44 / 214
44
しおりを挟む
「ピクニックに行きましょう!」
朝ごはんを食べ終わり、食後のまったりとした時間をマイが打ち破る。
仕事に行こうとしていた者、ゆっくり寝ようとしていた者、あぁそんな話してましたねと納得する者、皆がマイを見やる。
働かないと余裕な生活できないのに何言ってんだ、と。
何めんどくさいこと言い出してんの、と。
あぁ、そういえばそんなこと話してましたね、と。
それぞれが口には出していないが、その表情が物語っていた。
3人にじっと見られたことにたじろぎはしたものの、マイは一切退かない。強い意志を持っていた。
「あのな……冒険者ってのは稼げるときに稼がないと生活できなくなるんだぞ? 依頼もいつまであるかわからのだ。この前ので少しは稼いだが、討伐なんてでっかい依頼じゃないんだ。そんなに余裕ないぞ?」
冒険者は受け皿的な側面を持った職であり、多くの依頼は雑用といった人手が足りない、必要としているところの手伝いになる。
怪我や最悪死ぬかもしれない討伐の依頼というのは報酬が高いものではあるが、頻繁にでてくるようなものではない。そんな依頼が溢れているとしたら、そもそも人が生活圏を広げられはしない。
冒険者が倒して回るというのであれば、そもそもの報酬額はぐっと落ちることだろう。
「だとしても、今日一日くらい休んだところで変わらないでしょ? リベルテさん、病み上がりですし。何よりリベルテさんと行こうねって話してたんですから!」
「ならしょうがねぇか」
リベルテの名前を出すとあっさりと前言を撤回して、ピクニックに行くことに納得するレッドに、タカヒロがものすごい顔をする。
「タカヒロ君は不参加? なら代わりに仕事してきてよ」
「いやぁ、今日は絶好のピクニック日和だよねっ!」
みんなが遊んでるなか一人働くなんて、これほどまでに楽しくないことはない。
元より依頼を受けに行くより、ゆっくりと寝てよっかなと考えていた者としては、仕事に行かないのであれば拒否するつもりはなかった。
「それじゃあ、準備しないとですねぇ」
「はいはい、それじゃあみんな準備していくよ~!」
マイの掛け声でワタワタと持っていく食べ物、飲み物なんかの準備に動き出すこととなった。
ここしばらくの天気は良く、暖かな日差しとほどよく吹く風が気持ちの良いものだった。
リベルテを先頭に、リベルテが知っていると言うたくさんの花が咲いている場所へ向かう一行。
ピクニックということで明るく楽しげな雰囲気であるはずであるが、先頭のリベルテ以外はそこまで楽しそうな顔ではなかった。
一人は普段と変わらず、一人は疲れ始めてげんなりしており、一人は不満気である。
ピクニックと言うことで歩いていける距離というところで、馬車はもってのほか、馬も借りたりなどしていない。
となれば荷物は全て持って歩くということになり、食料と飲み物をすべて背負わされているタカヒロはすでにへばり始めている。
「なんで全部、僕が持ってるんでしょうねぇ……。重いし、もう疲れたんですけど……」
リベルテは病み上がりであり、マイは持つ気なんて更々無く、レッドは別事情で荷物をタカヒロに任せている。
「それより。それよりです! なんで結局、依頼受けてるんですか! 採取しながらということで、あっち探してこっち探してって、全然楽しめないんですけどっ! それに武器とか防具まで着けていかなきゃって、いつもと変わらないじゃないですか!」
「王都とかでも護身用に持って歩くのは必要だし、外歩くんだから無防備にできるわけないじゃないか」
それくらいわかるだろ、と呆れながらに返すレッドは、採取の依頼のため、あちこちに目をやり、見つけては皆を止めて採りに行っていたのである。
動き回るため、身軽なほうがいいと荷物を持たなかった理由だ。
「まぁまぁ。マイさん、もうすぐ着くはずなので。タカヒロさん、もう少し頑張ってください」
「うい~っす……」
目的地が近いと告げられ、タカヒロはあと少しで休めると元々無いやる気をかき集めて足を進める。
「あ。あそこにあるのは……あたっ」
「もう十分集めたじゃないですか! 行きますよ!」
またしても道中で採取対象を見つけたレッドが採りに行こうとするが、さすがに我慢できなくなったマイが殴って止めて、腕を取って引きずっていく。
「着きました。ここです!」
リベルテが到着を告げたのは小さい丘を越えた先だった。
