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ハーバランドのギルドを出た頃には、陽は一番高いところを折り返していた。
「お腹すきましたねぇ」
グッと伸びをしながら、お昼は何を食べましょうかと明るい声で言う。
「おまえなぁ…。まぁ、そんな今すぐな困った話ではなかったし、切り替えるか」
レッドは呆れたように言いながら、マイの頭を軽くなでると、マイは少し嬉しそうに目を細める。
「あれ? なんか虫とかが溢れるんじゃないんですか?」
「これからご飯にするって言うのに、そんなの想像させないでよっ!」
マイの拳が勢いよくタカヒロのお腹に刺さる。
くぐもった声を出してタカヒロが体を折り、リベルテが仕方ないなと言う様に背中をさすっていた。
「今のはタカヒロさんが悪いです。もうちょっと言うべき時を考えないと」
タカヒロが何かを言って、マイに殴られることが多いので、あえてのタイミングで言っているようであった。
そんなタカヒロをやれやれと見ていたレッドが視線を前に戻すと、一団がこちらに向かってきているのが目に入った。
「げ……」
普段のレッドらしからぬ言動に、マイたちもそちらに目を向け、レッドと同じような反応になる。
「うわぁ……。やっぱりこうなっちゃいますか……」
姦しくギルドに向かってきていたのは、グリズリーを軽く倒した冒険者とその取り巻きだった。
レッドたちが何を食べようかと話をしていたのがギルドの出入り口前であったため、必然的にその冒険者達の行く手を遮る形となってしまっていた。
ここでは彼の前を塞ぐ者は居ない、居なくなっているのだろう。
レッドたちが慌ててどくような動きも見せないため、その男が目に見えて不機嫌になり、舌打ちをする。
マイはその男の態度にイラついたようだったが、レッドのハンドサインで動いたリベルテにより引きずられ、脇にどけて道を譲る。
それを見た男は、鼻で笑って機嫌を良くしたようだった。
だが、その男の足がマイの腕を抱えていたリベルテとマイの前で止まった。
そしてリベルテたちの顔から胸、足と見やってニヤリと笑顔を見せる。
先ほどの視線からして、マイたちは鳥肌が立っていたが、その男は一切気にしていない。
「おまえたち、良いな。どうだ? 俺の方にこないか? 俺はそいつらより強いから守ってやれるぞ。それに稼ぎも良い」
女性を口説いているには程遠く、上から見下している態度にリベルテもマイもうなずくわけがない。
「今の生活で不満はありませんので」
「行くわけないじゃない。それにレッドさん弱くないし!」
リベルテがやんわりと断れば、マイは真っ向から拒絶してしまう。
男は見る見る怒りの表情になっていく。
「え……沸点低すぎね」
タカヒロがまたぼやくが、さすがに今は空気を読んだらしく、声はかなり落としていたため、側にいたレッドにしか聞こえなかった。
「俺の誘いを何断ってんだよっ! 俺はこの世界で一番強いんだぞ。敵なんていないんだ! ちょっと俺が気分よく声掛けてやったのに……。ま、いいや。よく見たらそんないい女でもなかったし」
自分の強さに自信を通り過ぎてうぬぼれになっているようなことを言っていたのに、途中からストンと落ち着いたかのように声を落とす。
そしてマイたちを視界からはずし、ギルドへ向かおうとする。
その瞬間、レッドが一歩踏み出し、剣を抜く。
金属を打ち合った高い音が響く。
その男が通り過ぎざまにマイを斬り捨てようとし、その動きに気づいたレッドが剣を抜いて防いだのだ。
「さすがに、これは悪ふざけじゃすまないんじゃないか?」
レッドの声でやっと自分が危なかったと気づいたマイがリベルテにしがみ付く。
リベルテはマイをかばうように体を少しひねり、右手はいつでも短剣を抜けるようにし、タカヒロはそっとその場から距離をとる。
その男の取り巻きは、レッドが剣を止めたことに驚いた様子を見せたが、すぐに男を応援し、レッドたちを蔑みだした。
