王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

文字の大きさ
104 / 214

104

しおりを挟む
それなりに楽しいこともある日々を過ごしていたが、やはり世の中、楽しいことばかりはさせてくれない。
王都で暮らす人たちを暗くさせる話が、立て続きに起きてしまったのだ。
一つは日常の中で耳にしなくも無い話であり、もう一つは日常を脅かされる不安と恐怖、そして他国への憎しみを募らせてしまう話である。

日常の中で耳にしなくも無い話は、この王都で子どもが殺されたと言う話である。
少し前に孤児院に行き、子どもたちと触れ合ってきたばかりのレッドたちには、強く衝撃を受ける話であった。
子どもが殺されたとか、亡くなったと言う話は、このオルグラント王国でも事欠かない。
王都ならばまだ、生活にいくらかの余裕がある家は多く、国からの目が届きやすいと言うことがあるが、地方の村や町では生活に余裕が無く、子どもを殺してしまうと言うのがあるのである。
その他にも、片親を亡くしてしまった家庭が再婚をするが、その相手が子どもと接する距離に困って上手く接することが出来ず、、子どもは子どもで自身の親を覚えているため、親が再婚した相手を親と思えなく、距離を取ってしまうのだ。
これが続いて決定的になれば、あまりにも自分に懐かない子どもが再婚した相手の家族の枠組みに入らなくなり、情を持てず、代わりに憎しみを持ってしまい、殺してしまうと言う話もある。
酷いのでは、再婚した相手との生活に子どもが邪魔になったとして、本当の親が殺してしまうと言う話もあったりするのだ。
そして、今回の話で言えば、そのいずれもが起きてしまった話となる。

先の戦争で亡くなってしまった者は多く、お互いに支えあえる人と再婚でも出来て、それでまた生活していけるようになるのが一番であるが、再婚相手は居なく、他に頼れる身内なども居ない人が居たのだいた。
豊穣祭が終わり、これから冬に近づいていく中で、やっと今の生活を振り返り始めた人が多かった。
ある人は、このままでは冬を越せなく、孤児院にやるにもどこも一杯だと、子どもの先を悲観して。
ある人は、未亡人となった人と結婚したが、子どもは前の親を慕って自分に寄らず、避けていく。前までの生活と違い、他者と暮らす生活になり、他の者達の生活の力になると言うのに、その家族になる者が自分に懐かないことに苛立って。
ある人は、亡くなった相手と不和になっていたため、新しい相手との生活に浸り、過去を切り離したくて。
先の戦争の傷跡は、賑やかに過ぎた豊穣祭をもってしても、癒すことなど出来なかったのだ。

一斉に起こった被害に、子を持つ親たちやその近隣に住んでいる人たちが教会に集まっていた。
レッドたちもここに参加していた。行かずにはいられなかったのである。
しめやかに亡くなった子どもたちが埋葬されていく。
リベルテは、接点がまったく無かった子どもたちであるが、とても悲しそうに見送る。
レッドとて、リベルテと同じ気持ちを持っているのだが、悲しむ以外の感情も渦巻いており、周り人たちと同じように悲しめないでいた。

「皆さんのお心により、この亡くなられた方々も安らかに眠れることでしょう」
司祭が白さが際立つ服をはためかせながら、如何にもらしいことを口にして死者を送る言葉とする。
レッドは、この司祭が、いや、教会自体が如何にも信頼出来ないのだ。

この世界で教会と言えば、キスト聖国の教えを信仰する者達である。
癒しの魔法を使える聖国の人間であるため、各国は他の国ほど入国を拒否し切れない。
人々の生活の中で近くにあって、薬師の薬よりも早く確実に、そして大きな怪我すらもたちどころに治せるとあれば、跳ね除けるなんて出来ない。いざと言う時には、自分の治療をと願うものである。
キスト聖国の信者になれば、治療費も安く治療を請け負ってくれると言うことで、お金が無い人たちや早く治してもらいたい人たちを始め、多くの人がキスト教の信者になろうとするのだ。
自国の人々が他国の信者になると言うのは、受け入れられるものでもないのだが、王家や貴族たちとしても、自分たちの万が一を考えると、治癒できる可能性を排除するわけにはいかなくない。
これがキスト聖国の司祭たちがのさばる原因となっている。

今の司祭を見れば分かるように、司祭たちは裕福な生活を送っているのだ。
治療には多額の費用を請求し、それがよりお金を持っているだろう、王家や貴族、商会の人間であれば、さらに跳ね上がっているらしい。
それでも、怪我や病が治り、助かることを思えば、支払う人がほとんどとなる。
それが司祭たちの綺麗な服になり、必要とは思えない煌びやかな装飾品になり、司祭たちの腹の出た身体になっているのである。
同じく、人のために働いている孤児院の管理人とは、比べるまでもない羽振りであった。

