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禁じられた小夜曲
禁じられた小夜曲 2
しおりを挟むアイシス達の場面から切り替わり、今度は暗い闇の洞窟の中に移り変わる。
その洞窟の奥へと歩みを進めていたのは、先ほどアイシスさんの部屋に向けて強い眼差しを向けていた妖艶なエルフの女性。
こんなところで一体何を?とは思うなかれ、だいたい恋心をこじらせたライバルキャラが取る行動は限られている。
『おやおや、美しいエルフの娘がこんな里の最果ての地に何の用じゃ?』
洞窟の奥にいたのは黒い髪に黒い瞳をした、その白い肌に赤い唇が印象的な耳の尖った怪しい雰囲気のエルフ。
このいでたちからすると、ダークエルフ辺りだろうか?
こういう場面で大抵現れるのは、魔女か何らかの理由で闇落ちしたキャラクターというのが物語の王道だ。
『私がここにきた理由なんて、ただ一つしかないわ。アイシスが邪魔だから今すぐお前の力で消してちょうだい!』
『ほっほっほっ、これまた唐突じゃな。あのエルフの長、マグオートの娘のアイシスを消すとなれば、それはそれは大変なことになろうのぉ』
大変なことと言葉で言いながら、ダークエルフの女は愉しそうに笑う。
うん、これファンタジーだからいいけど、いや全くよくはないけど実際はただの犯罪ですからね?
『マグオート様の娘なら、アイシス以外に何人もいるじゃない。1人くらいいなくなったからって、エルフの里に影響なんて大してないわ!』
『ほぉ?』
『それで、できるの?できないの?』
『そうじゃな。こちらが故意に消したとなれば面倒なこともあるやもしれぬが、あの娘自身の行動で行方が分からなくなるのなら・・・・・話は簡単じゃ』
『!?』
その後、取引は無事に成立しライバルエルフの美しい髪の毛と引き換えに、ダークエルフは紫の液体の入った小さな小瓶を女に渡す。
『ウフフ、これでエドワルドは私のモノね』
これ、昔から散々主に少女漫画で見てきた展開だが、なんでライバルが消えたら絶対に自分が選ばれるという自信が彼女達にはあるんだろうか?
美人でスタイルがよくて選ばれるなら、そんなことしなくても虜にできると思うんだけど。
いや、そんなことを言っていたら話が進みませんね。
うん、次行こう、次!!
場面はさらに切り替わる。
ここは、最初にいた森だろうか?
その森の奥でアイシスは、石に囲まれた小さな泉の前で嬉しそうにそこからの光景を見ていた。
他に人はいない。
あれ?
てっきりエドワルドと呼ばれた男性が付き添っているものと思ったんだけど。
『エドに迷惑はかけられないし、これで最後にするからお父様も許してくれるよね?』
泉には、立派な船が大海原で航海している姿が映る。
そこには、その船の先端に2人の男性が楽しそうに話をしながら海を眺めていた。
あの船の感じで2人の様子からすると、どこかの国の王子か貴族の出のものとその従者と言ったところだろうか?
まさか、この船が嵐に合ってそれをアイシスさんが助けに行くとか?
先ほどの取引といい、それではまるで童話に出てくる『人魚姫』みたいだ。
そんなことを考えていたら天気は大きく荒れ始め、予想通りに船は嵐にあいその激しい波にさらされている。
『た、大変!!』
そしてその大きな波の中へ、あの従者があやまって落ちた。
あれ?
まさかのそっち?
王子様らしき方じゃないの?
『えっ?!』
いや、まさかのまさかで、その王子様が従者を追いかけて海の中へと飛び込んだっ!
どんな展開ですか、これ?!
海に溺れた従者を王子が助けて、どんな物語がスタートするの?
ま、ま、まさかのここに来て、BのLな展開ですか!?
確かに、わたくし前世で海に落ちた従者と、それを助けた主人との熱い腐の小説を見たことがあります!!
前世では、腐海も散々泳いで参りました!
いやいやいや、そしたらこの豪華なエルフ設定が全く関係なくなってしまう。
それとも、もしかしてアイシスさんが新しい腐の扉を開いちゃうんですかっ!?
森山雫、今はクローディアと名と姿を大きく変えておりますが、腐海の泳ぎ方だけならお嬢様に一から教えられますぞ!!
まずは左右の位置の違いから参りますか?
これは基本中の基本ながら、一歩間違えればいかに親しい心の友であっても口論からの大戦争、果ては交友関係すらも絶交を引き起こしかねない、それはそれは大きな地雷にもなるとても大事なことですからノートをしっかり取るように!!
男女三角関係の、どちらがヒロインとくっくつかの口論なんて全くもって小さいもので、カップルは同じなのに右と左がどちらに来るかで天と地ほども血がければ、スパダリかメス化になるかヘタレてはいてもいざとなったらその目がかっこよくきらめいて輝くのか涙で潤って大変に可愛らしく誘うのか!