「ユーセー様の剣を止めるなんて生意気! ユーセー様やっちゃえ!」
「ユーセー様に声掛けられたからって調子に乗るから。ブスのくせにっ」
「そいつらより私達の方が断然いいじゃないですか、ユーセー様」
「さっさとお金全部置いてけば、止めてあげてもいいよ?」
ただ側に侍っているだけで、実力的にはマイにも及ばない者たちが、ユーセーの威を借りて好き放題に言ってくることに、斬られかけたという恐怖より怒りが先立ち、言い返そうとするマイをリベルテがいつもされたことが無いほど力強く体を押さえつける。
その手は少し震えていた。
「俺の本気でもない剣を止めるなんて、そこそこ出来るんじゃないか?」
剣を引かないまま、これっぽっちもレッドを褒めていない口調でレッドを褒める。
「そいつはどうも……。で、このまま剣を引いてくれないか?」
また鼻で笑ってから剣を引き始め、レッドはそれにホッとするが、次の瞬間には剣戟で飛ばされていた。
ユーセーが剣を引いて仕舞うかと思ったが、引いてすぐに横なぎに剣を振るっていた。
冒険者を長く続け、それなりに危ない橋を渡ってきていたが故の勘。
ぎりぎりで差し込んだ剣によって斬られずには済んだが、ユーセーの剣筋は鋭く重かった。
耐え切れなくは無かったが、それも危険だと感じたレッドはそのまま飛ばされることを選んでいたのだ。
「レッドさん!」
マイが駆け寄ろうとするが、それもリベルテが止める。
ただ、目はユーセーを睨んでいた。
レッドを吹っ飛ばしたことに満足したのか、剣を仕舞って取り巻きの女性達の方へ進んでいく。
その横を下から斬り上げる剣筋が光るが、ユーセーはそちらを見ることなく剣で防ぐ。
吹っ飛んだ後、身を低くしながら地面を転がるように駆け、レッドが下から斬り上げたのだ。
相手の油断を突き、視界に入っていない死角からの攻撃のはずだった。
寸止めくらいは考えていたが、それでも普通なら対応できないだろう攻撃だったのだが、見向きもせずに止められたことに、レッドは驚きが隠せなかった。
「あぶねぇな。そんな危ないヤツは殺してもいいよな?」
自分から仕掛けてきたことを棚上げに、ユーセーがレッドを睨む。
その目はこれまでの見下していた目と変わり、殺意と否定に満ちていた。
今までの雰囲気で先ほどまでだったのに、意識も明らかに敵意に満ちれば、これまでで済まなくなる。
レッドの背中に冷や汗が流れ、人知れずつばを飲み込んでいた。
だがそこに、サバランがやってきた。
「ギルド前で何をしている! それ以上は冒険者ギルドの規約に基づいて、罰則を科すぞ!」
冒険者になる際に、規約を読み、契約書にサインするのだが、冒険者の規約は冒険者を律するものである。
兵と同じく武器を帯同しているが、兵は国の命で命をかける。
だが、冒険者は上からの命令というのはあまりなく、兵と違って好きに動き回れる。
そのため、武器を持ち、無用に相手を傷つけたり脅かす者は、罰則を与えることに同意するのだ。そのような場合に、罰せられることに異議はないと自分で示してサインする。
軽いのはしばしの依頼受注の停止から始まり、罰則金の徴収、村や町、王国での冒険者活動の停止となる。
そういうものすら無視しそうな相手であったが、ユーセーは意外にも剣を収めた。
そしてレッドを睨んで舌打ちをした後、ギルドの中に入っていく。
レッドは助かったと思った。剣をしまった手が震えていて、止められなかった。
その手をそっとリベルテの手が包む。
それを見たマイも手を重ね、二人が微笑む。
それを見て、気が抜けていくような気がして、震えが収まった。
「大丈夫かい? ああいうのが多くてね。それでだいぶギルドの活気が無くなってしまったよ。依頼が全て捌けて居ないというのもあるんだけど、彼を避けてギルドに来ていない冒険者が多いのさ」
サバランは元気の無いため息をこぼす。
「いや、助かった。いや、助かりました。サバランさん、ありがとう」
サバランに礼を言ってレッドたちは宿に向かって歩き出す。
