王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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オルグラント王国はグーリンデ、アクネシアと敵国と国境を接しているため、その居城たる王都は重厚な石壁で囲んでいる。
この石壁は年代を経て何度か拡張されていて、今現在の王都を守る壁の門には王族の力を示すように紋様などが刻まれており、王都に入る列を並ぶ人たちは、見慣れた人も皆、門に刻まれている紋様を見上げる。
そしてレッドたち一行も王都に入るための列に並びながら、その大きく威厳のある門を見上げていた。
「帰ってきた~」
「帰ってきたねぇ。家までもうすぐだ」
マイとタカヒロが門を見上げて、やっと帰ってきたとばかりに息を吐く。
「帰ってきた、と言っていただけるのはうれしいですね」
決してこの王国の生まれでも育ちでもない二人が、王都に戻ってきたことを帰ってきたと言ってくれたことがうれしかった。
王都で暮らすことを、この世界で生きることを選んでくれたように感じたからだった。
リベルテの言葉に、マイは照れたように手櫛で自身の髪をなで、タカヒロは紋様がどうのとつぶやいてごまかそうとしていた。
「やっぱり、王都はいいな……。俺も帰ってきたって思えるわ」
「レッドは王都から出ないようにしすぎですけどね」
リベルテの苦笑に、レッドもばつが悪そうに頭を掻く。

依頼の配送から戻ってきたレッドたちは、他の人たちより確認は比較的に早かった。
「それじゃあ、このままギルドに行くか。それで報酬もらってやっと終わりだ」
レッドの言葉にタカヒロはもう帰って休みたいと体全体で表現していたが、リベルテが笑顔でもう少しだからと励ます。
「報酬もらったらお酒買ってきましょうか。今日くらいはパーッとやりましょう」
「お? 酒場じゃなくて家でってのは珍しいな」
「酒場の料理も好きなのですが、お二人がお疲れのようですから。家だとそのままベッドに向かえますから」
「あ~、料理って配達してもらったり、お持ち帰りって出来ないのかな?」
「料理の配送ってのは難しいだろうな。だが、持ち帰りできそうな料理は、店主に頼めるかもしれんな」
「うわぁ~、それは楽しみ~」
仕事としては王都からファルケン伯爵領ハーバランドまでの配送というだけだが、それでも往復に20日近くかかったため、その依頼達成を祝って飲み食べするというのがうれしいのだ。
旅の期間は途中で村や町も経由したとは言え、日持ちを考えれば塩漬けや干物、乾物になる。
むしろ、途中で村や町を経由して普通の料理を食べてしまえる分、道中の野営で食べる料理がどうしても同じようなものになるため、飽きがきてしまうのだ。
半年以上、王都の料理に親しんできた身とすれば、王都のご飯が食べたくなるもので、この後の予定を話せば、頭はご飯のことに埋まっていく。
レッドたちはウキウキと王都の冒険者ギルドに向かい、その足取りは疲れを感じさせないほど軽かった。

「おう、レッドじゃねぇか。おまえをここまで長いこと王都で見ないってのは珍しかったぜ」
ギルドに入るなり、王都の冒険者ギルドのマスター、ギルザークがカウンターに立っていた。
その迫力に、気の小さい人、冒険者になりたての者たちの腰が引けている。
「ギルザークさんがそこに立ったらだめでしょう……。仕事に支障でてますから」
レッドが半目でギルザークに言うと、残念そうにしながらカウンターから出てくる。
「たまにはいいかと思ったんだがな。受付の仕事もやってみねぇと、今の実情がわからねぇからなぁ」
ギルドの運営のこと、冒険者達のことを考えているのはわかるのだが、如何せんギルマスは有名すぎる武勇の持ち主であり、醸し出される貫禄でカウンターにでも居られた日には、依頼の手続きを持っていけない。
現に、ギルザークがカウンターから出て、いつもの受付担当の人が入った瞬間、ホッとして手続きに向かう人が並び始めていた。

「こっちも依頼でハーバランドまで行ってきたんでね。早く報酬受け取って帰りたいんですよ」
ギルマスとここで問答するのは遠慮したいとレッドが申し訳なさそうに告げると、レッドの肩をバシバシと叩く。もちろん、力の強い人のため、軽くのつもりでも叩かれる方は痛い。
「ハッハッハ。まぁ、仕方ねぇな。今日くらいはゆっくりさせてやるよ」
「いや、冒険者は強制されることなんかほぼないんですが……」
しばらくは痛みに耐えていたが、いい加減、耐えられなくなってきたのでギルザークの手を払う。
「サバランに会ったんだってな? 向こうの話聞かせてくれや。なんなら今からでもいいぞ?」
「……明日でお願いします」
荷物の無い馬車でそこそこに急いだ道であったのだが、それより早くに連絡がいっていたようであった。
レッドとしてもハーバランドで何か起きた場合、間違いなく王都に影響がでるため、情報は共有しておきたかったし、対策の検討もしておきたかった。
だが、レッドの後ろから刺さるような目が四つあり、今からと言うのはなんとしても遠慮したかった。
「それでいいか。んじゃ、サッサといきな。お疲れさん」
ギルマスが話しかけてこなければもう少し早くに終わっていたと言いたくなったが、レッドはなんとか我慢する。
「話しかけてこなければ早く帰れたのに……」
内心の声が漏れたかとレッドは思わず口元を抑えるが、そんな言葉を漏らしたのはタカヒロだった。
レッドは自分のばつの悪さを隠すように、タカヒロの頭にチョップする。
「んじゃ、手続きいってくるわ」
そのまま踵を返して、カウンターに向かっていくレッドを女性二人は笑って見送る。

