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8章
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*シャウデボクトの回想
前王に若いころから侍従として仕え、王宮統括の地位にまで上り詰めたのは前王が白の番を亡くし、黒の王子が消えた後だった。
万全の態勢で臨んだ白の番様のご出産があのような形で終わったことの責任を感じ辞任し隠居した前統括は、しばらくして亡くなっているのが発見された。
その頃、王宮統括補佐であった3人の中から1番若かった私が王宮統括に任命されたのは、ひとえに忠誠心の強さのためだったと自負している。
幼き日の私がようやく獣体から人化できた頃、先代黒の王がご誕生された。
元々いつか現れるであろう黒の王の侍従になるべくして、幼体の頃から訓練と教育を受けてきた。
そして黒の王とご対面がかなったあの日から、私のすべてはあの方のものだった。
--------いや、私が生まれた時からそうだったのかもしれない
ただ一人お仕えするべきお方。
体中が歓喜に震えた。
それからの人生は満たされていた。
直接お言葉を賜れる地位に縋り付き這い上がり、御身のすぐ近くで生きてきた。
私自身、番を持つことも子を持つこともせず、ただひたすらに黒の王と白の番様にお仕えした。
--------次の黒の王にも、同じ気持ちでお仕えできるのか…?
長い間、黒の王子も発見されず、白い番の出現もなかった。
白の番様を亡くされた黒の王は、年々疲弊してゆき、そして亡くなった。
黒の王が亡くなった時、私をはじめお仕えするものは皆、殉死しようと考えていたが、黒の王はそれを許さなかった。
『死ぬことはならん、次代の黒の王を探し、支え仕えよ』
細く枯れ枝のようになった手で、私の手を握り最後におっしゃった言葉。
あれからの日々は地獄だった。
仕える王がいない。
私の生きる心のよすがだった王がもういないのに、王の最後の言葉が私を縛る。
統率が取れなくなる一族を支えたのは、宰相をはじめ大臣たちだった。
『黒の王は必ずや出現される。それまで我らはこの地を守り、王をお迎えするに恥じない体制を整えねばならん』
若き頃から才覚を発揮し、宰相にまで上り詰めた男は、すでに未来を見ていた。
今までに何度も黒の王発見の報は届いたことがある。
そのすべてが虚偽ではあったが、そのたびに一喜一憂する人々を見ても、私の心は冷えていた。
しかし幻魔獣の発見の報告を聞いた時、『間違いなく黒の王は生きている』と人々は確信した。
新たな幻魔獣を使っての捜索は確実で、無事黒の王を発見できた。
人々が歓喜する陰で私の心の不安が広がった。
--------あのお方ではないのに、同じようにお仕えできるのか
--------私の王はあの方だけだ
決して考えてはいけない思考に染まってゆく。
発見後も王都には戻られぬことに、内心安堵していた。
白の街とやらで過ごされている、新しい黒の王と白の番様の話は逐一報告され、決められた順番どおりに彼の地へ移り住み、御身の傍でお仕えする人々をよそに私は王城にとどまった。
王都に戻ってくる人々から聞く、黒の王と白の番は前王とはずいぶん違っていた。
気軽に市井にお出ましになり、庶民にも気さくに話しかけられるとか。
--------そのような王らしくないことをされるとは、本当に本物なのか
そう感じるのは私だけではなく、王宮の重鎮の中にも同じ考えの者はいた。
--------一目見ればわかることなのに
認めたくないのだ。
それなのに
新王が王都へと来てしまった。
前王に若いころから侍従として仕え、王宮統括の地位にまで上り詰めたのは前王が白の番を亡くし、黒の王子が消えた後だった。
万全の態勢で臨んだ白の番様のご出産があのような形で終わったことの責任を感じ辞任し隠居した前統括は、しばらくして亡くなっているのが発見された。
その頃、王宮統括補佐であった3人の中から1番若かった私が王宮統括に任命されたのは、ひとえに忠誠心の強さのためだったと自負している。
幼き日の私がようやく獣体から人化できた頃、先代黒の王がご誕生された。
元々いつか現れるであろう黒の王の侍従になるべくして、幼体の頃から訓練と教育を受けてきた。
そして黒の王とご対面がかなったあの日から、私のすべてはあの方のものだった。
--------いや、私が生まれた時からそうだったのかもしれない
ただ一人お仕えするべきお方。
体中が歓喜に震えた。
それからの人生は満たされていた。
直接お言葉を賜れる地位に縋り付き這い上がり、御身のすぐ近くで生きてきた。
私自身、番を持つことも子を持つこともせず、ただひたすらに黒の王と白の番様にお仕えした。
--------次の黒の王にも、同じ気持ちでお仕えできるのか…?
長い間、黒の王子も発見されず、白い番の出現もなかった。
白の番様を亡くされた黒の王は、年々疲弊してゆき、そして亡くなった。
黒の王が亡くなった時、私をはじめお仕えするものは皆、殉死しようと考えていたが、黒の王はそれを許さなかった。
『死ぬことはならん、次代の黒の王を探し、支え仕えよ』
細く枯れ枝のようになった手で、私の手を握り最後におっしゃった言葉。
あれからの日々は地獄だった。
仕える王がいない。
私の生きる心のよすがだった王がもういないのに、王の最後の言葉が私を縛る。
統率が取れなくなる一族を支えたのは、宰相をはじめ大臣たちだった。
『黒の王は必ずや出現される。それまで我らはこの地を守り、王をお迎えするに恥じない体制を整えねばならん』
若き頃から才覚を発揮し、宰相にまで上り詰めた男は、すでに未来を見ていた。
今までに何度も黒の王発見の報は届いたことがある。
そのすべてが虚偽ではあったが、そのたびに一喜一憂する人々を見ても、私の心は冷えていた。
しかし幻魔獣の発見の報告を聞いた時、『間違いなく黒の王は生きている』と人々は確信した。
新たな幻魔獣を使っての捜索は確実で、無事黒の王を発見できた。
人々が歓喜する陰で私の心の不安が広がった。
--------あのお方ではないのに、同じようにお仕えできるのか
--------私の王はあの方だけだ
決して考えてはいけない思考に染まってゆく。
発見後も王都には戻られぬことに、内心安堵していた。
白の街とやらで過ごされている、新しい黒の王と白の番様の話は逐一報告され、決められた順番どおりに彼の地へ移り住み、御身の傍でお仕えする人々をよそに私は王城にとどまった。
王都に戻ってくる人々から聞く、黒の王と白の番は前王とはずいぶん違っていた。
気軽に市井にお出ましになり、庶民にも気さくに話しかけられるとか。
--------そのような王らしくないことをされるとは、本当に本物なのか
そう感じるのは私だけではなく、王宮の重鎮の中にも同じ考えの者はいた。
--------一目見ればわかることなのに
認めたくないのだ。
それなのに
新王が王都へと来てしまった。
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