丘を登ると先が一気に拓け、赤、黄色、白、ピンクと色とりどりの花が咲き乱れていた。
「うわぁ~~~」
さっきまでの不満がどこかへ飛んでいってしまったようで、笑顔満面で、うわぁ~うわぁ~とそれだけを繰り返している。
「うあぁ~~~」
さっきまでの重い荷物をやっと置けたようで、固まった筋肉を解すように肩などを回す度に、んぁ~んぁ~と声を漏らしている。
ここは王都から見て西側。
道なりに沿っていけば、メレーナ村やモレクの町、ファルケン伯爵領のハーバランドに着く。ここを道から外れるように南側方面に進んでいくと、肥沃な畑の景色が徐々に減り、小高い丘や草原が広がってくるのである。
そして、その中の小さめの丘を越えると数多くの花が咲き乱れる場所に出るのだ。
辺りいっぱいに咲き乱れる花々に女性二人が見とれている傍らで、タカヒロが率先してござを敷き、食べ物と飲み物を準備していく。
「もう、風情台無し! なんで花より団子かなぁ」
折角、綺麗で鮮やかな一面の花に心洗われていたというのにと文句を言いつつ、しっかりとござに腰を下ろすあたり、マイも食い気よりである。
「花畑を走り回る年でもないでしょ。それに桜じゃないしねぇ」
「それ、結局、飲んで騒ぎたいだけでしょ。それと、年のことを言うとは本当に失礼な奴!」
タカヒロの頬をぐにっとひっぱる。
失言をしたタカヒロは反省してるからなのか、抵抗する力も残っていないのかなすがままにされる。
失言自体も重いものを持たされてきた文句の一つだったのかもしれない。
「ふふ。なんだかんだ結構歩いてきましたからね。お腹もすきましたし食べましょうか」
「あ、ちなみに今日のは私が作ったんですよ!」
「いきなり不安になるな……」
「ちょっと、それ酷くないですか!?」
「フィリスちゃんにご飯持ってきてもらってましたよね?」
「あ、あれは! 作ってきてくれるって言うからもらってたんです。自炊できなかったわけじゃありません!」
マイたちがわいわい話している中、重い物を運んで疲れており、なおかつお腹もすいているであろうタカヒロであるが、彼も手に取ったサンドイッチを食べずに見守っていた。
「いや、大丈夫ですから食べてくださいよ! って、なんでタカヒロ君も食べないで待ってるの?」
「え? こういうときって最初に食べたらはずれ引くやつじゃない?」
安定して一番の功績を取らない代わりに、一番の被害も取らないようにしている。
「みんなして酷い! いいわよ、一人で食べるから!」
「ははは、悪い悪い。お腹すいてるんだ、食べさせてください」
レッドがそういってひとつとってかぶりつく。
「お、美味いじゃん」
「だからそう言ってるじゃないですか」
「パンになんか塗ってるのか。野菜に合って美味いな」
「あ。気づきました? 私が作ったんですよ。マヨネーズです!」
マイがそう宣言するとレッドとリベルテの手が止まる。
それを見たマイは、またむくれる。
「ちょっと、なんなんですか。今度はなんだっていうんですかー!?」
「あ~、これまたやっちゃった系じゃない? でも、前にレッドさんたちの話聞いてたら、ありそうなもんなんだけどなぁ」
「ありそうって?」
「うん。他の誰かがすでに作ってそうだなぁって。定番でしょ? で、レッドさんどうしたんですか?」
ようやっと動き出したレッドが恐る恐るという感じでマイに問いかける。
「これの素材、なんだ?」
リベルテはそっと自分のバッグから薬を取り出して準備している。
「え? 卵の黄身とお酢と油ですよ。あと味付けに塩だけで作りましたけど……」
「どこで仕入れた?」
「以前にリベルテさんに教えてもらったお店に一通り揃ってたので買いましたけど」
レッドが目でリベルテに問いかけ、リベルテがたぶん大丈夫と薬をバッグに仕舞う。
そしてまた食べ始めたレッドたちに、マイはもう大混乱。
「なんですか!? なんだったんですか!? 本当にも~!」
「ん~とな……。お前が言ったマヨネーズってのは毒物の名前なんだ。これに似たようなもので食えるのがマリソースという」
「え?」
「あ~、そっちかぁ」
驚いているのはマイで、タカヒロはなぜか納得している。
「ちょっと、タカヒロ君知ってたの!? なんで教えてくれないのよ!」
「いやいや、今聞いてわかっただけです~。食事中に揺らさないで」
一線はなれるようにしつつも、結局マイのぶつけ場の先はタカヒロになるのである。
今もガクガクとタカヒロの両肩を掴んで揺らしている。
