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理解できない。どうして死んでるかもしれないやつに手紙なんて書くんだ。時間の無駄だろ。ましてこんな長々と書いて、僕以外の手に渡ったらどうするつもりだったんだ。あとのことを考えてなさすぎる。それにこんなめんどくさい約束まで勝手に取り付けて。とんだ迷惑だ。
愚かだよ、あんた。
けどおかげで分かった。彼がどうしていつも友人に囲まれていようとしたのか。どうしてひとりを恐れていたのか。
僕は今までこういうことを自分の中だけで考えて答えを出そうとしていた。だから分からなかった。聞けばよかったんだ。本人に聞きさえすれば、それだけで答えが分かったんだ。坊主頭が僕に絡んできていた理由だって聞いてみればすごく簡単なもので、ちっとも怖いものなんかじゃなかった。
僕以外のみんなはきっとこれが当然のようにできていたから、人と関わることが怖くなかったんだ。おばあさまにも、聞いてみれば何か変わったのかな。
手紙を読んだ次の日、僕は初めて坊主頭に話しかけた。きちんと名前を呼んで、おはようと言った。
坊主頭はびっくりした顔で僕を見て、それから嬉しそうにおはようと返してくれた。坊主頭のそんな顔、僕は初めて見た。心がくすぐったくなる。変な気持ちだ。
僕は坊主頭に聞いてみた。故郷のこと、家族のこと、親友のこと。聞いて、話をした。僕のことも話した。おばあさまのことを話したら、坊主頭はすごく驚いていた。それから、最期くらい会いに行けばよかったんじゃない?って言われた。本当、その通りだ。
坊主頭はいろんな顔をしながら、けれどきちんと話を聞いて、話をしてくれた。
これが、友だちというものなのだろうか。分からない。けどびっくりした顔をしたあいつの顔を見たその一瞬、ほんの刹那、僕はもしかしたら誰かと関わるのもそう悪くないのかもしれないと、少しだけ思ってしまった。最悪だ。
「それもこれも、全部あんたのせいだよ。」
あんたの好物を、あんたがいなくなってから初めて聞いて、僕は生まれて初めて誰かのために何かを買った。初めて誰かのお墓へ来た。全部、初めて。
あんたのせいだ。あんたのせいで、僕はこんなにも変わってしまった。
おばあさまが今の僕を見たら何て言うかな。何を思うかな。話がしたいな。
そうだ、次はおばあさまのお墓にも行ってみよう。あるのかも分からないけれど、きっと母に聞いたら教えてくれる。母が教えてくれなければ、誰か知っている人を探そう。お墓がないなら僕が作ったっていい。
そしておばあさまに会ったらちゃんと言おう。病院へ会いに行かなくてごめんなさいと。育ててくれて、大事にしてくれてありがとうと。おばあさまのことが大好きだったと。
彼のお墓の前にいろんな人から聞いた彼の好物を並べて、僕は改めて彼に向き直る。
「ケイ。」
口に出して、気づいた。僕が彼の名前を呼んだのはこれが初めてだ。そりゃあ彼は手紙に"名前なんて覚えていないだろうけど"なんて書くわけだよ。
「ケイ。僕、友だちができたよ。あんたの言う通り、名前を呼んでおはようと言った。」
爽やかな風が、言葉の続きを促すように僕の背をゆっくりと押していく。
「だから、約束通り報告に来た。」
彼の名前が彫られた冷たい石の隣に、一輪の花が咲いている。
「できたよ、ケイ。」
花が少し揺れて、陽の光をきらりと反射させる。
ふと、彼が眠る姿が脳裏によぎった。ほとんど陽の当たらない二段ベッドの下段で、影に溶ける黒髪。あの場所は、夕日だけが差し込むんだ。まっすぐに入ってきた光の帯を浴びて眩しそうに開かれた彼の瞳は、暗いあの場所でただひとつ、きらりと光り輝いていた。
「ねえ、なんで死んじゃったの。」
