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愛するのにも一苦労 第2話
scene6 昼食と謎解きのてがかり
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そのあとも聞き込みを続けたが、有益な情報は得られなかった。
十何人目の聞き込みを終えたところで、ちょうどお昼の時間になった。せかく大学に来たのだし、学食でも食べて次に行こうという話になった。
八重坂大学の学食は安くて美味しいと評判らしい。はるねによると、学食を食べたいがためにオープンキャンパスに行ったり、施設見学に行ったりする人も少なくないという。僕は高校を卒業した後は探偵になるべく今の事務所で探偵助手をやっていたから、大学には行ったことがない。高校にも学食はなかったから、今日ここで食べる学食が初学食なのである。
入り口で食券を買い、中に入ってカウンターにいるエプロンのおばさんに券を渡すと、ちゃんと料理が出てきた。僕が頼んだのはからあげ定食。こんがり揚げられたからあげに、湯気があがる白いご飯、スタンダードな豆腐のお味噌汁。今にもよだれが垂れてくる。
ちょうど四人席のテーブルが空いていたので、そこに腰を掛けた。はるねちゃんは醤油ラーメンとプリン、夏治はトンテキ定食である。全員が揃ったところで食べ始めた。
うむ、からあげはいつでも裏切らない。外はこんがりした茶色なのに、中は百合の花のような白というのがたまらない。さくっとした衣に、ジューシーなお肉が美味い。ずっと口の中に留めておきたい。だが、それだけではない。からあげはご飯と一緒に食べても美味い。白米の味とからあげのジューシーさが絶妙にマッチして、完璧な味を作り出すのだ。からあげの油が残ってしまった白米も、素晴らしい味だ。
「情報は結構集まったんじゃねえか?」
夏治が切り出したのは、僕の定食が半分ほどなくなったときだった。夏治はすでに完食していて、聞き込み中に書き込んでいたメモを見ていた。
「どうだ? 分かりそうか?」
「うん、まだまとめてないから何とも言えない。けど、なんとなく分かったことがある」
「何だ?」
「二人の自殺理由は、多分、結婚が絡んでいるっていうこと。中谷さんも村田さんも周りに結婚について話していたらしいから、何か関係あるのかもしれない」
「中谷さんには高校のときにできた恋人がいたよね。それはどうなの?」
はるねが言う。
「そうだね、結婚だから彼女のことだと思っていいのかもしれない。慎重に調べてみよう」
中谷さんは彼女がいて、卒業後の結婚の話題もあった。普通に考えれば、自殺する理由はないのだが。
「村田ヒロムはどうなんだ? 誰に聞いてもいい人だったって言っていたな」
「そっちの方が疑問だよね。彼には自殺理由がない。友好関係も上手くいっていたようだし」
「友好関係って言ったらさ、中谷さんと村田さんってすごく仲のいい友達で互いの家に泊まったりする仲なんだよね。でもさ、一緒に同じ場所で死のうなんて思うかな? そういうときって『死んじゃだめだ!』みたいに励ましたりするものじゃないのかな? あたしが二人の立場だったらそうするかな」
「何が言いたいの?」
「つまりね、二人には共通の理由があったんじゃないかってこと。ほら、遺書にも『僕たちは二人でいられる』って書いてあったじゃん。あの『僕たち』って中谷さんと村田さんのことだとは考えられない?」
考えられなくもない。しかし、そうなると『二人でい』たい理由が分からない。大学も同じで、学部も同じで、互いに泊まりに行くこともある二人が、これ以上一緒にいたいと思う理由はなんだろうか。なんだか恋人みたいじゃないか。
「ま、次に行けば何か分かるかもしれねえよ」
「そうだね」
「次に行こう!」
話が終わる頃にはちゃんと完食した。とても美味しかったぞ、からあげ定食。これ目当てでオープンキャンパスに来る人の気持ちが今ならよく分かる。
返却口に食器を全てさげて、食堂を出た。太陽が南中して肌がじりじり焼かれるのが分かる。身体の穴という穴から汗が噴き出してくる。
昼時になったからか、多くの学生が吸い込まれるように食堂へ入っていく。これからがピークの時間らしい。そんな時間に出てこられたなんて、ラッキーだ。
「ねえねえ、創真」
校門に歩いていく途中、はるねちゃんが南校舎の方に指を差して話しかけてきた。
「大学に入ったら、ああいう人たちが増えるのかしら」
指を差した先にいたのは、一組のカップルだった。遠いから顔はよく見えないが、話しているらしいことは分かった。
「どうだろうね。増えるんじゃない?」
「うわあ、大学進学する気、少し失せた」
はるねちゃんは気持ち悪いものを見たかのような顔をしながら、腕をさすり始めた。
「どうしたの?」
「だってさ、さっきのカップル、白昼堂々キスしてたのよ。人目も気にせずディープキスだよ! あーあ、嫌なもの見ちゃったわ! やるなら建物の陰でやれっての! もう!」
それはきつい。気持ち悪い顔をするのもよく分かる。大学生が真っ昼間から場所をわきまえずキスだなんて、誰でも引く。
そこで僕は立ち止まる。
――この方法なら、自殺できないこともない。
「どうしたの? 早く行くわよ」
そう言いながら、はるねちゃんが服の裾を引っ張ってくる。