「作り方はマリという料理人が広めたから出回っているんだが……、作る人もこれを食べる人も少ないんだ。一つは昔は毒として広まったため。もうひとつは高くつくからだ」
「毒っていうのは……作り方とか材料でも違うんですか? それになんで高くつくの?」
「毒となっている原因は卵と油と考えられています。卵を取るのに利用されているのはスティッフクックという、比較的に大人しいとされている鳥のモンスターなんですよね。あくまで比較的なので、飼うにも気を使います。大怪我で済めばいいくらいになっちゃうそうです」
「そういえば、卵高かったような……。他にないんですか? そのニワトリとか?」
卵が高いことや飼育するのに命がけだなんて、自分たちの知っていることから、違いすぎて信じられないようだった。
「人間以外、すべてモンスターだぞ? 見た目に合わず危険なのばかりだ。だから、村や町もそんなに数を増やせない。守れないからな」
「やっぱり違う世界ですなぁ……」
しみじみといった感じで言うタカヒロは、すでに自分の分は食べ終わっていて、食後の果実水を飲んでいた。
「それと油だがな……。どうやって作ってるか知ってるか?」
「種とかを温めてから潰すんじゃないですか?」
「それは植物から取る油だな。先に言われたが、油を取れる植物ってのは高いんだ。食べるわけじゃないから、農家が率先して作りたがらないし、絞る作業なんて重労働だしな。かといって高い買値をつけすぎると、金目当てでそればかり作り出す可能性がでてしまう。そうなったら、俺達の腹に収められるものが減ることになる」
「そうなんですねぇ……」
「でだ。油の多くはモンスターから取れるものが主流だ。脂身の部分を集めて煮込む。浮いてきた油を取り出すわけなんだが……。これと卵を混ぜて作ると毒になるというのが今の見地となってる」
レッドも食べ終わり、リベルテから果実水の入ったコップをもらう。
ごく自然な動きだった。
「でも毒って、どうなるんですか?」
「軽いもので腹痛、重いものになるとそのまま亡くなってしまいますね」
「ええ!? 食中毒とかに近そうな症状じゃないですか。お酢入れてるから、痛んだりとかはしないはずですよ? 結構日持ちもするようになりますし」
「さすがに毒となるとわかっているものを試す学者は居ませんからねぇ。詳しくはわからないのですが……。卵をとるためのクックは危険もありますから、王都や町からは離れた場所で飼われますから、そこから運んでくるのに日が経ってしまうこともあるでしょうし。出回っている油の多くはモンスターから取れたものになりますし、熱を加えない作り方ですからね。お酢を入れたくらいではどうにもならなかったのかもしれませんね?」
卵の黄身に酢と塩を加えて良く混ぜた後、少しずつ油を足して作るのだ。熱を通すことはない。
「あれ? でもさっき、マリソースってのはあるんですよね? ほぼ同じもので」
「あぁ、マリっていう料理人がこだわって作ってな。植物からとった油に、ソードビーククックっていうやたら危険なモンスターの卵を使ったものだ。どっちも高い値になるから、使った料理も値が跳ね上がる。そうそう食べられるものでもないわけだ」
「なんていうか、簡単に上手くいかないようにされてる感じがするねぇ」
それで話は終わったとばかりに、タカヒロはごろっと横になる。
「ちょっと行儀悪いよ~」
そう言いながら、今先ほどの話で気疲れしたのだろうマイも足を投げ出して伸びをする。
陽は高いところを過ぎてきたが暖かく、風も気持ちが良いものだった。
そんな二人を横目にして、リベルテが少し歩いてきますと離れていく。
食べ終わった後の道具を仕舞っていたレッドも、しばらくしてリベルテを追っていく。
「よくこんなとこ知ってたな……」
レッドがそう言葉を漏らすのも無理はない。
道から外れて動くなど普通の人々はしないし、冒険者などでも地図の作成依頼でもない限り、この先に何があるのかわかってもないところに出歩くものではないからである。
「思い出の場所なんですよ、ここ。今までここに来る理由もなかったですし、そんな暇もなかったんですけど。なんかマイさんとレンギョウや金銀花を見てたら、みんなで行きたいなって思ったんです」
「……そうか。いい場所だな」
「次の年もまた皆で来たいですね」
「あぁ、そうだな」
いつもと変わらない年を迎えたいと思う人は少なくない。
だが、常に命が危ぶまれるこの世界では、なかなかに難しい。