まだ春と呼ぶには少し早い、けれどもうすっかり冬ではなくなった少し肌寒い彼の墓前で、僕の頬だけが真夏のように火照っていた。
愚かだよ、あんた。
けどおかげで分かった。彼がどうしていつも友人に囲まれていようとしたのか。どうしてひとりを恐れていたのか。
僕は今までこういうことを自分の中だけで考えて答えを出そうとしていた。だから分からなかった。聞けばよかったんだ。本人に聞きさえすれば、それだけで答えが分かったんだ。坊主頭が僕に絡んできていた理由だって聞いてみればすごく簡単なもので、ちっとも怖いものなんかじゃなかった。
僕以外のみんなはきっとこれが当然のようにできていたから、人と関わることが怖くなかったんだ。おばあさまにも、聞いてみれば何か変わったのかな。
手紙を読んだ次の日、僕は初めて坊主頭に話しかけた。きちんと名前を呼んで、おはようと言った。
坊主頭はびっくりした顔で僕を見て、それから嬉しそうにおはようと返してくれた。坊主頭のそんな顔、僕は初めて見た。心がくすぐったくなる。変な気持ちだ。
僕は坊主頭に聞いてみた。故郷のこと、家族のこと、親友のこと。聞いて、話をした。僕のことも話した。おばあさまのことを話したら、坊主頭はすごく驚いていた。それから、最期くらい会いに行けばよかったんじゃない?って言われた。本当、その通りだ。
坊主頭はいろんな顔をしながら、けれどきちんと話を聞いて、話をしてくれた。
これが、友だちというものなのだろうか。分からない。けどびっくりした顔をしたあいつの顔を見たその一瞬、ほんの刹那、僕はもしかしたら誰かと関わるのもそう悪くないのかもしれないと、少しだけ思ってしまった。最悪だ。
「それもこれも、全部あんたのせいだよ。」
あんたの好物を、あんたがいなくなってから初めて聞いて、僕は生まれて初めて誰かのために何かを買った。初めて誰かのお墓へ来た。全部、初めて。
あんたのせいだ。あんたのせいで、僕はこんなにも変わってしまった。
おばあさまが今の僕を見たら何て言うかな。何を思うかな。話がしたいな。
そうだ、次はおばあさまのお墓にも行ってみよう。あるのかも分からないけれど、きっと母に聞いたら教えてくれる。母が教えてくれなければ、誰か知っている人を探そう。お墓がないなら僕が作ったっていい。
そしておばあさまに会ったらちゃんと言おう。病院へ会いに行かなくてごめんなさいと。育ててくれて、大事にしてくれてありがとうと。おばあさまのことが大好きだったと。
彼のお墓の前にいろんな人から聞いた彼の好物を並べて、僕は改めて彼に向き直る。
「ケイ。」
口に出して、気づいた。僕が彼の名前を呼んだのはこれが初めてだ。そりゃあ彼は手紙に"名前なんて覚えていないだろうけど"なんて書くわけだよ。
「ケイ。僕、友だちができたよ。あんたの言う通り、名前を呼んでおはようと言った。」
爽やかな風が、言葉の続きを促すように僕の背をゆっくりと押していく。
「だから、約束通り報告に来た。」
彼の名前が彫られた冷たい石の隣に、一輪の花が咲いている。
「できたよ、ケイ。」
花が少し揺れて、陽の光をきらりと反射させる。
ふと、彼が眠る姿が脳裏によぎった。ほとんど陽の当たらない二段ベッドの下段で、影に溶ける黒髪。あの場所は、夕日だけが差し込むんだ。まっすぐに入ってきた光の帯を浴びて眩しそうに開かれた彼の瞳は、暗いあの場所でただひとつ、きらりと光り輝いていた。
「ねえ、なんで死んじゃったの。」
まだ春と呼ぶには少し早い、けれどもうすっかり冬ではなくなった少し肌寒い彼の墓前で、僕の頬だけが真夏のように火照っていた。
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