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程よく風は吹いているがまだ陽射しが暑い中、レッドたちはまた畑仕事に精を出していた。
今時期の畑仕事の依頼であれば、麦の刈り取り作業の依頼が主流なのであるが、レッドたちは麦ではない物の収穫の手伝いをしている。
麦を刈るより重労働で、汗を流しながら腕の力をかなり使う作業をこなしていく。
「……っし!」
レッドが重そうに持ち上げて、荷車に乗せる。
「はぁ~……、こいつは重いな」
リベルテでは持ち上げるのが厳しいようで、比較的に大きく重そうな物はレッドが運ぶようにして、リベルテは少し小さめの物を切り取って積んでいた。
女性に重い物を持たせるのは、と言う考えが無いわけではないのだが、女性であっても力の強い者は居るし、いま自分が大変な思いをしていると、どうしても不平を言いたくなってきてしまい、レッドは荷台に積んだ物を軽く叩く。
「しっかし、こいつは何なんだ? これまで、こんな物の収穫手伝いは聞いたことが無かったぞ?」
レッドが軽く叩いた物はしっかりとした硬さを持っていて、投げてぶつければそれなりの武器になるのではないか、と思ってしまうほどだった。
「あ~、それはつい最近、ウルクから持ち込まれてきた野菜なんです。なかなかに流行ると思ってますよ」
レッドの不平が混じった言葉に返事をしたのは、依頼主であるディエゴという青年だった。
亡くなった祖父の畑を引き継いだのだが、他にも兄弟が居るため、当然、分け合うことになったそうである。
ディエゴは年下であったことから、分けられた畑は他に比べると少し狭い畑で、この畑だけでの収穫では生活をするには難しいものだった。
そこで彼は船で交易をしているウルクから、海外の珍しい野菜の種を持ち込んでもらい、それに掛けることにしたのである。
それがこの、ずんぐりとして皮が硬く、ずっしりと重い野菜であった。
「キュルビスって言うんですよ。種類がいくつかあって、あちらで収穫してもらっている物とこっちと……。まだ他にも」
嬉々としながらキュルビスの種類を説明し始めるディエゴに、レッドは興味を引かれていく。
新しい食べ物。それが美味しい物であれば、料理の種類が増え、それだけ楽しめると言うことであり、これまでより栽培できる種類が増えるのであれば、他の所でも育てられるようになり、多くの人が食事にありつけるようになっていけるのだから、素晴らしい話なである。
「こいつはどんな野菜なんだ? どう食べると美味い?」
レッドの質問に、ディエゴの目がキランと光る。
「これは皮が硬いんですけど、こう、削ぐように剥いて、茹でたり少し薄めに切って焼くか、窯のようなものでじっくりと熱を通して食べるんです。熱を通すと甘くなるんですよ。果物とはまた違う甘さで……。これはいけそうだと思いませんか!?」
ディエゴがこれまでに無い野菜であることを強調するが、果物とはまた違う甘さと言われても、レッドにはピンとこなかった。
甘いのであれば、瑞々しさを持つ果実の方が美味しそうな見た目や香りもあるし、何よりキュルビスは皮が硬いのである。
レッドはディエゴの話を素直に信じきれなかった。
それがはっきりと態度に出てしまったのだろう。ディエゴがさらにやる気を見せた。
「昼は期待しててください。こいつの美味さを味合わせてあげますよ。こいつが今年の豊穣祭を変えますよ~」
収穫はレッドたちに任せて、早速と調理に仕込みにディエゴは向かった行ってしまった。
収穫の手伝いの依頼を受けてきたので、引き続き作業をするのは問題ないのだが、朝から収穫に来てまだそんなに陽が進んでないうちから準備に向かうと言うことに、それだけ手間が掛かるのかとレッドはキュルビスに対して興味を失っていく。
料理の度に手間が掛かりすぎるとなれば、浸透しづらいものである。
ディエゴはこの野菜に掛けたらしいのだが、その賭けが外れないことをレッドは願うばかりであった。
「さぼってないで、動いてください」
レッドが差って言ったディエゴの方を見ながら立ち止まっていたのを見て、リベルテが声を注意してくる。
小さめの物の収穫をしていたリベルテであるが、レッドの物より軽いためか、担当の範囲の半分を収穫し終えていた。
「悪い悪い。ちょっと依頼主と話をしていてな。こいつが何なのかってな」