それでもこの陽気に、一面に広がる花畑に、そう思わずにはいられなかった。
朝ごはんを食べ終わり、食後のまったりとした時間をマイが打ち破る。
仕事に行こうとしていた者、ゆっくり寝ようとしていた者、あぁそんな話してましたねと納得する者、皆がマイを見やる。
働かないと余裕な生活できないのに何言ってんだ、と。
何めんどくさいこと言い出してんの、と。
あぁ、そういえばそんなこと話してましたね、と。
それぞれが口には出していないが、その表情が物語っていた。
3人にじっと見られたことにたじろぎはしたものの、マイは一切退かない。強い意志を持っていた。
「あのな……冒険者ってのは稼げるときに稼がないと生活できなくなるんだぞ? 依頼もいつまであるかわからのだ。この前ので少しは稼いだが、討伐なんてでっかい依頼じゃないんだ。そんなに余裕ないぞ?」
冒険者は受け皿的な側面を持った職であり、多くの依頼は雑用といった人手が足りない、必要としているところの手伝いになる。
怪我や最悪死ぬかもしれない討伐の依頼というのは報酬が高いものではあるが、頻繁にでてくるようなものではない。そんな依頼が溢れているとしたら、そもそも人が生活圏を広げられはしない。
冒険者が倒して回るというのであれば、そもそもの報酬額はぐっと落ちることだろう。
「だとしても、今日一日くらい休んだところで変わらないでしょ? リベルテさん、病み上がりですし。何よりリベルテさんと行こうねって話してたんですから!」
「ならしょうがねぇか」
リベルテの名前を出すとあっさりと前言を撤回して、ピクニックに行くことに納得するレッドに、タカヒロがものすごい顔をする。
「タカヒロ君は不参加? なら代わりに仕事してきてよ」
「いやぁ、今日は絶好のピクニック日和だよねっ!」
みんなが遊んでるなか一人働くなんて、これほどまでに楽しくないことはない。
元より依頼を受けに行くより、ゆっくりと寝てよっかなと考えていた者としては、仕事に行かないのであれば拒否するつもりはなかった。
「それじゃあ、準備しないとですねぇ」
「はいはい、それじゃあみんな準備していくよ~!」
マイの掛け声でワタワタと持っていく食べ物、飲み物なんかの準備に動き出すこととなった。
ここしばらくの天気は良く、暖かな日差しとほどよく吹く風が気持ちの良いものだった。
リベルテを先頭に、リベルテが知っていると言うたくさんの花が咲いている場所へ向かう一行。
ピクニックということで明るく楽しげな雰囲気であるはずであるが、先頭のリベルテ以外はそこまで楽しそうな顔ではなかった。
一人は普段と変わらず、一人は疲れ始めてげんなりしており、一人は不満気である。
ピクニックと言うことで歩いていける距離というところで、馬車はもってのほか、馬も借りたりなどしていない。
となれば荷物は全て持って歩くということになり、食料と飲み物をすべて背負わされているタカヒロはすでにへばり始めている。
「なんで全部、僕が持ってるんでしょうねぇ……。重いし、もう疲れたんですけど……」
リベルテは病み上がりであり、マイは持つ気なんて更々無く、レッドは別事情で荷物をタカヒロに任せている。
「それより。それよりです! なんで結局、依頼受けてるんですか! 採取しながらということで、あっち探してこっち探してって、全然楽しめないんですけどっ! それに武器とか防具まで着けていかなきゃって、いつもと変わらないじゃないですか!」
「王都とかでも護身用に持って歩くのは必要だし、外歩くんだから無防備にできるわけないじゃないか」
それくらいわかるだろ、と呆れながらに返すレッドは、採取の依頼のため、あちこちに目をやり、見つけては皆を止めて採りに行っていたのである。
動き回るため、身軽なほうがいいと荷物を持たなかった理由だ。
「まぁまぁ。マイさん、もうすぐ着くはずなので。タカヒロさん、もう少し頑張ってください」
「うい~っす……」
目的地が近いと告げられ、タカヒロはあと少しで休めると元々無いやる気をかき集めて足を進める。
「あ。あそこにあるのは……あたっ」
「もう十分集めたじゃないですか! 行きますよ!」
またしても道中で採取対象を見つけたレッドが採りに行こうとするが、さすがに我慢できなくなったマイが殴って止めて、腕を取って引きずっていく。
「着きました。ここです!」
リベルテが到着を告げたのは小さい丘を越えた先だった。
