王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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兵たちが行軍していくのが見える。
王都の人々は戦地に赴く人々を応援するように、悲しむように見送っている。
グーリンデ王国との対シアロソ帝国の同盟が結ばれ、共同してあたることとなったらしい。
屈強な兵が多いと言われているナダ王国を滅ぼしたことから、グーリンデ王国の後を警戒したのだろう。
オルグラント王国としても戦争となっても押し返せる相手と、一国による統一、支配を狙う相手であれば、後者の方が望まない。
ここで兵を出して可能であればその力を削ぎたいと判断するのは、決して悪い手ではないし、連携という不安はあるが、単独であたるより数を多くしてあたれるのは今しかない。
此度のグーリンデの使者とは、どこまでグーリンデと譲歩できるかだけが問題だったのだ。

「私たちにも影響あるのかな?」
マイが進んでいく兵を目にして、戦争が始まってしまうことで生活が変わってしまうのか恐れているようだった。
「グーリンデ王国と帝国の国境沿いが戦場になるらしいから、僕らに影響ないんじゃない?」
一方でタカヒロは自分たちに一切関係がないものと気楽に兵たちを見送っていた。
そんな二人の様子を見ながらレッドたちは渋い顔をする。
「ん~、関係ないと言えばないし、影響あるっちゃあるなぁ……」
「なんですか? そのはっきりしない感じ」
レッドが口にした言葉に、タカヒロがちょっと嫌そうな顔をしながら突っ込みを入れる。
関係がないと思っていたのに関係があることになりそうで、その面倒さを感じ取ったのだ。
「冒険者も戦場に行くことがあるんですよ」
リベルテの言葉にタカヒロは大きな声を出す。
「え!? 冒険者って戦争とかには関わらないもんじゃないんですか?」
「……それ、どこの何の話だ?」
レッドが言動のおかしい人を見たときにしてしまうような目でタカヒロを見る。
「いや、あの、冒険者ってモンスター相手の民間企業で、兵士より強いとか、人々を守るために戦う仕事だからとか……」
レッドの目に耐えられずに、しどろもどろに話すタカヒロの言葉に、レッドたちの視線はより呆れたものになっていく。
「おまえが冒険者になるころに教えたと思ったんだがな。冒険者って仕事は職の受け皿とされている。そんな職を個人で運営できるか。国によって運営されてるに決まってるだろ。ギルマスは国が審査して協議された結果、国の仕官として任命されるもんだぞ」
ギルドマスターとは国がこれまでの仕事の内容、評判と人柄、そして思想。こういった情報を冒険者ギルドから集め、その中から選出するのである。
もちろん、本人にその役に付くか確認がなされ、辞退することも可能である。
「それに私たちの国が、王都や街が襲われるかもというときに、黙ってみていたり、逃げ出すわけには行きませんよ。逃げても相手は襲ってくるでしょうし、失ってしまえば、私たち、そしてそれから先に生きる人が苦しくなるだけなのですから」
国が攻められて時に逃げればいいと考える人、言い出す人は必ずいる。
そして逃げることは悪いことではない。命あってこその生であるのだから。
だが、国と土地を失って逃げた先で、今よりいい生活を、今と同じ生活を送れるかと言われたら、そんなことはありえない。
そこに住んできた、暮らしてきたということは、そこに人が生活できる環境を造り、整えてきたと言うこと。
その土地を失うと言うことは、まず食料を失い、安心して寝られる家を失うということ。
生活の質を上げることを我慢はできるが、生活の質を落とすのを耐えるというのはなかなかに厳しい。
今まで自由に使えた水が制限されたり、食事の量が減らされたりするだろうし、柔らかい白パンに慣れた者が、人気のない固い黒パンをかじる生活に戻りたいとは思わないだろう。