「王都に帰りましょうか」
「そうだね。このままここに居ても嫌なことばっかり起きそう出しね」
リベルテが水を向け、マイがそれに同意する。
「そうだな……。帰ろうか、俺達の家に」
いつもより張りの無い声でレッドが決め、商会の馬車に乗り込む。
帰りは空のため、行きより身軽な馬車が軽快な速度でハーバランドを後にする。
「お昼、食べ損ねた……。名物なんだったんだろ?」
タカヒロはハーバランドの門が見えなくなるまで見つめていた。
野営地点に到着したときにはまだ夕陽にならないくらいだったが、これ以上先は暗くなることから、早めに準備に入っていく。
慣れた手つきで野営の準備が終わったマイとタカヒロが荷馬車のところでボーっとしていた。
「お腹すいた……」
タカヒロの場合は、空腹で動けなくなっているだけだった。
「あの人。たぶん私達と同じなんだよね?」
マイの呟きにタカヒロは目だけ向ける。
「前まで辛くて理不尽で我慢することが多かったから、ここでは自由に生きたいって思ってた。それでも周りに気を使ってきてはいたんだけど。ああなっちゃダメ、だよね? アレを見てうらやましいとか、そんな風には思えなかったよ……」
暗い表情で地面を見つめるマイにタカヒロは何も言葉を返せなかった。
何を言っても嘘くさく思えたから。
タカヒロはそのまま空を見る。ゆっくりと夕陽が地平線に沈んでいこうとしているところだった。
マイもタカヒロの目線に釣られて夕陽を眺める。
「きれい、だね。あっちで夕焼けを見ることなかったな」
「外を見ることが少なかった。パソコンかスマホばっかりだったよ」
「私も同じかな」
周囲に食べられるものを探しに行ったレッドたちが戻ってくるまで、二人は夕陽を見続けていた。
昼を抜かせたことを悪く思っていたレッドが頑張り、数匹のラガモフを狩ってきて、その夜は肉祭りとなった。
お腹いっぱいに食べられれば、人の気持ちは上を向く。
昼のことは追いやるように、楽しげに笑い声も混じる夜が過ぎていく。
「お腹すきましたねぇ」
グッと伸びをしながら、お昼は何を食べましょうかと明るい声で言う。
「おまえなぁ…。まぁ、そんな今すぐな困った話ではなかったし、切り替えるか」
レッドは呆れたように言いながら、マイの頭を軽くなでると、マイは少し嬉しそうに目を細める。
「あれ? なんか虫とかが溢れるんじゃないんですか?」
「これからご飯にするって言うのに、そんなの想像させないでよっ!」
マイの拳が勢いよくタカヒロのお腹に刺さる。
くぐもった声を出してタカヒロが体を折り、リベルテが仕方ないなと言う様に背中をさすっていた。
「今のはタカヒロさんが悪いです。もうちょっと言うべき時を考えないと」
タカヒロが何かを言って、マイに殴られることが多いので、あえてのタイミングで言っているようであった。
そんなタカヒロをやれやれと見ていたレッドが視線を前に戻すと、一団がこちらに向かってきているのが目に入った。
「げ……」
普段のレッドらしからぬ言動に、マイたちもそちらに目を向け、レッドと同じような反応になる。
「うわぁ……。やっぱりこうなっちゃいますか……」
姦しくギルドに向かってきていたのは、グリズリーを軽く倒した冒険者とその取り巻きだった。
レッドたちが何を食べようかと話をしていたのがギルドの出入り口前であったため、必然的にその冒険者達の行く手を遮る形となってしまっていた。
ここでは彼の前を塞ぐ者は居ない、居なくなっているのだろう。
レッドたちが慌ててどくような動きも見せないため、その男が目に見えて不機嫌になり、舌打ちをする。
マイはその男の態度にイラついたようだったが、レッドのハンドサインで動いたリベルテにより引きずられ、脇にどけて道を譲る。
それを見た男は、鼻で笑って機嫌を良くしたようだった。
だが、その男の足がマイの腕を抱えていたリベルテとマイの前で止まった。
そしてリベルテたちの顔から胸、足と見やってニヤリと笑顔を見せる。
