王国冒険者の生活(修正版)

雪月透

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タカヒロはどうしてそう思ったのかも分からないまま、このキストとオルグラント軍がぶつかった戦場の少し奥に見える丘に、向かわなければいけないと思った。
あの場から一人離れるなど、どう考えても罰せられることになるとしか考えられない。
戦場から逃げた、と思ってくれればまだ良い方で、下手をするとキストへ寝返った、と思われるかもしれない。
そうなったら、王都に残っているマイがどのような目に合うのか、想像するのも怖いくらいであった。
そんなことを考えられるなら、あの場から勝手に離れるなんてしなければ良かったのに、と自分の行動ながら自分を責めるが、それでも足は止まらなかった。
走り出したタカヒロの後ろの方で、轟音が響き渡る。
振り返はしていないが、それでも何が起きたのかだけは、想像がついてしまった。
タカヒロたちの居た世界で、よくあるストーリーで作り出されるモノ。
それが作られたのだと、轟音から察することが出来てしまう……。
その轟音を聞いてしまったからこそ、タカヒロはなおさら足を止めるわけにはいかなくなった。

遠目で見た時にはそんなに高くない丘に思えていたが、いざ走り通しで登るには坂が厳しかった。
タカヒロは魔法で風を生み出し、自分の背中を押しながらも登る。
苦し紛れで追い風を生み出したが、出来るものなら飛んで行きたいと考えてしまうくらいであった。
登りきって、膝に手をついて呼吸を整える。
走り通しで丘を登ったのだ。かなり呼吸が苦しかった。
こんな状況で襲われたら何の抵抗も出来ずに終わってしまいそうなのだが、襲ってくる者は居ない。
そしてこの丘には、何となくタカヒロが思ってしまった通り、アンリが一人佇んでいた。
走って現れたタカヒロには気付いているが、戦場から目を背けないように耐えている様子にも見えた。

「ここに、居る様な気が、したんだ……。『銃』が作られたのかも、って考えたら、君なら、ここにいるかもって……」
まだ息が整っていなかった。それでもタカヒロから話をしなければダメだと思えた。
アンリは本当に少しだけタカヒロに目を向けるが、その目はまた戦場へと戻る。
そして轟音がまた響く。
轟音が鳴るたびに、きっと多くの人が命を落としているのだと思えてしまう。
この丘でアンリと話をしている場合では無いようにも思えてしまうが、それでも今しか話が出来ないとも、タカヒロには感じられていた。

「戦争を考えた時に、戦況を変えられる方法で一番に考えられるのが、『銃』だよね? ずっと昔に『銃』を使っていたって言う、僕たちと同じ人が居たらしいけど、この世界には広まっていなかった。……どうしてかな?」
アンリは何も答えない。
タカヒロは自身の考えを話し続ける。
必死に話続ける姿は、普段のタカヒロを知っている者たちからすると、柄じゃない、と突っ込みを入れてしまいそうなほどだった。

「僕たちの世界とこの世界は、全てが同じじゃないからだと、僕は思う。だって、魔法がある世界なんだから、あっちの世界と同じはずが無いよね? だから、あちらの世界と同じようには作りだすことは出来ないはずなんだ。だけど僕らは不思議な力を持たされていたから、あの『銃』を扱えたんだ」
『銃』を持って活躍していたらしい人が居たのであれば、その戦果を真似しようとする人が出ないわけが無い。
しかもそれが、弓を扱うより簡単で手軽に遠くの相手を倒せるのだ。他の人も同じ武器を使いたくなるに決まっている。
だが、作ることが出来なかった。
おそらく、『銃』を持っていた者も他の『銃』などを作り出そうとしたはずなのに、だ。

誰もが欲しがる強力な武器を最初に売り出せれば、そこから得られる利益はどれ程のものになるだろうか。
タカヒロたちがいた世界で身近であったり、ありふれている物を、こちらのような世界で作りだして、いっきに大金持ちになるなんて言うストーリーはいくらでもあるのだから、実際に異なる世界に身を移すことになったのならば、あちらの世界の人なら誰もが考えるはずなのだ。

「でも、君は作り出せてしまった……。この世界での作り方を知ったんだよね? 君の力で」
ここまで話し続けたのは、タカヒロにとっては雑談のようなものだった。
ここから、アンリに踏み込んで話をしなければいけないのだ。
「『銃』を作りだして、帝国相手に使うことになった。攻め込まれていたからね。そこで君は成果を見ることにしたはずだ。作り出したけど後がどうなるか知らない、なんて出来ないからね? ……そして君は、自分がしたことに気づいたはずだ」
アンリが握っていた手に力が入ったのが見えた。
アンリの姿から、今ここから見える惨状を作り出したのは自身だと、わかっているのは感じられていた。
……でも、認めないようにしているのだろうと思っていたのだ。

「そこから戦争の度に、君は目にすることになった。君が作り出した物だから、キストの人たちは、君が戦場に姿を見せないを認めなかった。君の成果だと、君自身の持ち上げと君を見出した人たちの自慢があったのかなって思う。…迷惑だけどね」
区切るように肩を竦めて見せるが、アンリは戦場に目を向けたままだった。
タカヒロは少し息を吐いて、また話を続ける。
「それに君も、自分が引き起こしたことだから、見ないわけにはいられなかった。それが、少し離れた、こんな場所から眺めると言う行動になった」
アンリがやっとタカヒロに向く。だが、その目つきは険しかった。

