王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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いつもと変わらない日常。
だが、どんな場所にでも事件は突然湧いてくるものである。

「レッド、最近の噂話知ってます?」
盛り付けられたサラダにフォークを差しながら話題を振るリベルテ。
「ん? 事件じゃなくて?」
レッドは串焼きの肉を頬張りながら返事を返す。

「事件ですか? あぁ……女性が殺されたってやつですか」
「反応が悪いのは場所が場所だからか? まぁ、それだ。娼妓館がある方面で働いていた女性が切り刻まれてたってやつだ。ひでぇ話だよ」

「それ、何人目ですか?」
リベルテは赤いトートの実にフォークを突き刺しながら、犠牲者の数を確認する。
「もう4人目ってことになるな……」
食べ終わった串を皿の上に置いて、レッドは天井に視線を向ける。
朝の楽しい食事の時間であるが、いきなり気分が暗くなる話である。

「んで、そっちの最新の噂ってのは?」
「いえ、こっちも楽しい話じゃないんですどね。包帯だらけの男が女性に声を掛けて、無視したり逃げたりすると、何か言って去っていくんだそうです。ちなみに受け答えした人の中には、銅貨数枚くれたというのもあったらしいのですが」
「不気味な奴だが、話をしたらはした金でも貰えるってのはいいもんだな」
レッドは気楽な表情に戻し、白湯を飲む。朝から酒は動きが鈍るため、白湯を飲むようにしている。

「といっても不気味なことに変わりませんよ。しかも夜の薄暗い場所で突然ですよ? たいていの女性は逃げますって」
サラダを食べ終わり、同じように白湯を飲むリベルテ。

「んで、それをわざわざ話に出すってのは、なんかあるのか?」
何気ない話題でもこうやって朝に話をするには意味がある。
彼らは冒険者である。
日々の些細な情報でも手に入れていないと、依頼の見極めが出来ず、実は……なんてこともありえるのだ。
たいていの冒険者は4人以上でチームを組んでいて、大きいところだと戦闘する班と情報収集をする班といった具合に役割を決めてやっているところも存在する。
人が居ればそれだけ情報を集めやすく、役割分担がなされていれば相応に動けることになるので、信頼できる情報を元に行動できるのである。
なので、依頼を受けたものの採取時期が違うため達成不可能だとか、採取に行ったもののモンスターの縄張りになっていて、と言う話は冒険者なりたての新人や少人数のチームで情報収集を怠るようなものに多い。

「事件のことがありますから、関係があるんじゃないかと。それにレッドはこういうことに首を突っ込む性格でしょう? もっと楽にお金を稼ぎたいものです」
頬杖を付いてレッドをジロリと睨む。
「この王都が好きなんだ。ここを住みづらくするようなものは放っておけないだろ。
 金については、頑張るよ……」
お金が絡むと女性にかなわないもので、独り身の冒険者がよく言う常套句に、女性と組むと男性の肩身は狭い、というのがある。
独り身と金のどちらが良いかは、両方を体験したものにしか分からないだろう。

「よう、レッド。相変わらずリベルテさんに頭が上がらないな」
そんな二人に一人の男性が声をかける。
「うっさいですよ、マークさん。最近、張りきって依頼こなしてるって聞いてますよ」
「マークさん、おはようございます」
「おうよ、遣りたいことが出来てな。リベルテさんは相変わらず美人だねぇ」
マークはこの冒険者ギルドでも中堅どころにいる中年の男性である。
中堅どころといっても強いかといわれればそんなでもなく、弱いかといわれるとそんなことはない、という感じである。
長いこと冒険者を続けていて、長年組んでいるチームがあり、採取の依頼から討伐まで幅広く行っているため、人々からの人気が高い。
レッドもそうなりたい目標の男であるのだ。
もちろんレッドから話しかけていて、マークから「俺より強い奴はたくさんいるんだ。そっちに憧れろ」と笑い飛ばされて、今の関係に至っている。