先ほどの視線からして、マイたちは鳥肌が立っていたが、その男は一切気にしていない。
「おまえたち、良いな。どうだ? 俺の方にこないか? 俺はそいつらより強いから守ってやれるぞ。それに稼ぎも良い」
女性を口説いているには程遠く、上から見下している態度にリベルテもマイもうなずくわけがない。
「今の生活で不満はありませんので」
「行くわけないじゃない。それにレッドさん弱くないし!」
リベルテがやんわりと断れば、マイは真っ向から拒絶してしまう。
男は見る見る怒りの表情になっていく。
「え……沸点低すぎね」
タカヒロがまたぼやくが、さすがに今は空気を読んだらしく、声はかなり落としていたため、側にいたレッドにしか聞こえなかった。
「俺の誘いを何断ってんだよっ! 俺はこの世界で一番強いんだぞ。敵なんていないんだ! ちょっと俺が気分よく声掛けてやったのに……。ま、いいや。よく見たらそんないい女でもなかったし」
自分の強さに自信を通り過ぎてうぬぼれになっているようなことを言っていたのに、途中からストンと落ち着いたかのように声を落とす。
そしてマイたちを視界からはずし、ギルドへ向かおうとする。
その瞬間、レッドが一歩踏み出し、剣を抜く。
金属を打ち合った高い音が響く。
その男が通り過ぎざまにマイを斬り捨てようとし、その動きに気づいたレッドが剣を抜いて防いだのだ。
「さすがに、これは悪ふざけじゃすまないんじゃないか?」
レッドの声でやっと自分が危なかったと気づいたマイがリベルテにしがみ付く。
リベルテはマイをかばうように体を少しひねり、右手はいつでも短剣を抜けるようにし、タカヒロはそっとその場から距離をとる。
その男の取り巻きは、レッドが剣を止めたことに驚いた様子を見せたが、すぐに男を応援し、レッドたちを蔑みだした。
「ユーセー様の剣を止めるなんて生意気! ユーセー様やっちゃえ!」
「ユーセー様に声掛けられたからって調子に乗るから。ブスのくせにっ」
「そいつらより私達の方が断然いいじゃないですか、ユーセー様」
「さっさとお金全部置いてけば、止めてあげてもいいよ?」
ただ側に侍っているだけで、実力的にはマイにも及ばない者たちが、ユーセーの威を借りて好き放題に言ってくることに、斬られかけたという恐怖より怒りが先立ち、言い返そうとするマイをリベルテがいつもされたことが無いほど力強く体を押さえつける。
その手は少し震えていた。
「俺の本気でもない剣を止めるなんて、そこそこ出来るんじゃないか?」
剣を引かないまま、これっぽっちもレッドを褒めていない口調でレッドを褒める。
「そいつはどうも……。で、このまま剣を引いてくれないか?」
また鼻で笑ってから剣を引き始め、レッドはそれにホッとするが、次の瞬間には剣戟で飛ばされていた。
ユーセーが剣を引いて仕舞うかと思ったが、引いてすぐに横なぎに剣を振るっていた。
冒険者を長く続け、それなりに危ない橋を渡ってきていたが故の勘。
ぎりぎりで差し込んだ剣によって斬られずには済んだが、ユーセーの剣筋は鋭く重かった。
耐え切れなくは無かったが、それも危険だと感じたレッドはそのまま飛ばされることを選んでいたのだ。
「レッドさん!」
マイが駆け寄ろうとするが、それもリベルテが止める。
ただ、目はユーセーを睨んでいた。
レッドを吹っ飛ばしたことに満足したのか、剣を仕舞って取り巻きの女性達の方へ進んでいく。
その横を下から斬り上げる剣筋が光るが、ユーセーはそちらを見ることなく剣で防ぐ。
吹っ飛んだ後、身を低くしながら地面を転がるように駆け、レッドが下から斬り上げたのだ。
相手の油断を突き、視界に入っていない死角からの攻撃のはずだった。
寸止めくらいは考えていたが、それでも普通なら対応できないだろう攻撃だったのだが、見向きもせずに止められたことに、レッドは驚きが隠せなかった。
「あぶねぇな。そんな危ないヤツは殺してもいいよな?」
自分から仕掛けてきたことを棚上げに、ユーセーがレッドを睨む。