「私は悪くないわっ! おかしいのはこの世界だもの!!」
アンリが溜めていたものを吐き出すように大きな声で叫んだ。
「ここは私が知ってる世界と似ていたわ。だから、先に起こることの予想が付いた。そんなことが出来るなんて、私が主人公ってことだもの。皆、私に感謝して、私を尊敬す。私は愛されて当然じゃない! なんで命を狙われなきゃならないの!? 私を傷つけようとしてくる敵なんだから、倒すのは当然でしょ!!」
タカヒロは、あぁ……やっぱりだ、と思った。
自分たちと異なる世界に移ってしまったら、それはタカヒロたちの世界でありふれている自分が主人公であるかのような物語に思ってしまう。
ましてや、特別な力を持っているのだから、なおさらだった。

「この世界はゲームなんかじゃない。みんな生きてる! それくらいわかってるだろ? 敵だから倒すとか、そんな簡単に言ってやって良いことなんかじゃない」
思わず手に力が入る。
タカヒロは自分で口にしながら、自分が言って良い言葉ではないと感じてしまう。
タカヒロはその強力だった魔法の力で襲ってきた者たちを返り討ちにし、その命を奪ったことがあるのだから。
しかし、今この場では、そのようなことをしたことがあるタカヒロだからこそ、アンリに言わなければいけない言葉だった。

「悪いやつだから倒して感謝されるとか、凶悪なモンスターを倒して称賛されるとか。僕らは簡単に考えてしまうけど、そんな薄っぺらい考えでやって良いことなんかじゃないんだ。君がしたことで多くの人が亡くなっていく。その人たちの命を奪って良い理由なんて、僕たちには何処にも無いんだよ」
「うるさいっ!!」
アンリが大きな声で遮る。アンリの目には涙が浮かんでいた。

「みんな、自分を守るために殺してるじゃない! なんで私だけ言われるの!? 私が何をしてきたっていうのよ!!」
アンリが俯く。
その言葉は、オルグラントでアンリがしてきたことを言っているのだとわかる。
ちゃんとしていれば、アンリは城でそれなりの生活を送っていたはずなのだ。
しかし、彼女はおそらく、ゲームのようなものの考えのまま動いてしまったから、今ここに居る。
誰からも好かれるなんて、望んでしまうが、ありえないことである。
複数の人から何事も無く愛されるなんて、願ってしまうが、おかしいはずなのだ。
複数の相手と結婚する人も存在しているかもしれないが、何事も無く穏やかなままなんて、人である限りありえない。
それは、人である限り、独占欲であったり、嫉妬であったり、羨んでしまうものなのだから。
そんなことは、何か打算であったり、表に出せないような狙いが無いと出来はしない。

「……君は、ちゃんと相手と向き合ったのかい? 一人の相手として」
アンリが驚いたように顔をあげるが、何も言い返さない。
意味が分からなかったのか、それとも考えたことがなかったのか。そのどちらなのかが分かるほど、アンリのことはわかっていない。
だが、震えだしたアンリの手から、怒り出す前なのだと察せされた。

「なんだって言うのよっ!! 私はこの世界に来たの! 違う世界に来たの!! なら、私がここに来たことの理由が、意味があるはずでしょう!? 私の役割が、私の使命が、絶対ある。私はもっと愛されて当然なの!!」
「そんなものなんて、無いよ」
タカヒロはばっさりとアンリの言葉を否定する。あまりの言い切りに、アンリが動きを止めた。

タカヒロとしてもアンリを否定した言葉を、自身が認められるようになるまで長く辛かった。
目を開けたら違う世界の、違う場所に居ると言うのに。
物語の主人公にでもなったような状況で、自身もすごい力も持っていると言うのに。
……ここに居ることに、特別な意味も理由も無いのだ、と。
それは、道を歩いていて、相手は誰でも良かったと通りざまに刺されるようなものだった。
理不尽すぎて、納得出来ることなど何一つ無いし、どんなに頑張って探してみても、そこに本当に特別な理由なんて存在しないのだ。

アンリが表情が抜けたように立ち呆けていた。
「……私をどうするの?」
小さな声だった。
その声が聞こえたタカヒロにも、その彼女の問いに返す答えなど持ってはいなかった。
タカヒロがしなければと思っていたのは、アンリと会って、ちゃんとこの世界について、自分たちについて伝えなければ、と言うことだけだったのだ。
本当は、もっと前から話をしていれば、このような事態にはならなかったのかもしれない。
あまり好んで話しをする相手ではないからと、面倒ごとから逃げすぎてしまった結果なのだ。
あちらの世界では、人を傷つけることが溢れていた。
楽しそうに話をしながら、その人が離れた瞬間にその人のことを貶しあう。
ネットでは、自分たちは名前を伏せたまま、見知らぬ相手でも中傷する。

そんな周囲に同じように見られるのが嫌で、少し離れた所から眺めるようにしてきた。
それは良くないことだと言っても、返ってくるのは白けた目か、蔑んでくるような目であり、逆にこちらが貶められたり、中傷されるようになってしまうだけだ。
だから人と話をすることが面倒だと、こちらの世界に来ても決め付けてきてしまったいて、動けなかった。

「……僕は何もしないよ。僕が守りたいものを傷つけたりしない限り」
また轟音が聞こえた。
戦場に目を向ければ、少数の軍団がオルグラント兵を逃がすために暴れていたようだったのだが、その一団が『銃』で撃たれたのだ。
遠目から、タカヒロにはあの一団の暴れ方からレッドたちが浮かんでくる。
仲間のために身を挺して戦える人の戦い方に見えたのだ。
タカヒロは再び走り出す。
もうアンリにこうして会うことは無いと思えた。もうここですることは終わったのだ。
今のタカヒロには、動きたいことが決まっていた。

戦うということの重さも、厳しさもわかっている。
その中で一緒に戦うのなら、と思える仲間が出来ている。
この世界で生きるということがどのようなことかも理解出来ている。

この世界で共に生きたいと思える仲間の下に走り続けるのだった。
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