16 / 21
16
しおりを挟む
僕が病院で目を覚ましたときには、もうずべてが終わっていた。彼の葬儀は彼の祖父が密かに済ませたらしい。友人どころか実の両親さえも来ず、ささやかなものだったと坊主頭に聞かされた。
彼の名誉のために、彼の死因は伏せられた。真実を知っているのはあの場で気を失った僕と医務室へ駆け込んだ坊主頭、それから医務室の先生と彼の祖父。僕の知る限りではそれだけだ。
表向き、彼の死因は持病の悪化ということになっているらしい。というのも彼は生前、学友たちへ向けて一通の手紙を遺していた。僕は学友なんかじゃないから読んでないけど、その手紙には自分が不治の病であることと、病を隠すために病室の僕に仮病を使わせていたということが書いてあったらしい。僕は仮病なんて一度も言ってないのに。
どうして彼は最期に本当のことを打ち明ける気になったんだろう。こんないい逃げのような手紙を遺していくなんて、彼は卑怯だ。最期まで僕というわがままなルームメイトに振り回されたお人好しでいればよかったのに。僕は一度だって彼に強要されていないんだから。利用はされたけど。
そう、僕の紐なしバンジージャンプは彼にすっかり利用された。彼は僕が何をするか知っていて僕に屋上の鍵を渡したのだ。僕が成功させようがさせまいが、あの部屋の中は彼ひとりになる。すぐに誰かに発見されては助かってしまう可能性がある。だから誰も来ないときを狙った。
彼の誤算は坊主頭が僕を助けたことだろう。僕が部屋へ戻ったのは、彼が思ったよりもずっと早かったはずだ。あのときはまだ息があったらしいし。僕にとっても誤算だった。飛び降りた人間に上から飛びついて庇うなんて、普通じゃない。棘の上にも落ちてないしほとんど怪我もしてないし、ものすごく化け物じみてる。
「二度も目の前で友人を失いたくなかった。」
坊主頭はそう言った。
僕はそれを聞いて、いつから僕たちは友だちになったんだろうとか、そんな酷いことを考えていた。
「俺の親友な、俺の目の前で崖から落ちていったんだ。親からの暴力に耐えられんくなったって言って。俺はそのこと知ってたのに、助けられんかった。俺の故郷、結構な田舎でな、その崖はほとんど人が立ち寄らんところにあったんだ。半年探したけど、ついに体は見つからんかった。」
故郷にいたら、その親友を思い出してしまう。どこへ行っても思い出が溢れて泣きそうになる。助けられなかった自分が惨めに思えて悔しくなる。後を追いたくなる。だから故郷を出てこの学校に入った。坊主頭はそう語った。
坊主頭曰く、僕はその親友と同じ目をしていたらしい。未来に絶望した、生きることを諦めた目。人生を自らの手で、終わらせたがっている目。だから放って置けなくて、勝手に僕と親友を重ねて付き纏った。もし僕を助けることができたなら親友の魂も救われる、そんな変な願掛けまでして。
いい迷惑だ。僕はその親友の名前さえ知らないってのに。
彼がいなくなって、教室からは活気が消えた。
僕があの日に屋上から飛び降りたことを知っているのは今となっては坊主頭だけで、彼の遺書のおかげで病弱の肩書も失った僕は空気のような存在に戻っていた。といってもやっぱり僕を噂する人はなくならなくて、彼といちばん仲が良かったのに可哀想ねとか、彼の死の瞬間を看取ったから病んでしまっているに違いないとか、憐れむ声は聞こえてきた。
坊主頭はあいも変わらず僕に向かって一方的に話しかけていたけれど、あちこちで会話が飛び交っていた以前と違って坊主頭だけが言葉を発する教室は、なんだか少し不気味だった。
そんな彼の四十九日が経過した頃、ひとり部屋になった僕の寮室に一通の手紙が届いた。死の国から届けられたそれには、ルームメイトの、彼の名前が記されていた。
彼の名誉のために、彼の死因は伏せられた。真実を知っているのはあの場で気を失った僕と医務室へ駆け込んだ坊主頭、それから医務室の先生と彼の祖父。僕の知る限りではそれだけだ。
表向き、彼の死因は持病の悪化ということになっているらしい。というのも彼は生前、学友たちへ向けて一通の手紙を遺していた。僕は学友なんかじゃないから読んでないけど、その手紙には自分が不治の病であることと、病を隠すために病室の僕に仮病を使わせていたということが書いてあったらしい。僕は仮病なんて一度も言ってないのに。
どうして彼は最期に本当のことを打ち明ける気になったんだろう。こんないい逃げのような手紙を遺していくなんて、彼は卑怯だ。最期まで僕というわがままなルームメイトに振り回されたお人好しでいればよかったのに。僕は一度だって彼に強要されていないんだから。利用はされたけど。
そう、僕の紐なしバンジージャンプは彼にすっかり利用された。彼は僕が何をするか知っていて僕に屋上の鍵を渡したのだ。僕が成功させようがさせまいが、あの部屋の中は彼ひとりになる。すぐに誰かに発見されては助かってしまう可能性がある。だから誰も来ないときを狙った。
彼の誤算は坊主頭が僕を助けたことだろう。僕が部屋へ戻ったのは、彼が思ったよりもずっと早かったはずだ。あのときはまだ息があったらしいし。僕にとっても誤算だった。飛び降りた人間に上から飛びついて庇うなんて、普通じゃない。棘の上にも落ちてないしほとんど怪我もしてないし、ものすごく化け物じみてる。
「二度も目の前で友人を失いたくなかった。」
坊主頭はそう言った。
僕はそれを聞いて、いつから僕たちは友だちになったんだろうとか、そんな酷いことを考えていた。
「俺の親友な、俺の目の前で崖から落ちていったんだ。親からの暴力に耐えられんくなったって言って。俺はそのこと知ってたのに、助けられんかった。俺の故郷、結構な田舎でな、その崖はほとんど人が立ち寄らんところにあったんだ。半年探したけど、ついに体は見つからんかった。」
故郷にいたら、その親友を思い出してしまう。どこへ行っても思い出が溢れて泣きそうになる。助けられなかった自分が惨めに思えて悔しくなる。後を追いたくなる。だから故郷を出てこの学校に入った。坊主頭はそう語った。
坊主頭曰く、僕はその親友と同じ目をしていたらしい。未来に絶望した、生きることを諦めた目。人生を自らの手で、終わらせたがっている目。だから放って置けなくて、勝手に僕と親友を重ねて付き纏った。もし僕を助けることができたなら親友の魂も救われる、そんな変な願掛けまでして。
いい迷惑だ。僕はその親友の名前さえ知らないってのに。
彼がいなくなって、教室からは活気が消えた。
僕があの日に屋上から飛び降りたことを知っているのは今となっては坊主頭だけで、彼の遺書のおかげで病弱の肩書も失った僕は空気のような存在に戻っていた。といってもやっぱり僕を噂する人はなくならなくて、彼といちばん仲が良かったのに可哀想ねとか、彼の死の瞬間を看取ったから病んでしまっているに違いないとか、憐れむ声は聞こえてきた。
坊主頭はあいも変わらず僕に向かって一方的に話しかけていたけれど、あちこちで会話が飛び交っていた以前と違って坊主頭だけが言葉を発する教室は、なんだか少し不気味だった。
そんな彼の四十九日が経過した頃、ひとり部屋になった僕の寮室に一通の手紙が届いた。死の国から届けられたそれには、ルームメイトの、彼の名前が記されていた。
0
あなたにおすすめの小説
お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます
菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。
嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。
「居なくていいなら、出ていこう」
この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
愛していました。待っていました。でもさようなら。
彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。
やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。
三十年後に届いた白い手紙
RyuChoukan
ファンタジー
三十年前、帝国は一人の少年を裏切り者として処刑した。
彼は最後まで、何も語らなかった。
その罪の真相を知る者は、ただ一人の女性だけだった。
戴冠舞踏会の夜。
公爵令嬢は、一通の白い手紙を手に、皇帝の前に立つ。
それは復讐でも、告発でもない。
三十年間、辺境の郵便局で待ち続けられていた、
「渡されなかった約束」のための手紙だった。
沈黙のまま命を捨てた男と、
三十年、ただ待ち続けた女。
そして、すべてを知った上で扉を開く、次の世代。
これは、
遅れて届いた手紙が、
人生と運命を静かに書き換えていく物語。
はじめまして、私の知らない婚約者様
有木珠乃@『ヒロ弟』コミカライズ配信中
ファンタジー
ミルドレッド・カーマイン公爵令嬢は突然、学園の食堂で話しかけられる。
見覚えのない男性。傍らには豊満な体型の女性がいる。
けれどその女性から発せられた男性の名前には、聞き覚えがあった。
ミルドレッドの婚約者であるブルーノ王子であることを。
けれどミルドレッドの反応は薄い。なぜなら彼女は……。
この世界を乙女ゲームだと知った人々による、悪役令嬢とヒロイン、魔女の入れ替え話です。
悪役令嬢を救いたかったはずなのに、どうしてこんなことに?
※他サイトにも掲載しています。
【完結】あなたに知られたくなかった
ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。
5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。
そんなセレナに起きた奇跡とは?
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる