ひとりぼっちの嫌われ獣人のもとに現れたのは運命の番でした

angel

文字の大きさ
109 / 150
6章

17 

しおりを挟む
 宰相との話の後、再度戦士を先頭に交易の女がいる牢の前まで来た。

 槍を持つ二人の戦士の姿勢は変わらず、交易の女は寝台に寝転んでいたのだろう、起き上がり腰かけ髪を整えている。
 女は覚悟を決めたように寝台に座り、俺を見据える。

「驚いた…。牢の鉄柵があるからかな?あたいでもあんたの瞳を見れるだなんて」

 長い細い尻尾で体を守るようにしている蛇族の女と視線が交錯する。



「この女の罪は誘拐罪です、それ以外に久遠くおん様がおわかりの罪が何かございますか?」

 宰相がそう告げると、女が小刻みに震えだす。

 岩の牢の簡素な寝台、用を足す穴。
 俺が閉じ込められていた洞窟の牢よりは扱いはいいように見えるが、その心境はよくわかる。
 永遠とわが現れたあの初春の数年前から、フラリと立ち寄っては物々交換をしてくれた。
 誰もが恐れて俺を見ると逃げ出してしまうと言うのに、この交易の女だけは距離を取りながらも取引をしてくれた。
 父母が亡くなってから会話をしたのなんて叔父である族長以外、この女だけだった。

 俺の命より大事な永遠とわを攫った事は許せないし、今でも思い出すと腹の底がキリキリと傷む。
 けれど俺の油断もあったし、この女には良くしてもらったこともたくさんある。

 恐れをにじませながらも俺の採決を待つ女。
 クウガ族の戦士3名と宰相も俺の言葉を待っている。


永遠とわ…あの白い幼体は今は成体となり俺と番った。おれの命より大事なつがいだ」

 瞬膜という瞼のような蛇族特有のものでまばたきした女が不思議そうな顔をする。


「ああ、あの子はオスだ。だがそんなことは関係ない。ひとりぼっちで死んでいくはずだった俺の元に天から使わされた生きる希望だ、それをお前は攫った」

 眼力が強すぎたのか女が寝台の上で後ずさる。
 クウガ族の戦士3人と宰相も息をのみ俺の採決を待っている。

 息を整え目を瞑り、よくよく考えた俺は--------
   


「お前が行ったことは不問にする」



 そう言った途端、宰相がよろめき隣に立つ戦士がそれを支えた。

久遠くおん様」

 宰相の責めるような感情が混じった言葉。

「不問だ」

 2度目は宰相に向けて言った。




 牢の中の女も信じられないと言う顔をしている。

「俺は独りぼっちだった。一生あのままだと思っていたが、1ウユーに数回だがこの女が持ってきてくれる様々な物に助けられたから、生きてこられたと言うこともある」

 女を見ると寝台の上で上掛け布を握りしめ、じっとこちらを見ている。

永遠とわを攫ったことは許せない、だが蛇族でなければ俺はきっと殺してしまっていたのだろう」

 仮死状態という特殊能力を持った蛇族だったからこそ、俺は人殺しにならずに済んだ。



 --------俺はずっと怖かったんだ。人を殺した汚れた手で永遠とわに触れていることに。



「だから…誘拐は大罪で許せないことだが、あの時俺を人殺しにしないでくれたことに感謝しているから不問だ、いいな?」

 最後の言葉は宰相に向けて言ったものだ。


 その場に跪き服従の礼を取る宰相

「おおせのままに」



 その後、女は『二度と黒の王と白の番に近づかない』という誓約書を書かされたうえで釈放され、獣化して土へと潜り消えていった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

異世界にやってきたら氷の宰相様が毎日お手製の弁当を持たせてくれる

七瀬京
BL
異世界に召喚された大学生ルイは、この世界を救う「巫覡」として、力を失った宝珠を癒やす役目を与えられる。 だが、異界の食べ物を受けつけない身体に苦しみ、倒れてしまう。 そんな彼を救ったのは、“氷の宰相”と呼ばれる美貌の男・ルースア。 唯一ルイが食べられるのは、彼の手で作られた料理だけ――。 優しさに触れるたび、ルイの胸に芽生える感情は“感謝”か、それとも“恋”か。 穏やかな日々の中で、ふたりの距離は静かに溶け合っていく。 ――心と身体を癒やす、年の差主従ファンタジーBL。

異世界で8歳児になった僕は半獣さん達と仲良くスローライフを目ざします

み馬下諒
BL
志望校に合格した春、桜の樹の下で意識を失った主人公・斗馬 亮介(とうま りょうすけ)は、気がついたとき、異世界で8歳児の姿にもどっていた。 わけもわからず放心していると、いきなり巨大な黒蛇に襲われるが、水の精霊〈ミュオン・リヒテル・リノアース〉と、半獣属の大熊〈ハイロ〉があらわれて……!? これは、異世界へ転移した8歳児が、しゃべる動物たちとスローライフ?を目ざす、ファンタジーBLです。 おとなサイド(半獣×精霊)のカプありにつき、R15にしておきました。 ※ 造語、出産描写あり。前置き長め。第21話に登場人物紹介を載せました。 ★お試し読みは第1部(第22〜27話あたり)がオススメです。物語の傾向がわかりやすいかと思います★ ★第11回BL小説大賞エントリー作品★最終結果2773作品中/414位★応援ありがとうございました★

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください! ユィリと皆の動画つくりました! お話にあわせて、ちょこちょこあがる予定です。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

転生悪役弟、元恋人の冷然騎士に激重執着されています

柚吉猫
BL
生前の記憶は彼にとって悪夢のようだった。 酷い別れ方を引きずったまま転生した先は悪役令嬢がヒロインの乙女ゲームの世界だった。 性悪聖ヒロインの弟に生まれ変わって、過去の呪縛から逃れようと必死に生きてきた。 そんな彼の前に現れた竜王の化身である騎士団長。 離れたいのに、皆に愛されている騎士様は離してくれない。 姿形が違っても、魂でお互いは繋がっている。 冷然竜王騎士団長×過去の呪縛を背負う悪役弟 今度こそ、本当の恋をしよう。

お前らの目は節穴か?BLゲーム主人公の従者になりました!

MEIKO
BL
 本編完結しています。お直し中。第12回BL大賞奨励賞いただきました。  僕、エリオット・アノーは伯爵家嫡男の身分を隠して公爵家令息のジュリアス・エドモアの従者をしている。事の発端は十歳の時…家族から虐げられていた僕は、我慢の限界で田舎の領地から家を出て来た。もう二度と戻る事はないと己の身分を捨て、心機一転王都へやって来たものの、現実は厳しく死にかける僕。薄汚い格好でフラフラと彷徨っている所を救ってくれたのが完璧貴公子ジュリアスだ。だけど初めて会った時、不思議な感覚を覚える。えっ、このジュリアスって人…会ったことなかったっけ?その瞬間突然閃く!  「ここって…もしかして、BLゲームの世界じゃない?おまけに僕の最愛の推し〜ジュリアス様!」  知らぬ間にBLゲームの中の名も無き登場人物に転生してしまっていた僕は、命の恩人である坊ちゃまを幸せにしようと奔走する。そして大好きなゲームのイベントも近くで楽しんじゃうもんね〜ワックワク!  だけど何で…全然シナリオ通りじゃないんですけど。坊ちゃまってば、僕のこと大好き過ぎない?  ※貴族的表現を使っていますが、別の世界です。ですのでそれにのっとっていない事がありますがご了承下さい。

処理中です...