ひとりぼっちの嫌われ獣人のもとに現れたのは運命の番でした

angel

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4章

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「おぇ、あーん、ね」

 もう自分で食べれると言うのに、アルゼが匙を渡してくれず仕方なく口を開きドロドロの粥を飲み込む。

「もぐもぐ ゆっくり、ね。いいこいいこ」

 この数日でアルゼはすっかり俺を子ども扱いしている。
 それだけ心配をかけてしまった。
 苦しみしかない世界の中で、もう死なせてくれと何度願っただろう。
 けれどそんな中でも、かすかに聞こえた声が俺を励ました。

『おぇ、がんばぇ!おぇはちゅおい、から…アルゼのちから、わけるから』

 温かい光が俺を暖め、苦しい呼吸が一時楽になる。
 死なせてくれと願っていた心の針が、生きたい方へと傾く。

『こわく、なぃね。ずっと、いっちょ』

 光の差すほうへと手を伸ばす。


 --------まだ、俺は生きててもいいですか…?






 大けがだっただろう。
 記憶はあいまいだが腹は裂け、ゲルゼルに触れた場所は大やけどだったはずだ。
 夢の中で何度も何度もゲルゼルと戦っていた。
 アルゼを守りたいそれだけを考えて、苦しい呼吸の中ずっと戦っていた。
 俺の命なんて尽きてもいい。

 誰からも嫌われ畏怖される恐怖の存在アルゼ異質な存在
 見るものを固まらせ、近づくだけで震え上がらせる存在。
 小動物や虫ですら近づかない畏怖の対象。
 そんな俺がなぜ生まれてきてしまったのか何度その業を呪ったか知れない。

 けど

 俺はこの時のために生まれてきたのかもしれない

 村の為なんかじゃない。
 ただ一人の俺の大事なアルゼを守るために、この忌み嫌われる力が俺に与えられたんだと。
 初めて己の運命を受け入れた瞬間、体に駆け巡る力があった。
 それは自然と沸き上がるように体になじみ、アルゼ異質な存在だとしても説明がつかないほどの力でゲルゼルを空へと投げ上げ、世界の切れ目へと振り落とせた。


 このまま死ぬんだと確信していたが、自分の力でアルゼを守れた。
 それだけで俺は満足だった。

 なのに


 生きてしまった。


 あれから10ドウ以上もたつという月日の流れの速さに驚き、明瞭になってくる意識が告げてくるのは。



 --------アルゼとの永遠の別れだ






 *




「なんで…!!!?」


 ガシャンと閉められた洞穴の鉄の扉の前で叫ぶアルゼ。

 俺は後ろ手で手錠のはまった両手を握りしめ、限界まで首をひねり最後かもしれないその姿を目に焼き付けた。







 最近になってようやく俺から離れるようになってきたアルゼは街に買い出しに行っていた。
 俺がゲルゼルを世界の裂け目に落としてから2エゥーケたった頃、ようやく現れた族長は10も老け込んだかのように瞳が落ちくぼみ疲れ果てていた。

 --------その顔を見て俺はすべてを察した。

 床に膝をつき頭を下げる。

「長い間、ご苦労をおかけしてすみませんでした。」

 あのまま死ねていればよかったのに。
 そうすればこの人にまたいらぬ心労をかけずに済んだのに。

 俺が生まれてきたせいでただならぬ苦労を掛けた族長叔父に、心からの謝罪を込めて頭を下げた。







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