以前に、王都で魔の薬を広げた男を捕まえた際に、バラまかれた毒によって警ら隊の多くに被害者が出ていた。
魔の薬について薬師にはまったく不明であり、その特効薬を作り出すことも出来ず、そのため、警ら隊の人たちの治癒は絶望的と思われていた。
レッドは、たまたま近くに『神の玩具』であるマイが居たために、早くに復帰することが出来たが、他の人たちはそうも行かない。
キスト聖国の司祭たちに治療を依頼するしかなかったのである。
国は治安のために働いた者たちであり、国に仕える者達に頼りになることを示さなくてはいけないこともあって、ちょうど聖国から来ていた司祭たちの滞在を認めるしかなかった、と言うのも、城が司祭たちに強く出れない要因にもなっていた。
実に、聖国は王国にとって嫌な時機にオルグラント王国を訪れてきたとも言える。

葬式が終わり、人々がそれぞれの場所へと去っていく。
レッドたちもその場を離れて冒険者ギルドに向かうが、ギルドの中も暗く、そして憎しみや怒りが立ち込めていた。
例の異形のモンスターであるが、あれが性質が悪いことが判明したのだ。
腕に覚えのある者達だけが、アクネシア方面に作られている砦周辺で狩りをしていたのだが、その人たちに比べれば幾分か劣ってしまう者たちも狩りに行ってしまったのである。
これについては、ギルドも責を負うのだが、そのチームが悪かった。
それは四人チームはであり、二名は腕が確かな者たちだったのだ。
二人では心許なかったのだろうか、二名ほど募集して、そこに二名の新人が加わってしまった。
ギルドとしては、全員が腕が危ぶまれる者ではないし、腕が確かな者が二名も居て、それぞれが討伐の実績が十分な仕事歴だったから認めたのである。

しかし、その情報は正しくもあり、間違ってもいた。
異形のモンスターは二足で立つ、いわゆる人に近いモンスターであるが、腕の確かな二名は、ボアやディアなどを多く討伐してきた者達だったのだ。
ボアなどのモンスターは、ずいぶんと手馴れており、苦労せずに討伐してきたためか、モンスターを舐めていたと、今となっては思えてしまう。
二名のベテランに連れ添われ、新人二名を含めた四人は意気揚々と向かったのだが、相手は知恵を持っており、先に向かっていた冒険者たちと戦い、生き残ってた個体が居たのだ。
人がするように草や葉で身を隠し、油断した所に武器を持って襲い掛かる。
ベテランのうちの一名が不意を突かれてあっさりと倒され、そして執拗に止めを刺されていたらしい。確実に相手を殺すと言う殺意を表していた。
もう一人のベテランは、その異様さに怯え、一人逃げ出してしまった。
これで残ったのは新人二人。そして男女だった。
当然、腕が立つわけでもない二人はあっさりとやられる。
だが、ここで女性の方はもっと地獄であった。
先にやられたベテランと新人の男性の遺体を目の前で食べる場面を見せられ、そして自身は襲われたのだ。

砦に居た冒険者のチームが異様な形相で逃げ去っていく冒険者を見て現地に向かったことで、その場に居た異形のモンスターたちは殲滅された。
辛うじて息のあった女性冒険者であるが、生きているとは言えない状況で、もう冒険者としてさえ生きられないだろうと言われていて、ギルドが今、責任を持ってその女性の身を預かり、世話をしている。
レッドとリベルテは、ギルマスに厳重な説明を受けた後、その女性の様子を見させてもらったが、五体は無事であるが、その目はどこも見ていなく、声をかけても反応が無かった。
ただ、あのモンスターたちや目の前で食われた冒険者に関連しそうな言葉には反応するが、それは悲鳴であり、拒絶であり、その女性をより壊してしまうものになるらしく、反応が無いからとさすがにそんな言葉は口に出せない。
女性を見させてもらった後、ギルマスからもう少し話を聞いたが、レッドは聞かなければよかったと後悔し、リベルテがかつて無いほど殺意を溢れさせていた。