その目はこれまでの見下していた目と変わり、殺意と否定に満ちていた。
今までの雰囲気で先ほどまでだったのに、意識も明らかに敵意に満ちれば、これまでで済まなくなる。
レッドの背中に冷や汗が流れ、人知れずつばを飲み込んでいた。
だがそこに、サバランがやってきた。
「ギルド前で何をしている! それ以上は冒険者ギルドの規約に基づいて、罰則を科すぞ!」
冒険者になる際に、規約を読み、契約書にサインするのだが、冒険者の規約は冒険者を律するものである。
兵と同じく武器を帯同しているが、兵は国の命で命をかける。
だが、冒険者は上からの命令というのはあまりなく、兵と違って好きに動き回れる。
そのため、武器を持ち、無用に相手を傷つけたり脅かす者は、罰則を与えることに同意するのだ。そのような場合に、罰せられることに異議はないと自分で示してサインする。
軽いのはしばしの依頼受注の停止から始まり、罰則金の徴収、村や町、王国での冒険者活動の停止となる。
そういうものすら無視しそうな相手であったが、ユーセーは意外にも剣を収めた。
そしてレッドを睨んで舌打ちをした後、ギルドの中に入っていく。
レッドは助かったと思った。剣をしまった手が震えていて、止められなかった。
その手をそっとリベルテの手が包む。
それを見たマイも手を重ね、二人が微笑む。
それを見て、気が抜けていくような気がして、震えが収まった。
「大丈夫かい? ああいうのが多くてね。それでだいぶギルドの活気が無くなってしまったよ。依頼が全て捌けて居ないというのもあるんだけど、彼を避けてギルドに来ていない冒険者が多いのさ」
サバランは元気の無いため息をこぼす。
「いや、助かった。いや、助かりました。サバランさん、ありがとう」
サバランに礼を言ってレッドたちは宿に向かって歩き出す。
「王都に帰りましょうか」
「そうだね。このままここに居ても嫌なことばっかり起きそう出しね」
リベルテが水を向け、マイがそれに同意する。
「そうだな……。帰ろうか、俺達の家に」
いつもより張りの無い声でレッドが決め、商会の馬車に乗り込む。
帰りは空のため、行きより身軽な馬車が軽快な速度でハーバランドを後にする。
「お昼、食べ損ねた……。名物なんだったんだろ?」
タカヒロはハーバランドの門が見えなくなるまで見つめていた。
野営地点に到着したときにはまだ夕陽にならないくらいだったが、これ以上先は暗くなることから、早めに準備に入っていく。
慣れた手つきで野営の準備が終わったマイとタカヒロが荷馬車のところでボーっとしていた。
「お腹すいた……」
タカヒロの場合は、空腹で動けなくなっているだけだった。
「あの人。たぶん私達と同じなんだよね?」
マイの呟きにタカヒロは目だけ向ける。
「前まで辛くて理不尽で我慢することが多かったから、ここでは自由に生きたいって思ってた。それでも周りに気を使ってきてはいたんだけど。ああなっちゃダメ、だよね? アレを見てうらやましいとか、そんな風には思えなかったよ……」
暗い表情で地面を見つめるマイにタカヒロは何も言葉を返せなかった。
何を言っても嘘くさく思えたから。
タカヒロはそのまま空を見る。ゆっくりと夕陽が地平線に沈んでいこうとしているところだった。
マイもタカヒロの目線に釣られて夕陽を眺める。
「きれい、だね。あっちで夕焼けを見ることなかったな」
「外を見ることが少なかった。パソコンかスマホばっかりだったよ」
「私も同じかな」
周囲に食べられるものを探しに行ったレッドたちが戻ってくるまで、二人は夕陽を見続けていた。
昼を抜かせたことを悪く思っていたレッドが頑張り、数匹のラガモフを狩ってきて、その夜は肉祭りとなった。
お腹いっぱいに食べられれば、人の気持ちは上を向く。
昼のことは追いやるように、楽しげに笑い声も混じる夜が過ぎていく。
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