丘を登ると先が一気に拓け、赤、黄色、白、ピンクと色とりどりの花が咲き乱れていた。
「うわぁ~~~」
さっきまでの不満がどこかへ飛んでいってしまったようで、笑顔満面で、うわぁ~うわぁ~とそれだけを繰り返している。
「うあぁ~~~」
さっきまでの重い荷物をやっと置けたようで、固まった筋肉を解すように肩などを回す度に、んぁ~んぁ~と声を漏らしている。
ここは王都から見て西側。
道なりに沿っていけば、メレーナ村やモレクの町、ファルケン伯爵領のハーバランドに着く。ここを道から外れるように南側方面に進んでいくと、肥沃な畑の景色が徐々に減り、小高い丘や草原が広がってくるのである。
そして、その中の小さめの丘を越えると数多くの花が咲き乱れる場所に出るのだ。
辺りいっぱいに咲き乱れる花々に女性二人が見とれている傍らで、タカヒロが率先してござを敷き、食べ物と飲み物を準備していく。
「もう、風情台無し! なんで花より団子かなぁ」
折角、綺麗で鮮やかな一面の花に心洗われていたというのにと文句を言いつつ、しっかりとござに腰を下ろすあたり、マイも食い気よりである。
「花畑を走り回る年でもないでしょ。それに桜じゃないしねぇ」
「それ、結局、飲んで騒ぎたいだけでしょ。それと、年のことを言うとは本当に失礼な奴!」
タカヒロの頬をぐにっとひっぱる。
失言をしたタカヒロは反省してるからなのか、抵抗する力も残っていないのかなすがままにされる。
失言自体も重いものを持たされてきた文句の一つだったのかもしれない。
「ふふ。なんだかんだ結構歩いてきましたからね。お腹もすきましたし食べましょうか」
「あ、ちなみに今日のは私が作ったんですよ!」
「いきなり不安になるな……」
「ちょっと、それ酷くないですか!?」
「フィリスちゃんにご飯持ってきてもらってましたよね?」
「あ、あれは! 作ってきてくれるって言うからもらってたんです。自炊できなかったわけじゃありません!」
マイたちがわいわい話している中、重い物を運んで疲れており、なおかつお腹もすいているであろうタカヒロであるが、彼も手に取ったサンドイッチを食べずに見守っていた。
「いや、大丈夫ですから食べてくださいよ! って、なんでタカヒロ君も食べないで待ってるの?」
「え? こういうときって最初に食べたらはずれ引くやつじゃない?」
安定して一番の功績を取らない代わりに、一番の被害も取らないようにしている。
「みんなして酷い! いいわよ、一人で食べるから!」
「ははは、悪い悪い。お腹すいてるんだ、食べさせてください」
レッドがそういってひとつとってかぶりつく。
「お、美味いじゃん」
「だからそう言ってるじゃないですか」
「パンになんか塗ってるのか。野菜に合って美味いな」
「あ。気づきました? 私が作ったんですよ。マヨネーズです!」
マイがそう宣言するとレッドとリベルテの手が止まる。
それを見たマイは、またむくれる。
「ちょっと、なんなんですか。今度はなんだっていうんですかー!?」
「あ~、これまたやっちゃった系じゃない? でも、前にレッドさんたちの話聞いてたら、ありそうなもんなんだけどなぁ」
「ありそうって?」
「うん。他の誰かがすでに作ってそうだなぁって。定番でしょ? で、レッドさんどうしたんですか?」
ようやっと動き出したレッドが恐る恐るという感じでマイに問いかける。
「これの素材、なんだ?」
リベルテはそっと自分のバッグから薬を取り出して準備している。
「え? 卵の黄身とお酢と油ですよ。あと味付けに塩だけで作りましたけど……」
「どこで仕入れた?」
「以前にリベルテさんに教えてもらったお店に一通り揃ってたので買いましたけど」
レッドが目でリベルテに問いかけ、リベルテがたぶん大丈夫と薬をバッグに仕舞う。
そしてまた食べ始めたレッドたちに、マイはもう大混乱。
「なんですか!? なんだったんですか!? 本当にも~!」
「ん~とな……。お前が言ったマヨネーズってのは毒物の名前なんだ。これに似たようなもので食えるのがマリソースという」
「え?」
「あ~、そっちかぁ」
驚いているのはマイで、タカヒロはなぜか納得している。
「ちょっと、タカヒロ君知ってたの!? なんで教えてくれないのよ!」
「いやいや、今聞いてわかっただけです~。食事中に揺らさないで」
一線はなれるようにしつつも、結局マイのぶつけ場の先はタカヒロになるのである。
今もガクガクとタカヒロの両肩を掴んで揺らしている。
