王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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太陽が高く昇り、陽射しが暑いと思えるようになってきた。
一人の女性が買い物途中だったのだろう荷物を抱えながら、普通に歩いている人たちより早足で急いでいた。
そして家に着くなり中へ駆け込む。
「レッド! 大変です!」
駆け込んできたのはリベルテ。
そのリベルテを迎えたのは二人。
一人は机に突っ伏しており、一人は部屋の陰の方でうずくまっていた。
「暑いです……。今日、気温高くないですか……?」
突っ伏していたのはマイで、ひっそりとうずくまっているのはタカヒロである。
「あら? レッドは?」
「さぁ~、さっきふらっと出て行ったような……」
「なんか連絡があったとかで急に出て行きましたけど」
うずくまっているだけでマイに比べれば暑そうにしていなく、わりと元気そうである。
「そうですか……。かなり大きい情報でしたので、早めに情報共有しておきたかったのですが。あ、メーラを買ってきたので果実水にするのですが、いりますか?」
「はいはいはい。お願いしますっ!」
暑くてだれていた身であれば、飲み物はほしいものである。
ましてや、甘い物は多くない。モデーロ侯爵領で砂糖が作られているが、王国領内すべてに行き届くほどなんて無理である。
であれば、果実そのものであったり、それを利用したものを拒否するわけがない。

「はい、どうぞ」
リベルテが作ってくれた果実水に早速と手をつけて一口飲むが、微妙な顔をする。
メーラの香りと甘みと酸味。
暑くなってきている時期にはとてもいいと思われるのだが、冷えていないためだ。
買ってきて作ってもらっているので文句は言えないのだが、こう暑いと冷たいものが飲みたくなるのは仕方ないだろう。
冷えてたらもっと美味しいだろうなと思いは止められない。

「ぷはぁーっ! 生き返るねぇ」
一方のタカヒロはとても美味しそうに飲み干していた。
同じものでも他の人の方が美味しそうであるのは、なんとも納得がいかないもの。
「なんかしたでしょ?」
剣呑な目つきである。食べ物の、これは飲み物であるが、怨みは恐ろしいものになる。
「あ。え、いや。甘くて美味しいよね~。ハハハ」
ゆっくりと出口方面に体を向けてタイミングを見て逃げ出そうとするタカヒロであるが、そもそも捕まえて吐かせようとしている相手から逃げるのは至難である。
「同じの飲んでるはずなのに反応違いすぎでしょ! 絶対なんかした。してる。何したか言いなさい。そして私にも!」
両肩を掴んでガックンガックンと揺らされて、タカヒロは話すこともままならない。
「マイさん。ちょっと離してあげたほうが……」
リベルテがタカヒロの惨状を見て止めるが、すでに遅かった。
マイが手を離したときには、暑さと頭を激しく揺らされたことでノックダウンしてしまった。
暑い中、無駄に動いて余計に暑くなってうなだれるマイと本当に具合悪く倒れているタカヒロが出来上がっただけとなる。

「……うおっ!? なんでこんなとこで倒れてるんだ? 踏むぞ?」
そこにタイミングよく帰ってきたのはレッドである。
踏むぞ? と言っているが、すでにタカヒロを軽く踏んでいる。踏んだことでそこに倒れていることを知ったのだ。
「レッド、メーラの果実水作ったのですが、いりますか?」
「……いや、いい。それより話があるんだが、いいか?」
「わかりました」
レッドの深刻そうな声にヨロヨロとタカヒロは体を起こし、マイは背筋を伸ばしてそれぞれ椅子に座る。

「あの、レッド。先に私からよいですか? ただの報告なので」
「ああ、情報は大事だ。こっちも関わるかもしれないし、頼む」
「はい。ナダ王国が滅びました」
「「「は?」」」
ただの報告と言いながら、リベルテが告げた内容は衝撃的だった。
オルグラント王国から北に一国を挟んである国、ナダ王国。
同じく北側にあるシアロソ帝国に小国ながら武力で持って対抗し続けていた国であり、この国があったからこそ、南側であるオルグラント、アクネシア、グーリンデそれぞれの国が、小競り合いし続けられていたとも言えたほど、重要な国であった。
この国が無くなってしまえば、次は南側に進軍してくることなどわかりきったことであるからだ。