レッドがまた、キュルビスをコンコンと軽く叩く。
リベルテも気になっていたようで、興味深そうな目を向けてくる。
つい先ほどの自分のようだと、レッドは少し笑ってしまう。
「皮が硬いですよね。どうやって食べるのでしょうか?」
リベルテもまたコンコンとキュルビスを叩く。いい音が返ってくる野菜である。
「あ~、皮を削ぐように剥いて、茹でたり薄く切って焼くとか、窯のようなものでじっくりと熱を通すらしい。そうすると、果物とは違う甘さがあるそうだぞ」
ついさっきディエゴから聞いたばかりの事を、得意そうにリベルテに伝えるレッド。
レッドとは興味を持つ点が異なるため、リベルテは甘いと言うことに反応を示し、狙いを定めた狩人の目に変わる。
「……ちなみに、昼に食わせてくれるそうだぞ?」
レッドを睨むようにリベルテの目が向けられる。
あまりの眼力にビクッとしたレッドであったが、当のリベルテは普段どおりの表情に戻っていた。
だが、昼が楽しみ担っているようでその口元は少しにやけていた。
「こういうのも見られるようになるってのは、変化を感じるな」
「いつまでも変わらないもの、と言うのは無いのかもしれませんね。私たちも生きているわけですから」
オルグラントはグーリンデと長く争い続けてきたが、今となっては友好的な関係になってきており、グーリンデの名産品などが王都に入ってくるようになっている。
それだけでなく、海の外にある国とも交易が続けられているため、王都に入ってくるものがドンドンと増えており、王都で暮らしている人たちには目に見えてわかる物の増え方に、だいぶ賑やかになっていた。
しかし、他から入ってきた物を自分たちで育てようとする人は中々居なかった。
変わった物を一度は食べてみたいとは思っても、それを自分たちで育てると言う事の大変さを無意識の内に理解してしまっているためだ。
環境が変われば育たないかもしれないし、育ってもそんなに量が取れないかもしれないのだ。
育て方だってわかっていないのだから、長くに亘って注意深く育てていかなければならなく、その労力に見合うのか分からないし、それに付き合っていくために今の生活を変えなければいけないかもしれないことが何より大きい。
農家であれば、育てる物を変えると言うのはこれまでの経験を捨てて、今までの稼ぎを失くすと言うことに他ならない。
ディエゴみたいに、売れると信じきって動ける方が少ないのだ。
そのディエゴにしても、広く無い畑で生活していくために新しい物に掛けなければいけなかったと言う背景があったから動けたに過ぎなかった。
「さて、昼を楽しみにして、もう少し頑張りますか」
「ええ」
レッドたちはまた収穫に戻る。
少し前に受けた雑草取りの依頼で手伝った畑に比べれば狭いと言えるが、当のキュルビスは結構な実をつけていた。
これがもっと広い畑なら壮観な景色になるだろうと思われるが、その分、力に自信のある人手を多く集めないと収穫しきれないのだろうなとも思う。
レッドはそう考えながら、一つ、また一つと、重いキュルビスを持ち上げて荷車に積んでいく。
まだまだキュルビスはその実を多く残していた。
レッドが担当しているキュルビスの収穫がやっと半分が見えてきた頃に、ディエゴが自信あり気に皿に乗っけたキュルビスを持ってくる。
皿にはキュルビスしか載っていなく、レッドは飯だと期待していただけにがっくりと肩を落としてしまう。
だが、昼を用意もらえるのだから、不平を言うのは失礼であり、感謝するのが正しいのだ。
自分で用意するとなるとその分、出費になるわけだし、こんな重労働の後で食事処まで出かけるのは億劫であるし、この時期では持参してくるとなると保存に気をつけないと大変なことになってしまうのだ。
「へ~。では早速、いただくよ」
薄めに切られたキュルビスは三日月のような形になっており、焼き目が良かった。
軽く塩を振られているキュルビスは、サクサクと口に入っていく。塩の味が利いているが、しっかりと甘みも感じられ、ほぅっと声を上げてしまう。
リベルテは茹でたらしいキュルビスに手をつけていて、口をつけてややしばらくした後、満足そうな顔になっていた。
「これ、甘いですね! 砂糖を使ってはいるのでしょうけど、確かにこれは果物とは違う甘さですね」