「作り方はマリという料理人が広めたから出回っているんだが……、作る人もこれを食べる人も少ないんだ。一つは昔は毒として広まったため。もうひとつは高くつくからだ」
「毒っていうのは……作り方とか材料でも違うんですか? それになんで高くつくの?」
「毒となっている原因は卵と油と考えられています。卵を取るのに利用されているのはスティッフクックという、比較的に大人しいとされている鳥のモンスターなんですよね。あくまで比較的なので、飼うにも気を使います。大怪我で済めばいいくらいになっちゃうそうです」
「そういえば、卵高かったような……。他にないんですか? そのニワトリとか?」
卵が高いことや飼育するのに命がけだなんて、自分たちの知っていることから、違いすぎて信じられないようだった。
「人間以外、すべてモンスターだぞ? 見た目に合わず危険なのばかりだ。だから、村や町もそんなに数を増やせない。守れないからな」
「やっぱり違う世界ですなぁ……」
しみじみといった感じで言うタカヒロは、すでに自分の分は食べ終わっていて、食後の果実水を飲んでいた。
「それと油だがな……。どうやって作ってるか知ってるか?」
「種とかを温めてから潰すんじゃないですか?」
「それは植物から取る油だな。先に言われたが、油を取れる植物ってのは高いんだ。食べるわけじゃないから、農家が率先して作りたがらないし、絞る作業なんて重労働だしな。かといって高い買値をつけすぎると、金目当てでそればかり作り出す可能性がでてしまう。そうなったら、俺達の腹に収められるものが減ることになる」
「そうなんですねぇ……」
「でだ。油の多くはモンスターから取れるものが主流だ。脂身の部分を集めて煮込む。浮いてきた油を取り出すわけなんだが……。これと卵を混ぜて作ると毒になるというのが今の見地となってる」
レッドも食べ終わり、リベルテから果実水の入ったコップをもらう。
ごく自然な動きだった。
「でも毒って、どうなるんですか?」
「軽いもので腹痛、重いものになるとそのまま亡くなってしまいますね」
「ええ!? 食中毒とかに近そうな症状じゃないですか。お酢入れてるから、痛んだりとかはしないはずですよ? 結構日持ちもするようになりますし」
「さすがに毒となるとわかっているものを試す学者は居ませんからねぇ。詳しくはわからないのですが……。卵をとるためのクックは危険もありますから、王都や町からは離れた場所で飼われますから、そこから運んでくるのに日が経ってしまうこともあるでしょうし。出回っている油の多くはモンスターから取れたものになりますし、熱を加えない作り方ですからね。お酢を入れたくらいではどうにもならなかったのかもしれませんね?」
卵の黄身に酢と塩を加えて良く混ぜた後、少しずつ油を足して作るのだ。熱を通すことはない。
「あれ? でもさっき、マリソースってのはあるんですよね? ほぼ同じもので」
「あぁ、マリっていう料理人がこだわって作ってな。植物からとった油に、ソードビーククックっていうやたら危険なモンスターの卵を使ったものだ。どっちも高い値になるから、使った料理も値が跳ね上がる。そうそう食べられるものでもないわけだ」
「なんていうか、簡単に上手くいかないようにされてる感じがするねぇ」
それで話は終わったとばかりに、タカヒロはごろっと横になる。
「ちょっと行儀悪いよ~」
そう言いながら、今先ほどの話で気疲れしたのだろうマイも足を投げ出して伸びをする。
陽は高いところを過ぎてきたが暖かく、風も気持ちが良いものだった。
そんな二人を横目にして、リベルテが少し歩いてきますと離れていく。
食べ終わった後の道具を仕舞っていたレッドも、しばらくしてリベルテを追っていく。
「よくこんなとこ知ってたな……」
レッドがそう言葉を漏らすのも無理はない。
道から外れて動くなど普通の人々はしないし、冒険者などでも地図の作成依頼でもない限り、この先に何があるのかわかってもないところに出歩くものではないからである。
「思い出の場所なんですよ、ここ。今までここに来る理由もなかったですし、そんな暇もなかったんですけど。なんかマイさんとレンギョウや金銀花を見てたら、みんなで行きたいなって思ったんです」
「……そうか。いい場所だな」
「次の年もまた皆で来たいですね」
「あぁ、そうだな」
いつもと変わらない年を迎えたいと思う人は少なくない。
だが、常に命が危ぶまれるこの世界では、なかなかに難しい。
それでもこの陽気に、一面に広がる花畑に、そう思わずにはいられなかった。
0
あなたにおすすめの小説
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる
竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。
評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。
身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。
勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました
久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。
魔法が使えるようになった人類。
侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。
カクヨム公開中。
【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。
BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。
辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん??
私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす
蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。
追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。
しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。
港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。
イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。
犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。
被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。
追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。
この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。
・世界観・設定の管理補助
・プロット段階の壁打ち
・作者による執筆後の校正
30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。
ひさまま
ファンタジー
前世で搾取されまくりだった私。
魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。
とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。
これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。
取り敢えず、明日は退職届けを出そう。
目指せ、快適異世界生活。
ぽちぽち更新します。
作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。
脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。
いきなり異世界って理不尽だ!
みーか
ファンタジー
三田 陽菜25歳。会社に行こうと家を出たら、足元が消えて、気付けば異世界へ。
自称神様の作った機械のシステムエラーで地球には帰れない。地球の物は何でも魔力と交換できるようにしてもらい、異世界で居心地良く暮らしていきます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる