この両手を伸ばした先に

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誘拐

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***テオフィル視点***

殿下の指示通り、ここ10年の貴族の子弟の資料をかき集め捜査本部に戻ってきたのは月が真上に登る頃だった。

殿下はソファに背を預け眠っておられる。麗しい目の下には隈が出来、髪は乱れてしまっている。
男爵家の使用人に指示し、毛布を持ってこさせ起こさぬようにそっとかける。別の椅子で眠りこける、ここの息子にも毛布をかけるよう指示した。


誘拐―――

その事実は気の毒ではあるが、出自も定かでない庶民で、しかも兄が犯人では同情の余地もない。
このようにジュリアス様を煩わす小さいチビめ…。できればこのまま帰ってくるな。

私の希望とは裏腹に、モゾモゾと起き出した男爵家の小倅こせがれが私の持ってきた資料で見つけてしまった。


「こいつだ―――間違いない」

その書類には、【 退学 】の赤い判がつかれていた。卒業アルバムで見つからないはずだ。

カーティス・ラ・トゥールそれが犯人の名前で地方伯爵の次男となっていた。

ジュリアス様はすぐに伯爵の領地を調べろと命じ、領地以外に潜伏先になりそうな所有物件も洗うように命じた。
さすが我が君、将来の王にふさわしい行動力・判断力に感服する。



私のほうに向き直ると、両手を握りしめその麗しい額にあて「ありがとう…テオ、さすが有能なオレの執事だ」

王に勲章をいただくよりも嬉しい言葉を賜った。そのように喜ばれると、あのチビを見つけ出しもっと喜ばせて差し上げたいと思ってしまう。



ジュリアス様のために、今後もこの赤目の犯人探しに微力ながらお手伝いしましょう。






****コピー視点****

お屋敷を一人で抜け出してしまった。

前に1度だけ逃げ出したことがあった。
複製品であることに耐えられず逃げ出したボクを夜通し探して連れ戻し「心配しただろバカッ!」と抱きしめてくれた。あの時のように探しに来てはくれないだろう。
なぜならご主人さまはフェルオリジナルを手に入れたんだから…。
もうボクがアイサレルことなんてない。

休憩しながら街まで夜通し歩いた。街に着くころには朝になってた。

足が痛い…お腹が空いた。食べ物を求め市場を歩く。美味しい匂いのパンを手に入れ貪り食った。
喉が乾いて広場の水飲み場で水を飲んでいると、後ろから肩を掴まれた。

「フェルっ!!」

振り向くと驚いた顔をした汗だくの年上の男の子がそこにいた。

「あ――ごめん人違い」

オリジナルの知り合いかな? こんな朝早くから探してるのか…

なんでオリジナルばかりがこんなにも求められるのか。自分はコピーだから?
そんな事を考えているとその少年が抱きしめてきた。

「お前…そんな不安そうな顔するなよ 迷子か?一緒にかーちゃん探してやろうか?」 なんて言ってきた。

人の良さそうな、そのソバカスの少年を見ているボクの口は
「母さんは…死んだ」 なぜだか言わなくていいことを言ってた。



「そうか」といい更に抱きしめてくる。この少年の腕はご主人さまみたいに温かい……

「それでそんな迷子みたいな目してんだな かわいそうに」


(かわいそうに…かわいそうに…かわいそうに…)

「ボ…ックはかわいそうなんかじゃないっ!!」なぜだか叫んでしまっていた。



フェル オリジナル ボク コピー
誰もボクを求めない 空気以下の存在だ
こんなボクが消えたって誰も悲しまない…



「お前…泣きたい時は泣いて良いんだぞ?」そういいボクをベンチに座らせた。


秋風が少し寒い石畳の広場。
ここは…前にご主人さまが連れてきてくれた広場だ。
小鳥にパンくずを一緒にあげたあの時の…

「はい」そういって目の前にアイスキャンディーが差し出された

「一緒に食おうぜ」

そういって隣に座り、色違いのキャンディーを食べだした。

ボクも1口かじる 甘い味が口に広がる。
あの時もご主人さまが、これの赤いのを買ってくれた。すごくおいしくて嬉しくて2つも食べさせてもらった。
今もらったこの黄色いのもとてもおいしい。


ご主人様に会いたい…でも今頃ご主人様はオリジナルと一緒に……



「さっき間違えたのって…友達?」少年に聞く。

「うん 親友だフェルってんだ」ソバカスだらけの顔でニカッと笑う。

「いなくなったの?」

「そうなんだ 昨日からみんなでずっと探してる」



オリジナルは何人も探してくれる人がいるんだ。ボクなんてご主人さましか… 
いや もう誰もいないのに。




見つからなければいい。 
ご主人さまが幸せであるならオリジナルと一緒にどこか遠くに行けばいいんだ。

「早く食べないと溶けるぞ」

「うん…」


「オレ 今はフェル探すので忙しいけどさ ひまんなったら一緒に遊ぼうぜ!友達も紹介するよ、いいやつばっかだからさ。だから そんな寂しそうな顔すんなよ!」

そういって電話番号と名前を紙に書き、ボクの手に握らせ去っていった。何回も振り向きながら手を振る少年が見えなくなった。

(こんなのもらっても…ボクはもう死ぬんだから)

誘拐の時に使った催眠スプレーを持ってきてた。高い場所でコレを使って眠ったまま落ちれば死ねるだろう。用無しになった複製品は死ぬだけだ。

生きてたって何もいいことなんかありゃしない。


『そこのお前 生きたいか?』


生きたかった…ずっとご主人さまの側で―――
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