「ですよね? 普通に食べても良いし、お菓子なんかにも使える野菜だと思うんですよ。これで作れば変り種間違いなしですから、人集まりますよ」
先を見据えて動いているディエゴにはちゃんと協力者もいるらしく、彼の頭には広がっていく土地と利益が見えているようだった。
変り種とあれば人は試しにと買う人が出てくるし、それで実際に美味しければ引き続き買ってくれるし、他の人たちに話題にして広めてくれる。
それがどんどんと利益を呼び、高まる需要に畑を広げていくことに繋がっていく。
ひょっとしたらディエゴには、他の兄弟たちの畑を吸収してやる気持ちもやる気に含まれていたのかもしれない。
ディエゴが持ってきた皿にあるキュルビスを見ていくと、ごろんとキュルビスを半分にしただけのように見えるものがあり、興味を引かれてレッドは手を伸ばしてみる。
キュルビスの真ん中がくり貫かれていて、代わりにリゾットを詰めて窯でじっくり焼いたらしい。
リゾットの上に降りかかっているチーズが焦げ目をつけていて、とても美味そうだった。
周辺のキュルビスの実と一緒にスプーンですくって口に運ぶ。
レッドは熱さにはふはふと口を動かしながら咀嚼する。
塩気と甘み、そしてリゾットによる腹持ち。これは良いと素直に思えた。
惜しむらくは、もう少し気温が低い時期に食べた方が、もっと美味く感じられそうだと言うだった。
レッドが手元から顔を上げると、リベルテがじっとこちらの手を見ていた。
ちょっと考えて、レッドは先ほどのようにすくって、リベルテの前にスプーンを差し出す。
リベルテは少しだけ逡巡を見せた後、興味に負けたのか口に含んだ。
口をもごもごさせてから、美味しいですね、とリベルテは横を向いて口にする。
レッドの方を見て言わなかったのは、料理が熱かったせいなのか。リベルテの顔は少し赤くなっていた。
リベルテの反応に少し笑みを見せていると、横から視線を感じて目を向ける。
視線を動かすと、ディエゴが死んだような目でレッドを見ていた。
レッドの方を見ているようであるのだが、はっきりとこっちを見ていないようで、ぶつぶつと、これが売れれば、と呟きながら焼いたキュルビスをかじっている。
「あ~……。豊穣祭が楽しみだな」
周囲の気まずさに、レッドは空を見上げて豊穣祭に向けた言葉を口にするが、返事をしてくれる人はいなかった。
今時期の畑仕事の依頼であれば、麦の刈り取り作業の依頼が主流なのであるが、レッドたちは麦ではない物の収穫の手伝いをしている。
麦を刈るより重労働で、汗を流しながら腕の力をかなり使う作業をこなしていく。
「……っし!」
レッドが重そうに持ち上げて、荷車に乗せる。
「はぁ~……、こいつは重いな」
リベルテでは持ち上げるのが厳しいようで、比較的に大きく重そうな物はレッドが運ぶようにして、リベルテは少し小さめの物を切り取って積んでいた。
女性に重い物を持たせるのは、と言う考えが無いわけではないのだが、女性であっても力の強い者は居るし、いま自分が大変な思いをしていると、どうしても不平を言いたくなってきてしまい、レッドは荷台に積んだ物を軽く叩く。
「しっかし、こいつは何なんだ? これまで、こんな物の収穫手伝いは聞いたことが無かったぞ?」
レッドが軽く叩いた物はしっかりとした硬さを持っていて、投げてぶつければそれなりの武器になるのではないか、と思ってしまうほどだった。
「あ~、それはつい最近、ウルクから持ち込まれてきた野菜なんです。なかなかに流行ると思ってますよ」
レッドの不平が混じった言葉に返事をしたのは、依頼主であるディエゴという青年だった。
亡くなった祖父の畑を引き継いだのだが、他にも兄弟が居るため、当然、分け合うことになったそうである。
ディエゴは年下であったことから、分けられた畑は他に比べると少し狭い畑で、この畑だけでの収穫では生活をするには難しいものだった。
そこで彼は船で交易をしているウルクから、海外の珍しい野菜の種を持ち込んでもらい、それに掛けることにしたのである。
それがこの、ずんぐりとして皮が硬く、ずっしりと重い野菜であった。
「キュルビスって言うんですよ。種類がいくつかあって、あちらで収穫してもらっている物とこっちと……。まだ他にも」
嬉々としながらキュルビスの種類を説明し始めるディエゴに、レッドは興味を引かれていく。