「それじゃあ、私たちも戦いに行かなきゃいけないんですか?」
マイがやっぱり関係あるんだと自身の震える手を押さえながら聞いてくる。
「いえ、絶対ではありませんよ。軍で戦う訓練をしてきた者達の中に私たちが加わっても邪魔になりますから。ですが、戦争というのは数が大事です。なので、参加する人たちを募集する依頼がギルドに出されます」
「ん? 邪魔って言ってるのに募集するんですか?」
「普通に兵の中に混じればな。だから冒険者や募集に応じた人たちで構成した軍を作るんだよ。なんつったかな……昔に使われてその名前が用いられるようになったんだが」
「義勇軍ですね」
「おう、それそれ。戦いは数があったほうが有利だからな。そんで義勇軍はとくに兵として訓練してきた集まりじゃないから、乱戦というかぶつかったところに突っ込んでいく戦い方になるな。んで、依頼だから受けることを選んだ奴は行くのさ」
仕事として受けなきゃ大丈夫なんだと一安心したようにマイは息をつく。
「強制になることはないんですか?」
タカヒロが念押しのように確認する。
受けなければ戦いに行くことはないとわかっても、強制されるかもしれなければ安心できるわけがない。
「あるぞ」
だが、返ってきた言葉は無情だった。
マイの顔色はスッと悪くなる。
「あ~、この王都とかまで攻め込まれてたらだぞ? さすがに皆で力を合わせないと守れない事態になったときに、戦う力を少しでも持ってるなら当然だろ」
そこまで言われてなら仕方ないのかな? でも、と考え込むマイ。
タカヒロはそれでも面倒くさそうな顔のままであった。
「面倒くさがるだろうが、そういう戦争には行きたがる気もしてたんだがな、タカヒロは」
「なんで?」
心外だといわんばかりの声。
レッドはちらりと周囲を警戒して大丈夫そうだと判断してから少し小さい声で話す。
「おまえの力、そういう場所で満足するまで使いたがるかと思ったんだが」
この王都で生活するにあたり、タカヒロたちの力は使わない、可能な限り抑えるように言われていて、タカヒロたちも力を使った場合の面倒さと問題を想像し控えてはいる。
しかし、折角持っている力でもある。
周囲を確認して大丈夫そうだと思ったときにはちょこちょことその力を使っている。
マイの力については、レッドたちも助けてもらった側であるため、そこまで口に出さないが力が力なので、気をつけている。
だが、タカヒロは討伐の依頼で使ったり、家の中でも使ったりしている。
まだ軽くであるとは言え、度々行使しているのを見れば、力を振るいたくて仕方がないと見えていた。
タカヒロ自身も大きく振るえばとても面倒なことになることはわかっているため、使わないようにしているが、せっかくあって使えるのに使わないというのはもったいないと思っている。
それになにより、魔法で戦えればとても楽なのである。わざわざモンスターに近づいて剣を振るうなんていう、男の子であれば夢見るかもしれないが、怖い上に気持ちがいいとも思えない感触が手に伝わることがある行動はなるべくしたくなかった。
だが、生活していく上でほかに選べる職はなく、稼ぎがいい仕事の方がしたいもので、ついつい使ってしまっていたのである。
そして使えば使うほどに、大きく使ってみたいという思いも出てしまうのが人である。
大きなお金を持つほどに大きな買い物をしたり、パーッと使ってみたくなるようなもので、タカヒロもその欲求は消せてはいない。
「……でもそれやったら絶対面倒になるじゃないですか。そっちの方が我慢できないんで……」
ちょっと敵なしの感じで暴れてみたいと思うときがあるかも知れず、目は若干泳いでいる。

「さて、兵たちは門をくぐって出て行ったな。多くが帰ってこられたらいいが……」
戦争であれば皆が皆、無事に帰ってくることはない。
一方的に戦えることなど多くはないのだから。
だからこそ願うのは、全員無事ではなく、多くが帰ってこられることなのである。
少し悲しそうな背中にかける言葉がないメンバーであったが、レッドがくるっと向きも表情も変える。
「よし、俺らは俺らの生活のために戦うか」
「ふふ。ですね」
レッドの変わり様と言葉に、すぐ通じるリベルテだけ微笑む。
「ん? どゆこと?」
タカヒロとマイは顔を見合わせてしまう。
「これから戦う兵士たちは心配だが、今の俺らに出来ることはないさ。それより俺らは俺らの生活を送れるように依頼を受けてこなすしかないだろ」
「心配していてもごはんは食べられませんからね」
兵が出陣したが戦場はここから遠い。今すぐに戦い始めるわけではないし、その戦場についていくわけでもなければ、何も出来ない。
それよりいつもの生活を送るためにも稼がないといけないのだ。
数日暮らす分はありはするが心もとない。お酒を買うにも、具材を足すにもお金は必要なのだ。
「まぁ、そうですねぇ。楽なのあるといいなぁ」
「兵の出陣を見て、少し気持ちが高まってるので討伐あればそれにしましょうか」
「お、いいな。リベルテ」
「えー?」
楽なのが言いといったそばから少し面倒なものをやる気の二人に、こっちは別のにしようとマイの方を向くが、マイはレッドたちにのっかっていた。
「私もたまには戦わないと。必要なときがくるかもしれないし」
「……リベルテさん。討伐なんて寒い思いしますよ。いいんですか?」
一縷の望みをかけてリベルテを反意させようとする。
リベルテはそこで避けていた事実に気づいてしまった風に俯くが、しばし、見ている分にはちょっと長い逡巡の後、やはり討伐があれば受ける意志を見せる。
「……戦うことがあるかもしれないですからね。そう、この寒い時期に……」
やる気は見せているが目はとても悲しげで、タカヒロはマイに頭を叩かれている。
「ははっ。なんとも締まらねぇな、俺たちは」
王都の人通りも普段と変わらない。
いつもと同じ日常を繰り返そうとする。
冒険者ギルドに向かう人数は、少し減っていた気がした。
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