――――待て。見つけたかもしれないんだ、解決への糸口を。
僕は夏治に言う。
「謎が解けた」
十何人目の聞き込みを終えたところで、ちょうどお昼の時間になった。せかく大学に来たのだし、学食でも食べて次に行こうという話になった。
八重坂大学の学食は安くて美味しいと評判らしい。はるねによると、学食を食べたいがためにオープンキャンパスに行ったり、施設見学に行ったりする人も少なくないという。僕は高校を卒業した後は探偵になるべく今の事務所で探偵助手をやっていたから、大学には行ったことがない。高校にも学食はなかったから、今日ここで食べる学食が初学食なのである。
入り口で食券を買い、中に入ってカウンターにいるエプロンのおばさんに券を渡すと、ちゃんと料理が出てきた。僕が頼んだのはからあげ定食。こんがり揚げられたからあげに、湯気があがる白いご飯、スタンダードな豆腐のお味噌汁。今にもよだれが垂れてくる。
ちょうど四人席のテーブルが空いていたので、そこに腰を掛けた。はるねちゃんは醤油ラーメンとプリン、夏治はトンテキ定食である。全員が揃ったところで食べ始めた。
うむ、からあげはいつでも裏切らない。外はこんがりした茶色なのに、中は百合の花のような白というのがたまらない。さくっとした衣に、ジューシーなお肉が美味い。ずっと口の中に留めておきたい。だが、それだけではない。からあげはご飯と一緒に食べても美味い。白米の味とからあげのジューシーさが絶妙にマッチして、完璧な味を作り出すのだ。からあげの油が残ってしまった白米も、素晴らしい味だ。
「情報は結構集まったんじゃねえか?」
夏治が切り出したのは、僕の定食が半分ほどなくなったときだった。夏治はすでに完食していて、聞き込み中に書き込んでいたメモを見ていた。
「どうだ? 分かりそうか?」
「うん、まだまとめてないから何とも言えない。けど、なんとなく分かったことがある」
「何だ?」
「二人の自殺理由は、多分、結婚が絡んでいるっていうこと。中谷さんも村田さんも周りに結婚について話していたらしいから、何か関係あるのかもしれない」
「中谷さんには高校のときにできた恋人がいたよね。それはどうなの?」
はるねが言う。
「そうだね、結婚だから彼女のことだと思っていいのかもしれない。慎重に調べてみよう」
中谷さんは彼女がいて、卒業後の結婚の話題もあった。普通に考えれば、自殺する理由はないのだが。
「村田ヒロムはどうなんだ? 誰に聞いてもいい人だったって言っていたな」
「そっちの方が疑問だよね。彼には自殺理由がない。友好関係も上手くいっていたようだし」
「友好関係って言ったらさ、中谷さんと村田さんってすごく仲のいい友達で互いの家に泊まったりする仲なんだよね。でもさ、一緒に同じ場所で死のうなんて思うかな? そういうときって『死んじゃだめだ!』みたいに励ましたりするものじゃないのかな? あたしが二人の立場だったらそうするかな」
「何が言いたいの?」
「つまりね、二人には共通の理由があったんじゃないかってこと。ほら、遺書にも『僕たちは二人でいられる』って書いてあったじゃん。あの『僕たち』って中谷さんと村田さんのことだとは考えられない?」
考えられなくもない。しかし、そうなると『二人でい』たい理由が分からない。大学も同じで、学部も同じで、互いに泊まりに行くこともある二人が、これ以上一緒にいたいと思う理由はなんだろうか。なんだか恋人みたいじゃないか。
「ま、次に行けば何か分かるかもしれねえよ」
「そうだね」
「次に行こう!」
話が終わる頃にはちゃんと完食した。とても美味しかったぞ、からあげ定食。これ目当てでオープンキャンパスに来る人の気持ちが今ならよく分かる。
返却口に食器を全てさげて、食堂を出た。太陽が南中して肌がじりじり焼かれるのが分かる。身体の穴という穴から汗が噴き出してくる。
昼時になったからか、多くの学生が吸い込まれるように食堂へ入っていく。これからがピークの時間らしい。そんな時間に出てこられたなんて、ラッキーだ。
「ねえねえ、創真」
校門に歩いていく途中、はるねちゃんが南校舎の方に指を差して話しかけてきた。
「大学に入ったら、ああいう人たちが増えるのかしら」
指を差した先にいたのは、一組のカップルだった。遠いから顔はよく見えないが、話しているらしいことは分かった。
「どうだろうね。増えるんじゃない?」
「うわあ、大学進学する気、少し失せた」
はるねちゃんは気持ち悪いものを見たかのような顔をしながら、腕をさすり始めた。
「どうしたの?」
「だってさ、さっきのカップル、白昼堂々キスしてたのよ。人目も気にせずディープキスだよ! あーあ、嫌なもの見ちゃったわ! やるなら建物の陰でやれっての! もう!」
それはきつい。気持ち悪い顔をするのもよく分かる。大学生が真っ昼間から場所をわきまえずキスだなんて、誰でも引く。
そこで僕は立ち止まる。
――この方法なら、自殺できないこともない。
「どうしたの? 早く行くわよ」
そう言いながら、はるねちゃんが服の裾を引っ張ってくる。
――――待て。見つけたかもしれないんだ、解決への糸口を。
僕は夏治に言う。
「謎が解けた」
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