新しい食べ物。それが美味しい物であれば、料理の種類が増え、それだけ楽しめると言うことであり、これまでより栽培できる種類が増えるのであれば、他の所でも育てられるようになり、多くの人が食事にありつけるようになっていけるのだから、素晴らしい話なである。
「こいつはどんな野菜なんだ? どう食べると美味い?」
レッドの質問に、ディエゴの目がキランと光る。
「これは皮が硬いんですけど、こう、削ぐように剥いて、茹でたり少し薄めに切って焼くか、窯のようなものでじっくりと熱を通して食べるんです。熱を通すと甘くなるんですよ。果物とはまた違う甘さで……。これはいけそうだと思いませんか!?」
ディエゴがこれまでに無い野菜であることを強調するが、果物とはまた違う甘さと言われても、レッドにはピンとこなかった。
甘いのであれば、瑞々しさを持つ果実の方が美味しそうな見た目や香りもあるし、何よりキュルビスは皮が硬いのである。
レッドはディエゴの話を素直に信じきれなかった。
それがはっきりと態度に出てしまったのだろう。ディエゴがさらにやる気を見せた。
「昼は期待しててください。こいつの美味さを味合わせてあげますよ。こいつが今年の豊穣祭を変えますよ~」
収穫はレッドたちに任せて、早速と調理に仕込みにディエゴは向かった行ってしまった。
収穫の手伝いの依頼を受けてきたので、引き続き作業をするのは問題ないのだが、朝から収穫に来てまだそんなに陽が進んでないうちから準備に向かうと言うことに、それだけ手間が掛かるのかとレッドはキュルビスに対して興味を失っていく。
料理の度に手間が掛かりすぎるとなれば、浸透しづらいものである。
ディエゴはこの野菜に掛けたらしいのだが、その賭けが外れないことをレッドは願うばかりであった。
「さぼってないで、動いてください」
レッドが差って言ったディエゴの方を見ながら立ち止まっていたのを見て、リベルテが声を注意してくる。
小さめの物の収穫をしていたリベルテであるが、レッドの物より軽いためか、担当の範囲の半分を収穫し終えていた。
「悪い悪い。ちょっと依頼主と話をしていてな。こいつが何なのかってな」
レッドがまた、キュルビスをコンコンと軽く叩く。
リベルテも気になっていたようで、興味深そうな目を向けてくる。
つい先ほどの自分のようだと、レッドは少し笑ってしまう。
「皮が硬いですよね。どうやって食べるのでしょうか?」
リベルテもまたコンコンとキュルビスを叩く。いい音が返ってくる野菜である。
「あ~、皮を削ぐように剥いて、茹でたり薄く切って焼くとか、窯のようなものでじっくりと熱を通すらしい。そうすると、果物とは違う甘さがあるそうだぞ」
ついさっきディエゴから聞いたばかりの事を、得意そうにリベルテに伝えるレッド。
レッドとは興味を持つ点が異なるため、リベルテは甘いと言うことに反応を示し、狙いを定めた狩人の目に変わる。
「……ちなみに、昼に食わせてくれるそうだぞ?」
レッドを睨むようにリベルテの目が向けられる。
あまりの眼力にビクッとしたレッドであったが、当のリベルテは普段どおりの表情に戻っていた。
だが、昼が楽しみ担っているようでその口元は少しにやけていた。
「こういうのも見られるようになるってのは、変化を感じるな」
「いつまでも変わらないもの、と言うのは無いのかもしれませんね。私たちも生きているわけですから」
オルグラントはグーリンデと長く争い続けてきたが、今となっては友好的な関係になってきており、グーリンデの名産品などが王都に入ってくるようになっている。
それだけでなく、海の外にある国とも交易が続けられているため、王都に入ってくるものがドンドンと増えており、王都で暮らしている人たちには目に見えてわかる物の増え方に、だいぶ賑やかになっていた。
しかし、他から入ってきた物を自分たちで育てようとする人は中々居なかった。
変わった物を一度は食べてみたいとは思っても、それを自分たちで育てると言う事の大変さを無意識の内に理解してしまっているためだ。
環境が変われば育たないかもしれないし、育ってもそんなに量が取れないかもしれないのだ。
育て方だってわかっていないのだから、長くに亘って注意深く育てていかなければならなく、その労力に見合うのか分からないし、それに付き合っていくために今の生活を変えなければいけないかもしれないことが何より大きい。