「んで、わざわざマークさんがやりたいことってなんですか? 気になるじゃないですか」
レッドにしては丁寧な口調に、一緒に居るリベルテは苦笑している。

「んあ~、まぁな。あんま大声で言えないんだが、ちょっと身請けしようかな、ってな」
身請けとは、先に出た娼妓館で働く女性を買い取るということである。
娼妓館で働く女性というのは、自ら選んだという人もいないではないが、親に売られてきた人が多い。
女性であることを売りにしたこの手のものは、どんな国であっても存在しないことはない。
人の欲を満足させるための場所というのは、治安面であったり、税収の面であったり、とにかく必要なものなのである。
だが、そういった場所で働く女性は、心であったり身体を病んでしまうことも多く、娼妓館は如何に人を揃えるかに悩みを持っている。
常時募集しているところもあるが、客を選ぶような場所では客の情報を出さないように、だれでも募集というわけには行かない。
ということから、人を買うことがあるのだ。売られてくるのは当然ながら若いうちのため、買い取って教育してから客に出すのだ。

子どもを売るということは多くはないが、少ないとも言えない。
生活に困って子どもを捨てるということもあるが、その子どもを売ることで残った家族の生活ができる、とあれば身売りを選ぶ場合がある。
酷い例では、夫が自身の生活のために娘や妻を売るという話もあるが、取り締まると娼妓館の働き手が入らなくなるため、処罰するはずの法は暗黙として制定されていない。

そして、自ら働くことを選択した女性でなければ、その店がお金を出して買った身であるため、辞めるのであれば相応のお金を店に払う必要があるのだ。

「身請けってことは、そういう事情の相手ですか。またマークさんらしいというのかなんというか」
「いやな、そこまで考えていなかったわけでもないんだが、最近事件が多いだろ。そういった店で働いている人が対象になってるらしいからな。それなら……てな。ハハ」
自身の年齢もあり、身請けするということはその相手と所帯を持つということでもあり、多々ある理由にマークは照れていた。
女性のために多額のお金を稼ぎ、引き取るというのだから、そうとう入れ込んでいるのがわかる。
もしかしたら年齢が結構離れている相手かもしれないが、祝福したいと思う二人はその姿に笑みがこぼれる。

「それで、何時ごろ迎えに行かれるんですか? その相手ってやっぱり綺麗な方なんですか? チームのほかの人も知ってるんですよね?」
この手の話になれば食いつきがいいのは女性の方だ。
リベルテが身を乗り出して、根掘り葉掘り聞こうとし、その勢いにすでにマークはたじたじである。

「ほ、他のやつらが協力してくれてな。今日、話をつけてくる。あいつらに頭が上がらんよ。済んだら奴らに恩返ししないといけねぇわ」
気おされながら答えているが、マークの顔も笑顔である。長い期間組んでいる仲間も協力していることからも、信頼が見て取れる。
長い期間付き合えば、相手の悪いところが目に付いたり、ぶつかり合うことも少なくない。解散したり分裂するチームの話は絶えることが無いのだから、仲間のことに協力し合えているマークのチームは、非常に良好な関係を続けられているチームの証左である。

「そうなんですか! 今度会わせてくださいね!」
楽しみで仕方ないといったリベルテだが、マークが入れ込むほどの相手ということでレッドもまた会ってみたいと思っていた。

「ハハッ。おうよ、自慢してやるわ。でもまぁ、お手柔らかに頼むよ。そんじゃな」
言うだけ言って逃げるように店を出て行ったマークを2人は見送る。

「なんかいい話だったな」
「そうですねぇ。いい話ですよ~」
暗くなっていた雰囲気はもう跡形も無く、気分を新たにした二人。

「んじゃ、なんか祝い出せるように稼ぎに行くか」
「買い物の時間も欲しいですから、遠くに行くものや長丁場になりそうなのはできませんね。でもそれだと数こなさないとお金にならないですねぇ……」
「とりあえずやれるもんやれば十分だろ。それに無理して高いもの買っても、あの人は受けとらねぇさ」
「そういう人ですからね」
やる気に満ちた二人のギルドに向かう足は、少しずつ早くなっていた。
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