「市場でそれとなく話を拾っていたのですが、さすがは利に聡い商人の方々ですよね。次は南側に向かってくるだろうと、今から食料や鉱石といった類を確保しておこうという話が出てましたし、それらしい動きも見せていましたから」
「あれ? その国、強い人が多かったんじゃなかった? それにすっごく強い人もいたって言ってましたよね?」
屈強な戦士が多いと言われるナダ王国に、それらの戦士以上に力が強く、動きも早く、力自慢の男が殴りかかってもビクともしないという化け物とも言える男が現れたらしいという話である。
これだけ聞けば、この男一人で軍勢を追い返したり、散らしたりできてしまいそうにも思える。
「それなんですが……その方が居たからこそ、壊滅となってしまったみたいで」
「そいつが帝国側についたのか?」
そんな男が居て負けた、のではなく居たために負けたとなれば、敵側に付いたと考えるのが普通である。

「その方は亡くなったそうです。それも開戦してすぐに」
レッドは口をぽかーんと開けてしまう。開いた口が塞がらないというやつである。
「なんでそんなことに?」
「詳しいことはなんとも……。話を伝え聞くしかないので」
情報を如何に正確に早く集めるかが大事なものではあるが、各地に情報の根を持つなど、一介の冒険者になどありはしない。
国が、有力な貴族がなんとかやっているだろうが、送られてくるほうは防ぎたいわけで表で裏で攻防が繰り広げられているわけで、情報の精度というのは推して知るべしである。
凄腕の諜報員が存在するか限られた情報から真実を見抜きだす頭のどちらかでもない限り、おおまかにでもわかればいいくらいとなる。

「すごく強いって人がいきなりやられたら……大混乱だろうねぇ」
「その強さを目標にしてた奴は何も信じられなくなるし、そいつにやられたことがある奴は自分を見失うわな」
そんなにあっさりやられてしまうと、それに負けた自分はなんなんだと思うだろう。
そして、そんな人を倒した相手はそれより強いか、化け物じみた人を倒せる武器を持っているということを思えば、恐れや諦めにつながり、戦うことなどできなくなってしまう。

「リベルテ、助かった。先に知っておくと気の持ちようも変わるからな」
「それじゃあ、次はレッドさんの話?」
リベルテからの報告は終わったと、次を促すマイ。
暑い中、じっと真面目な話を聞き続けるのは、集中力が持たないものだ。
早く何とか涼みたい身としては、こういった話は早く終わって欲しいものである。

「あぁ……。例の薬を作ってるらしい奴の情報が入ったんだ」
「あ~、あの薬ですね。え? 作ってる人わかったんですか?」
現実の境目を見失わせてしまう薬。
人の心に付け込む売り方で、それを使うことで思考が極端になってしまうのか何も見えなくなってしまうのか。
亡くなった人や壊れたように呆けてしまう人が結構な数になっている。
レッドたちが何度か売人を潰してきたが、それでもなおそういった人が後を絶たない。

「最近出回っていたヤツは今までだれも見たことがないヤツだ。どこから手に入れたとか、誰が作ったとかどっかこっかで追えるもんなんだが、今回のはなかなか追えなかったらしい」
「でも、見つかったんですよね?」
「ああ。見つからなかった理由だが、予測が大きく違っていたかららしい。というのも、あの薬は結構な手間暇をかけなきゃ作れない代物らしいんだ。だから、それなりの設備や人がいるところだと考えて探していたらしいんだが、さっぱり見つからない。そこで切り口を変えて、ここ数年の間で出入りした人を追うことにした。かなりな量の帳簿から探したそうだ」
「そこまでやったのすごいですね……」
「本当に頭の下がることだ。それで作ってるらしいヤツは一人だけらしい。該当したのが一人ってのあるが、作ってるのも一人ってことだ」
「すごい行動力だね。結構稼いでるのかな?」
「感心してほしい話じゃないんだがな」
一人で物を作って、売って回っていると聞けば、相当な行動力だ。
ただ作って売っている物が物だけに、とても褒められた話ではない。