農家であれば、育てる物を変えると言うのはこれまでの経験を捨てて、今までの稼ぎを失くすと言うことに他ならない。
ディエゴみたいに、売れると信じきって動ける方が少ないのだ。
そのディエゴにしても、広く無い畑で生活していくために新しい物に掛けなければいけなかったと言う背景があったから動けたに過ぎなかった。
「さて、昼を楽しみにして、もう少し頑張りますか」
「ええ」
レッドたちはまた収穫に戻る。
少し前に受けた雑草取りの依頼で手伝った畑に比べれば狭いと言えるが、当のキュルビスは結構な実をつけていた。
これがもっと広い畑なら壮観な景色になるだろうと思われるが、その分、力に自信のある人手を多く集めないと収穫しきれないのだろうなとも思う。
レッドはそう考えながら、一つ、また一つと、重いキュルビスを持ち上げて荷車に積んでいく。
まだまだキュルビスはその実を多く残していた。
レッドが担当しているキュルビスの収穫がやっと半分が見えてきた頃に、ディエゴが自信あり気に皿に乗っけたキュルビスを持ってくる。
皿にはキュルビスしか載っていなく、レッドは飯だと期待していただけにがっくりと肩を落としてしまう。
だが、昼を用意もらえるのだから、不平を言うのは失礼であり、感謝するのが正しいのだ。
自分で用意するとなるとその分、出費になるわけだし、こんな重労働の後で食事処まで出かけるのは億劫であるし、この時期では持参してくるとなると保存に気をつけないと大変なことになってしまうのだ。
「へ~。では早速、いただくよ」
薄めに切られたキュルビスは三日月のような形になっており、焼き目が良かった。
軽く塩を振られているキュルビスは、サクサクと口に入っていく。塩の味が利いているが、しっかりと甘みも感じられ、ほぅっと声を上げてしまう。
リベルテは茹でたらしいキュルビスに手をつけていて、口をつけてややしばらくした後、満足そうな顔になっていた。
「これ、甘いですね! 砂糖を使ってはいるのでしょうけど、確かにこれは果物とは違う甘さですね」
「ですよね? 普通に食べても良いし、お菓子なんかにも使える野菜だと思うんですよ。これで作れば変り種間違いなしですから、人集まりますよ」
先を見据えて動いているディエゴにはちゃんと協力者もいるらしく、彼の頭には広がっていく土地と利益が見えているようだった。
変り種とあれば人は試しにと買う人が出てくるし、それで実際に美味しければ引き続き買ってくれるし、他の人たちに話題にして広めてくれる。
それがどんどんと利益を呼び、高まる需要に畑を広げていくことに繋がっていく。
ひょっとしたらディエゴには、他の兄弟たちの畑を吸収してやる気持ちもやる気に含まれていたのかもしれない。
ディエゴが持ってきた皿にあるキュルビスを見ていくと、ごろんとキュルビスを半分にしただけのように見えるものがあり、興味を引かれてレッドは手を伸ばしてみる。
キュルビスの真ん中がくり貫かれていて、代わりにリゾットを詰めて窯でじっくり焼いたらしい。
リゾットの上に降りかかっているチーズが焦げ目をつけていて、とても美味そうだった。
周辺のキュルビスの実と一緒にスプーンですくって口に運ぶ。
レッドは熱さにはふはふと口を動かしながら咀嚼する。
塩気と甘み、そしてリゾットによる腹持ち。これは良いと素直に思えた。
惜しむらくは、もう少し気温が低い時期に食べた方が、もっと美味く感じられそうだと言うだった。
レッドが手元から顔を上げると、リベルテがじっとこちらの手を見ていた。
ちょっと考えて、レッドは先ほどのようにすくって、リベルテの前にスプーンを差し出す。
リベルテは少しだけ逡巡を見せた後、興味に負けたのか口に含んだ。
口をもごもごさせてから、美味しいですね、とリベルテは横を向いて口にする。
レッドの方を見て言わなかったのは、料理が熱かったせいなのか。リベルテの顔は少し赤くなっていた。
リベルテの反応に少し笑みを見せていると、横から視線を感じて目を向ける。
視線を動かすと、ディエゴが死んだような目でレッドを見ていた。
レッドの方を見ているようであるのだが、はっきりとこっちを見ていないようで、ぶつぶつと、これが売れれば、と呟きながら焼いたキュルビスをかじっている。
「あ~……。豊穣祭が楽しみだな」
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