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第2章 オーディン

【21】 苦しくて愛しい

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シルヴィがベッドに入ってから30分後に私は部屋に入る。
起きる恐れはないので、電灯を点けベッドに腰掛け寝顔を見る。
あぁ…天使とはこのような者のことを言うのだろう。
清らかで汚れを知らない体と心が無防備に私の前に横たわる。
私が守ってやらねば即座に汚されてしまうであろう。
上掛けをめくり、少し右向きに脱力し眠るシルヴィを眺める。
飽きることなくいつまででも見ていられる。
だが深い眠りの時間は限られている。
髪の感触を確かめるように指をすべらせ、その長い髪に顔を寄せる。すべらかで今宵も良い香りがする。
スゥスゥと規則正しい息が聞こえる。
長いまつ毛が時折ピクリと動くのも可愛い。
ピンクに色づく頬に顔を寄せ頬をすり合わせる。赤子のように柔らかな肌だ。
その頬に口づけると欲望がムクリと持ち上がるのを感じる。やめろ、まだ駄目だ…
少し開いた艷やかな唇から赤い舌が見える。
そっと口づけ、離す。
何度も繰り返すと「ん…」と言い、寝返りをうってしまった。
顕になったうなじが真っ白でなまめかしい。
そこにも口づけを落とす。ここに私の所有印を刻みたい…
見える場所はマズイと冷静な判断がまだ出来るようだ。首の後ろ側に舌を這わせ、吸い付き赤い痕を残した。
ここならば長い髪で、見えることはないだろう。
私のものだと全世界に言いたいのに、まだ言えないこのもどかしさが苦しくて愛しい。

この部屋は厳重に近衛の黒服達に守らせているが、王宮での仕事で帰りが遅くなる時もあり心配は尽きない。
今夜、黒服から受けた報告では、夕食時に1番年若のメイドとシルヴィが会話をしたそうだ。
内容は出た料理の素材についてだそうだが、その時のシルヴィが楽しそうに笑っていたと…。
この日を以てシルヴィに近づき世話をしてよいのは黒服のみと決めた。




次の日、私の異母弟でありシルヴィの従兄弟であるリュドミールの誕生祝いの品を買いにでかけた。
これがいわゆる初デートになるのだな。
放課後に行くので制服のままなのがデートっぽくないが、シルヴィと一緒ならどこでも楽しい。
車の窓から街並みを見て頬を染め「すごい」と感動するさまも、可愛らしい。
「あれは時計?凄く大きい」と指差す時計塔も、いつもより輝いて見える。
シルヴィと見るだけで世界はこんなにも違うものだろうか。
買い物中、ぬいぐるみ売り場に興味を示したシルヴィがその中の1つに指をツンツンした。
くっ…私もツンツンしてほしいぞ。
神の使いとされているその生物のぬいぐるみをシルヴィはつつきながら感触を楽しんでるようで、声を出して笑った。
その笑い顔がとてつもなく貴重な宝玉のように感じられ、永遠に見ていたいと思った。
黒服に指示し1番大きなその動物のぬいぐるみを手配させた。

シルヴィにスィーツを食べて帰ろうと誘われた。いよいよデートっぽいぞ。
だが安全面から唐突な飲食は出来ないと黒服が言うと、誠に残念そうな顔をした。
私の立場のせいで苦労をかけることに心が傷んだ。

不自由な思いをさせることも多かろうが、それを補って余りある愛情を注ぐ、私は神にそう誓った。

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