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忘れたい愛ほど、深い愛 第一話
scene6 一件目の現場検証とカメラの映像
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一件目の事件は、約一か月前の十月二日に起こった。被害者は中村汰月、依頼人の愛する旦那さん。殺害方法は刺殺、ニュースでは心臓を刺されたことによる出血性ショック死であると報道されていた。凶器は発見されていないとされているが、殺害方法から考えてきっとナイフの類だろう。犯人が持ち去ったのかもしれない。
現場は楓が丘の路上、閑静な住宅街のど真ん中である。発生時刻は午後九時十六分頃、ニュースで確認した。今は昼間だから明るいけれど、夜なら真っ暗だ。現場の近くに防犯カメラはない。現場の周りは家ばかりだから当然だ。家によっては玄関にカメラを設置させている家もあるようだが、この辺りの家には見られない。あったとしても、真っ暗で何も見えないだろうが。
「こりゃあ、てこずりそうだね。カメラさえあれば、なんとかできたんだけど……」
「足を使って地道に調べましょう」
まずは住宅街を端から端まで歩いてみよう。警察の規制線がないため、現場がはっきりと分からない今、現場とされる範囲を調べてみるのがいいだろう。
とりあえず、住宅街の入り口まで戻ってきた。現場となった住宅街は〈いろはレジデンタルエリア〉というらしい。入り口の石板に書かれてあった。聞いたことがない。
それを察したように菜々穂さんが説明する。
「ここはセレブが暮らす有名な住宅街だよ。芸能人が住んでるって有名で、一時期はファンやらなんやらでごった返して問題になったりしたかな」
「そんなこと、あるんですね」
「そりゃあもう大変な騒ぎで、自衛隊まで出動しちゃってさ。私、ネットに流れた映像で散々見たけど、コンサート当日のコンサートホール前みたいな感じだったよ」
有名人が住む住宅街か。ここでの通り魔事件は一件しか起こっていない。もっと起こってもおかしくない。
入り口から数メートル進んだところが事件現場だ。もっとも、何も目印がないから大体の位置だが。
「住宅街には防犯カメラってないんでしょうか?」
「いや、あるよ。さっきの入口と、中央部にあるちっちゃな公園にあるだけで、他はなかったよ」
「じゃあ、防犯カメラの映像調べましょう。ハッキング、お願いできますか?」
「別にいいけど、意味ないと思う。住人が犯人だった場合、映ってないから」
「それでも損にはならないと思います」
「分かった。一応やってみる」
菜々穂さんは鞄からノートパソコンを出して、キーボードを叩き始めた。そして、数分後。
「これが、カメラの映像。撮影時刻は犯行時間の少し前、午後九時」
予想通り真っ暗だ。映像は早送りで、時間が進んでいく。しかし、一向に人が現れない。十分が経つと、やっと誰かが来た。……と思えば、警備員だ。こっちに指を差すと、どこかに行ってしまった。
「カメラの確認みたいだね」
カメラの映像に戻る。そのあと、人は現れず時刻は事件発生十分前になった。ここでようやく一人の男性が通った。スーツで鞄を持った、サラリーマンだ。彼が映ったところで、映像を止めた。
「これ、汰月さんですかね」
「その可能性は高いね。拡大鮮明化して、照合してみる」
「そんなことできるんですか?」
「誰だと思ってるの? 私は天才ハッカーだよ。こんなの、ちょちょいのちょい!」
菜々穂さんはまたキーボードを操作すると、スーツの男の横顔がはっきりと映し出された。次に、ニュース記事からとってきた汰月さんの顔写真を映し出して、照合した。
「一致率、九十八パーセント。被害者で間違いない」
つまり、事件発生の直前に被害者は帰宅しようとしていた。実際に家に帰ったかどうかは分からないが、住宅街に帰ったことは間違いない。
「今はこれくらいしか分からない。あとはもっと分析してみないと」
「そうですか。でも、今のところ、これくらいで十分です」
「お役に立てて光栄だよ」
