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6章

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「ボロ布しか着てなかったあんたが、大層な出世じゃない」

 寝床を椅子にして腰かける蛇族獣人の交易の女が、せせら笑いながら言う

「おまえはあの時…」

 確かに死んでいた、何度も確認したんだ。

「クックックッ」

 女は体を折りこらえきれないと笑いだす。

「アーッハッハッ。無知なやつをだますのは簡単だねえ」


「黙れ!無礼であるぞ」

 クウガ族の戦士が牢の中に剣を向け威嚇すると

「うっ…うーっ!」

 急に苦しみだした女が牢の石の床に倒れこみ動かなくなる。



 --------あの日と変わりない交易の女の死体



「死んだふりはやめろ」

 戦士が言うとムクリと起き上がる女。

「ふふふ」

 寝床に座り直し長い髪をサラリと後方へ払い、ニヤリと笑う。


「わかりやすいように見せてやったんでしょ。そう怒ることないじゃない」

 わかりやすいように…?蛇族とはもしや


「蛇族の特殊能力の1つです。命の危険を察知すると己の体温を極限まで下げ、呼吸どころか心臓や内臓全ての動きを止め、仮死状態となります」

 まさかそんなことが出来る種族がいるなんて、リウアン族のこと以外ほとんど知らない俺には想像もつかない話だ。

 「岩で頑丈に固めた牢でないとスルリと逃げられてしまうので、このような場所にお出ましいただきました」

 剣を女に向けたままの戦士の隣で腰を折る宰相はいつも通りで元気そうだ。

アルゼ異質な存在じゃなくクウガ族って種族だったんだって?」

 不遜な態度の女に宰相の眉がピクリと動く。

「しかも王様?なにそれ物語か何かかい?」

 
「説明をいたしますのでこちらへ」

宰相にいざなわれ、歩き出しながらチラリと女のほうを振り返ると、細い舌先をチロチロと出してほほ笑んでいた。


 戦士を先頭に元の部屋へと戻る。
 机を挟み、宰相と向かい合うように座ると2ムタレほど離れた場所にクウガ族の戦士が立ち、部屋の四方にいたクテニ族が動き出し、先日とわ永遠と買いに行ったお菓子と茶を用意してすぐに元の位置へと下がってゆく。

 --------死んでなかった

 椅子にもたれ天を仰ぐが、ここは地下室なので見えるのは岩の天井だけ。

「説明をさせていただいてもよろしいでしょうか?

宰相みずからが俺の器に茶を注ぎながら俺の知らない蛇族の話をしてくれた。

「蛇族とは雌雄同体で、どちらが強く出るかは本人の意思次第です。
 あの女は久遠くおん様を油断させるためにも女よりの姿をしていたのでしょう」

--------確かに俺は油断していた

「獣化した蛇族は正に蛇そのもので、土のある場所なら一瞬で地中に潜り、予め作られた蛇族専用の穴を使い、4本足の俊足のエメよりも早く移動することができます」

--------だからあんな山頂にもたびたび訪れることが出来ていたのか

「そして蛇族の最大の特徴は、先ほどもご覧になった通り自分の意志で仮死状態になれることです」

「では俺は人殺しじゃ…」

「ありません」

即答する宰相に全身の緊張が解け、椅子へもたれこむ。


--------良かった、良かった…俺は人殺しじゃなかった


その後は永遠とわと買ってきた菓子を説明し食べながら、宰相がいなかった数ムタレの話をしたり、捜索の苦労話を聞いた。

「秘密主義の個人主義はやっかいでした。しかし奴らでもクウガ族には逆らえません」

「なぜだ?」

宰相の瞳がキラリと光り口の端がほんの少し上がる。



「どの種族であれ絶滅はしたくはないでしょう?」



ニッコリとほほ笑む宰相に部屋中が凍り付いたように感じた。
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