「これはまずいな……」
リベルテの様相に漏らしたレッドの言葉は、異形のモンスターに対してではない。
あの異形のモンスターへの怒りはもちろんであるが、そんなモンスターを呼び出したとされる者と、それを使役しているアクネシアにも向かう。
モンスターとアクネシアに対しては、問題は無い。
元々、人が生活していく上でモンスターとは戦うことがあるし、アクネシアは長いの間、そして先の戦争も含めて戦い続けている国である。
だが、モンスターを呼び出した者は良ろしくない。
もちろん、あのようなモンスターを呼び出したのだから、恨まれて何をされても仕方が無いものだ。
しかし、『神の玩具』と思われる相手である。
自身の身に危険が迫れば、今のモンスター以上にさらに凶悪な何かが呼び出されるのではないか。
レッドはそれを危惧しているのだ。

「最早、帝国ではなく、アクネシアを少しでも早くなんとかしないといけませんね」
オルグラント王国としては、グーリンデと同盟が成った今、接する敵はアクネシアだけとなっている。
帝国とはまたいずれ戦うことになるのは間違いないが、先の戦争で双方とも大きな被害を受けているし、後ろを気にしなくてよくなったグーリンデと、異形のモンスターをけしかけたアクネシアがあるのだ。オルグラント王国相手に動いてくるとは考えられなかった。

「だが、先の戦争の被害はまだ大きい。それに関する葬式。さっき立ち会ってきたばかりだろ」
「……それでも、このままではもっと被害が増えてしまいます。あんなものたちをこの世界にのさばらせてはいけません!」
同じ女性として思うところがあったのもあろうが、レッドには国全体の雰囲気でもあるように感じられた。
周りが熱くなりすぎているからこそ、一人だけ冷水を浴びせられたかのように、レッドは落ち着きを取り戻している。
元々相容れない敵国であるが、それでも誰かに仕向けられたかのように、アクネシアへ敵意が高められていくように感じられてた。気にしすぎとも思えるが、どうしても頭から離れなくなっていた。

「怖いものだな」
自身の考えをまとめるために口にしたのだが、本当に怖ろしいものの影を感じてしまい、腕をさすってしまう。
「どうかしました?」
「いや、寒くなってきたな、ってな」
レッドが見上げた方角に見える山は、白みを帯びていた。
確かに、冬が近づいてきているのが、見えていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

勝手にダンジョンを創られ魔法のある生活が始まりました

久遠 れんり
ファンタジー
別の世界からの侵略を機に地球にばらまかれた魔素、元々なかった魔素の影響を受け徐々に人間は進化をする。 魔法が使えるようになった人類。 侵略者の想像を超え人類は魔改造されていく。 カクヨム公開中。

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

30代社畜の私が1ヶ月後に異世界転生するらしい。

ひさまま
ファンタジー
 前世で搾取されまくりだった私。  魂の休養のため、地球に転生したが、地球でも今世も搾取されまくりのため魂の消滅の危機らしい。  とある理由から元の世界に戻るように言われ、マジックバックを自称神様から頂いたよ。  これで地球で買ったものを持ち込めるとのこと。やっぱり夢ではないらしい。  取り敢えず、明日は退職届けを出そう。  目指せ、快適異世界生活。  ぽちぽち更新します。  作者、うっかりなのでこれも買わないと!というのがあれば教えて下さい。  脳内の空想を、つらつら書いているのでお目汚しな際はごめんなさい。

七日後に神罰が落ちる。上層部は「下を切り捨てろ」と言った——私は全員を逃がす

蒼月よる
ファンタジー
七日後、この港に神罰が落ちる。 追放された元観測士イオナだけが、その事実を知っていた。 しかも災害は自然現象ではない——誰かが、意図的に引き起こそうとしている。 港の上層部はすでに手を打っていた。「下層区画を緩衝被害区として切り捨てる」秘密契約。被害を最小限に見せかけ、体制を守る冷徹な計画だ。 イオナは元護送隊長ガルム、荷運び組合長メラとともに動き出す。 犯人を暴き、証拠を公開し、住民を逃がし、工廠を止める——すべてを七日で。 被害を「選ぶ」管理か、全員を「残す」運用か。 追放観測士の、七日間の港湾カウントダウン・サスペンス。 この作品は以下の箇所にAI(Claude Code)を利用しています。 ・世界観・設定の管理補助 ・プロット段階の壁打ち ・作者による執筆後の校正

クラス転移したら種族が変化してたけどとりあえず生きる

アルカス
ファンタジー
16歳になったばかりの高校2年の主人公。 でも、主人公は昔から体が弱くなかなか学校に通えなかった。 でも学校には、行っても俺に声をかけてくれる親友はいた。 その日も体の調子が良くなり、親友と久しぶりの学校に行きHRが終わり先生が出ていったとき、クラスが眩しい光に包まれた。 そして僕は一人、違う場所に飛ばされいた。

処理中です...