんは悩んでいた。校舎を想像しながら考えているようだったが、「分からないわ」と諦めてしまった。
「じゃあ、特別ヒント。現場の真上には垂れ幕がかかっていた」
「それが特別ヒント? うーん……難しいわね」
「カーテンだと思えば簡単じゃないかな」
「カーテン……」
「カーテンで身を隠すとき、どうするかな?」
そう言うと、はるねちゃんの顔は急に晴れた。
「垂れ幕の裏を通ったのね!」
「ご名答。近くにいれば多少の違和を感じるかもしれないけど、まさか人が落下しているなんて思わないだろうね。遠くから見ればなおさらだ。それに校舎から出てきたというのに、校舎の方を見る人は普通いないしね」
こうして、誰にも見られずに落下したという状況ができ上がった。
これで落ち方の謎は解かれたわけだが、まだ解くべき謎は残っている。
「話を戻して、動機の話をしようか」
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