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愛より命か、命より愛か
scene5 女子高生、花江美沙の動機
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「彼女の動機は、『花壇を守りたかった』だと思う」
僕が言うと、はるねちゃんの頭の上にクエスションマークが浮かぶが見えた。もちろん、実際に見えたわけではなく想像だが。しかし、
「どういうこと? 飛び降りることと何の関係があるっていうのよ? それに、垂れ幕の裏を通って落ちたことも関係してるの?」
「もちろん。ところで、突然だけどはるねちゃん。これ、先代から聞いた話なんだけど、今、ちょうど君が立ってるところで、人が死んだんだって」
嘘だ。しかし、はるねちゃんは「え! 本当に!」と言って一歩ずれた。
「はるねちゃん、何で避けたの?」
「だって、言っちゃ悪いけど……気味悪いじゃない。人が死んだところに立つのって」
「美沙ちゃんはその心理を利用したんだと思う」
「どういうこと?」
「花壇に人が落ちたっていう事件が起これば、花壇に近づく人はいなくなる」
「確かに! けど、生徒全員を遠ざけたかった、とは思えないわ」
「僕もそう思うよ。だから、多分一部の生徒を排除したかったんだろうな」
「一部の生徒って?」
「不良くんたち」
僕の答えに、またもや彼女は首をひねった。
「確かに、不良は嫌だけど……、第一発見者がここで出てくるわけ?」
「じゃあ、質問。第一発見者の不良くんはどうして花壇にいたのかな?」
「どうして、って……偶然でしょ」
「目立たない場所の花壇に?」
「じゃあなんだっていうのよ」
「答えは簡単。不良くんたちは常にそこに集まる習慣があった。君の話によれば、『花壇でタバコ吸おうと思って』来てたわけだから、花壇は不良たちの溜まり場だったんだね」
そこまで言うと、はるねちゃんは一瞬考えるようなポーズをして、「ちょっと待ちなさいよ」と話を止めた。
「じゃあ、もしかして美沙ちゃんの悩みの種ってそれなのかしら?」
「うん、そうだとすると辻褄が合う。彼女が飛び降りたことも、場所も、動機も、不良を排すためだと考えると、話ができあがる」
動機に限っては、想像の範囲でしかない。だから、百パーセントの正解とは言えないけれど、これが僕の中で最もしっくりきた考えだった。
不良から花壇を守るために、花壇の土の上に身を投げて、事件を起こした。
これが僕の考える、事件の真相だ。
「……あたしにはできないわ。そんなこと」
「普通だったらできないよ。まして花のために命を危険にさらすなんて。だけど、彼女にはできた。彼女は花が大好きだったから」
「愛ゆえの、身投げってこと?」
僕は静かに頷いた。
僕からしてみれば、愛する花があるところに自分の身体を落とすなんて、本末転倒な感じがするが、美沙ちゃんにとってはそれが最大の対策だったのだろう。きっととても頭を悩ませて行動に及んだのだろうが、他にも選択肢はあったはずだ。愚か、だとまでは思わないが、愛が命よりも大切なわけがない。
命は、世の中で最も愛さなければいけないものだから。
「創真、明日、ちょっと付き合ってくれないかしら」
「え?」
「旭くんに話してほしいの。それが真相じゃないとしても、慰めくらいにはなると思うから」
僕は少し躊躇った。これを話しても、慰めにはならないと思ったからだ。彼は大切な友人を一人、失ったことには変わりない。僕が話したら、彼の心の傷をえぐってしまうかもしれない。
真実はときに人を傷つける。
僕は静かに首を振った。
「美沙ちゃんが目覚めてから、本人に真相を確かめてよ。僕のなんて所詮想像の範疇を超えないんだから」
僕は三つ目のドーナツに手を伸ばして言った。はるねちゃんは「……分かった」と答えて、台所の方に姿を消した。