「お待たせ。結構な実入りになったぜ」
レッドが少し重そうな皮袋を持ち上げる。
持ち上げた拍子にジャラジャラと硬貨同士がぶつかる音が鳴り、皆にやっと口角が上がる。
「うっし、それじゃメシと酒の仕入れに行くか!」
「お酒はレッドたちが買ってきてください。私とマイさんで食材と、後はいつもの店主さんにお願いできないか聞いてきます」
「おう。頼むぜ」
「「お-!」」
ここまで元気よく掛け声を掛けることなど早々ないのだが、ちょっと長い仕事の終わりということで皆テンションが上がっていた。

「酒は飲みなれたのでいいか。構わないか?」
「いいですよ。どれがどんなのかなんてわからないですし」
レッドが酒瓶を適当に選んでいく。
タカヒロに確認を取っているのだが、こっちの酒を飲んだことが無いため、タカヒロは何を聞かれても答えようが無い。
レッドの確認はしたというアリバイ作りでしかなかった。
その証拠にレッドが飲みなれていて、自分が好きなのだろうものを嬉々として選んでいた。
「そんなに買って大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ。さすがに今回の稼ぎを全部使うとか、そんなことはしねぇよ。生活の事を考えて残しておかないといけないからな。剣の手入れ頼んだほうがいいだろうしな……」
レッドは自身の剣を見て、鞘をなでる。
凄まじく強い男と打ち合うことになり、2度ほど防いでくれた。
何度も打ち合ったり、斬ってきたわけではないのだが、それでも剣が痛んでいるだろうと思えたのだ。
「そういえば、今回、ハーバランドの途中にある村と町の配送も請け負いましたけど、問題なかったんですか?」
レッドの顔が沈んでいくのを見てタカヒロが話題を変える。
「ん? あぁ……。あそこでの話があったからか。独占するように俺達だけが受け続けるとかだったら問題になるだろうな。だが、今回限りだ。しばらくは向こうまで行くことはないし、道中まとめて出来る依頼というのも、そんなに無いからな。やりたいなら……モンスターの討伐ついでに採取くらいか?」
やるか? とばかりの目を向けるが、タカヒロは手を振って断る。
「そんな面倒そうなのやりたくないです。それに今回のも疲れるのでもう嫌です」
「……おまえらしいなと思ってしまうのは、慣れなんだろうか。まぁ、いいか。それじゃ半分くらい持ってくれ」
「これ……重くないですか? っていうか、なんかでかいのばっかりこっちに持たせてません?」
タカヒロガ抗議するが、レッドは笑いながら少し早歩きで進みだす。
「ちょっと!? 待ってくださいよ。あ、本気で早い」
長い付き合いの友人同士のようであり、二人のやり取りは周囲の見ていた人たちも楽しそうに見ていた。

「それじゃあ。お疲れ様でした!」
レッドの音頭に皆、酒の入ったコップを掲げ、軽くぶつけ合って飲み始める。
「かあぁ~っ! 沁みるな」
「これ、飲みやすくておいしいですね!」
「これ私が好きなやつですね。あまり飲めないものなんですけど。レッド、ありがとう」
あれがおいしい、これが好きだと言いながら、酒を飲みながら料理を突いていく。
いつもあまり食べていないように見えるタカヒロは、料理に手を付けるのはそこそこに、レッドに負けないペースで酒をグビグビと飲んでいく。
「おまえ、酒強かったのか。よっし! 飲め飲め!」
買ってきた酒はいいペースで空いていき、マイが酔いつぶれる頃には、ほとんどなくなっていた。
「タカヒロは……大丈夫そうだな。おまえ酒だけは強いのな……」
レッドも酔いでふらふらになってきていて、リベルテに促されて部屋に戻っていく。
「じゃあ、この人は僕がベッドに転がしてきます」
「ええ、お願いします。私は片づけをしたら寝ますね。……へんなことしたらだめですからね?」
笑いながら釘を刺すリベルテも、それなりに飲んでいるはずなのだが、テキパキとコップと食器を片付け、酒瓶をまとめていく。
「……しませんて、なんにも……」

「よいっ、しょ……と。重い……」
自分の足で立たず、こちらへ抜けきった体重を寄せられていたタカヒロがマイをベッドに置き、肩をぐるぐると回しながら独り言をつぶやく。
「あははは~、楽しかった~」
先ほどのタカヒロの呟きは聞こえていなかったのか、聞いていなかったのか触れずに、ケタケタと笑い出す。
「やっぱり帰ってこれる場所っていいね~」
マイは天井を見ながら安心したような声を出す。
本当にそう思ってる?
タカヒロは思わず言い出しそうになった言葉を飲み込む。
メレーナ村に居た頃、深夜に目を覚ましたタカヒロはマイの泣き言を聞いたことがあった。
帰りたい、と。
どこにかはわかっていた。
帰れるかはわからなかった。
「……おやすみ」
タカヒロはそっと部屋を出て、戸を閉める。
「本当にそう思えてるならいいんだろうけどね……。僕は、どうなんだろ?」
息を吸って、大きく吐いた後、タカヒロも自分に割り当ててもらっている部屋に戻る。
「明日は、二日酔いかな……」
笑って楽しんだ夜は、その余韻も残らず、静かに終わっていった。
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