うっかり並んだイベント会場でルンルンしてたら、周りから同じ好きキャラに対する会話に違和感を覚えてまさかと恐る恐る確認したら見事に左右逆カプだったあの時の絶望感といったらって・・・・って、今はとにかくそうじゃない!
そんな私の懐かしい腐った思い出思考の傍らで、着々と場面は動く。
『そんなに心配なら、あなたも助けに行ったらどう?』
『へ?』
ドンッ!!
泉を心配げに覗き込むアイシスの後ろからあの金髪のエルフが現れ、その背中を勢いよく押すとアイシスの体が泉に頭から突っ込みそのまま体ごと水の中へと落ちてしまう。
本来その泉の底は浅く落ちたとしてもすぐに立ち上がれるはずなのに、アイシスの体は起き上がることなくその姿をその場から消した。
『・・・・これで、本当にいなくなったの?』
大きな波紋が広がるものの、それも少しすると元の静かな泉に戻る。
『や、やったわ!アイシスが、アイシスがいなくなった!!』
冷や汗をかいているものの、自分の望んだ通りの展開にエルフの女は高笑いをしながらその場を去っていく。
おいおい、犯人がそんなに大声だしたらすぐに犯行が見つかっちゃいますよ~~?
泉から落ちたアイシスのことが気になっていると、場面はすぐに次の舞台となる海の中へときり変わる。
かなり深い海の中で、呼吸の心配もせず泳ぎもせずにいられるというのはとても不思議な感覚だった。
その中で船から落ちた従者をその腕に抱えた男性が地上に向かって泳いでおり、アイシスはと辺りを見渡してみると何とどこから現れたのか大きなタコのモンスターにその体を捕らわれ、身動きができなくなっている。
そして、その姿を見た男が眉間にシワを寄せて顔を歪めたかと思うと、すぐさま従者の男を魔法でシャボン玉のような丸い泡で包み込み、アイシスさんの元へと駆けつけた。
大タコVS人間
いや、そもそもあの男性かなり長いこと水の中にいるけど、エラ呼吸でもしてるんですか?
全然苦しそうな様子も見せないその男性は再び魔法を唱えると、アイシスさんをつかんでいるタコの足を水の刃で断ち切りその体を奪って抱えていく。
獲物を奪われた大タコのモンスターが怒りに襲いかかるが、その瞬間残った足を全て魔法で容赦なく断ち切られ、逃げるようにしてその場を離れていった。
確か、タコの足は敵にやられた時は後から再生するんだっけ?
そして男は片手に気絶しているアイシスを抱え、もう片方に従者を抱えて海の上へと泳いでいく。
すごい!!
まさかこの人、海中レスキュー隊か何かですかね?
リアル○猿か?
魔法の助けも借りつつ、男はついに2人を連れてなんと海岸までたどり着いた。
従者の男を砂浜に寝かせてからその胸元を手の平を強い勢いで押して心臓マッサージ?をすると、従者の口から大量の水が噴水のようにピューーーーーと空に向かって溢れ出す。
次にアイシスさんの口元に自分の顔を近づけ呼吸がないのを確認すると、その唇に自分の唇をつけて人口呼吸を行う。
これ人助けと分かっていても、はたから見ているとなんだか気恥ずかしい。
『・・・・・・・ゴホッゴホッ!!』
何度か息を吹き込まれたあと、ようやくアイシスさんが息を吹き返して水を外に吐き出した。
『全く、なんでジルを助けに海の中に入ったら、別の人間が大タコに襲われててそっちまで助けなくてはいけないんだ!』
『ゴホッゴホッ!!ここ・・・は?』
アイシスさんは水を吐ききると苦しそうな様子で辺りを見渡すが、すぐにまた意識を失って倒れてしまった。
『あっ!おい、まだ寝るな!お前は一体どこの誰なんだ?!』
男がアイシスさんの体を抱きかかえて何度も声をかけるが、返事はない。
『か、カルロ様、助けて頂き本当にありがとうございます!あの、その・・・・娘は?』
『知るか!突然目の前で大タコに襲われてたんだ』
『えぇっ!?』
『とりあえず城に連れて帰るぞ!ジル、お前がこの女を抱えてこい』
『ちょ、ちょっと待って下さいよ~~カルロ様!!』
『ジル』と呼ばれた従者に横抱きにされながら、アイシスさんは海岸から見えるアヴァロニア城に勝るのも劣らない、それはそれは立派な城へと連れていかれた。
その前を、肩まである青い髪を首元で縛った『カルロ』と呼ばれた男が歩く。
彼の瞳はルークと同じーーーーー深い紫色だった。
応援ありがとうございます!
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