こうして、はるねちゃんが持ってきた学校での事件の謎解きは、幕を閉じたのだった。
僕が言うと、はるねちゃんの頭の上にクエスションマークが浮かぶが見えた。もちろん、実際に見えたわけではなく想像だが。しかし、
「どういうこと? 飛び降りることと何の関係があるっていうのよ? それに、垂れ幕の裏を通って落ちたことも関係してるの?」
「もちろん。ところで、突然だけどはるねちゃん。これ、先代から聞いた話なんだけど、今、ちょうど君が立ってるところで、人が死んだんだって」
嘘だ。しかし、はるねちゃんは「え! 本当に!」と言って一歩ずれた。
「はるねちゃん、何で避けたの?」
「だって、言っちゃ悪いけど……気味悪いじゃない。人が死んだところに立つのって」
「美沙ちゃんはその心理を利用したんだと思う」
「どういうこと?」
「花壇に人が落ちたっていう事件が起これば、花壇に近づく人はいなくなる」
「確かに! けど、生徒全員を遠ざけたかった、とは思えないわ」
「僕もそう思うよ。だから、多分一部の生徒を排除したかったんだろうな」
「一部の生徒って?」
「不良くんたち」
僕の答えに、またもや彼女は首をひねった。
「確かに、不良は嫌だけど……、第一発見者がここで出てくるわけ?」
「じゃあ、質問。第一発見者の不良くんはどうして花壇にいたのかな?」
「どうして、って……偶然でしょ」
「目立たない場所の花壇に?」
「じゃあなんだっていうのよ」
「答えは簡単。不良くんたちは常にそこに集まる習慣があった。君の話によれば、『花壇でタバコ吸おうと思って』来てたわけだから、花壇は不良たちの溜まり場だったんだね」
そこまで言うと、はるねちゃんは一瞬考えるようなポーズをして、「ちょっと待ちなさいよ」と話を止めた。
「じゃあ、もしかして美沙ちゃんの悩みの種ってそれなのかしら?」
「うん、そうだとすると辻褄が合う。彼女が飛び降りたことも、場所も、動機も、不良を排すためだと考えると、話ができあがる」
動機に限っては、想像の範囲でしかない。だから、百パーセントの正解とは言えないけれど、これが僕の中で最もしっくりきた考えだった。
不良から花壇を守るために、花壇の土の上に身を投げて、事件を起こした。
これが僕の考える、事件の真相だ。
「……あたしにはできないわ。そんなこと」
「普通だったらできないよ。まして花のために命を危険にさらすなんて。だけど、彼女にはできた。彼女は花が大好きだったから」
「愛ゆえの、身投げってこと?」
僕は静かに頷いた。
僕からしてみれば、愛する花があるところに自分の身体を落とすなんて、本末転倒な感じがするが、美沙ちゃんにとってはそれが最大の対策だったのだろう。きっととても頭を悩ませて行動に及んだのだろうが、他にも選択肢はあったはずだ。愚か、だとまでは思わないが、愛が命よりも大切なわけがない。
命は、世の中で最も愛さなければいけないものだから。
「創真、明日、ちょっと付き合ってくれないかしら」
「え?」
「旭くんに話してほしいの。それが真相じゃないとしても、慰めくらいにはなると思うから」
僕は少し躊躇った。これを話しても、慰めにはならないと思ったからだ。彼は大切な友人を一人、失ったことには変わりない。僕が話したら、彼の心の傷をえぐってしまうかもしれない。
真実はときに人を傷つける。
僕は静かに首を振った。
「美沙ちゃんが目覚めてから、本人に真相を確かめてよ。僕のなんて所詮想像の範疇を超えないんだから」
僕は三つ目のドーナツに手を伸ばして言った。はるねちゃんは「……分かった」と答えて、台所の方に姿を消した。
こうして、はるねちゃんが持ってきた学校での事件の謎解きは、幕を閉じたのだった。
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