こうして、僕たちは足を使った調査を終えた。
続いての調査は聞き込みだ。内容は『午後九時から午後十時までの間、大きな音や声を聞いたか』だ。二人で手分けして行ったが、これと言って役立つような情報は得られなかった。悲鳴を聞いた者もいなかったし、何かを見たという者もいなかった。
現場は楓が丘の路上、閑静な住宅街のど真ん中である。発生時刻は午後九時十六分頃、ニュースで確認した。今は昼間だから明るいけれど、夜なら真っ暗だ。現場の近くに防犯カメラはない。現場の周りは家ばかりだから当然だ。家によっては玄関にカメラを設置させている家もあるようだが、この辺りの家には見られない。あったとしても、真っ暗で何も見えないだろうが。
「こりゃあ、てこずりそうだね。カメラさえあれば、なんとかできたんだけど……」
「足を使って地道に調べましょう」
まずは住宅街を端から端まで歩いてみよう。警察の規制線がないため、現場がはっきりと分からない今、現場とされる範囲を調べてみるのがいいだろう。
とりあえず、住宅街の入り口まで戻ってきた。現場となった住宅街は〈いろはレジデンタルエリア〉というらしい。入り口の石板に書かれてあった。聞いたことがない。
それを察したように菜々穂さんが説明する。
「ここはセレブが暮らす有名な住宅街だよ。芸能人が住んでるって有名で、一時期はファンやらなんやらでごった返して問題になったりしたかな」
「そんなこと、あるんですね」
「そりゃあもう大変な騒ぎで、自衛隊まで出動しちゃってさ。私、ネットに流れた映像で散々見たけど、コンサート当日のコンサートホール前みたいな感じだったよ」
有名人が住む住宅街か。ここでの通り魔事件は一件しか起こっていない。もっと起こってもおかしくない。
入り口から数メートル進んだところが事件現場だ。もっとも、何も目印がないから大体の位置だが。
「住宅街には防犯カメラってないんでしょうか?」
「いや、あるよ。さっきの入口と、中央部にあるちっちゃな公園にあるだけで、他はなかったよ」
「じゃあ、防犯カメラの映像調べましょう。ハッキング、お願いできますか?」
「別にいいけど、意味ないと思う。住人が犯人だった場合、映ってないから」
「それでも損にはならないと思います」
「分かった。一応やってみる」
菜々穂さんは鞄からノートパソコンを出して、キーボードを叩き始めた。そして、数分後。
「これが、カメラの映像。撮影時刻は犯行時間の少し前、午後九時」
予想通り真っ暗だ。映像は早送りで、時間が進んでいく。しかし、一向に人が現れない。十分が経つと、やっと誰かが来た。……と思えば、警備員だ。こっちに指を差すと、どこかに行ってしまった。
「カメラの確認みたいだね」
カメラの映像に戻る。そのあと、人は現れず時刻は事件発生十分前になった。ここでようやく一人の男性が通った。スーツで鞄を持った、サラリーマンだ。彼が映ったところで、映像を止めた。
「これ、汰月さんですかね」
「その可能性は高いね。拡大鮮明化して、照合してみる」
「そんなことできるんですか?」
「誰だと思ってるの? 私は天才ハッカーだよ。こんなの、ちょちょいのちょい!」
菜々穂さんはまたキーボードを操作すると、スーツの男の横顔がはっきりと映し出された。次に、ニュース記事からとってきた汰月さんの顔写真を映し出して、照合した。
「一致率、九十八パーセント。被害者で間違いない」
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「今はこれくらいしか分からない。あとはもっと分析してみないと」
「そうですか。でも、今のところ、これくらいで十分です」
「お役に立てて光栄だよ」
こうして、僕たちは足を使った調査を終えた。
続いての調査は聞き込みだ。内容は『午後九時から午後十時までの間、大きな音や声を聞いたか』だ。二人で手分けして行ったが、これと言って役立つような情報は得られなかった。悲鳴を聞いた者もいなかったし、何かを見たという者もいなかった。
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