「そういや、そんな話をどうして教えてもらったんですか? わかったならその人が捕まえるなり、国に言えばいいじゃないですか」
そうわざわざレッドにそんな情報を渡さなくていいのだ。自分で捕まえて突き出せば報酬が出るし、国に届け出ても情報料としてもらえるのだから。
そこに疑問を持つのは当然である、
「あぁ、それは俺が雇ったからだ」
だが答えは簡単。その調査を依頼した人間だからである。
「え? その人、懸賞金でも付いてるんですか? それともそこまで重要視されてるとか?」
わざわざ調査する人を雇うことなど、一冒険者ではありえない。
そもそもに依頼する金額が高い。安いところなんてとても信用できるはずがないのだ。
安いと言うことはそれだけ何かを削っているわけであり、人の数や質を削っていれば情報の確度などあってないようなものになる。
当然高いところは自身であったり抱えている者の質を安売りなどするわけがないため、グンと跳ね上がる。
その情報が自身の名誉や利益に関わるのであれば、国などは動けるだろうが、日々の生活をどうするかになる冒険者となれば、掛けた金額以上の収益が入らないとやれるわけがないのだ。

「あ~、作ってるものが物だけに国に出せばそれなりの額が貰えるだろうが、稼ぎにはならんなぁ。払った額の方がでかいだろうよ」
「なんでそんなことするんですか!」
それぞれの稼ぎのほとんどは自身で使えるようにしているとは言え、家を維持していくために共同で出し合っているお金もある。
マイとタカヒロに至っては、レッドとリベルテのチームの一員扱いではあるが、正式に所属しているわけではないし、またリベルテの家に好意、思惑もあるが、によって住まわせてもらっているだけに宿代も含めて渡している。
すなわち、レッドが払った依頼料の中にマイたちのお金が含まれているのである。
そのお金があればもう少し、この家で過ごしていく上で快適にできるようなものを買えるかもしれないし、食事や飲み物にしても良く出来たかもしれないのだ。
普段はタカヒロにしかしていない行動をとっても仕方がないかもしれない。
レッドの肩を掴んでガクガクと揺さぶる。
「ちょ、お、おちつ、け。りゆうが、ある」
レッドとしても滅多にない経験にどう対処してよいかわからないが、ひとまず弁明を図る。
いつもなら助けてくれそうなリベルテであるが、なにやら思案中な様子で助けてくれそうになかった。
もっとも、害がないと分かっているからというのもある。やられている方としては害しかなく、ひっそりと心の中でタカヒロにはもう少し優しくしようと思うレッドであった。

「うえぇっ……。気持ち悪い……」
解放してもらったものの、頭を揺らされるというのは気持ちのいいものではない。
こみ上げてくる吐き気を堪えながら、気持ちを落ち着けているが、先を促すマイの目つきが怖い。暑さもあっていつにもなく気が立っているのである。
「レッド。その相手はマイさんたちに関わりがある、のですね?」
ですか、ではない聞き方。断定の確認である。
リベルテの言葉に慌てたのはもちろん、名前にだされたマイである。
「ええええ? ちょっとそんな人知りませんよ。そんなの作る人に心当たりなんてありません。レッドさんを揺さぶったのは悪かったですけど、だとしても酷くないですか!?」
今度はリベルテに掴みかからんとするマイであったが、その状況を静かにさせた人が居た。

「レッドさんたちはだいぶ前から気づいてたのはわかってたから、そういうことなんだろうねぇ。僕らと同じ世界の人ってことでしょ? だいたいこの世界に無いものを作り出すなんて僕らみたいな人がほとんどだろうし」
「え? タカヒロ君?」
タカヒロの発言にリベルテの肩をつかんでいた手を下ろし、タカヒロの方を見る。
「やっぱり前の討伐のときが原因かな? あれはちょっとやりすぎたよねぇ」
「タカヒロ君!」
「いや、もうこの二人はわかってるから、話をした方が早いでしょ。レッドさんたちは信じられそうだし、少なくとも変に利用されることはなさそうだし、捕まるとか殺されることもないと思うよ」
「さすがにそれはしない。もしそうするのであれば、ここまで一緒に居たりはしないしな」
「だよねぇ。信頼させてから~ってのもあったけど、レッドさんからはむしろこっちを守ろうとしてたところあったからね。うん、わかってた通り、僕らは元々この世界の人じゃない。レッドさんたちが言ってた言葉から推測すると、『神の玩具』って呼ばれてるのかな。いい気はしない言葉だけどね」

陽射しは陰ることなく天辺を折り返したが、まだまだ気温は暑い。
だが、リベルテの家は今少しだけ気温が下がているようだった。
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